英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜 |
同日、PM4:00―――――
〜エルベ離宮・紋章の間〜
「―――――それでは後半の会議を始めさせて頂きます。早速ではありますが、エレボニアの方々はメンフィル帝国が要求した賠償条約に対する答えを聞かせて下さい。」
「はい。………休憩時間の間に色々と話し合った結果、3つの条件付きで賠償条約を全て呑む事にしました。」
「え……3つの条件付きですか?」
「……?(”1つではなく3つ”……?どうやら、私達が退室した後に新たな案を出されたようですが……フフ、一体どのような条件が出てくるのやら。)」
「フン……賠償条約を呑む代わりに一つくらいは何らかの条件を出してくる事は想定していたが、まさか3つも出してくるとはな。―――――それで?その3つの条件とは一体どんな条件だ。」
アリシア女王に答えを促されて答えたセドリックの答えを聞いたクローディア王太女は呆けた声を出した後不思議そうな表情を浮かべ、ミルディーヌ公女は自身にとっても想定外の出来事に眉を顰めた後興味ありげな表情を浮かべ、シルヴァン皇帝は鼻を鳴らした後続きを促した。
「一つ目の条件はオルディスにオルディス以外の”五大都市”―――――ヘイムダル、バリアハート、アルトリザス、クロスベルに併合されるルーレに代わるノルティア州の新州都デアドラに繋がる転位装置を設置して頂く事です。勿論設置の際にかかった費用もそうですが、維持費も全てエレボニア帝国が負担致します。」
「ええっ!?」
「”転位”……話だけは聞いたことがあります。確か一瞬で別の場所に瞬間移動できるまさに魔法のような技術でしたな。」
「その装置をメンフィル帝国に設置する事を依頼されているという事は、まさかメンフィル帝国は既に”転位”を運用しているのですか……!?」
オリヴァルト皇子が答えた一つ目の条件内容を聞いたクローディア王太女は驚きの声を上げ、アルバート大公は考え込み、ルーシー秘書官は信じられない表情でシルヴァン皇帝達を見つめて確認した。するとセシリアはシルヴァン皇帝と一瞬視線を交わし、シルヴァン皇帝が微かに頷くとシルヴァン皇帝の代わりに答えた。
「確かに我が国は”転位”を運用していますわ。―――――ですが、”転位”を民間人にも使用可能な状況にすれば、運輸関係の職業に多大な悪影響を与えてしまう事もそうですが悪用された場合のリスクも考え、基本的に民間人は使用できないようにしてありますわ。」
「まあ、”転位”を民間人も使用できるようになったら、運輸関係の職業に就いている人達の大半は”失業”してしまうでしょうからね。」
「それに”転位”を悪用されたら、犯罪を犯した者達が手配される前に他の地方への逃亡されてしまう原因等になりかねないだろうから、民間運用するには色々と問題があるだろうからな。」
セシリアの説明を聞いたルイーネは苦笑しながら、ヴァイスは静かな表情でそれぞれセシリアの説明に同意してセシリアの説明を捕捉した。
「まさか転位装置の設置を要求してくるとはな………――――――何の為に”五大都市”に転位装置を設置するつもりだ?わかっているとは思うが、我が国のように”軍事運用”するつもりなら即却下だ。」
「そのような愚かな事は一切考えておりません。オルディスに”五大都市”に繋がる転位装置を設置して頂きたい理由は、エレボニアの各領土に”有事”が起こった事で民達を他の無事な領土に”緊急避難”させる為もそうですが、オルディスに駐留するメンフィル軍による災害派遣が必要になった際、災害派遣されることになる駐留軍の移動時間を平等にする為です。」
