英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜 |
〜エルベ離宮・客室〜
「え………では、この賠償内容はミルディーヌさんによる緩和の交渉が全く関係していない完全にメンフィル帝国が考えた賠償条約なんですか……!?」
ミルディーヌ公女の驚愕の答えを聞いて一瞬呆けた後我に返ったセドリックは驚きの表情で確認した。
「厳密に言えば、ヴァイスラント決起軍がメンフィル・クロスベル連合に加勢する交渉の際にハイアームズ侯の助命並びに領土割譲にサザ―ラント州を外す事、そしてメンフィル帝国領への入出国時の料金の撤廃に応じて頂けましたから私による緩和の交渉が全く関係していないとまでは言いませんが、大戦後に開示された賠償条約に対して私が緩和の交渉を一切行っていないのは事実ですわ。」
「ちなみに何故、その時に緩和の交渉をしなかったのだい?その時に君がリウイ陛下達に緩和の交渉をしていたら、今より更に緩和されていた可能性もあったのじゃないかい?」
ミルディーヌ公女の説明を聞いてある事が気になったアンゼリカはミルディーヌ公女に訊ねた。
「それに関してですが、例え私が緩和の交渉をしても効果は見込めない事がわかっていた為、交渉をしなかったのですわ。前半の会議での大公閣下の同じ問いかけに対して答えたように、連合が既に私達ヴァイスラントに対しての配慮の意味でも緩和をしたのですから、それ以上の緩和を望む事で連合に”傲慢”と取られる事でせっかく築き上げる事ができた連合との信頼関係を崩す事は避けるべきと判断したからですわ。」
「あん?テメェは戦争の最初から今までメンフィルに協力し続けた件で、メンフィルの戦争相手の国の大貴族でありながらメンフィルに特別視されているんだから、テメェが口を出せば間違いなく効果はあっただろうが。」
「この場合、私がメンフィル帝国からの覚えがいい等は関係ありませんわ。―――――そもそもこの賠償条約は”メンフィル・クロスベル連合にとっては既に緩和できる限界まで緩和した賠償条約なのですから。”」
「メ、”メンフィル・クロスベル連合にとっては既に緩和できる限界まで緩和した賠償条約”って………」
「―――――!も、もしかしてメンフィル・クロスベル連合はミュゼちゃん……ううん、リベールやレミフェリア等と言った中立勢力による領土割譲の件を含めた賠償内容に対しての緩和の説得の対策の為に、予め手放してもいい領土について話し合ってあの賠償内容を決めたんじゃ……」
アッシュの疑問に答えたミルディーヌ公女の答えを聞いたエリオットが戸惑っている中察しがついたトワは複雑そうな表情で推測を口にした。
「”緩和の説得の対策の為に、予め手放してもいい領土について話し合ってあの賠償内容を決めた”とは一体どういう事だ?」
「連合は今回の会議でレミフェリアもそうですがリベールも領土割譲について緩和の意見をしてくることは想定していたでしょうから、予め緩和しておくことで中立勢力による緩和の意見を封じ込める事が目的かと。」
「要するにメンフィルとクロスベル、それぞれにとって本当に必要な領土の併合を邪魔されない為に予め手放してもいい領土をエレボニアに返還する事で、もし今回の会議で中立勢力による緩和の意見が出たとしても”戦争前と比べて既に緩和している事”を理由に中立勢力を黙らせるつもりだったいう事ね………」
「それは………」
ガイウスの疑問に答えたシャロンの推測を聞いたサラは疲れた表情でシャロンの推測を捕捉し、二人の話を聞いたラウラは複雑そうな表情を浮かべた。
「その……緩和の件で気になっていた事は他にもあるのですが……今更聞くのもどうかと思うのですが、ミュゼさんは”戦犯”の引き渡しの件でミュゼさんにとっては”叔父”にあたる前カイエン公の身柄をメンフィル帝国に引き渡す事についての緩和の交渉をされなかったのですか?」
「ふふっ、バラッド大叔父様もそうですが従兄であるナーシェンお兄様の台頭を防ぐ為にあらゆる策を用いている私にとっては”今更な質問”ですわね。」
「つまりミュゼは前カイエン公がメンフィルに引き渡されることについてなんとも思っていないんだ。」
「ちなみに”黄金の羅刹”はその件についてミュゼのように何も思わないの〜?仮にも内戦が終結するまでは仕えていた”主”だったんじゃないの〜?」
