真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 117
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「……何やってんだよ、こまねえ」

「ん? ふぁれ、玄輝ふぁない」

「せめて喰い終わってからにしろよ」

 

 言われて彼女は饅頭を口に入れて、よく噛んだ後に胃へと落とした。

 

「何してんのよこんな時間に」

「いや、先に質問したのはこっちだろう。その姿、見られるのはあんまりよろしくないとか言ってなかったか?」

「筋肉ダルマの状態で街の中歩けっての?」

「いや、街中に入らなければいいだろうに」

「あのね、私だってこの世界にいる以上はお腹も減るし水を飲まなかったら死ぬのよ? それとも、ずっと野宿してろって言うわけ?」

「そうは言わんが、大丈夫なのかと思っただけだ」

「え、何? 心配してくれたの?」

 

 と笑顔で言いながら俺の頬を指でくりくりと突く。

 

「やめろっての」

 

 で、それを払いのけてこの前の事を思い出した。

 

「そういや、この前戦場で話していたこと聞きたいんだが、時間あるか?」

「ああ、あれね。良いわよ。そこの店で話しましょ」

 

 と指さしたのは飲み屋だ。

 

「いいのか? あんなとこで話して」

「大丈夫よ。聞かれてもそんな影響も出ないし、大体店の話声でロクに聞こえないわよ」

 

 そう言って店へと足を進める。

 

「……それもそうか」

 

 小声で同意して俺も店へと入る。中にはすでに酔っている奴もいれば、楽しげに話している奴もいる。俺たちは店員に案内された席に座って向き合う。

 

「さて、じゃああいつらが潜伏してそうなところについての話だったわね」

「ああ。あの時は二か所あるとか言ってたが、どことどこなんだ?」

 

 小町はちょうど届いた酒を受け取って一口飲んでから口を開く。

 

「一つ目は南蛮ね。こことも隣接しているわ」

「南蛮……」

 

 あの時代にも南蛮という名は聞いたことがあるが……

 

「言っとくけど、玄輝のいた時代の南蛮とは全然違うからね?」

「分かってるよ。で、どんなところなんだ?」

「まぁ、簡単に言えば原始的な生活を重んじている地域ってところかしら。農耕ではなく狩猟で生活をしているわ。あとはここと比べてかなり高温多湿の地域で、あなたの分かりやすいイメージで言ったらアマゾンかしらね?」

「なるほど」

 

 アマゾンはテレビで見たことがある。なるほど、気候はあんな感じか。

 

「てことは、うちの面々は苦労しそうだな」

 

 環境が違うとやはりどこかしらにストレスがかかる。そこで戦うのであればその辺も気を付けないと。

 

「ただ」

「ん?」

「私としては可能性が低いと思ってるわ」

「何故?」

「理由は二つ。一つはここから近いこと。つい先日あれほど高度な式神をやられた以上、多少は時間を取りたいはずよ。だとしたらこんなに近場を拠点にするとは考えにくい。で、もう一つは原始的な生活を重んじているが故よ」

「原始的な生活を重んじているから?」

 

 そこがどう関係してくるんだ?

 

「彼らは原始的な生活をしているという事は、超常の神という存在を信じやすいのよ。まぁ、神って形じゃなくても、精霊とかそんな存在も含むわね」

「んで、それがどう関係してくるんだよ?」

「奴は“神として”扱われるのは困るんじゃないかってことよ」

 

 なおのこと分からん。

 

「確か、本史の方で神様として崇められてるような奴だったら影響やら何やらを弾けるんだろ? つまり、崇められた方が奴としては力を得られるんじゃないのか?」

「……そうね、そろそろ話すべきかしらね」

「ん? なんだよ、改まって」

「玄輝、ここからは申についての話になるわ」

 

 思わず目を見張った。

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「……どういう事だ?」

「奴の目的は申だってのはもう知っているわね」

「ああ。そこに至るってのが目的なんだよな?」

「ええ。でも、実際の所そこに至る方法ははっきりとしていないのよ」

「……ん?」

 

 その話を聞いて違和感を覚える。

 

「はっきりしていない?」

「ええ。正しくは伝えるモノが無くなった、というべきね。かつては申に至る方法は口伝されていたらしいのだけど……」

 

 小町は一杯飲んで話を続ける。

 

