ガールズ&パンツァー〜三者三様の生き方〜 4
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〜顔合わせ〜

 

 

 

「……ここが大洗女子学園か」

 

目の前にあるのは原作で見たまんまの校門、校舎、そして本来みほちゃんが着ることになっていたはずの学校指定の制服を着て歩いている生徒達……なんだか妙な感慨深さが湧いてくる。

この世界で生まれて20年とちょっと。

ようやく1番来たかった場所に足を踏み入れることが出来たのだから、それも仕方ないことだろう。

そう俺は現在、大洗の学園艦に乗り込み、本物の大洗女子学園の前に立っていた。

 

「にしても今更だけど……待ち合わせ場所は、もう少し考えてほしかったなぁ」

 

ひとしきり感動を味わった後、あえて見ないようにしていた現実に目を戻す。

正直、ここを待ち合わせ場所に指定した柊ちゃんには、ちょっとだけ文句を言いたくなってくる。

 

「ねぇ、あの人……」

 

「誰だろ?」

 

「誰かの迎えとか?」

 

時間はすでに放課後。

さっきから帰宅のため校門から出てくる生徒達に、若干不審そうな目で見られていた。

そりゃ、女子校の前に見知らぬ男が立ち止まり、じっと学校やその周りを見ていたらそうなるだろう。

とにかくさっき柊ちゃんに連絡は入れてるし、きっともうすぐ来るはず。

それまでの我慢だ……。

 

 

 

 

 

女生徒達の不審そうな視線にさらされ続け、気まずい思いをしながら待つこと10分ほど。

 

「……遅くね?」

 

まだ待ち人である柊ちゃんは来ていない。

10分なんて普段ならそんな気にする時間でもないけど、今は1分1秒がめちゃくちゃ長く感じる。

能力なんて使ってないのに感覚的には、もう1時間くらい待ってるんじゃないかとすら思えるほどだ。

そろそろ誰かに教師か、最悪警察にでも連絡されるんじゃないだろうか。

 

「警察沙汰とか流石に勘弁してほしいなぁ。あぁ、なんだか胃がキリキリしてきた……もう1回、連絡してみるか?」

 

さっきの今で忘れてるなんてことはないだろうけど、もしかしたら何か用事があって遅れてるのかもしれない。

待ち合わせしておいてそれはどうなんだと思わなくもないが、とにかくこれ以上待たされるならいったん別の所に移動したい。

周囲からの視線的に考えて。

そう思い、柊ちゃんに連絡を入れようとしたところ。

 

「西泉さーん!」

 

「や、やっと来たか!」

 

ようやく待ち人が現れた。

 

「いやぁ、ちょっと待たせちゃいましたかね? すみません」

 

謝りながらもそこまで気にしてなさそうに、能天気そうな顔で笑っている柊ちゃんにヒクッと頬が引きつるのがわかる。

 

「『待たせちゃいましたかね?』じゃないが!? あのさぁ、わかる? 周りの女の子達に変な目で見られ続けた俺の気持ち、柊ちゃんにわかる?」

 

「え? あ、あはは。だから、すみませんってば」

 

「すみませんで済んだら警察はいらないんだよ! 女の子の君にはわからないかもしれないけど、男が女子校の前に長くいるのって不審者扱いされて警察に通報されてもおかしくないんだからな!? 今時はどこもそういうの厳しいんだから、次からはマジで気をつけてくれよ!? マジでな!? 俺なんて年甲斐もなく、ちょっと心細くて泣きそうになっちゃったじゃん!」

 

「年甲斐もなくって、私とそこまで離れてないじゃないですか(精神年齢は知らないけど)。というか、もう若干涙目に「あぁん!?」あ、いえ、なんでもないです」

 

ズズイと顔を近づける俺に、若干引き気味の柊ちゃんだった。

と、柊ちゃんと話していて気づかなかったけど、どうやら1人で来たわけではないらしい。

柊ちゃんの後ろに他に3人いたことに、今更ながら気付いた。

 