「オズギリアス盆地でも他の”紅き翼”の者達の前でも宣言したように、私が心から私の主として仰ごうと決めたのはミルディーヌ様のみだ。クロワール卿に仕えていたのはラマール領邦軍を率いる者としての”義務”だけで、クロワール卿がメンフィルに引き渡される件もそうだがメンフィルに引き渡されたクロワール卿や前アルバレア公に執行される処罰についても思う所はある所か、むしろ”自業自得”と感じているくらいだ。」
複雑そうな表情を浮かべて訊ねたエマの質問に苦笑しながら答えたミルディーヌ公女の答えを聞いたフィーは静かな表情で呟き、ミリアムの質問にオーレリア将軍は静かな笑みを浮かべて答えた。
「将軍閣下の口ぶりから察するに、ミルディーヌさん達はメンフィルに引き渡された後に執行されることになる前カイエン公と前アルバレア公の処罰についても既にメンフィルより知らされているのですか?」
「はい。リウイ陛下達によりますと当初は”処刑”――――――それも”メンフィル帝国の処刑方法としても最も残酷な処刑方法での処刑”を考えていたとの事ですが、一時の苦痛を味わわせて命を奪うよりも”生き地獄と屈辱を味わせながら死なせる方が帝国貴族としてのプライドが人一倍高いあの二人にとっては処刑よりも残酷な処罰”という結論に到ったとの事で、メンフィルに引き渡された後のクロワール叔父様と前アルバレア公の身分を”犯罪奴隷”に落としてメンフィルが保有している鉱山の”鉱山奴隷”として一生従事させるとの事ですわ。……最もリウイ陛下達の予想ですと、”一月も生きていられるかどうかも怪しい”との事ですが。」
「あの二人の身分が貴族の剥奪どころか、”奴隷”に落とされた上一生鉱山の奴隷として従事させられるって………」
「しかも”一月も生きていられるかどうかも怪しい”という予想からして、相当苛酷な労働をさせるんだろうな。」
「まあ、”奴隷”―――――それも”犯罪奴隷”なんて”奴隷としての人権すらもないまさに消耗品のように酷使していい存在”の上そこにただでさえ苛酷な労働環境である鉱山の奴隷として酷使するのだから、プライドの塊と言ってもいいあの二人にとっては処刑よりも残酷な処罰でしょうし、そんな苛酷な労働環境を一生続けていられるような体力や気力もないでしょうから実際一月も生きていられるかどうかも怪しいわね。」
「セリーヌ!」
「………父の事で俺を気遣う必要はない。元々メンフィルに引き渡された父上が処刑される覚悟はできていたし……前カイエン公もそうだが、父上も今まで犯してきた罪を考えれば”当然の報い”である事も理解している。」
「ユーシス………」
セドリックの質問に答えたミルディーヌ公女の説明を聞いたアリサとクロウは複雑そうな表情を浮かべ、静かな表情で呟いたセリーヌの話を聞いたエマはユーシスを気遣って声を上げ、冷静な様子で気遣いが無用である事を口にしたユーシスをマキアスは辛そうな表情で見つめた。
「そのクロワール叔父様と前アルバレア公の件でもう一つ皆さんにお伝えしておきます。戦後クロワール叔父様と前アルバレア公はメンフィルに引き渡される前にユーゲント陛下による二人の爵位剥奪宣言並びに二人の身柄がメンフィルに引き渡された後引き渡された二人がメンフィルによって連行されて帝都(ヘイムダル)郊外に停泊させる予定のメンフィルの飛行艇に乗り込ませる様子を帝国全土に放送する手配の要請をエレボニア皇家並びに新政府にする指示をエレボニア総督府に出すとリウイ陛下達は仰っていましたわ。」
「な――――――」
「ええっ!?”エレボニア総督府”に皇家と新政府に対して陛下によるあの二人の爵位剥奪を宣言する様子やメンフィルに引き渡された二人が連行される様子を帝国全土に放送する要請をする指示を出すって事は、メンフィルの指示を受けたリィンが陛下達にその要請をするって事になるよね……!?」
「うわ〜……陛下があの二人の爵位を剥奪する場面もそうだけど、メンフィルに連行される場面も帝国全土に放送するって、徹底的にあの二人のプライドをズタズタにするつもり気満々なんだね〜、メンフィルは。」
「しかし二人を護送する飛行艇を停泊させる場所が帝都内の”空港”ではなく、何故”郊外”にしたのでしょう……?」
