真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 111 |
「なるほどな……」
本陣へと戻ってきた俺は手当てを受けつつ、今までの状況を北郷から教えてもらっていた。
「多少は聞いていたがそんなことになってたのか」
「ああ。で、この人が」
北郷はそう言って座っている女性に顔を向ける。
「黄忠さん、だっけか?」
「はい」
益州の城主、黄忠。聞けば、弓の名手で愛紗とも渡り合ったとのこと。それだけでもかなりの腕前だという事が分かる。
「まず、名乗らせていただこう。俺の名は御剣。天の御使いの護衛役だ」
「ええ。聞き及んでおりますわ。白の御遣いと対をなす、黒の御使い。戦場を駆ける黒き守護神」
……改めて言われると、恥ずかしいなこれ。
「私だけでなく、兵たちも救っていただいた事、感謝いたしますわ」
「気にしないでくれ。少なくとも愛紗と背を合わせて戦ってくれたんだ。その恩だと思ってくれればこちらも有難い」
「……お噂通りの方ですね。民が守護神と謳うのも分かりますわ」
そういってほほ笑む姿は慈愛に満ちたものだ。が、言われている当人はやはりこそばゆいというか、こっぱずかしい。誤魔化しがてら状況についてさらに確認する。
「で、黄忠さんとはどうするんだ?」
聞いた限りでは、白装束のせいでぐちゃぐちゃになってるとは言え、敵対していたことは間違いじゃない。
「とは言ってもなぁ、こんな状況で俺たちは戦う気が起きないし、それはそっちも同じたと思いたいんだけど……」
そう言って北郷は黄忠を見る。
「そうですわね。それに、」
黄忠はその後ろで雪華と遊ぶ少女を見る。どうやら人質にされていたのは黄忠の娘だったようだ。それを雪華が救い出したらしい。
「娘を、いえ、皆を救ってくださった方々にどうして弓を向けられましょうか」
「そっか。よかった」
安堵した笑顔を見せる北郷と、穏やかな笑顔を見せる黄忠。だが、その表情はすぐにきりっとしたものへ変わる。
「ですが、一度戦を起こしたのであれば何かしらの決着はつけねばなりません」
「……というと?」
北郷の言葉に対して黄忠は跪き、頭を垂れた。
「この身、あなた方へとお預けしたく思います」
「それって、俺たちに降るってこと?」
「はい」
なるほど。確かに軍門に降るというのは決着の一つだ。
「…………」
北郷はちらりと桃香を見やるが、彼女は笑顔で頷く。
「その申し出、受けさせてもらうよ。改めて俺は北郷一刀、これからよろしく」
「私は劉備玄徳、真名は桃香っ! これからよろしくね、黄忠さん」
「ええ。我が名は黄忠、字は漢升。真名は紫苑と申します。我が主となる方にこの真名お預けいたします」
こうして、白装束によって歪になった戦いは終わりを告げた。各々が真名を交換する中、俺にはどうしても気がかりなことがあった。
(……あいつは、どこへ飛んだんだ?)
泥鬼が命を懸けて逃がした白装束、悟鬼。その行方だ。
(逃がした、という事はあいつの核はまだ活動可能ってことだ。だが、あの一撃は奴にとって致命に近い一撃なのもまた事実)
仮に泥鬼にある程度修復されていたとしても、その傷は簡単に癒えるはずはない。かと言って道真の所に戻ったのか、というとそれも考えづらい。
(あそこまで深手を負っているのをわざわざ直してまでもう一度使役するぐらいなら使い捨てるはず)
前に確か師匠が“直すぐらいなら新しく作ったほうが妖力は少なくて済む”とかなんとか言っていたはず。
(となると、あいつには俺を仕留めるしか道はない)
であれば、どこかしらで力を蓄えて攻め込んでくるはず。
(……だが、あの体でどこまで溜め込める?)
内乱真っただ中であればいくらでも精気やら欲望やらは集められるだろう。しかし、その器が割れているような状態だ。あり得るとしたら……
(莫大な精気を持っている人間に憑くぐらいしかないか)
だが、そんなに都合のいい人間がいるだろうか?