「やっほー、西泉さん。この前ぶり。少し待たせすぎたみたいだねー。この校舎ちょっと広いし、丁度練習してたところだったからさぁ。これでも急いで来たつもりなんだけど、ごめんね?」

 

「あ、あぁ、この前ぶり。いや、うん、そういう理由なら仕方ない、のかな。あー、なんか恥ずかしいな、みっともないとこ見せちゃって……えっと、それで? そちらさんは?」

 

ジワリと滲んでいた涙を拭きつつ、知ってはいるけど、知らないふりをして杏ちゃんと一緒にいる2人の事を聞く。

 

「こっちは生徒会副会長の小山柚子、そんでこっちのが生徒会の広報を担当してる河嶋桃。私達3人で、38(t)戦車に乗ってるんだー」

 

「小山柚子です。お待たせしたようですみません」

 

「……河嶋、桃です」

 

「小山さんに河嶋さんだな。よろしく」

 

なんと柊ちゃんだけじゃなく、生徒会3人組までの登場だった。

 

「(……戦車道の隊長に生徒会メンバーが出迎えてくれるって状況……なんかVIP待遇っぽくて悪くないな)」

 

「……あ、あの!」

 

「うん?」

 

とにかくようやく中に入れるかと思いきや、唐突に桃ちゃんが声を張り上げてきた。

改めてよく見ると、なんだか思い詰めた表情をしているように見える。

 

「河嶋さん、だっけ。どうしたんだ?」

 

「その、まだ出来立ての私達戦車道チームを応援し、あまつさえ多額の資金を援助していただき感謝の言葉もありません。なのに前回の練習試合で、あのような醜態を見せてしまい、なんとお詫びすればいいか……それもこれも、すべては私の責任です! 本当に申し訳ありませんでした!」

 

「……はい?」

 

いったい何かと思えば、突然深々と頭を下げて謝ってきた。

いきなりの事に意味が解らず柊ちゃんや他2人を見るが、どうやら助け船は来そうにない。

柚子ちゃんはどこか心配そうに桃ちゃんを見ていて、杏ちゃんは困ったように頭を掻きつつ、それでいてどういうことか俺の様子を窺っているようだ。

柊ちゃんに至ってはさっきの事があるからか、もしくは桃ちゃんの言ってることに心当たりがあるからか、気まずそうに俺から視線を外してる。

 

「(『あのような醜態』、『私のせい』、か……あー、もしかしなくても、あの試合の誤射のことだよな)」

 

皆の様子、そして桃ちゃんの言葉から何に対して謝っているのか予想し、パッと頭に思い浮かんだのがそれだった。

というかそれ以外に見当がつかないし、多分間違いないだろう。

 

「(これ、もしかして俺やっちゃった感じ? 俺が時期を考えないで寄付なんてしたから?)」

 

改めて考えてみれば、こんな時期に資金援助をするのは些か早計だったかもしれない。

今はなぜかまだ公になってないが、戦車道を始めたその背景には学園艦の行く末がかかっているのだ。

まだ戦車道が始まって間もない時期、そんな中で自分達を応援し、寄付までしてくれる人が現れた。

ただでさえ負けられないという気負いがある中で、自分達が期待されていると思ったらさぞ応えようと必死だったに違いない。

 

桃ちゃんは見た目通り、真面目で責任感の強い性格をしてる。

その反面ちょっとのミスだったり、少しでも状況が悪くなると若干、いやかなりネガティブな思考に陥ってしまうくらい精神的に脆い所がある。

そんな桃ちゃんにとって、あの試合で自分が仕出かした致命的なミス、それを発端として碌な抵抗も出来ずに負けてしまった事はかなりこたえたようだ。

あの試合からあまり日も経ってないし、いまだに試合の事を引きずっていてもおかしくはない。

そんな中で自分達を応援し、寄付までした当の本人と対面したら……こんな状態にもなる、のかな?