ミルディーヌ公女が口にした驚愕の事実にその場にいる全員が血相を変えている中オリヴァルト皇子は驚きのあまり絶句し、エリオットは信じられない表情で声を上げ、ミリアムは表情を引き攣らせ、ある疑問を抱いたレーグニッツ知事は困惑の表情で考え込んだ。
「それに関してだが、メンフィルに連行されることになる二人の護送時は車両を使わず”徒歩”で帝都の郊外に停泊させる予定の護送艇に連行するとの事だ。―――――ちなみに二人が拒否した場合は言葉通り護送するメンフィル軍が二人に縄にかけて引き摺って連行するとの事だ。」
「なっ!?と、”徒歩”で帝都の郊外まで連行!?」
「しかも拒否したら縄にかけて引き摺って連行って……まさに大昔の”見せしめ”も兼ねた犯罪者達の連行方法ね。」
「ハッ、こっちの世界ではとっくの昔になくなった趣味の悪いやり方をしてまで屈辱を味わわせるとか、根暗過ぎるっつーの。」
「恐らくメンフィルがそこまでしてまであの二人に屈辱を味わわせるのは、保護期間中の”エレボニア総督府”もそうだが保護を終えたメンフィルの逆鱗に触れるような事を行わせない為の帝国貴族達に対する”見せしめ”かもしれんな………」
オーレリア将軍の説明を聞いたマキアスは驚き、セリーヌとアッシュは呆れた表情で呟き、ミュラーは重々しい様子を纏って推測を口にした。
「……確かにあの二人が犯した数々の”大罪”は一生をかけても償う事はできないだろうが、そのような陰湿な方法で徹底的に屈辱を味わわせる等もはや”外道”のやり方ではないか。」
「ええ……!しかもリィンにそんな趣味の悪い要請をアルノール皇家・新政府に出す命令をするとか、どこまでリィンを苦しめれば気がすむのよ、メンフィルの連中は……!」
「その……リィンはその件についても知っているの?」
厳しい表情で呟いたラウラの意見に同意したサラは怒りの表情を浮かべ、アリサは複雑そうな表情でミルディーヌ公女に訊ねた。
「知っているもなにもリィン総督閣下が”総督”に任命された時点で先程答えた”要請”の件についての説明も受けていますし、その際にリィン総督閣下は皆さんが先程口にされた同じ内容の疑問は訊ねましたが、反論等は行いませんでしたわよ?」
「そ、そんな……どうしてリィン君は反論とかしなかったんだろう……」
「それに関してはあくまで私の”武人として”、そして”貴族として”の視点による推測だが、”灰獅子隊”の軍団長としての得た経験もそうだが恩師であるヴァンダイク元帥をその手にかけてまで”大戦”を乗り越えた事でシュバルツァーは”総督”もそうだが公爵―――――”大貴族”としての”器”―――――要するに”多くの人々の上に立つ者としての器の持ち主”へと成長したのではないか?」
「リィンが”多くの人々の上に立つ者としての器の持ち主への成長”か………」
「リィン様が”多くの人々の上に立つ者としての器の持ち主”に成長された事で、”多くの人々の上に立つ者としての器の持ち主に必ず求められる覚悟である非情な判断を降す覚悟”も既にできているという事ですか……」
「アイツが”獅子心帝”の生まれ変わりである”鉄血宰相”の息子でもある件を考えると洒落になっていないわね。」
「リィン君が大貴族―――――いや、”王の器”の持ち主か……セシリア将軍の話によると実際メンフィルは将来はリィン君にゼムリア大陸側のメンフィル帝国の領土の管理を委ねるつもりみたいだから、リィン君が”獅子心帝の生まれ変わりの息子”の件も含めて色々な意味で洒落になっていないよ……」
「……………………」
ミルディーヌ公女の答えを聞いて信じられない表情を浮かべて呟いたトワの疑問に答えたオーレリア将軍の推測を聞いたガイウス、シャロン、セリーヌ、アンゼリカは複雑そうな表情を浮かべ、ユーシスを目を伏せて重々しい様子を纏って黙り込んだ。
「それとラウラさん。メンフィル帝国によるあの二人に対する連行方法に思う所があるご様子ですが、今後もリィン総督閣下やセレーネさんと言ったメンフィル帝国の方々とのお付き合いを続けるつもりなら、ラウラさんにとっては”外道”に値するメンフィル帝国のやり方にいちいち目くじらを立てない方がいいと思いますわよ。」
「……それはどういう事だ?私の考えが間違っているとでもいうつもりか。」