「なあ、紫苑さん。この辺りで、そうだな、生命力が強そうな人って思い当たるか?」
「生命力が強そう、ですか?」
「ああ。誰か思いつくような人、いるか?」
言われて彼女はすぐに答える。
「でしたらちょうどよかったですわ。実はご主人さまたちにもお話ししようと思っておりましたので」
「俺たちにも?」
北郷は首をかしげる。
「ええ。これからの進軍に関わる事でもありますので」
彼女に言われ、その場にいた全員の空気が引き締まる。
「どういう事か話してくれる?」
促された紫苑は頷いて話を始める。
「ここより先の進軍なのですが巴郡への進軍を提言します」
この発言にはみんな目を見開いた。なぜなら、どういった場所なのか事前に情報を得ているからだ。
「そこって、かなり敵が厚いところだよね?」
北郷の言葉に紫苑さんは頷く。
「はい。またそこを治める将、厳顔は私と同じく歴戦の猛者です」
「……あえてそこへの進軍を勧めるってことは、説得できる相手ってことかな?」
北郷の問いに肯定の頷きで返す紫苑。
「厳顔はこの状況を強く憂いています。話をすることが出来れば必ずやご主人さまの頼もしい力となりましょう」
「“話をすることが出来れば”ということは、一筋縄ではいかないってことかな?」
「はい。彼女とその配下、魏延は根っからの武人。力を見せねば話し合いに応じることはないでしょう」
紫苑さんの言葉でようやく話が分かった。
「ってことは、さっきの生命力が強そうな人ってのは」
「ええ、その厳顔よ。でも、どうしてそんなことを?」
「さっきの戦い、俺が仕留めた白装束が何か吐き出したのは見えたか?」
「いえ、私には……」
「実は、アイツはもう一人の細剣の白装束の依り代を吐き出したんだ。そいつが生命力の高い人間に憑りつく可能性がある」
俺の言葉にそこにいた全員が驚きの表情を見せる。
「手負いの状態でそこまで長く存在できるわけではないが、憑りつく相手によっては最後の一矢でこちらに壊滅的な被害を出すことも出来る」
「という事は、実質選択肢は一つってことかな……」
「だろうな」
北郷の呟くような言葉に返して俺は紫苑さんに問いかける。
「その巴郡の二人は、強いのか?」
「ええ。厳顔であれば私と同等、魏延は厳顔に比べれば格は落ちますが、十二分に強いと」
「う〜、それを聞くと戦ってみたいのだっ!」
鈴々がうずうずしているのがまるわかりな声でそんなことを言ったが……
「お前なぁ、状況を考えろっての」
「状況は分かってるけど強い奴と戦いたいっていうのは別なのだっ!」
「分からないでもないけどよ……」
はぁ、と一つため息を吐いてついでに気も抜いた。
「つっても、ここで気を張っても仕方がないか」
「にゃはは、その通りなのだ」
それを聞いてつい眉も柔らかく下がる。
「で、どうする? 北郷」
「決まってるよ」
返事をした北郷の顔は強い意志に満ちていた。
「巴郡に進軍する。白装束を放っておくなんて選択肢はない」
言って、周りを見渡す。
「皆もそれでいいよね?」
返事はない。だが、それは必要ないからだ。全員その言葉に頷き、意志を示す。
「よしっ! 早速進軍の準備をっ! 星っ!」
「御意。被害などをすぐにまとめさせます」
「私はこの城の備蓄や装備の目録をお持ちしますわ」
「お願い。雛里は紫苑と一緒に行って確認してくれる?」
「御意です……」
「私も一緒に行くね。この街の事、知っておいた方がいいと思うし」
「分かった。じゃあ、護衛には」
「はいっ! 私が行くっ!」
そう言って手を上げたのは雪華だ。北郷は俺に視線を送るが、俺は首を縦に振って返事をする。
「分かった。じゃあ、恋も一緒にお願いできる?」
「わかった」
「恋殿が行くのであればねねもっ!」
「あんたは私と一緒に策を考えなさい。こっちである程度決めてから雛里と打ち合わせたほうが時間かからないでしょ」
「うっ、しかし」
「ねね」
「うぅ〜。まぁ、雪華ならばいいのです……」
がっくりと項垂れつつも詠と一緒に策を立てるために移動を始める。
「白蓮と愛紗は兵たちに連絡を。星の報告でいつ出発するか決めるけど、すぐにでも出られるようにしておいて」
「御意っ!」
「わかった」
大体に指示を出した北郷は俺へ視線を向ける。
「それで、玄輝。馬超さんの事だけど」
それに対して、翠が口を開く。
「翠でいいよ。少なくとも玄輝が信頼を置いてるやつだ。信じられる」
「いいの?」
「気にすんな。それにこれからは一緒に戦うことになるだろうし」
「だよね〜。玄兄さまがこっちに戻るって言うなら、私たちも付いていくし。あ、たんぽぽも真名でいいよ」
二人の言葉を聞いた後で俺は“気にしなくてもいい”と言う気持ちを込めて、
「って事らしいぜ?」
と、一言。
「わかった。落ち着いたら改めて自己紹介するけど、俺は北郷一刀、これからよろしく」
「おうっ!」
「はーいっ!」
で、返事を返した後で華雄が口を開いた。
「私はお前の護衛についていればいいか?」
「そうだね。玄輝と一緒にお願いできる?」
「任せろ」
……ん?