「……なるほど。ラマール以外のエレボニアの領土でオルディスに駐留しているメンフィル軍の災害派遣をする際にかかる移動時間を”転位”で補う事によって、前半の会議でレーグニッツ知事が仰った意見―――――災害派遣する駐留軍の各地方への移動時間の平等と災害派遣の効率の良好化を実現化する事を考えていらっしゃっているようですね。」
シルヴァン皇帝の指摘に即座に否定した後答えたオリヴァルト皇子の説明を聞いてオリヴァルト皇子達の目的を悟ったセシリアは静かな表情で呟いた。
「仮に今言った理由が真実だとしても、皇家や政府もそうだが軍が内密で”悪用”するかもしれない懸念があるだろうが。」
「その懸念に関しては”司法監察院”に所属している監査官達を各転位装置が設置されている施設に常駐させ、転位装置が”悪用”されない為の”監視役”を務めてもらおうと考えています。」
「”司法監察院”………確かエレボニアの政府・行政機関の監査を行う機関で、軍もそうですが政府にも所属していない監査機関でしたね。」
「その割には今回の戦争の件によるオズボーン宰相達―――――旧政府や軍の”暴走”に対して何の監督もしていませんし、介入もしていませんわよね?」
シルヴァン皇帝が挙げた問題に対してレーグニッツ知事が答えるとアリシア女王は考え込みながら自分が知る知識を口にし、ルイーネは呆れた表情で指摘した。
「はい。ですから戦後、”司法監察院”による転位装置の使用許可の権限のみ緊急時を除いて”エレボニア皇帝よりも上位にする法律を新たに制定する事”もそうですが、メンフィル帝国と”転位装置を決して軍事利用しない制約”を交わすつもりです。」
「メンフィル帝国と転位装置を軍事利用をしない制約を交わす事もそうですが、転位装置の使用許可の権限のみとはいえ、エレボニア帝国の最高権力者であるエレボニア皇帝よりも上位にするとは思い切った事を考えられましたな……」
「……………条件は3つと言ったな。まずは全ての条件を聞いて考慮してから答えを出す。―――――二つ目の条件とはどんな条件だ?」
セドリックの説明を聞いたアルバート大公が驚いている中考え込みながら呟いたシルヴァン皇帝は続きを促した。
「二つ目の条件は貴国による我が国の保護の間パント卿によるリィンさんへの政治教育に兄上を加えて頂く事と、トールズ卒業後の僕がメンフィル帝国の”本国”へ留学することの許可です。」
「え………一体何の為にオリヴァルト殿下はパント卿から政治家としての教えを乞い、セドリック皇太子殿下はメンフィル帝国の本国――――――異世界への留学を望まれたのでしょうか?」
二つ目の条件を口にしたセドリックの説明を聞いて一瞬呆けた声を出したクローディア王太女は戸惑いの表情で訊ねた。
「お恥ずかしい話になって申し訳ないのですが去年の内戦と今回の戦争の件を考えると私達アルノール皇家はエレボニアの皇家の一員として政治を指導してもらう事に関して信頼できる人物がエレボニア帝国内には存在しないのです。エレボニアに2度と内戦もそうですが、戦争を起こさせない為にも”エレボニア帝国以外の勢力から政治を学ぶ必要がある”と判断したのです。」
「フフ、なるほど。内戦は”貴族派”の筆頭である前カイエン公であるクロワール卿、今回の戦争は”革新派”の筆頭であるオズボーン宰相が勃発させてしまった件を考えますと、例えそれぞれの派閥の”次代の筆頭”である知事閣下や私が殿下達が信頼できる人物だとしても現状殿下達アルノール皇家の方々は”貴族派”と”革新派”の双方から政治を指導してもらう事はできませんし、周りの人々も納得できませんわね。」
「はい。そして幸いにもエレボニアを遥かに超える大国たるメンフィル帝国の宰相を務められた上シルヴァン陛下とリウイ陛下、二代のメンフィル皇帝を支えた事で政治家としての実力はオズボーン宰相すらも及ばないと推定されているパント卿がリィン総督閣下の補佐の為にエレボニアに派遣されるとの事なので、これも女神のお導きだと思い、パント卿―――――メンフィル帝国に頼る事にしたのです。」