ミルディーヌ公女の指摘に眉を顰めたラウラは真剣な表情でミルディーヌ公女に訊ねた。
「別にラウラさんの考え方が間違っているとまでは言いませんわ。―――――ですが、ラウラさんも既にご存じのようにメンフィル帝国は”光と闇の共存”を謳っている国。メンフィル帝国はそのような国なのですから、当然”闇”――――――ラウラさんのような”正道”の考えや生き方を大切にされている方々にとっては許しがたい”外道”や”邪道”の行いを実行する事に躊躇いがない国でもあり、リィン総督閣下達はそのような国に所属しているのですから、リィン総督閣下達の祖国であるメンフィルのやり方にいちいち目くじらを立てていたら、今回の戦争の件で自分達の目的を知っていながらも自分達に対して様々な配慮もそうですが高待遇をしてくれた祖国であるメンフィルに思う所があるラウラさんに対してリィン総督閣下達が複雑な思いを抱えるかもしれない事でその事がきっかけになってリィン総督閣下達との関係が崩れる可能性も考えられますわよ。」
「それに貴族―――――特に領土を治める領地持ちの貴族は自分達が治めている領土の民達の為に、皇族にも求められるような”清濁併せのむ”事も求められる時もある。レグラムの領主たるヴィクター師の娘である其方も将来のレグラムの領主としても、時には”外道”や”邪道”なやり方や存在等といった”必要悪”が必要である事を理解し、受け入れる考えを持つべきだと思うが?」
「……それは………」
「ラウラ………」
ミルディーヌ公女とオーレリア将軍の指摘に反論できず、複雑そうな表情で答えを濁しているラウラの様子をフィーは心配そうな表情で見つめた。
「フフ………話が色々と逸れて長くなってきましたので、ここで一つ目の質問については区切らせて頂きますわ。―――――それで他に聞きたい事とは何でしょうか?」
「次の質問は君の先程の私達に対して交渉を持ちかけた件――――――賠償内容の第10条をカイエン公爵家が政府の代わりに実行する件だ。オルディスに駐留するメンフィル軍にかかる費用の半分をカイエン公爵家が全て負担すると言っていたが………仮にエレボニア帝国全土に”有事”が起こり、オルディスに駐留しているメンフィル軍の災害派遣が必要になった際、カイエン公爵家が政府の代わりに政府が負担すべき費用を全て負担している事を理由にして駐留軍による災害派遣をオルディス――――――いや、ラマール州に優先させるつもりかい?」
「あ…………ま、まさかその為に本来は政府が負担すべきだった費用の全負担の申し出を……!?」
表情を引き締めて質問をしたオリヴァルト皇子の質問内容に一瞬呆けたセドリックは血相を変えてミルディーヌ公女を見つめた。
「そのようなある種の”選民思想”な考えで、殿下達に交渉を持ちかけたつもりでない事は断言致します。――――――ただ、仮に”有事”が帝国全土で起これば、幾らメンフィル軍と言えど駐留している戦力は”一個旅団”と限られている上駐留軍の全員が”飛行騎士”や”飛行歩兵”と言う訳ではないでしょうから、”確実に助けられる民達の命の選択の判断”を駐留軍がしても、例え親メンフィル派の筆頭である私と言えど、その事について意見をする”資格”はございませんわ。」
「”確実に助けられる民達の命の選択の判断”………ある種の”トリアージ”を駐留軍がするかもしれない事をミュゼちゃんは想定しているんだね………」
「”トリアージ”って何?」
「”トリアージ”って言うのは、医療関係の専門用語でね………大規模な事故や災害等によって多数の傷病者が発生した際に、救命の順序を決める事よ。本来は傷病者の重症度と緊急度の高い人達を優先的に治療する為に順序を決めるのだけど………」
「万が一エレボニアの全土に”有事”が起こった際、エレボニアに災害派遣をする駐留軍は”確実に助けられる命を選択する為に、駐留軍が拠点としているオルディス――――――ラマール州を優先的に災害派遣をする”という事か……」
「しかもラマール州の統括領主であるミルディーヌ公女はリィンと婚約を交わしている件もあるのだから、同族意識が高いメンフィルの駐留軍は”確実に助けられる命の選択”以外の理由でもラマール州を最優先にする可能性は高いだろうな。」