とにかくこんな落ち込まれてたら俺としても居た堪れないし、なんとか励まさないと。

 

「あー、まぁ、あれだ。偶然とはいえ1発で履帯に被弾させて、その後の転輪をぶち抜いた連携は凄かったと思うぞ? うん、あれは大会の上位校でも、中々狙って出来るもんじゃないよ。あれを相手側に出来てたら言うことなしだったな!」

 

「……うぅっ!」

 

グッとガッツポーズしながら言うと、桃ちゃん瞳からブワッと涙があふれ出した。

なぜに?

 

「……西泉さん、それフォローになってないです」

 

「むしろ、とどめ差しちゃったねー」

 

「も、桃ちゃん、泣かないで!」

 

「ぐ、ぐしゅ、も、桃ちゃん、いうなぁ……!」

 

「……え? えーと……あっ! す、すまん。別に嫌味とか皮肉で言ったわけじゃないんだ!」

 

よくわからず首を傾げていると、ハッと理由に気付いて何とかフォローを入れる。

いや、俺としては偶然で、しかも味方に向けてとはいえ、あの見事な連携が出来たことを素直に褒めたつもりだったんだよ。

だけどあの時の事を重く受け止めていて、ネガティブ思考真っ最中の桃ちゃんにとって、俺の今の発言はただの心をえぐる刃になってしまった。

 

「と、とにかく、次は同じ間違いしないように、頑張って練習すればいいんじゃないか? だから、もう頭上げよう? じゃないと周りの目が、な?」

 

チラッと周りを見る。

横を通る生徒や離れたところにいる生徒が、こちらを見ながらコソコソ話している。

 

「ねぇ、あれ見て」

 

「うわ、女の子に頭下げさせてる」

 

「ていうか、あれって生徒会の人達じゃない?」

 

「桃ちゃん先輩泣いてない? どうしよう、先生に連絡する? それとも警察?」

 

ヤバい、自業自得だけどこれはマジでヤバい。

今まで生きてきた中で危機的状況になった事は何度もあるけど―――だいたいは自業自得の結果―――、これはその中でも段違いだ。

冗談抜きで警察まで呼ばれそうで、背中に嫌な汗がダラダラ流れ出してくる。

 

「かーしまー、落ち込むのはもうその辺にしときなって。流石にこのままだと、色々面倒なことになるからさー?」

 

「ほら、桃ちゃん、泣き止んで? 周りもこっち見てるから、ね?」

 

「グスッ……そ、そうですね会長。取り乱してすみませんでした……あ、あと、何度も言うが桃ちゃんいうな!」

 

「はいはい、いつものいつもの……もう、西泉さんも気を付けてよ? この子、こう見えて結構傷つきやすいんだからさ?」

 

「気を付けるよ。河嶋さんも、本当にごめんな? 俺もちょっと配慮が足りなかったというか、なんとというか……」

 

「いえ、西泉さんが謝る必要はありません。実際、おっしゃる通りですので。次は敵戦車で同じことが出来るように、これまで以上に練習に力を入れていきます」

 

「あぁ、応援してるよ」

 

「……おっと、そうだ。西泉さん。はい、これ」

 

杏ちゃんが思い出したように、紐の付いたカードをポケットから出して渡してきた。

手に取って見ると、それには“入園許可証”と書かれている。

 

「中にいる間は、それ首から下げててね。学園長からも許可は貰ってるけど、知らない人から見たら不審者扱いされちゃうかもだから」

 

「うん、それは困る。わかったよ」

 

頷いていそいそと紐に首を通し、許可証の文字がちゃんと見えるように位置を確認する。

チラッと周囲を見ると、とりあえず不審者じゃないと理解してくれたのか、携帯を持っていた生徒もポケットに戻して去っていった。

ようやく一安心といったところか。

 

「えーと、それじゃ、そろそろ行きましょうか。皆も待ちくたびれちゃいますよ」

 

「だねー。西泉さん、これから皆に紹介するからついてきて。中は結構広いから、はぐれないように注意してよ?」

 