「かつて外史すべてを消し去りかねないほどの大戦があってね。大戦が終わって生き残っていた申達は残った外史を少しでも残すためにその身を捧げてしまった。で、申に至る方法も分からなくなってしまった」

「ちょっと待ってくれ。じゃあ、俺の師匠は何で至る方法を知っているんだ?」

 

 俺の学んでる剣、それは“申を狩るために申に至る剣”と師匠ははっきり言っていた。口伝が消失しているとしたらこれはどういうことか。

 

「正直、私にも分からないわ。でも、推測はできる」

「って言うと?」

「恐らく、その大戦で修復された外史の一つが消えた時の残滓があの男に入ったからじゃないかしら?」

「つまり、雪華と似たような状態だってことか?」

「それとは若干違うけど、そんなところよ」

 

 てことは……

 

「……もしかして、俺の師匠ってかなりヤバい奴なのか」

「ヤバいなんてもんじゃないわよ。今まで何人の管理者が情報を引き出そうとして返り討ちに会ったか」

 

 “伝え聞いただけでも100は超えてるわよ”と背筋が寒くなるような情報を言って小町は一口酒をあおる。

 

「……ん? てことは俺ももしかして結構厄介な立場にいるのか?」

 

 前に本史に近い云々で管理者でも重役ポストに就けるとか何とか言っていたよな?

 

「そうよ? まぁ、あなたの場合は私が付いているから、他の管理者はちょっかい掛けてくることは無いと思うけどね」

「……おつまみ追加してもいいぞ?」

「今更いいわよ。感謝されるようなことでもないし」

 

 “で、話を戻すけど”と小町は続ける。

 

「奴はその方法を何かしらで知った、あるいは推測したのか。申に至る方法として他の外史の侵略を始めたのよ。その過程で気が付いたことが」

「神として扱われるのを嫌がってる、ってことか」

「そっ。分かりやすいのは雷神としての力を極端に使わないってところね。強者と戦う時、そして命の危機の時以外で使ったことは無いわ」

「……なるほどな」

 

 今の話は分かる。炎鶯さんとの戦いで奴は神鳴をあまり使おうとしていなかった。全力で撃ったのは一回だけ。その後は抑えたものばかりだった。

 

「でも、なんで神として扱われるのを嫌がるんだ? 申に至るには神にならないとダメなんじゃないのか?」

 

 俺が教わった奥義、それは4段階に分かれていると師匠は言った。今は“夜叉”で次の奥義は“神”に至るものだ。

 

「さぁね。さっきも言ったけど、私たちも推測することしかできないのよ。なんせ、情報がない。ない以上は妄想でも想像でも推測でもとにかく考えないとどうしようもないわ」

「そうだよなぁ……」

 

 背もたれに体を預けて天井を見る。

 

「……なぁ、気になったんだが、申に至ったらどうなるんだ?」

「長老、まぁ、私の上にいる人間が言うには“何でも手に入るし、何にも手に入らない”そうよ」

「……謎かけか?」

「さぁね。この情報すら聞きだすのにかなり苦労したのよ。それだけ申という存在は長老たちには恐ろしいのかもね」

「管理者も恐れるねぇ……」

 

 だが、だからこそ道真はそれを求めているのかもしれない。

 

「……復讐でもしたいんかね?」

 

 小さく呟いて目を閉じる。

 

(確かに、菅原道真の過去は誰が聞いても理不尽な物だ)

 ありもしない計画をでっち上げられ、流刑に処されてまともな衣食住を与えられずに亡くなった。で、その後、怨霊として舞い戻り、関係した者を次々に呪い殺したってのが俺の知っている話だ。

子供心に“そんなの当たり前だっ!”と憤ったものだが……

 

(しかしなぁ……)

 

 自分で言っといてなんだが、正直違う気がしている。

 

(なんか、そんな“ちっぽけな事”が目的とは思えないんだよな……)

 

 ゼロではないだろうが、全てでは絶対にない。俺の直感はそう告げている。

 

(まっ、考えたところで正解なんぞ分かるわけはないんだが)

 

 そもそも、知ったところで何なんだ、ってやつだ。敵の事を理解する必要はない。

 

 俺は頭を切り替えてこまねえに問いかける。

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「んで、話を最初の奴に戻すけど、もう一つの候補地ってどこなんだ?」