ミルディーヌ公女の話を聞いてある事に気づいたトワは複雑そうな表情で推測し、トワの話の中で初めて聞く言葉に首を傾げているフィーにサラは説明し、ガイウスとユーシスは複雑そうな表情である推測をした。
「なるほど。有事の際のエレボニアに災害派遣をする駐留軍の判断もそうですが指揮もメンフィル帝国ですから、”災害派遣をしてもらう立場”であるミルディーヌ公女殿下は駐留軍が”災害派遣の為にどのような判断をしようとも意見をできるような立場ではございませんわね。”」
「……殿下。後半の会議でエレボニア帝国内で複数の地域で”有事”が発生した際の駐留軍による災害派遣の派遣場所や移送方法について、シルヴァン陛下達と話し合うべきかと。」
「そうだね……駐留軍による災害派遣の為にかかる移動時間が平等になるような方法があれば一番いいのだが……」
シャロンは静かな表情で呟き、レーグニッツ知事の提案に頷いたオリヴァルト皇子は考え込んだ。
「”移動時間が平等になる”とか、そんな魔法みたいな方法なんてないと思うんだけど〜。」
「”魔法”………――――――!それなら、”転位魔法”を使えば解決できるんじゃないの……!?」
「あ……ッ!」
疲れた表情で呟いたミリアムのある言葉を聞いたアリサは妙案を思いつき、アリサの案を聞いたエリオットは声を上げた。
「確かに”転位魔法”による移動ならば、”駐留軍の移動時間は平等”にはなるが……」
「問題はその手段を用意できるのもメンフィル帝国のみという点だね。」
「メンフィルに頼らなくても、同じオカルトの専門家の”魔女”の連中に用意させればいいんじゃねぇのか?実際”魔女”の連中の隠れ里に行く方法は転位魔法みたいな装置を使っているから、エレボニアにも同じ装置を作らせればいいじゃねぇか。」
「それは………」
「アンタねえ………幾ら魔女の眷属(アタシたち)も”転位魔法”を使っているとは言っても、魔女の眷属(ヘクセンブリード)の転位魔法とメンフィルを含めた異世界の連中が扱う転位魔法は全くの別物よ。特に郷を出入りする転位魔法装置は”精霊の道”の応用だから、どこにでも”転位”できるって訳じゃないわよ。」
一方アリサの案が難しい事に気づいていたミュラーとアンゼリカは複雑そうな表情で答え、アッシュはある提案をし、アッシュの提案は無理である事に気づいていたエマが複雑そうな表情で答えを濁している中セリーヌは呆れた表情で溜息を吐いた後指摘した。
「”騎神”の”精霊の道”にしても転位できる場所は限られる上霊力(マナ)を溜めておく必要があるからな。……むしろ、転位を軍事利用できるメンフィルが規格外過ぎるっつーの。」
「1回限りや片道限りという制限があるとはいえ”術者”でもない人達が扱える転位魔法陣に転位魔導具…………メンフィル帝国が”転位魔法”を軍事利用できる技術があるのも、異世界は魔法技術が発展している世界だからなのでしょうね……」
クロウは疲れた表情で呟き、エマはシェラ達メンフィル軍によるヴァリマールの徴収やレンがアガットに渡した”帰還の耳飾り”を思い返しながら推測を口にした。
「ちなみにこれもプリネ皇女殿下達から伺った話ではありますが、メンフィル帝国は”本国”の各領土もそうですが、ゼムリア側の各領土にも転位魔法陣を設置しているとの事ですわ。――――――最も、使用する際には様々な条件を満たす必要がある為、基本的に一般人は使用する事は不可能との事ですが。」
「異世界側だけでなく、ゼムリア側の各領土にも転位魔法陣が………という事はまさかユミルにも転位魔法陣があるのか?」
ミルディーヌ公女の説明を聞いて驚きの表情を浮かべたラウラはミルディーヌ公女に訊ねた。
「ええ、ユミルにもセントアークとメンフィル大使館に通じている転位魔法陣が設置されているとの事ですわ。勿論転位魔法陣の件はリィン総督閣下達もご存じですわよ。」
「なっ!?セントアークどころかメンフィル大使館に直通の転位魔法陣がユミルにあったなんて……!?」
「なるほどね……戦争勃発前にエレボニアに気づかれずに”飛び地”であるユミルにメンフィル軍が展開されていた謎もこれでようやく解けたね。」
「うん……間違いなくその転位魔法陣を使ったんだろうね……」
意外な事実を知ったマキアスは驚き、真剣な表情で呟いたアンゼリカの言葉に頷いたトワは複雑そうな表情を浮かべた。