「この歳になって流石に迷子になる気はないけど、一応気を付けておくよ」

 

初の大洗女子学園で興味が尽きないけど、さっきまでのやり取りで今はもうそんな気分でもなくなったし。

それにどうせ後々、見て回る機会もあるのだ。

今は大人しく皆について行くとしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

案内してもらってついたのは、あのW号戦車が収納されていた格納庫前。

丁度戦車の収納を終えた後なのか戦車は見当たらないが、格納庫から見覚えのある子達が次々と出てくる。

 

「あ、京子達帰ってきた……って、うわっ、知らない男の人! しかも結構イケメン!?」

 

こっちに気付いた沙織ちゃんが、俺を見て少し驚いた様子を見せた。

沙織ちゃんの声に皆の視線が一斉に俺の方に向けられる。

 

「皆、お待たせー。ちょっと紹介したい人がいるからさ、悪いけど帰るのは少し待ってね。中にいる人達も呼んで、こっちに集合して」

 

杏ちゃんが皆に声をかけて、まだ格納庫の中にいた子達も出て来て俺達の周りに集まって来る。

右を見ても左を見ても、ガルパンで見た大洗メンバーがずらっと並んでいる。

まるでアイドルを目の前にしたファンみたいに、内心テンションが上がって頬が緩みそうになるのをなんとか我慢する。

 

「よし、皆、集まったね。じゃあ、西泉さん。皆に挨拶よろしくー」

 

「あぁ、わかった」

 

この状態で自己紹介とか少し緊張するけど、第一印象は大事だ。

失敗しないように少し深呼吸をしてから心を落ち着かせ、改めて皆の方に目を向ける。

 

「えーと、練習終わりで帰る所だったろうに、時間を取らせて悪いな。俺は西泉幸夫、来週から大洗戦車道の特別顧問って扱いになる」

 

「特別、顧問?」

 

俺の紹介に疑問の声が上がる。

そう、俺は来週から大洗戦車道の特別顧問に就任することになったのだ。

部活じゃないのに顧問というのは違和感あるけど、まぁ、それは俺の気にすることではないか。

ちなみに頭に“特別”とついてるのは正式な顧問ではなく、あくまで今年度限りの期間限定、お試し期間のようなものという理由。

来年以降は学園が存続すればそのまま続けるか、そうでなければ正式な顧問になれる人を探すらしく、俺はそれまでの繋ぎのような役割だ。

どうせ後者になるだろうし、ある意味では蝶野さんと似た立ち位置と言えるだろう。

 

これが前に柊ちゃんに言っていたサプライズ、なわけではもちろんない。

俺としては、ここまでがっつりと関りを持つ気なんてなかった。

電話越しでだって色々出来ることはあるし、外部協力者的な立ち位置が当初の予定だったのだ。

それが以前、電話で柊ちゃんにその旨を伝えた時、それなら学園長にも事情は知らせておいた方がいいだろうという話しになった。

確かに大洗に住んでるとはいえ、たかだか資金の援助をしただけの一般人が、柊ちゃん経由とはいえ大洗の生徒と関わりを持っているのを知られると変な勘繰りをされかねない。

それこそエロ同人的な展開を想像してしまう人だっているかもしれないし。

例えば……。

 

 

 

『戦車道始めたばかりで金が要りようなんやろ? おっちゃん金は持っとるし、援助してやってもええんやで? ただし、ちゃんと君が誠意を見せてくれたらやけどなぁ?』

 

『どうぞ、私の事は好きにしてください……でも、他の人達はどうか!』

 

『ぐへへ、仲間想いの良い子やなぁ。えぇで、君が楽しませてくれるんなら今後も援助はするし、他の子にだって手はださんよ』

 

『ほ、ほんとですか?』

 

『おぉ、おっちゃん嘘はつかんよ。もちろん、君がしっかりおっちゃんを楽しませてくれたら、の話しやけどな?』

 

『……はい。誠心誠意、ご奉仕させて、いただきます……っ』

 

 

 

……こんなエロ同人っぽい鬱展開、この世界では存在しない! ないったらないんだ!