「……っていつの間にいたんだお前っ!?」
「今まで気が付かなかったのか貴様ぁっ!!!!!!!!!!」
も、ものすごく馴染んでいたから全く気が付かんかったっ!!!
「い、いや、何というか、こう、当たり前的な雰囲気があったからつい……」
「だとしても気が付くだろうがっ!」
「あ、あー、その、う〜ん、すまん」
ダメだ、驚きすぎて何を考えてもまともな思考にならん。これしか出ない。
「……はぁ、まぁ、馴染んだというのは誉め言葉としておいてやる」
呆れたようなため息を吐いて華雄は怒りを納めてくれたようだ。
「で、護衛は私たちが担うとして、涼州の一団はどうするのだ?」
「そうだね、あまり連携を深める時間もないだろうから、玄輝たちと一緒にいてもらった方がいいかな?」
「だな。少なくとも俺はこいつらと連携できる」
「まぁな」
「玄兄さまとは家族みたいなものだもんね」
「かぞっ!?」
翠が顔を一瞬紅くするが咳払いで取り繕う。
「ま、まぁそうだな。うん」
「あれぇ? 姉さま顔紅くなぁ〜い?」
だが、それを見逃すたんぽぽではない。ニヤリと口の端を上げる。対して翠は状況が状況なので無言の拳骨。
「いったぁあああああいっ!」
「で、護衛って言うと白装束相手か?」
「うん。たぶん、他の領主がこっちに攻め込んでくるってことはまずないと思う。対して白装束はこっちが摩耗しているのは把握しているから、可能性は十分にあると思うんだ」
「とは言っても、その可能性も低そうだがな」
無個性の白装束をあんなボロボロの状態で操れるはずはない。道真の野郎が増援を送ってくるならば話は別だが、あれを助けるとは思えない。仕留められればラッキー程度の認識だろう。
「もっともだけど、一応ね」
「まぁ、用心に越したことは無い」
俺は同意して手当てを受けた手を軽く握りしめる。
「痛っ!」
神鳴に打たれた時よりかはマシだが、やはりかなり痛む。
「……動くの?」
「ああ。まぁ、数日もすれば治るさ」
「いや、そんな簡単に治る怪我じゃ……」
「ん? ああ、そうか。言ってなかったか」
俺については何にも話してないしな。
「実を言うとこれでも神鳴に打たれて生き延びてるからな」
「えっ!?!?!」
「ついでに言うと打たれてから1週間もたたずに修行してた」
「……ほんとに玄輝? 偽物とかじゃない?」
「あながち間違いでもないのがなんとも言えねぇな」
厳密に言ったら“人の”玄輝はもういないからな。
「まっ、御剣玄輝って存在なのは間違いないさ。お前さんや桃香、愛紗、鈴々、雪華で誓いを交わした男なのは変わらない」
「……だね」
そう言って拳を突き出した北郷の拳に軽く拳を合わせる。
「んじゃ、今から護衛に入る」
「頼むよ」
こうして俺たちは準備を手早く終え、3日後には巴郡へと出立した。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
もう来週は12月ですか……
早いものです。最初の1を投稿して間が空いたとはいえ来年で10年です。
笑えるけど笑えませんな……
まぁ、どうにか完成させます。はい。
これからものんびり待っていただけたらと思います。
……10年前に読んでくれていた人たちは更新が再開したことや、今でも読んでくれているのだろうかと若干センチメンタルになったところでまた次回。
それではっ!!!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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