「……転位の件も含めて後半の会議で駐留軍による災害派遣の移動時間についてシルヴァン陛下達に交渉や相談をした方がいいのではないでしょうか、兄上。」
「そうだね………話を質問の件に戻すがミルディーヌ君。君もそうだがヴァイスやシルヴァン陛下達―――――メンフィル・クロスベル連合は”今回の会議の開催前から今回の会議を含めてどこまで想定していたのだい?”」
「連合が”今回の会議の開催前から今回の会議を含めてどこまで想定していた”って……まるで、”連合が大戦後リベールが西ゼムリア通商会議の開催の呼びかけをすることを想定していた”みたいな風に聞こえるのですけど………」
セドリックの提案に頷いたオリヴァルト皇子は新たなる質問をし、オリヴァルト皇子の質問内容を聞いたエリオットは戸惑いの表情を浮かべた。
「賠償内容の緩和の件でミルディーヌ君は先程、中立勢力による意見を封じ込めるために”予めメンフィル・クロスベル連合にとっては既に緩和できる限界まで緩和した賠償条約”と言った事を覚えているだろう?それをハーケン平原での”大戦”を乗り越えた直後――――――リベールから”西ゼムリア通商会議”の参加の要請をされた前後のタイミングに開示された件を考えるとそうとしか思えないんだ。」
「……確かに緩和された賠償内容といい前半の会議での全く隙が見当たらない反論といい、とても先日の大戦が終結してから数日という短い日数で打ち合わせたをしたとは思えませんね………」
オリヴァルト皇子の疑問を聞いたレーグニッツ知事は考え込み
「そういえば……ハーケン平原で黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)と対峙した際に、セシリア将軍が連合はハーケン平原での大戦後西ゼムリア通商会議のような国際会議が開催され、その会議でメンフィルが考えた賠償条約を調印させるような事を言っていなかったか?」
ある事を思い出したガイウスは静かな表情で仲間達に問いかけた。
メンフィルによるエレボニアの”保護”の件を含めた敗戦後のエレボニアが受け入れなければならない”条約”は”西ゼムリア通商会議”の時のような”国際的な場で調印してもらう事になる”でしょうから、ゼムリア側のメンフィル領の絶対的な安寧の為にもそのような他国のVIPの方々をも騙すような真似をするつもりはありませんわ。
「あ……ッ!」
「確かにあの女は連合は西ゼムリア通商会議の開催を想定しているような事を言っていたわね。」
「そうなると連合は”大戦前からリベールが西ゼムリア通商会議を開催する事を想定していた事”になりますから、賠償条約の緩和も相当前に話し合って決めたのでしょうね。」
ハーケン平原でのセシリア将軍の言葉を思い出したアリサは声を上げ、サラとシャロンは真剣な表情で呟いた。
「フフ………――――――まさに”殿下や皆様の推測通り”ですわ。」
「まさか連合は相当前からリベールが敗戦後のエレボニアの処遇について中立勢力を交えて話し合う為に西ゼムリア通商会議を開催する事まで想定し、対策を練っていたとはな………」
「結局今回の会議すらも、連合の掌の上って事かよ……」
「クソが……ッ!おい、ゆるフワ女、どうせテメェの事だから今回の会議での連合の”真の目的”とかにも気づいているだろうから、とっとと言えや!」
静かな笑みを浮かべてオリヴァルト皇子達の推測を肯定したミルディーヌ公女の答えを聞いたミュラーは複雑そうな表情を浮かべ、クロウは疲れた表情で呟き、アッシュは怒りの表情で声を上げた後ミルディーヌ公女を睨んで答えを促した。
「”今回の会議の連合の真の目的”と仰られてもメンフィルが考えた賠償条約を一切の緩和をさせる事なく会議に出席している各国の代表者の方々に認めさせ、調印させる事しかありませんわよ?―――――むしろ、”真の目的があるのは連合ではなくリベール”かと。」
「え………という事はまさか、リベールが西ゼムリア通商会議を開催した理由は他にもあるんですか……!?」
アッシュの指摘に対して苦笑しながら答えた後意味ありげな笑みを浮かべたミルディーヌ公女の答えにその場にいる全員が血相を変えている中セドリックは驚きの表情で訊ねた。