っと、なんか少し思考が脱線してしまった。

とにかく柊ちゃんの言葉に納得して、説明は彼女に任せることにしたんだ。

そしたら、その数日後。

 

『職員寮の用意も完了しましたので、今週中に入寮の準備をお願いします。あと、戦車道の生徒達に自己紹介もしておいてください。蝶野教官にもこちらから説明はしておきますので、後日改めて挨拶の方をよろしくお願いします』

 

などと、いきなり電話がかかってきた。

しかも相手はなんと、大洗の学園長から。

その時の俺は何が何だか訳が分からないまま、咄嗟に「え? あ、はい」と口にしてしまい碌な説明も聞かないまま通話を終えてしまった。

どういうこと? と、携帯を見つめながら首を傾げていると、うちでは珍しくインターホンが鳴り響いた。

誰だろうと開けてみると配達員が大きな茶封筒を渡して来て、開けてみたらまるで見計らったかのように大洗女子学園に関わる書類が入っていた。

さっきの学園長からの話しに、送られてきた書類の数々。

まったく心当たりのないことに、しばらく混乱の余り頭が真っ白になってしまうという、今生が始まって初めての経験をすることになった。

 

思考が回復してすぐ俺がしたのは、もちろん柊ちゃんへの確認取り。

予想していなかったこの急展開、柊ちゃんなら何か知ってるに違いないと思って急いで連絡を入れた。

するとどうやら杏ちゃん経由で頼んでもらったらしく、その内容は柊ちゃんもわからないという。

だったら直接でも電話でも、杏ちゃんと話せるだろう柊ちゃんに頼んで聞いてもらったのだが……まぁ、確かに納得出来る話ではあったのだ。

 

「特別顧問とはいっても、別に俺の方から練習内容に口出しするつもりはない。蝶野さんだって今まで通り来てくれるから、そこは本業の彼女に任せるのが一番だし。君たちは今まで通り練習して、試合があれば自分たちで作戦を立ててやってくれ」

 

そう言うと、そこらでコソコソ話しをしてるのが見えた。

疑問はわかる。

じゃあ、何のための顧問なんだと。

 

「俺の主な役割は、蝶野さんがいない時のお目付け役だな。誰も大人がいない所でっていうのも、それで何かあったら色々問題になるんだよ。まぁ、大人の都合ってやつだ」

 

蝶野さんは現役の自衛官で特別講師として大洗に派遣されてはいるが、毎度大洗の練習に参加しているわけではないらしい。

柊ちゃんに聞いた話によると、頻度で言えば2、3回に1回程度だという。

一応、蝶野さんがいない時の練習メニューもあるそうだが、流石に誰も大人がいない所で練習させるのには不安が残る。

だから蝶野さんがいない間は戦車道について多少は知っている―――そういう設定で杏ちゃんが学園長に説明したらしい―――俺に、特別顧問という役職を与えてお目付け役を任せようということだ。

丁度、この学園には戦車道に詳しい先生はいなかったらしく、多少でも知識のある俺が練習を見ていてくれるという話しは渡りに船だったらしい。

 

ちなみに俺の事が無ければ、時間の空いている先生が持ち回りで見ることになっていたのだとか。

学園側としては午後の選択授業という大きな時間を割かれる事、それに時には放課後にも自主練をすることもあるから人選にかなり頭を悩ませていたようだ。

大洗の戦車道は今年から急遽スタートすることになったため、都合のいい人手もいなかったらしいし。

そんな話しを聞けば俺が特別顧問に選ばれるのもわからなくはないけど、それでも面接とか就活らしいことを一切せず、よくあっさりと受け入れてくれたものだ。

 

