真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 113
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「“……………”」

 

 誰もが空気を察して身構えつつ、城へと入っていく。城下町はそんなに変な雰囲気ではなかったのだが、城の中は気持ち悪いほど静かだった。

 

「……兵士は城に何人残していた?」

 

 装填済みの豪天砲を構えつつ厳顔が答える。

 

「少なくとも7万近くは置いといたはずだ」

「7万……」

 

 いくら神経を尖らせても、その存在がほとんど感じられない。

 

「……血の匂いはしないから、やられたわけではなさそうだが」

 

 とはいえ、精気を吸い取られている可能性も十二分にある。

 

「気をつけろ。何があるか分からねぇ」

 

 全員が頷きつつ、魏延が寝ているという部屋まで行くと、傷ついた兵士が二人倒れていた。

 

「っ! おいっ! おぬしらっ!」

 

 厳顔がそのうちの一人に駆け寄って体をゆする。

 

「うっ、うう」

「しっかりせいっ!」

「げん、がんさま?」

 

 見たところ大したけがはしていないようだ。ただ、どうにも気配が希薄だ。

 

(精気を吸い取られているな)

 

 となると、やはり憑りついたのは逃げた白装束だというのは間違いなさそうだ。

 

「何があったっ!?」

「ぎ、魏延さまが、先程、目を、覚まして」

「でっ!?」

「急に、狂ったように、暴れだして。“逃げろ”と、言いながら」

(逃げろと言ったってことは)

 

 まだ完全に支配されてはいないってことか。だが、

 

(体の主導権は握られてるか)

 

 となると精神まで支配されるのも時間の問題だ。

 

「おい、その魏延とやらはどこにいる?」

「厳顔、さま、こやつは……?」

「案ずるな。黒の御使いだ」

「あなた、様が?」

「ああ、魏延を助けに来た」

 

 俺の一言でその兵の目に精気が宿る。

 

「お、おお、何と真に……?」

「ああ。で、魏延はどこにいるんだ?」

「おそらく、鍛錬場に……」

「分かった」

「何卒、何卒魏延さまを」

 

 精気がない中で伸ばした手をしっかりと握る。

 

「まかせな」

 

 そこで安堵した表情を見せ、兵士は再び気を失った。

 

「……厳顔」

「分かっておる」

 

 彼女は兵士を寝かせた後で連れて来た兵に指示を飛ばす。

 

「お主は外の劉備たちに状況の説明っ! 他の者はこやつの介抱と他にも倒れている奴がいないか探しに行けっ!」

「“御意っ!”」

「儂はこの男と鍛錬場に赴くっ! 劉備にもそう伝え、可能であれば案内せよっ!」

「はっ!」

 

 兵たちは素早く動き、厳顔はそれに背を向ける。

 

「こっちだっ!」

 

 駆けだした彼女の背を追って城の中を駆ける。そして、だんだんと強くなる異形の気配を感じながら、ついに目的地に着く。

 

 そこには黒い装束を纏い、巨大な金棒を右手に持った女性がいた。

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「うっ、うう……」

「焔耶ぁっ!」

 

 厳顔の叫びに近い呼びかけに女性はゆっくりと顔を向ける。

 

「き、桔梗さまぁ……」

 

 その表情は、半分は今にも泣きだしそうな子供のようで、

 

【ぎひっ!】

 

 半分は狂気に満ちた笑顔をしていた。

 

【みつ、みみ、みつるぎぃ、げんぅっきぃ……!!!】

「その声、悟鬼か」

 

 俺の問いに狂気を含む安定しない声で返答する。

 

【おま、おまえぇ!!! お前をぉ、ころ、ころ、ごろずぅううううう……】

 

 もはや天邪鬼としての言葉も言えなくなっている様子だが、それよりも問題なのは侵食度合いだった。

 

「……厳顔、あれはもう無理かもしれん」

「なっ!」

「あそこまで侵食されてしまっては手の打ちようがない」

 

 あっちの世界でも何度か見たことはあったが、顔にまで侵食が進んでしまっていては精神が残っていたとしても、助けることはできない。

 

「……どうにもならんのか」

「……楽にしてやることしか出来ん」

 

 絞り出すような声を出す厳顔に俺はただ事実しか返せなかった。

 

「桔梗、さま」

「っ!」

「私の事は【だま、黙ってろぉ! でででで、でくにん、ぎょうがぁ!】」

 

 言いたいことも言わせるつもりがないのかと、思わず鯉口を切ったが、

 

「私を、お斬りくださいっ!!!!!!!!!!!!!」

 

 侵食を上回る叫びで持って抗った。その言葉に厳顔は一滴の涙を流し、カッと目を見開く。

 

「よう言うたっ焔耶!!! それでこそ我が義娘であるっ!!!」

 

 絞り出した叫びに近い声を出し、彼女は武器を構える。

 

「お前の魂、この儂が天へと送り届けるっ! 安心せいっ!」

 

 厳顔の言葉に魏延は驚いたように目を見開いた後、嬉しそうな笑顔を見せ、

 

「……はい」

 

 とだけ言って目を閉じた。

 

【……ぎぎぎぎっ! き、きもぢわるいぃいいいいいい!!!】

 

 そして、次に目が開かれたときに彼女の意志はなかった。

 

【ぎもぢわるいがらぁ、ごろずぅううううう!!!】

 

 言うや否や鉄塊とも言えような金棒を振りかざして間合いを詰めてくる悟鬼。その一撃を俺は弾き返そうとするが、その目の前に厳顔が躍り出て振り下ろされた金棒を防いだ。

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「ぐ、ふぅっ!!!」

 

 余りの衝撃に彼女は肺の空気を押し出さざるを得なくなり、重々しい音と共に周辺の床が円形にへこむ。

 

「厳顔っ!」

「ぬ、ぅ、ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 気合いと共に厳顔は金棒を弾き返す。そして、間髪入れず勢いを利用して斬りかかる。

 

【きひっ!】

 

 しかし、悟鬼はそれを難なく弾き、再び横薙ぎに金棒を振るう。彼女と金棒の間に入り俺はそれを鞘と十手で受ける。

 

(っ! いや、これではっ!)