「もう一つは五胡と呼ばれる場所よ」

「五胡……?」

 

 聞いたことないな。

 

「どんなとこなんだ?」

「そうね。簡単に言えば五つの部族が治めてる国ね」

「西涼みたいなもんか?」

「まぁ、イメージはそんな感じね。でも、あそこより恐ろしい場所よ」

「というと?」

「外部からの人間に対してかなり攻撃的、排他的というべきかしらね。間者ともなれば語るのも恐ろしいレベルの拷問をするそうよ」

「あ〜、そういう感じか」

 

 日本でも旅の途中でそんな感じの村はよく見る。それを何倍か激しくしたような国って感じだろう。

 

「しかし、そんなところにわざわざ潜り込むか? 危険すぎるだろ」

「でも、そこに潜り込めたら?」

「そりゃあ、外敵の心配は少なくなるだろうさ」

 

 排他的なところほど、中に入れれば手厚く守られる。だが、入るためにはかなりの時間を要する。

 

「手間に見合って無くないか? 何年も時間をかけられるならまだしも」

「何言ってんのよ。洛陽と同じ方法を使えばいいだけよ」

「人質か……」

 

 まぁ、手段としてはあるだろう。しかし、そうなると……

 

「南蛮でもいいだろ。人質取ってくるような奴を神様扱いしないだろうさ」

「人質って、そんな安直な方法なわけないでしょ」

「……どういう事だ? 月を人質にとってあれこれしていたんじゃないのか?」

「ん? ああ、そっか。そう見えるのが普通よね」

 

 どういうこった? あれには何か裏があったのか?

 

「確かに人質にとっていたのは事実よ。でも、それが簡単にできると思う?」

「いや、できるだろ」

 

 力もあれば強力な式神もいる。むしろできないはずがない。

 

「じゃあ条件を付け足すわよ。“管理者に悟られずに”人質にとるのは簡単かしら?」

「むっ」

 

 そうなると話は変わる気がする。

 

「あいつにとって外史の人は敵じゃないわ。まぁ、例外はあるけども負けることは無い。でも、唯一負かすことができる存在がいる」

「それが管理者か」

「そ。奴にとって私たちは準備が整うまではかち合いたくない相手なのよ。で、そんな状況で真正面から力を使って人質を取ろうものなら感知されるのは必至」

「だからこそ力はそこまで使えないってことか」

 

 炎鶯さんの所で力を使ったのは対抗できる準備が整っていたという事だろう。ただ、そこで俺という存在が計算を狂わせたってわけか。

 

「じゃあ、どうやって月を人質に……?」

「簡単よ。洗脳したのよ」

「洗脳か……」

 

 なるほど。幻術を応用した方法であれば可能だし、一度術を掛ければ術者が解かない限りは延々と続けることもできる。おまけに術にかかっているかどうかは非常にわかりにくい。

 

「でも、洗脳の際に力は使ってるんだからそれで感知されたりしないのか?」

「そこまで大きな力ではないから、かなりしづらいわね。ましてや、道真ぐらいの腕があれば尚の事」

「そうなると、やはり五胡になるわけか……」

 

 術による洗脳はそいつの根っこにある部分までは侵せない。原始的な生活を営んでいる南蛮で“神”という存在がどれほど大きいかは分からないが、少なくとも根っこの部分には関わっているのだけは間違いない。

 

「……間諜を放って様子見とかも厳しそうだな」

「でしょうね。仮にあなたが行ったとしても犬死するわね」

「だろうな」

 

 五胡の戦力や個々の力量がどのくらいかは分からないが、うちの兵程度ならばどうにか逃げられると思うが、そこに白装束まで加わると厳しくなる。そもそも、無個性の白装束も動きがそこまで洗礼されていないからこそ大人数でも対処できるわけで、そこに訓練された兵が加わればどうなるかは分からない。

 

「とりあえず一刀たちに話して警戒してもらうしかないか」

「あら? 御遣い君の呼び方変えたの?」

「ああ。まぁ、当人もちょっと気にしてたみたいだからな」

「なんだ、理由があって苗字呼びしてたんじゃないんだ」

「つい無意識にな」

「日本人あるあるかしらね」

 

 と、俺の酒も届いたので口にする。

 