「(それだけ杏ちゃんが信頼されてるのか、生徒会長権限が俺が思ってるより強いのか、はたまたここでも柊ちゃんの能力が発揮したのか。まぁ、ともかく)……でだ、さっきは練習に口出しするつもりはないとは言ったけど、せっかく顧問になったんだ。皆のお目付け役だけするってのもなんだから、俺なりに皆に協力しようと色々考えてきたわけだよ」

 

余計な思考をいったん打ち切り、俺はさっそく本題に話を移した。

 

「内容としては、練習相手の紹介だ」

 

「練習相手の紹介?」

 

柊ちゃんから疑問の声が上がる。

手伝うとは聞いていても、その内容は今初めて言ったから当然だろう。

 

「実戦に勝る練習はない、って誰かが言ってたっけ。いつもの練習ももちろん大事だけど、試合前に何度か余所と練習試合して慣らしておいた方がいいと思ってな。聖グロとの1回だけじゃ、流石に足りないだろ?」

 

「でも、私達と試合してくれるところなんて、そうそうあるとは思えませんが」

 

「こっちでも一応、何ヵ所かには打診してはみたんだけど、今んところ成果なし。前の聖グロの時も「受けた勝負は〜」とか言ってたけど、やっぱあっちの善意でやってくれたところがあるよねー」

 

「それに前回の、その聖グロとの試合の結果が結果ですし……」

 

前回の試合を思い出しながら口にする柚子ちゃんの言葉に、みんなの顔色が暗くなる。

あの時の試合を思い出してというのもあるだろうが、あれだけ多くの観客がいたらそれを録画してネットにアップする人も中にはいるだろう。

大抵試合の映像は戦車道連盟が公式サイトに載せてるものだが、それは大会とかの正式な試合に限られている。

審判の派遣や場所取り、中継のための各種機器まで配備してくれる戦車道連盟ではあるが、全国でいくつもの学校が、いくつもの練習試合をしているのだ。

それを毎度サイトに載せていたらきりがない。

だからか動画投稿サイトの方では、一般の人が撮影した映像がよく上げられている。

気になって前に動画投稿サイトを確認してみたところ、その中に大洗と聖グロの練習試合の映像もあった。

大洗という無名の学校とはいえ、聖グロという強豪校が試合した映像だ。

再生数、コメント数ともにかなり多かった……コメント欄のほとんどは、大洗を嘲るものだったけど。

 

どこだって自分たちが試合で勝つために、真剣に練習に取り組んでいる。

そんな彼女達が素人丸出しの相手と、試合も近くなってきているこの時期に練習試合なんてしてくれるだろうか。

仮にネット上に映像が流れていなくて、あの試合内容を知らなかったとしてもだ。

出来立てほやほやの戦車道チーム相手ということを考えれば、碌な試合内容になるとはまず思わないだろう。

むしろそんなチームとの試合に応じてくれた聖グロが、どれだけ良心的で希有な存在だっただろうか。

……まぁ、そんな良心的で希有な存在というのも、探せば案外いるものだ。

 

「対戦相手なら、もう見繕ってるよ。とりあえず3チームな」

 

『……え?』

 

俺の言葉に一斉に驚きの声が上がる。

そう、これこそが俺が用意した柊ちゃんへの、皆へのサプライズだった。

 

「ほ、ほんとですか!? いったい、どこの学校なんです!?」

 

「あー、まぁ、きっと驚くと思うぞ? 相手を知ったら」

 

特に柊ちゃんなら、な。

 

「え、驚く? ……も、もしかして、黒森峰とか!?」

 

「はっはっは! 黒森峰がこの時期に、大洗との練習試合を受けてくれるわけないじゃないか。というかこの時期じゃなかったとしても、まず無理だよ」

 

「で、ですよねー……」

 

いや、当然だろ。

相手は現在大会で10連勝している強豪中の強豪、名実ともに全高校戦車道チームの中で最強のチームなのだ。

勉強のためにも練習試合をしたいと思う学校は多いだろうし、黒森峰としても相手校は色々と厳選しているはず。

そんなところに大洗が頼み込んでも、簡単に突っぱねられるのがオチだ。

 