 

 俺はとっさに厳顔を蹴り倒す。

 

「ぐっ!?」

 

 いきなり蹴られ、驚きの表情を見せるが、次の瞬間に彼女の前髪を俺の体が掠めていった。

 

「ちぃっ!!!」

 

 片足で受けたからだろう。俺は踏ん張れることすらできずに宙を舞う。しかし、仮にあそこで受けていたとしたら厳顔にダメージが入っていただろう。

 

(あれほどの衝撃なら、俺の体を貫通して厳顔に届く可能性があるっ!)

 

 さっき厳顔が防いだ一撃は確実に体のどこかにダメージを残している。2発目はさすがに危険だ。

 

 俺がどうにか着地すると、その隙を逃さずに悟鬼は回転しつつ勢いをのせた金棒で俺の顔面を狙って振るう。

 

「シッ!」

 

 それを屈みつつ十手で思いっきり金棒を跳ね上げ、頭の上を金棒が掠めたところで距離を詰めて、抜刀の勢いで斬りかかる。しかし、残っている左手から閃光が走る。

 

【シャアッ!】

 

 刺突剣だ。頬の肉を少し削がれはしたが、首を振ってどうにか避けはする。が、姿勢が崩れて斬撃に遅れが出る。その隙に弾かれた金棒を再度斜めに振り下ろしてくる。どうにか横に跳ぶことでそれを避け、着地と共に暗器を投げつける。しかし、相手は刺突剣でそれを突いて軌道を変えるという離れ業をかます。

 

「チッ!」

 

 まぁ、落とされても致し方なし、とは思っていないのだがあんな芸当されると舌打ちの一つでもしたくなる。だが、相手はその舌打ちの時間で距離を詰めてくる。

 

 悟鬼は右から金棒、左から刺突剣と挟み込むように一撃を入れようとしてくる。本来であれば刺突剣の方は大した威力は出ないが、白装束相手にそれは通じない。どちらも必殺の威力を秘めている。

 

 後ろに避けたとしても、恐らくさらにそこから一歩踏み込んで金棒で突いてくるだろう。であれば、進むべきは一つ。

 

(前だっ!)

 

 腕のと腕の隙間に体をねじ込んで肩当を喰らわせる。しかし、悟鬼は膝を上げてその一撃を防ぐ。ならばとさらに屈んで足を払う。

 

【ッ!】

 

 それを飛び退いて避けつつ、金棒を軽く振り上げて下ろす。空気が動く気配でそれを察知して俺の背中を見せたタイミングで伸びていない足に思い切り力を入れ、金棒の方へと転がって素早く立ち上がると、そこへ金棒が迫ってくる。

 

「ほっ!」

 

 金棒からは視線を逸らさず、バク転で躱しつつも暗器で頭部を狙う。左手の得物を一振りしてそれを叩き落としたところで相手の動きが鈍る。

 

【ギィッ!?】

 

 逃さず攻め込もうと一瞬力を籠めるが、踏みとどまる。

 

【……チッ、だだ、ダメかよ】

「はっ、そんな見え見えの手に引っかかるかっての」

 

 さっきの様子を見て、侵食はほぼ8割を超えている。であれば、何の刺激もなく行動が途切れようはずもない。

 

(しかし……)

 

 どうにもやりづらい。どうにも剣が鈍っているような気がする。

 

(……チッ、覚悟が口先だけってことか)

 

 決めたはずだ。彼女ごと切ると。

 

(切り替えろ。ここで手間取っているようなら、)

 

 だが、それでいいのか?

 

(……………よかねぇな)

 

 自分で口にしたろうが。俺の剣は、

 

「……守天の剣」

 

 小さく呟くと、全身に力が漲った。

 

「はっ、我ながら単純だな」

【んぁ?】

 

 俺の本心はどうやら諦めが悪いらしい。

 

「まっ、とりあえず」

 

 であるならば本心に従うことにしよう。そう決めると頭が一気に透き通るが如く明瞭になる。何をすべきか、どうすべきかが、旋風が如く駆けまわり最初にすべきことを決める。

 

(……あいつの無力化だ。とりあえずは)

 

 俺は息を吸って、目の前にいる“人”の名を叫んだ。

 

「“魏延っ!”」

 

 届くかは知らない。だが、俺は彼女の名を告げてから宣言した。

 

「後で死ぬほどいてぇけど我慢しろっ!」

 

 そう言ってから俺は全力で踏み込んでいった。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

いやぁ、12月ですねぇ……

 

子供のころはお年玉やらなんやらで楽しみでしたが、今となっては”もう一年たつかぁ”なんて感慨の方が先に来てしまいます。

 

とりあえず、来年までにキリのいい所までは行きたいなぁという目標が出来てしまったので、そこを目指して頑張りたいと思います。

 

今回はここまで。また次回お会いしましょうっ!

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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