「り、理屈はわかりますが………その、両殿下にとっては父君であり、同じ皇家の一員であるユーゲント陛下ご自身から指導して頂く事は考えられなかったのでしょうか?」
オリヴァルト皇子の説明を聞いたミルディーヌ公女は苦笑しながら推測を口にし、ミルディーヌ公女の推測に頷いたレーグニッツ知事は静かな表情で話を続け、オリヴァルト皇子達の話を聞いていたルーシー秘書官は複雑そうな表情で呟いた後ある事を訊ねた。
「これもお恥ずかしい話になるのですが、父上――――――ユーゲント三世に政治家としての指導をしてもらう事だけは絶対にできないのです。現エレボニア皇帝でありながら父上は”エレボニア皇帝として”内戦と今回の戦争が勃発する事を阻止する事ができなかった事で、”エレボニア皇帝としてもそうですが政治家としての信頼は一切できない事をシルヴァン陛下が断言される程公人としての信頼は地に堕ちている”為、私達は未来のエレボニアの為にも父上にも頼る事はできないのです。」
「まさか前半の会議でのユーゲント陛下への皮肉がこのような形で返されるとは思いもしませんでしたわね。」
「フン……”国の未来”の為に恥も外聞も捨ててメンフィルに頼ってくるとはな。―――――皇太子の我が国への留学もオリヴァルト皇子と同じ理由か?」
オリヴァルト皇子の話を聞いたセシリアは苦笑しながらシルヴァン皇帝に視線を向け、シルヴァン皇帝は鼻を鳴らして静かな口調で呟いた後セドリックにある事を訊ねた。
「はい。そこに加えて国民達にエレボニアは決して連合への報復を望まず、ミルディーヌさんのように戦後のエレボニアの復興や発展の為に連合と友好関係を結ぶ事を望んでいる事を示す為です。ですからできればメンフィル帝国だけでなく、クロスベル帝国にも僕の留学を許して頂ければ幸いかと。」
「フッ、まさかここで俺達にも話を振ってくるとはな。」
「しかも各国のVIP達が揃っているこの状況で理由を説明する事で、”留学の件で私達クロスベルもメンフィルのように断り辛い状況”にするなんてやるじゃない♪」
シルヴァン皇帝の疑問に答えた後自分達に視線を向けて答えたセドリックの話を聞いたヴァイスは静かな笑みを浮かべ、ルイーネは微笑みながらセドリックに対して賞賛の言葉を口にした。
「それで3つ目の条件とはどういった内容でしょうか?」
「3つ目の条件はメンフィル帝国によるエレボニアの”保護期間”の間に………――――――”ハーメルの惨劇の公表”を許して頂く事です。」
「!!」
「え――――――」
「ハ、”ハーメルの惨劇”というのは確か……!」
「……13年前の”百日戦役”が勃発した”真の原因”にしてリベールとエレボニア、それぞれの政治事情によって歴史の闇へと葬られたエレボニアにとっては”禁忌”に値する事件でしたな……」
(……一つ目と二つ目はともかく、最後の条件は恐らくシルヴァン陛下達は受け入れないと思いますが………それにしても”ハーメル”の件を公表するつもりなら、何故前もって私に相談をしな―――――いえ、”相談した所で断られる盤面がわかっていた”からでしょうね。)
セシリアの問いかけに対して答え始めたオリヴァルト皇子は一度深呼吸をした後決意の表情を浮かべて答え、オリヴァルト皇子が口にした驚愕の内容にアリシア女王は目を見開き、クローディア王太女は呆け、ルーシー秘書官は信じられない表情を浮かべ、アルバート大公は重々しい様子を纏って呟き、ミルディーヌ公女は真剣な表情で考え込んだ後自虐的な笑みを浮かべた。
(ええっ!?オリビエさん、一体何を考えているの!?ただでさえ内戦と今回の戦争の件でエレボニアの人々のオリビエさん達アルノール皇家の人達に対する信頼は地に堕ちているのに、”ハーメルの惨劇”を公表しちゃったらせっかく平和になったエレボニアが………!)