「俺の伝手を当たってみたんだけど、思ったより興味を持ってくれたところは多かったぞ? どこも悪くない、というか大洗からしたら十分過ぎるくらいレベルの高い相手だ。そこは保証する」

 

「伝手って……そんな大きな伝手を持ってるって、西泉さん何者?」

 

「ただの同人作家だよ、って柊ちゃんは知ってるだろ? まぁ、そこそこ売れてるって自覚はあるけどね」

 

「いや、そこそこじゃないでしょ……というかあのラインナップですよ? 売れない理由がないじゃないですか」

 

こそっと小さく柊ちゃんが囁いてくる。

確かに俺も前世で売れていた作品ばかり描いたつもりだから、売れて当たり前とは少し思ってたけど。

むしろこれで売れなかったら世界の違いか、俺の腕の問題だ。

……ただ、前世で売れていた作品がバカ売れして、逆に俺のオリジナル作品の売れがイマイチだったのには、自分の創作家としての腕がまだまだなのだと実感させられて少し悔しかった。

今後も要努力だな。

 

ちなみに伝手というのも、俺の描いた同人誌のファンになってくれた人を通じてというだけだったりする。

試しにうちのサイトに設置してる掲示板で募集をしてみたら、予想外に参加希望の募集があってビックリした。

なんせ募集したその日のうちに4件の応募があり、次の日の朝に見てみればなんと20件を超えていたのだから。

 

「(これには流石に驚いたわ。一応、大洗が初心者の集まりってことも、戦車の数が少ないってことも伝えたはずなんだけど……「打倒黒森峰!」なんて大仰な目標を書き込んだのが原因か?)」

 

まぁ、応募がまったくないよりはよかったけど。

それから応募してきたのがどんな相手か色々調べて、その中から俺の独断と偏見で3チームに絞らせてもらった。

大会まで、およそ1ヶ月と半分くらい。

戦車の整備時間、普段の練習、皆の疲労を考えて、2週間に1回のペースで練習試合を行っていく計画だと説明する。

 

「これはあくまで俺からの提案ってだけで、別に強制じゃないことは理解しておいてほしい。皆がやりたくないならそれでいいし、その判断を俺は咎めたりもしない。ただ、相手の都合もあるし、やるかやらないかは早目に決めてほしいけどな」

 

相手の方は結構乗り気の様子だったから、皆がやりたくないと言って練習試合が無くなった事を報告するのは少し申し訳ないけど。

ちなみに学業に影響が出ないように、基本的に練習試合は土曜か日曜に行う予定だ。

廃校阻止の目的があるとはいえ、学生の本分はやはり勉学。

学園長にも練習試合についての許可は事前に貰っているが、その点に関しては気を付けるように言われている。

 

「(廃校のことをまだ知らない生徒は、貴重な休みを戦車道に費やすのは嫌がりそうだけど……いや、その心配はないみたいだな)」

 

説明してる間の皆の様子を見て、俺の心配は杞憂だと気付いた。

 

「2週間に1回のペース、ですか」

 

「結構、ハイペース?」

 

「まぁ、実際私達の場合、それくらいしないとって感じじゃない?」

 

「聖グロ戦は、あんまりな結果だったからなぁ……」

 

中には少し不満そうな顔も見えるけど、それも全体からすれば少数派。

それにその生徒の零す愚痴を聞く限りでは、練習試合自体に文句はなさそうだ。

 

「(桃ちゃんもそうだったけど、皆も前の試合でボロ負けしたのが想像以上に堪えてたみたいだな。まぁ、とりあえずやる気はあるみたいだし何よりか)」

 

「……あの、1つ聞いてもいいでしょうか?」

 

「うん?」

 

遠慮がちに手を上げてきたのは桃ちゃんだった。

 