「そう言えば、あんた二十歳超えてたっけ?」

「いや、まだ18だが?」

「あー、いっけないんだぁ。お酒は二十歳からよ〜?」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。この世界での成人も実質18からだろ」

 

 まぁ、そこらへんは数え年やら何やらで若干の差はあろうが問題はあるまい。そもそも日本ではすでに元服は16。十分大人と言い張れる年齢だ。

 

「ちぇ、だめか。いじれると思ったのに」

「おいおい。性根が腐ってるぞ」

「弟分をいじるのは姉の特権で〜す」

「……さては酔ってるな?」

 

 よくよく見れば顔もほんのり赤くなってる。

 

「べっつに〜。酔ってませんよ〜だ」

「つーか、成人云々ってならこまねえは永遠の17歳だろうが。俺よりアウトだろ」

「17歳の時間が長いので問題ないでーす」

「どういう理屈だ」

 

 思わず眉を下げて呆れ顔になる。

 

「じゃあまだ酔ってない内に聞くが、確認だ。管理者側から今後何か援護とかあったりはするか?」

「ないわね。今は私がちょっと手を貸してるけど、それはあいつがやりすぎているから。そもそも、私が属してる方は基本的に成り行き任せ、しいて言うなら“何もしないで見守る”ってのが信条なのよ」

「つまり、意図的に荒らしている道真に対しては多少の援護はあるが、それ以外は不干渉ってことか」

「そっ。それにこの世界に来る前にあった時のこと覚えてる?」

「ん? なんか言ってたっけ?」

「“本来ならアイツの役目”って言ったやつ」

「…………言ったか?」

 

 正直忘れた。

 

「……まぁ、大したことじゃないからいいけど、本来は別の奴がこの世界の担当だったのよ」

「担当とかあるんだ」

 

 それもそれでびっくりである。

 

「そりゃあるわよ。だって考えてもみなさい。アーサー王の物語にいきなりクレオパトラとか出てきたら混乱するでしょうに」

「……確かに」

 

 本だったら間違いなく前後のページを読み返したり、本のタイトルが間違ってないか確認するな。

 

「てことは、本来なら貂蝉とかか?」

「おっ! 冴えてるわね、正解よ」

「…………一応聞くけど、美人なのか?」

 

 正直、筋肉ダルマの姿を見た時のインパクトがデカすぎて疑いざるを得ないのだが。

 

「…………まぁ、うん」

「あ、いいわ。それ以上はいい」

 

 はい、察しましたとも。ええ。

 

「この調子だと、クレオパトラも筋肉ダルマか?」

 

 もしそうだったら“世界三大美女”の“美女”が“筋肉ダルマ”というフリガナになるのだが。それは正直絶望なんだが。

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「ああ、大丈夫よ。クレオパトラは女よ」

「おお!」

 

 よかったっ! “世界三大美女”という言葉のフリガナはこれで守られるっ!

 

「まぁ、肉体美にこだわる人だけど」

「ヴッ!!!」

 

 そっちかぁ〜!!!

 

「……まぁ、性別が女なら、うん」

 

 い、一応、女であれば“美女”って言葉は使えるし。

 

「失礼ね。私も女よ」

「あの形態の時は完全に男だろうが」

「……好きであの格好してるわけじゃないわよ」

 

 あ、好きではないんだ。

 

(それが知れただけでも良しとすべきか)

 

 この話はここで切ろう。うん、これ以上考えてもいいことは無い。

 

「んで、その貂蝉さんが担当じゃないのがどう繋がるんだ?」

「さっきも言ったけど、私は本来この世界にはそぐわない存在なのよ。だからその帳尻を少しでも合わせるためにあの筋肉ダルマの形態が必要なのよ」

「意味あったのあれっ!?」

 

 戦闘形態とかじゃないんだっ!?!?!?

 

「ええ。小野小町っていう存在を変えることはできないから“貂蝉という存在の皮を被る”ことでこの世界に適応させてるのよ」

「ん? となると今の姿はまずいんじゃ?」

 

 皮を脱いでいるこの状態は“貂蝉”ではなく“小野小町”という存在になっているという事。であれば、この世界にそぐわないという事では?