(”メンフィルの保護期間中にハーメルの惨劇を公表する事”を考えている所から察するに、例えハーメルの惨劇の公表によってエレボニアに混乱が訪れても、エレボニアを保護しているメンフィルが治めてくれる事が狙いかもしれませんわね。)
(……………………)
(ヨシュア………)
一方会議の様子を見守っていたミントは小声で驚きの表情を浮かべて呟き、ミントの懸念に対してフェミリンスが真剣な表情で答え、複雑そうな表情で黙り込んでいるヨシュアに気づいたエステルは心配そうな表情でヨシュアを見つめた。
「なるほど?メンフィルの保護期間の間に”ハーメル”の件を公表するとは考えたな。」
「例え”ハーメル”の件の公表によってエレボニアに国家存亡の危機に陥る程の混乱が起こった所で、メンフィルに保護してもらっているエレボニアは第9条に頼ることなくメンフィルに混乱を鎮めてもらえる上、エレボニアは”真の意味で一からやり直す事”ができるものね。」
「そのようなつもりで3つ目の条件を考えてはおりません。ハーメルの惨劇の公表によって起こりうるかもしれない帝国全土の混乱は皇家、新政府、軍、貴族が一致団結して挑む事もそうですが七耀教会や遊撃士協会とも協力して解決する所存です。」
不敵な笑みを浮かべて答えたヴァイスと真剣な表情で答えたルイーネの推測に対して即座に否定の意見を口にしたレーグニッツ知事は決意の表情で答えた。
「例えそれが真実だとしても、”万策尽きた”時の”保険”としてメンフィルに頼るつもりだろうが。――――――一応聞いておくが何故、”メンフィルの保護期間を終えてからではなく、メンフィルの保護期間中にハーメルの件を公表する事”を考えた?」
レーグニッツ知事の話に対して呆れた表情で指摘したシルヴァン皇帝は厳しい表情を浮かべてオリヴァルト皇子達を睨んで問いかけた。
「理由は二つあります。一つは父上が皇帝の間に公表しておく事で、次代のエレボニア皇帝たるセドリックやセドリック以降のエレボニア皇帝達に百日戦役の真実であるハーメルの惨劇を隠蔽し続けている事によって膨れ上がり続けている負債”を隠蔽し続けさせない為です。」
「”ハーメルの惨劇を隠蔽し続けている事によって膨れ上がり続けている負債”とは一体どういった”負債”なのでしょうか?」
「それに関しては恐らく”百日戦役”によって甚大な被害を被ったリベールに対する”賠償金”なのではないか?”百日戦役”の和睦条件はエレボニアとメンフィルの和睦の仲介と、リベールが”ハーメル”の一件を沈黙する事なのだからな。」
「そしてその”ハーメル”の一件をエレボニア自らが公表してしまえば、間違いなくリベールの国民達はエレボニアに対する怒りの声を上げて”百日戦役の償いや賠償”を求むでしょうから、国民達の事もそうだけど王国の威信を保つ為にも王国政府や王家もエレボニアに百日戦役でリベールが被った被害に対する賠償金を要求せざるを得ない状況になるでしょうからね。」
「そ、それは………」
「……………………………」
オリヴァルト皇子の説明を聞いてある疑問を抱いたルーシー秘書官にヴァイスとルイーネが説明し、ルイーネの推測に対して反論できないクローディア王太女は辛そうな表情で答えを濁し、アリシア女王は目を伏せて重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「勿論百日戦役の件に関するリベールへの賠償金も今回の戦争の件でのメンフィルとリベールに対する賠償金同様、例えどれ程の莫大な年数をかける事になっても支払うつもりです。それが”白隼隊”に志願したリベールの国民達もそうですが心の奥底では未だ”百日戦役”による怒りや悲しみが癒えていないリベールの国民達への贖罪になるかはわかりませんが………」
「あ……………」
「……理由は二つあると仰いましたが、もう一つの理由はどのような理由なのでしょうか?」
静かな表情で語った後辛そうな表情で呟いたオリヴァルト皇子の話を聞いたクローディア王太女は呆けた声を出した後辛そうな表情で黙り込み、目を伏せて黙り込んでいたアリシア女王は目を見開いて静かな表情で新たな質問をした。