「はい。そして賠償金の説明の件でシルヴァン陛下が”今回の西ゼムリア通商会議を開催したリベールの真の目的にメンフィルは賛成する意向である事を示す話も既にされました”から、間違いなく後半の会議でリベールはその真の目的を実行するおつもりかと。」
「前半の会議でシルヴァン陛下がリベールの真の目的に賛成する意向を示す話をしただと……?」
「それも賠償金の説明の件の際と言ったが……どの話を示しているのだ?」
「いい加減そういう回りくどい言い方をせずにはっきりとした答えを言って欲しいんだけど。」
ミルディーヌ公女の答えが気になったユーシスとガイウスが考え込んでいる中フィーはジト目で指摘し
「!もしかして、メンフィルは将来起こる事が確実の異世界での大規模な宗教戦争に備えているという話じゃないかな?現にシルヴァン陛下は”リベールへの配慮”の為にも答えたって仰っていたよ。」
心当たりを思い出したトワは真剣な表情で答えた。
メンフィルとしてもリベールに対する配慮の意味でも、いつか必ず勃発する本国側での大規模な宗教戦争の件をこの場にいる皆に伝える事ができて何よりだ。
「確かに言っていたね。しかしそうなると”リベールの真の目的はメンフィルにとっても都合がいい”という事にもなるから、恐らくメンフィルがリベールの真の目的に賛成する意向を示した理由は”メンフィルは将来勃発する事が確定している異世界での大規模な宗教戦争に備える為に2度とゼムリア大陸側での戦争を起こす事は望まない事”が深く関係しているだろうね。」
「リベールの目的……メンフィルは2度とゼムリア大陸側での戦争を起こす事を望まない……―――――!まさか……”西ゼムリア通商会議を開催したリベールの真の目的”とは”不戦条約以上の効力を持つ新たな不戦条約の締結”かい?」
前半の会議での出来事を思い返したアンゼリカが考え込んでいる中、考え込みながら呟いたオリヴァルト皇子は察しがつくと目を見開いてミルディーヌ公女に確認した。
「はい、恐らくは。カルバードが滅び、先日の大戦でエレボニアの敗戦が確定した事もそうですがオズボーン宰相達”主戦派”も近い内に連合によって纏めて滅ぼされる事で訪れる事になる”激動の時代が過ぎ去った時代である新たなる時代の国家の代表者達が集まっている今こそが、新たなる時代で戦争を2度と起こさせない為の不戦条約以上の効力を持つ国際条約を締結させる絶好の機会”であるとアリシア女王陛下達は判断していると思われますわ。」
「不戦条約以上の効力を持つ国際条約の締結等、リベールと同じ”平和主義”のレミフェリアはともかくかつての三大国―――――エレボニア、カルバード、メンフィルはそれぞれの思惑によって認めなかっただろう。だがカルバードは滅び、エレボニアは今回の戦争によって国力もそうだが戦力面で大きな痛手を被った事に加えて主戦派の筆頭である”鉄血宰相”を排除し、戦後の政権もそうだが皇家や貴族達も”和平派”になる事は前半の会議で殿下達やミルディーヌ様が証明したのだから、戦後のエレボニアはリベールのように”平和主義”になる事は明らかになっている。後は唯一の懸念であるメンフィルを説得できれば、リベールの真の目的である”新たなる時代に不戦条約以上の効力を持つ国際条約の締結”の達成は容易になるであろうな。」
「そしてその唯一の懸念であるメンフィルが本国――――――異世界側の事情によって、”ゼムリア側で戦争を起こす事は望まない事”を前半の会議で示した為、アリシア女王陛下達は後半の会議で”不戦条約以上の効力を持つ国際条約”を提唱する事もそうですが、その場で締結する流れにする可能性が高いという事ですか。」
ミルディーヌ公女の説明とオーレリア将軍の推測を聞いたラウラは真剣な表情で呟き
「えっと……でもそれって、戦後のエレボニアにとってはメリットになる話よね?」
「ええ、”不戦条約以上の効力を持つ国際条約”を締結する事でメンフィル帝国による保護を終えた後のエレボニアは賠償金の支払いを完遂するまで国家の存亡にかかわる”有事”が起こった際にメンフィル帝国軍が強制介入する賠償条約の9条に加えて”不戦条約以上の効力を持つ国際条約”の存在によって他国から戦争を仕掛けられる可能性は皆無になるかと。」
戸惑いの表情で呟いたアリサの言葉にシャロンは静かな表情で頷いて肯定した。