 

「大丈夫よ。だってここにいるのは“こまねえ”という存在だもの“小野小町”ではないわ」

 

 つまり、“御剣玄輝のいた世界で近所のお姉さんだったという存在”という事か。

 

「……それってありなのか?」

「存在できている以上はありってことよ」

「う〜ん」

 

 世界のルールがゆるいとみるべきか、ザルとみるべきか。

 

「気にするだけ無駄よ。私だってぶっちゃけ推測で言ってる部分はあるし」

「おいおい、管理者ってそんなゆるいのか?」

「ゆるいんじゃなくて、どうしようもない部分よ。あんただって台風が来るのは知れてもそれを逸らすなんてできる?」

「そういう感覚か」

 

 人の身においてはどうしようもないモノ、ってことか。

 

「まぁ、それにも例外はあるけどね。本来の私でないと制御できない物とか必要な時はこの姿じゃないとだめだし」

「というと?」

「あんたの師匠の手綱を握るとき」

「ぶふぅっ!?」

 

 お、思わず咽た。

 

「って、師匠の手綱握ってんの!? あの化け物の!?」

「……いや、たとえで言ったけど微妙ね。忘れなさい」

「いやいやいやいやっ! 無理があるってのっ!」

 

 あの師匠の手綱とか、言い間違いだとしても出てくる表現じゃない。

 

「あんまり調子乗って聞いてると、あいつ飛んでくるわよ?」

「……やめときます」

 

 修業を受ける時ならば構わないが、からかい半分で致命傷負わされるのは勘弁願いたい。

 

「しかし、五胡か……」

 

 もしもすでに潜入し終えているのであればかなり厄介だ。どうにか潜入しているかどうかだけでも知りたいが……

 

「どうしたもんか」

「何? 探りを入れたいの?」

「ああ。少なくても五胡にいるか、あるいは魔の手を伸ばしているかだけでも知りたいな」

「……手がないわけじゃないわ」

「ほんとか?」

 

 その言葉に“期待”の二文字が浮かんでくる。

 

「この前倒した白装束いるでしょ? あいつの依代で探知機みたいなのを作るのよ」

「……探知機?」

 

 なんだそりゃ?

 

「あ〜、あれよ。レーダーよ。レーダー」

「あ〜」

 

 それはアニメで見てたから分かる。

 

「それでどこにいるかが分かるのか?」

「いや、流石にそこまでは分からないわ。せいぜいいる方角が分かる程度ね」

「いや、それだけでもデカい」

 

 何せ、南蛮にいるのか、五胡にいるのか、はたまた別のところに潜んでいるか。それを知っているだけでも対策や想定ができる。

 

「頼めるか?」

「やるだけやってみるわ。ただ、期待はしないでよ。正直、失敗するのが前提と考えといたほうがいいぐらいだし」

「ああ。朱里と雛里が当番の日の食事程度には期待しておく」

「たっく」

 

 と、こまねえが言ったところでツマミが届いた。

 

「それで、他に聞きたいこととかはある?」

「いや。とりあえずは大丈夫だ」

 

 俺は席を立つ。

 

「あら? 食べないの?」

「悪いが、一刀たちに土産を買って帰ろうと思ってんだよ」

「土産は後でも買えるじゃない。ちょっとぐらいは付き合ってくれないワケ?」

 

 “ぶーぶー”とぶーたれるこまねえだが、そう言った店はそろそろ閉まり始める頃合いだ。

 

「じゃあ、買うものかったら戻ってくるよ」

 

 なおもぶーたれる彼女を置いて席を立って出口へ向かう。出る時に戻ってくること、一応俺が頼んだ分の代金を渡しておいて外へ出る。

 

「さて」

 

 ついでに店主にお勧めの乾物屋を聞いてそこへ向かう。店まではそこまで遠くなかったので、目的地にはすぐ着いた。すると、ちょうどタイミングよく店主らしき男性が出て来た。

 

「すまない、ちょっといいか」

「ん? お客さんかい?」

「ああ。魚の乾物をもらいたいんだが、まだ大丈夫か?」

「魚かぁ。ちょいと今日は売り切れちまってるな。肉ならあるが」

「そうか」

 

 まぁ、この際肉でもいいだろう。そう思って頼もうとした時だった。

 

「……お前さん、もしかして黒の御使い様じゃねぇか?」

「……まぁ、そう呼ばれてるな。一応」

 

 前から思ってるが、この御使いの呼び名がどうにもしっくりこない。御使いは雪華の方で、俺は一応体裁としては護衛だし。

 

(と言っても、どうこう言ったところでもはやどうにもならんのは分かってるんだが)

 

 ぶっちゃけ、一度相談したことはある。でも、全員“もう別にいいんじゃない?”と言う返答をしてきたので俺も諦めてる。と、内心溜息を吐いたところで店主の顔がぱぁッと明るくなる。

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「やっぱりそうかっ! アンタにゃ礼を言いたかったんだっ!」

「礼?」

「そうっ! 俺の次男坊を助けてもらった礼さっ!」

 

 そう言って店主は腕飾りを見せる。

 

「こいつを着けた兵士を黄忠様の所で見たことないか?」

「ん?」

 

 見せてもらった腕飾りは朱雀をあしらったであろう小さな飾りのついたシンプルな物だった。

 

「……あぁ、そう言えば」

 

 確か、愛紗と紫苑さんを助けに入った時に一番に助けた兵士が身に付けてたのをちらと見たような。

 

「紫苑さんの直属の部隊にいたな」

「ああっ! そうなんだよっ!」

 

 そう言って俺の手を握って頭を深く下げる。

 

「本当にっ! 本当にありがとうっ!」

「……気にするな。運よく間に合っただけだ」

「いや、そうはいかねぇっ! ちょ、ちょっと待っててくれねぇかっ!?」

 

 そう言って慌てて店の奥に行くと、大声で誰かを呼んで奥でガタガタ何かしている。

 

 数分まったところで、店から店主と奥方らしき女性が涙ながらに出て来た。

 

「ああっ! ありがとうございますっ! 息子を救っていただいてッ!」

「い、いや、そんなに言わなくても」

「あの子は、あの子は本当に……」

 

 奥方は本当にうれしそうな鳴き声で何度も感謝の言葉を告げる。そこに店主がその訳を話す。

 

「あいつは昔っから体が弱くてですね。何度も死にかけていたんですが、医者に診てもらってるときにたまたま厳顔様と一緒に街を歩いていた黄忠様がいい薬を買ってくださってそれで元気になったんでさぁ」

「それで、いつか必ず恩返しするんだと必死に頑張ってお付きの部隊にまで上り詰めて……」

「そうか……」

 

 という事はだ。

 

「であればお宅の息子さんは愛されているのだろう」

「はいっ! 天におわす方に、」

「いや、そうじゃない。あなたたち二人にだ」

「へ?」

「愛されているからこそ、運が向いてくるのだろう。ひとえにお二人が愛したからこそその分が返ってきているんだろうさ」

「“っ!!!”」

 

 俺の言葉を聞いて店主は抑えていた涙を目頭に出してしまうが、すぐにこすって笑顔を見せてくれる。

 

「これ以上、言葉で感謝は言えません。本当にありがとうごぜぇますっ!」

 

 そう言って店主は大きな袋を差し出してくる。

 

「これは?」

「うちの乾物でさ。持って行ってください」

「しかし、これは売り物だろ?」

「あいつの命に比べりゃ安いもんですっ! ささっ!」

 

 そう言われては、受け取らないという訳にもいかないか。

 

「……ありがたく貰っておくよ」

 

 袋を受け取ると二人は深々と頭を下げる。俺は乾物の礼を言ってその場を後にする。ちらと後ろを見るとまだ深く頭を下げていた。

 

(今度、大量に買いに行くか)

 

 貰った乾物の袋はけっこう重い。たぶん、相当な量が入っているだろう。

 

(せめてその分は返さねぇと)

 

 背中に担いで、とりあえず店に戻る。

 

「……さて、そんなに飲んで無けりゃいいが」

 

 と言っても、こまねえがどれだけ飲むかは知らんのだが。なんて思っていたのだが……

 

「………………うっ」

 

 気が付いた時には、寝台の上で目を覚ましていた。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

新年一発目の更新ですっ! いやぁ、ミクさん15周年の年が過ぎ、また次の周年を待つ日々が始まりました……

 

まぁ、未来に待つ物があるというのはいいことだと思って今年も頑張ろうと思っています。

 

とはいえ、2月はマジミラ北海道、そして、初の全国ツアーのミクboltもあるので、イベントには事欠かないのですが。

 

早く時間がすぎないものかと思いつつ、今回はここまでとさせてください。

 

また次回お会いしましょうっ!

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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