「もう一つの理由は”ハーメルの惨劇”の公表によって起こりうるかもしれないエレボニアもそうですがリベールの混乱を鎮める為に現在ゼムリア大陸に降臨されている”空の女神”――――――エイドス様の御慈悲に縋る為です。」
「エイドス様の御慈悲に縋る………――――――!まさか………」
「フン、なるほどな。空の女神が現代のゼムリア大陸に降臨している間に”ハーメルの惨劇”を公表し、それによって起こりうることが考えられるエレボニアとリベールの混乱を鎮める、もしくは混乱を起こさせない為に空の女神自身にエレボニアとリベール、それぞれの皇家と政府を庇う声明を出させるつもりのようだな。」
「確かにメンフィルがゼムリア大陸に進出するまではゼムリア大陸にとっては唯一神であり、現在もゼムリア大陸の大半の人々が信仰している女神である”空の女神”御自身がそのような声明を行えば、エレボニアとリベールの混乱は最小限に抑えられる可能性は十分に考えられますわね。」
「その件を考えると恐らく”ハーメル”の一件の公表は戦後すぐに行うつもりのようだな。確か空の女神達が現代のゼムリア大陸に滞在している残りの期間は約3、4ヶ月くらいだからな。」
セドリックの説明を聞いて考え込んだ後ある考えに到ったアルバート大公は驚きの表情を浮かべ、鼻を鳴らしたシルヴァン皇帝はアルバート大公が到った答えを口にし、セシリアは納得した様子で、ヴァイスは静かな表情でそれぞれの推測を口にした。
「た、確かにそうですが………前半の会議でもお祖母(ばあ)様が仰ったように、御自身の発言によって必ず何らかの影響を現代のゼムリア大陸に与えてしまう事を懸念したエイドス様は現代のゼムリア大陸の政(まつりごと)には介入しないよう自らを戒めていらっしゃっているのですから、恐らく殿下達の嘆願に応えないと思われるのですが……」
「勿論その件も理解している。だが、以前エイドス様達に面会した際にエイドス様は”ハーメルの惨劇”に対して気にしていらっしゃっている御様子を見せていらっしゃったから、私達の嘆願に応えて下さる可能性は残っていると信じている。」
複雑そうな表情である懸念を口にしたクローディア王太女にオリヴァルト皇子は静かな表情で同意した後決意の表情を浮かべて答え
「オリヴァルト殿下……」
(いや、あの”自称ただの新妻”の事だから、躊躇いなくオリビエ達の頼みを切って捨てると思うんだけど……)
(ア、アハハ……エイドスさんも一応?”女神”なんだから、オリビエさん達が誠心誠意頼めば応えてくてるんじゃないかな?)
(それにあの放蕩皇子の事ですから、どれだけ頼み込んでも無理だった場合は最悪私達に頼み込んでエイドスへの仲介してもらおうと考えているかもしれませんわね。)
(さ、さすがにそこまでは考えていないと思うけど……)
オリヴァルト皇子の決意を知ったクローディア王太女が驚いている中ジト目になって小声で呟いたエステルの推測にミントは苦笑しながら答え、呆れた表情で呟いたフェミリンスの推測を聞いたヨシュアは冷や汗をかいて指摘した。
「―――――シルヴァン陛下。皇太子殿下達アルノール皇家の方々に不敬を承知で申し上げますが、逆に考えれば内戦と今回の戦争の件で既に国民達の信用が地の底まで堕ちてしまった今のアルノール皇家やエレボニア政府が”ハーメル”の一件を公表した所で、今更失う信用もそうですが国としての威信もないのですから、信用がある程度回復してからの状態で公表するよりはまだ良いと愚考致しますわ。」
「………確かにミルディーヌ公女の仰っている事にも一理ありますわね。仮にエレボニアがメンフィルの保護期間を終えてから”ハーメル”の一件を公表した事によってせっかく回復した政府や皇家の信頼が再び堕ちてしまった事が原因でエレボニア帝国に混乱が起これば、我が国は第9条の通り軍事介入せざるを得ないのですから。」
「2度手間になるくらいなら、メンフィルがエレボニアの統治に直接的に介入できる時に、ハーメルの一件を公表させた方が”ハーメル”関連にかかるメンフィルの手間もまだマシという訳か………………ちなみに公女は”百日戦役”の件でのリベールに対する賠償金の問題はどう考えている?既にエレボニアに莫大な賠償金を科したメンフィルである我らが意見するのはどうかと思うが、ただでさえメンフィルへの賠償金の支払いだけで精一杯だと考えられるのにそこに”百日戦役”の件でのリベールへの賠償金の支払いも加われば、確実に国家の経営にも支障が出てくる事が考えられるが?」