「ちなみにその”不戦条約以上の効力を持つ国際条約の締結”にクロスベルが反対する事はリベールは考えていないの?」
「うん。クロスベルは自治州だった頃”不戦条約によるクロスベル問題の緩和”の件があるから元々反対しにくい立場である事に加えて、クロスベル帝国の建国で最も恩があるメンフィル帝国が賛成すれば反対なんて絶対できないよ。」
「それにもしかしたら、”不戦条約以上の効力を持つ国際条約”を締結する事で今回の戦争で疲弊したエレボニアを好機と判断した他国がエレボニアに更なる戦争を仕掛けたりしない為の政策―――――つまり、リベールが賠償条約に意見をしない代わりのエレボニアを助ける方法だったかもしれないね。」
「なるほどね〜。賠償条約に意見をしなかったのはその件を成功させる為にリベールが賠償条約に口出しする事で前半の会議のレミフェリアみたいにリベールがメンフィルとクロスベルに厳しい態度に取られる事で真の目的が失敗してしまうかもしれない可能性もあったからだろうね〜。」
フィーの疑問にトワが答え、アンゼリカとミリアムは静かな表情で呟いた。
「ハハ……さすがは慈悲深く、そして”賢王”と称えられているアリシア女王陛下だね……だが、もしミルディーヌ君達が想定しているように後半の会議がリベールの目論見通りの展開になれば、今後2度と戦争を起こす事を望まないエレボニアとしてもありがたい話だ。――――――次の質問は”宰相殿との決着”を連合はどのような方法を考えているかだ。先程のアンゼリカ君への交渉内容を考えると、恐らく連合は”裏の最後の戦い”によって宰相殿を討つつもりだと考えているのだが。」
「そ、そういえばミルディーヌさんがアンゼリカさんに要求した時に”帝都奪還戦”の事を”表の最後の戦い”と言っていましたよね……?」
「で、”表の最後の戦い”という言い方からして当然”裏の最後の戦い”もあるって事だから、まさかとは思うが内戦の時の”煌魔城”のような存在を顕現させて、そこに逃げ込んで迎え撃つってか?さすがにそんなカイエンのオッサンの2番煎じみたいな事はしねぇと思うが……」
苦笑した後気を取り直してミルディーヌ公女に質問したオリヴァルト皇子の質問内容を聞いたセドリックはある事を思い出して目を丸くし、クロウは肩をすくめて冗談交じりの推測を口にした。
「フフ、残念ながらその”クロワール叔父様の2番煎じを実行する”と思いますわよ。」
「ええっ!?という事はオズボーン宰相達はまさか本当に”煌魔城”のような”奇蹟の産物”を具現化するつもりなのですか……!?」
「連合やヴァイスラントがそんな連中の中でも限れらた人物達しか知らない情報を知っているのは、大方黒の工房の本拠地を襲撃した際のハッキングで手にいれた情報の中にあったんでしょう?」
苦笑しながらクロウの推測が正解である事を口にしたミルディーヌ公女の答えにその場にいる全員が血相を変えている中エマは驚き、セリーヌは疲れた表情で呟いた後目を細めてミルディーヌ公女に問いかけた。
「はい。――――――1200年前”地精の先祖が築き上げた最終兵器”。その名は”幻想機動要塞”。本来の予定―――――”黒の史書”通りに事が進めば、”槍の聖女の死後顕現させるはずであった3年前のリベールの異変の原因となった空中都市と同規模の大規模な浮遊要塞ですわ。”」
そしてミルディーヌ公女は”激動の時代”を終わらせる最終決戦の地をその場にいる全員に告げた――――――
後半を書いていたら長くなってきたので一端ここで切りました。なので次の更新はいつもより若干早いかもしれません。ちなみにミュゼがラストダンジョンの話をする所からのBGMは閃4の”The End of -SAGA-”だと思って下さい♪
説明 | ||
西ゼムリア通商会議〜インターバル・後篇・中盤〜 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1188 | 1002 | 3 |
タグ | ||
他エウシュリーキャラも登場 他作品技あり 幻燐の姫将軍 空を仰ぎて雲高くキャラ特別出演 閃の軌跡 | ||
soranoさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |