Princess of Thiengran 第七章ー新王直立後
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家計の為といって、二人にくっついてきたけれどまさか本当になるなんて。

シシの村の家族を思い出す。手紙は書いたから元気でやっている事は伝わるだろう。

キャラは宮廷の侍女として働き出してから忙しい毎日を送っている。同僚も友達もできた。まだ見習いの身だけれど、いつかリウヒの近くに行ければいいなと思う。リウヒは王になってからすっかり遠くなってしまった。シラギやカグラ、その他大勢のおじさんたちに囲まれて、必死になって政務をこなしているらしい。

トモキは相変わらずリウヒのそばにいる。たまに食堂であう。

「乱暴すぎるんだよ」

目の前に座った想い人は、ため息をつきながら愚痴る。

「宮廷の知識がなくて外の知識はあるだろう。だから宰相たちとなかなか話がかみ合わなくて、シラギさまたちが通訳してるって感じ」

キャラは箸をくわえたままキョトンとした。

「でもそれは、陛下が民目線で考えているってことでしょう」

やっとリウヒの事を陛下と言えるようになった。今でもうっかり呼び捨てにしてしまいそうになる。

「いいことじゃないの」

トモキの漬物をかすめ取ったら「あ、こら」と怒られた。もちろん気にしない。

「いいことだよ、いいことなんだけどさー」

そのままズルズルと突っ伏した。

しばらくキャラは食事を続け、トモキも疲れたように突っ伏したままだった。

この空気が懐かしい。みなで外にでて旅をしていたあの日々の空気だ。

「もう無理だけど」

しんみりした気持ちになって茶を啜った。

「みんなで旅をしたいなあ」

リウヒたちと過ごした二年が愛おしい。

ふと目の前をみると、トモキが腕の間から片方だけ顔を持ち上げて、こちらを見ていた。

この距離でその顔は反則だと思う。

「な、何よ」

「陛下にそれを言うなよ。諸手をあげて駆け出していきそうだ」

キャラはため息をついた。あたしのときめきを返せ馬鹿。

「言えるわけないじゃない。あれから全く会えないのに」

あたし、いかなきゃ。お先に。と席を立つキャラをトモキが呼び止めた。

「また一緒にご飯たべような」

いいよ、と答えて出口に向かう。平静を装って。

本当は叫びながら走りだしたかった。すれ違う人たちに抱きついてグルングルン回したいくらい舞い上がった。ああどうしよう、世界が輝いて見える。

食堂をでたキャラに同僚二人が両脇を挟むように走ってきた。

「なんで、陛下付きのトモキさまがキャラといたのよ」

「何話していたの?ねえねえ」

騒ぐ友人にキャラはただ笑うだけだった。

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マイムは笑えない状況に陥っていた。

謀反前、自分が在籍していた時は、数少ないとはいえ厳しい先輩や上司がいた。踊り子という仕事に誇りを持っていた尊敬できる人たち。その人たちがごっそり消えていた。

それは仕方がない。亡くなった人がいる。あの混乱時に己の意志で外に出た人もいる。当時のマイムのように。

しかし、残った娘たちはというと。

「だって、ほとんど宴がなかったんですぅ」

「誰も何も言わないからぁ、どうしたらいいんだろうと思ってぇ」

何もしていなかったという。数も半分ほどに減っていた。

呑気な顔の後輩たちに、マイムは頭を抱えた。

どうするっていうのよ、新王誕生の祝宴はあと十日に迫っているっていうのに。なんで残っているのがこいつらだけなのよだれか助けてよ。

この祝宴は新王にとって、大切な日に設けられたらしい。誕生日とかいう聞いたことのない事を言われたが、思い出の日か何かなのだろう。失敗は許されない。

「楽師を呼んで」

いやいや、まずは見てみなければ分からない。中には見事に舞うものだっていたはずだ。

楽師たちがやってきた。こちらはまったく顔ぶれが変わっていない。少しうらやましく思った。彼らはマイムに挨拶と、同情的な視線を送る。

「祝祷の舞を」

曲が流れる。稽古場に散った娘たちは音に合わせて、ぎごちなく動き始めた。

これは…何?

マイムは愕然とした。

お遊戯?村の祭り?それともあたしは幻想でも見ているのかしら。

「止めて。次は絢爛の舞を」

基本中の基本である。これなら何とかなるかもしれない。祝宴には王に立ったリウヒはもちろん、シラギやカグラ、トモキも参加する。愛すべき少女と、あの愉快な連中の前で恥をかく訳にはいかないのよ、絶対に。

再び曲が流れ始める。さすがに優雅に踊り子たちは舞い始めたが、到底納得いく出来ではなかった。

静かに怒気を発している先輩に踊り子たちは、びびった。楽師さえも気おくれした。

本気で怒っている美女は相当な迫力である。恐れと緊張が支配する空気の中、マイムが低い声を出した。

「全員、徹底的な指導が必要ね。それ相当の覚悟をなさい」

娘たちは青くなった。つられて楽師たちも青くなった。

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赤かったカガミの顔色は、ここのところ青い。

宮廷の医師は、長くはないと言った。本人は分かったと頷いただけだった。

「お加減はいかがですか」

「うん、今日は大分いいよ」

寝台に横たわり、微笑むカガミの前にカグラは腰をおろす。

「みんな、見舞に来てくれるんだ。この間は陛下も来てくれた。すぐにトモキくんに引きずられていったけど」

「父さん」

カガミが、こちらをみた。目があう。

「どこからが、父さんの描いた筋書きだったのですか」

ショウギを宮廷に入れて、少年だった自分をジュズの元に預けた。

行儀作法を叩き込まれたが、興味を持ったのは剣術だった。シラギは覚えているだろうか、共に習った事を。

そして、父に生まれて初めて頼まれ事をされた。もちろん喜んで従った。

時期が来ればわかると言われ、アナンが消えた後カグラはショウギを煽って本殿に火をつけた。

事はうまく進んだ。しかし、ねぎらいの言葉一つかけてもらえなかった。

目的すら知らなかった。シラギと共に、酒場で聞いて初めて理解した。

 

この男は、天を気取りたかったのだ。

ティエンランを盤とし、王族や民を駒として。

 

それにタイキとジュズ、二人の講師たちも協力した。

「歴史を変えてみたかったんだ」

ただそれだけだ。

沈黙の後ぽつんと呟くと、父は疲れたように目を閉じた。

「もう気は済みましたか」

不思議と怒りは湧かなかった。が、切実な思いは残った。

息子のおれは駒として見てほしくなかった。それが叶わないのなら、せめて一度でいいから名前を呼んでほしかった。

「ああ。満足だよ、カグラ」

父は目を閉じたまま微笑んだ。

「ありがとう」

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有難い事に新王が立ってから政は明るい方向へ向かっている。宰相も、その他臣下も文句を言いながら楽しそうだ。派閥争いが無くなった為、未だかつて無いほど団結している。

シラギは後宮を横切ろうとして、ふと足を止めた。西宮が建っていたその場所は、園になっている。ここを通る度に黙祷をする習慣がついた。

目を開けると、横にカグラが立っていた。何故かその目が赤い。

「丁度良かった。これに目を通しておいてくれないか」

と書類を渡す。

リウヒはそのままカグラを左将軍に任命した。勿論文句はでたが、王は涼しい顔で言い放った。「では、右将軍から一本とれた者に任せよう」

あの時の重鎮たちの顔は、傑作だったと今でもシラギは笑いそうになる。

 

「左将軍は、海を統べる義務があるのだろう。健闘を祈る」

書類に目を落としたカグラが、顔を顰めた。このところ、海賊が頻繁に出没している。

それでも、この男ならやれるだろうと思う。

昔と随分、雰囲気の変わったこの男なら。

「元王子は随分とやんちゃですね。これを詰めたいのですが、お時間はありますか」

「わたしの部屋で話そうか、茶ぐらいだそう」

「黒将軍は意外と無粋ですね、日も暮れかけているのに、茶ですか」

「お前、仕事をしながら酒を飲む気か」

呆れた声に、カグラが笑う。

空が茜色に染まり始め、二人は踵を返して歩き出した。

 

説明
ティエンランシリーズ第一巻。
過酷な運命を背負った王女リウヒが王座に上るまでの物語。

「どこからが、父さんの描いた筋書きだったのですか」

視点:キャラ→マイム→カグラ→シラギ

*あと二つ、一気に投稿ー。
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ファンタジー オリジナル 長編 東洋風 王女 ティエンランシリーズ 

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