ミルディーヌ公女の意見を聞いたセシリアとシルヴァン皇帝はそれぞれ考え込んだ後、シルヴァン皇帝はある事をミルディーヌ公女に訊ねた。
「その件に関しては恐れ多くはありますが、まずはメンフィル帝国がエレボニア帝国の代わりにリベール王国に”百日戦役”関連の賠償金を支払って頂き、その後リベール王国に支払った賠償金を今回の戦争の件での賠償金に上乗せして頂きたいと愚考致しますわ。」
「え………それはつまりメンフィル帝国に”百日戦役”の件でのエレボニアに科せられた”賠償金の支払いの肩代わり”をしてもらうという事ですよね……?一体何の為に……」
「!賠償金の支払い先をメンフィル帝国に一本化する事で、国家経営に支障が出ないレベルでの賠償金の支払いが可能になると考えられているようですね……」
「なるほどな。メンフィルに支払わなければならない賠償金は増額し、支払い期間も当初の予定よりも延長せざるを得ないだろうが、”賠償金の支払い先がメンフィルとリベールではなく、メンフィルのみ”ならば、賠償金の支払い先が一国から二国に増えた事によって発生した様々な”懸念”も解決するだろうな。」
「だけど、それはさすがにエレボニアにとって都合が良すぎじゃないかしら?そもそもメンフィルは幾らエレボニアを”保護”しているとは言ってもそこまでする”義務”はないわよ?”百日戦役と今回の戦争は別件”なのだから。」
シルヴァン皇帝の問いかけに対して答えたミルディーヌ公女の答えを聞いたセドリックは呆けた声を出した後戸惑いの表情で疑問を口にし、ミルディーヌ公女の考えを悟ったレーグニッツ知事は目を見開いて答え、レーグニッツ知事の推測を聞いたヴァイスは納得した様子で呟き、ルイーネは真剣な表情でミルディーヌ公女に指摘した。
「はい。ですから、”エレボニアの代わりにリベールに支払った賠償金の部分に関しては賠償金の支払いを完遂するまで一定の年数ごとに利息を上乗せし続けて頂ければ”と。」
「そんな……今回の戦争の件に関する賠償金に百日戦役の件に関する賠償金が上乗せされた時点でエレボニアはメンフィルに対して莫大な負債を背負う事になるというのに、そこに一定年数ごとの”利息”まで上乗せし続ければ、最悪エレボニアはメンフィルへの賠償金の支払いが永遠に続いていくという問題が起こる可能性が考えられるではありませんか!?」
ミルディーヌ公女の意見を聞いたルーシー秘書官は悲痛そうな表情を浮かべて反論したが
「そこまで言うのならばメンフィルではなくレミフェリアがエレボニアがリベールに支払わなければならない賠償金の肩代わりをすればいいだろうが。当然、利息も求めない事もそうだが、エレボニアからの返済は途方もない年数が必要になる事を承知の上でな。」
「そもそもエレボニアよりも国力が劣っているレミフェリアの財政状態でそのような余裕があるとは思えませんし、それ以前にそのような事を行えば大公閣下達の臣下達もそうですが、レミフェリアの国民達もお二人の”独断”に対して強い反感や不満を抱き、それが原因でレミフェリアに大きな混乱が起こる可能性も考慮する必要はあるでしょうね。」
「……ッ!」
「…………………………」
それぞれ呆れた表情を浮かべて答えたシルヴァン皇帝とセシリアの指摘を聞くと辛そうな表情で唇を噛み締めて黙り込み、アルバート大公は重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「話を戻しますが”賠償金の支払いの肩代わり”で得るメンフィル帝国のメリットは”利息”だけでなく、エレボニアもそうですが各国のメンフィル帝国に対する印象の良好化というメリットもありますわ。」
「なるほど。メンフィルが”賠償金の支払いを肩代わりする事”で、当然その件でエレボニアの政府や皇家もそうだが国民達もメンフィルに感謝するだろうし、各国の人々もメンフィルの寛大さに驚くと同時に、今回の戦争の件によるメンフィルへの恐怖心も緩和化される可能性も考えられるな。」
「フフ、ディル=リフィーナ側の大規模な宗教戦争に備える為にもゼムリア大陸側で余計な諍いを起こす事を望まないメンフィルにとっては都合がいいかもしれないわね。」
ミルディーヌ公女が答えた続きの内容を知ったヴァイスは納得した様子で呟き、ルイーネは苦笑しながらシルヴァン皇帝達を見つめながら呟いた。
「ミルディーヌ公女の案、いかがされますか、陛下。私はメンフィルにとっての”落とし所”を考慮した案だとは思いますが。」
「………………………………―――――アリシア女王。仮にリベールがエレボニアに百日戦役の件の賠償金を要求した場合、ミラで換算した場合幾らになる?勿論、百日戦役の際のエレボニア帝国軍によって虐殺されたリベールの民達の家族に支払う賠償金もそうだが戦死した兵達の家族に支払わなければならない見舞金、遺族年金、そして賠償金、更には王国を守り切った兵達に支払うべき報奨金も含めてだ。」
真剣な表情で自身の意見を口にした後問いかけたセシリアの問いかけに対してシルヴァン皇帝は何も答えず腕を組んで少しの間黙って考え込んだ後アリシア女王に視線を向けて質問をした。
「様々な方面での調査や算出が必要ですから、明確な金額はこの場で答えられませんが………恐らく数兆―――――いえ、数十兆ミラになると考えられます。」
「…………………………」
シルヴァン皇帝の質問に対してアリシア女王は静かな表情で答え、クローディア王太女は複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「(100兆ミラにも届かない債務の肩代わりでゼムリア大陸側の国家のメンフィルに対する印象の良好化に繋がると考えればいいかもしれんな……)――――――いいだろう。ミルディーヌ公女の案をエレボニア帝国が呑むのであれば、”保護期間中のハーメルの惨劇の公表”の件を含めた皇太子達が口にした3つの条件にも応じるし、”ハーメルの惨劇”の公表によって起こりうる可能性が考えられるエレボニア帝国全土の問題についてもリィンやパント達―――――エレボニア総督府側からもある程度の協力はさせる。」
「あ、ありがとうございます……!」
「シルヴァン陛下―――――いえ、メンフィル帝国の寛大な御心遣いにエレボニアの全国民を代表してお礼を申し上げます。本当にありがとうございます……!」
少しの間考えた後結論を出したシルヴァン皇帝の答えを聞いたセドリックは明るい表情を浮かべ、オリヴァルト皇子は安堵の表情を浮かべてそれぞれ感謝の言葉を口にし
「陛下、エレボニアの代わりにリベールに支払う賠償金の”利息”についてはどうなされますか。」
「”ハーメル”の一件を隠蔽し続けていた年数は確か今年で13年になるのだったな。ならば利率を隠蔽し続けた年数とする。賠償金を肩代わりした時点で利率である13%を加算し、その後は”セドリック皇帝以降のエレボニアの皇帝が代わるごとにエレボニアがメンフィルに支払い続けている賠償金に利息を加算し続ける事”とする。」
「”エレボニア皇帝の代替わりごとに利息がつく”という事は人間の平均寿命から推定すると最低でも40年ごとくらいか。利率は相場より高いとはいえ、利率が発生する年数を考えるとむしろ”良心的”と言っても過言ではないな。」
「しかも”皇帝の代替わりによって利息が加算される”のだから、その世代の皇帝を皇帝の座から蹴落として新たなるエレボニア皇帝になる事を目論む人達への”牽制”にもなるかもしれないわね。」
「メンフィル帝国の寛大な御心遣いに重ね重ね感謝致します……!貴国の寛大な御心遣いは必ず後世のエレボニアの人々にも伝えてみせます……!」
セシリアの質問に答えたシルヴァン皇帝の答えを聞いてメンフィル帝国の寛大さに気づいたヴァイスとルイーネはそれぞれ苦笑しながら答え、レーグニッツ知事は頭を深く下げて感謝の言葉を口にした。
「―――――ヴァイスハイト陛下―――――いや、”ヴァイス”。先程君はクロスベルは”クロスベル問題”の件でのクロスベルの人々のエレボニアに対する”怨讐”が残っていると言ったね。私達エレボニアはその”怨讐”を少しでも晴らす協力をするから、セドリックの留学受け入れもそうだが、エレボニアとの関係回復も前向きに考えてもらえないだろうか?」
「”クロスベルの民達のエレボニアに対する怨讐を晴らす協力”だと?一体何をするつもりだ。」
決意の表情を浮かべたオリヴァルト皇子に話しかけられたヴァイスは眉を顰めて続きを促した。
「”クロスベル問題”に関わる事件を起こした”真犯人”もそうだが、クロスベルが自治州であった時にクロスベルで犯罪を犯したにも関わらず”エレボニアがクロスベルの宗主国という圧力”をかけて早期に釈放されたり、逮捕されなかった”クロスベルで犯罪を犯したエレボニア人”がまだ生存し、エレボニア帝国内で在住しているのならば、その”犯罪者達”を全員クロスベル帝国に引き渡し、クロスベル帝国の法律によって裁かれる事を受け入れる。勿論例外を認めるつもりはないから、例えその犯罪者が貴族や軍人、政府の関係者だろうと全員容赦なく拘束してクロスベルに引き渡すつもりだ。」
「ええっ!?」
「……本当によろしいのですか?そのような事を行えば、エレボニアの国民達や貴族達もそうですが軍や政府の関係者からも反感を買う可能性が考えられますが……」
オリヴァルト皇子の答えを聞いたクローディア王太女は驚き、アルバート大公は複雑そうな表情でオリヴァルト皇子に確認した。
「はい。”百日戦役”の”償い”同様、エレボニアが一からやり直す為にも、エレボニアがクロスベルに対して今まで犯した”罪”も精算しなければならないと考えていますので。」
「一体何をするつもりかと思ったがまさか”そう来る”とはな。」
「オリヴァルト殿下の提案はクロスベルの人々もそうだけど、ヴァイスさんが局長を務めたクロスベル警察にとっても心の奥底では願っていた事でしょうから、無視する事はできないわね。」
オリヴァルト皇子の説明を聞いたヴァイスは静かな笑みを浮かべ、ルイーネは苦笑しながら呟き
「フッ、違いない。――――――いいだろう。エレボニアが”誠意”を示した以上、クロスベルは今後皇太子を含めたエレボニア人の留学も受け入れるし、エレボニアとの関係回復についても前向きに検討する。」
ルイーネの言葉に同意したヴァイスは静かな笑みを浮かべて答えた。
「ありがとうございます……!」
「フフ、これで今回の戦争の件は双方―――――いえ、”三国それぞれの条件を呑む事で和解という解決方法”になりましたわね。」
「ああ。後は賠償条約の件を含めたそれぞれの国が承諾する条約を記した書面を今回この話し合いの場を提案・提供したリベールが作成し、三国それぞれが確認した後七耀教会の立ち合いの元、三国もそうだがリベール、レミフェリアも調印という流れで構わないな?」
「ええ、異存はありません。それではこれでメンフィル・クロスベル連合とエレボニア帝国の戦争についての話し合いを終了とさせて頂きます。では次の議題は――――――」
ヴァイスの答えを聞いたセドリックは明るい表情で感謝の言葉を口にし、静かな笑みを浮かべて呟いたセシリアの言葉に頷いたシルヴァン皇帝はアリシア女王に確認し、シルヴァン皇帝の問いかけに頷いたアリシア女王は会議を再開した。
その後挙げられた議題についての話し合いは順調に進み、最後の議題についての話し合いも終わり、会議も終わろうとしていた。
同日、PM5:50――――――
「全ての議題についての話し合いも終了しましたので、これで”西ゼムリア通商会議”を終了とさせて頂きたいのですが……その前に、リベールから各国の皆様に提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「………!」
アリシア女王の言葉を聞いてアリシア女王が”今回の西ゼムリア通商会議を開催したリベールの真の目的”を実行しようとしている事に気づいたクローディア王太女は表情を引き締め
「え……リベールが私達に”提案”、ですか?」
「して、どのような提案を?」
「今回の戦争の終結によって”新たな時代”が訪れる事になるゼムリア大陸の恒久的な平和の為に、リベールは大陸諸国に対し、『ゼムリア連合』を提唱します!」
ルーシー秘書官とアルバート大公の質問に対してアリシア女王は決意の表情を浮かべて自身の提案を口にした――――――
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西ゼムリア通商会議〜ゼムリア連合の提唱〜 |
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