「先ほども言いましたが、西泉さんには資金を援助してもらったことも含めて、とても感謝しています。ですが……どうして、私達にここまでしてくれるのですか? こう言っては何ですが、西泉さんは大洗女子学園とは何の関りもない方です」

 

「あー、それねー」

 

その質問に杏ちゃんも気になったのか、俺の方に視線を向けてくる。

そして他の皆も。

多少の活動資金の援助までならともかく、意図してないとはいえ特別顧問になって練習試合相手の紹介までする。

顧問の件は杏ちゃんが学園長に紹介してある程度話が進んでしまったことだけど、俺自身が契約も口約束もしてない以上、後から断る事だって出来たはずなのだ。

それなのに俺は顧問の件を断らず、普通に受け入れて今ここにいる。

確かに自分でも善意の協力者の範囲なんてとっくに超えていると思うし、何か別の考えがあるんじゃないかと疑われても仕方ない。

 

「まぁ、当然の疑問か。だけど俺も大洗に住んでる人間だからな、地元の高校を応援したいって気持ちはあるんだよ。おまけにここは戦車道が復活したばかりで、まだまだ素人も同然の子達ばかりだからな。少しくらい手を貸してやりたいって思っても、不思議じゃないだろ?」

 

「それは、そうかもしれませんが……」

 

納得のいっていない様子。

しかし、その反応は想像通り。

こちとら事前に聞かれそうなことは予想を立てて、回答も用意してきているんだ。

……その回答は、些か皆の不興を買いそうな内容だとは思うけど。

 

「他に理由を上げるなら……まぁ、これは俺の個人的な理由なんだけど」

 

「個人的な理由?」

 

「そう、個人的なね。唐突なんだけどさ、俺、試合っていうのは勝ったり負けたりするから、見ていて楽しいって思うんだよ」

 

「はい?」

 

突然意味の分からないことを言い出した俺に、桃ちゃんだけじゃなく他の人達にも同様に首を傾げられる。

柊ちゃんからも、「突然何を言い出すんだこの人は!?」といった感じの目を向けられるが、それにかまわず俺は話を続ける。

 

「そりゃあ、自分の応援してる所には負けてほしくないって誰だって思うだろうさ。ずっと勝っていてほしいって思うだろうさ……だけど絶対に負けないチームの試合って、俺からすればつまらなくも感じてくるんだよ」

 

そこまで言って俺が何の話をしているのか、“どこ”の話をしているのか。

ある程度頭の回転が速い人は気付いたらしく、「まさか」といった表情を浮かべている。

 

「“絶対王者”、“世紀の偉業”、“10連覇”……凄いねぇ、まさに偉業だ。これから先、何年、何十年と塗り替えられることはないだろうな。あぁ、ほんと凄いよ。心からそう思う。これからも、その無敗伝説が続いていくことを考えたら……なんて、つまんねぇんだろうなぁって思うよ」

 

今の俺の顔は、言葉通り本当につまらなそうな顔をしているだろう。

なにせこれは嘘偽りない、俺自身の本音なのだから。

 

「漫画とかでもそうだけど、勝つか負けるかわからないからこそ手に汗握るんだよ。絶対負けない、最強無敵の主人公なんてつまらないことこの上ないだろ。皆さ、心のどこかじゃあ、こう思ってるんじゃないか? 「きっとまた黒森峰が勝つんだろう」、「黒森峰が負けるはずがない」、「黒森峰だから勝って当たり前」ってさ」

 

もちろん大会でも接戦している学校はあるし、勝つか負けるかわからない展開も多かったはずだ。

だけど多分、そう考えている人は結構多いだろう。

特に試合を見てる観客側には。

ネットやテレビとかで見る限りでも、始まる前からどことなく黒森峰の戦勝ムードが見て取れた気がするし、優勝した後となると尚更だ。

「やっぱり黒森峰がやってくれた!」なんてアナウンサーが口にしているところを見て、それは俺の中で予想から確信に変わった。

もしかしたら試合をしている学校の中にも、そう考えている人は少なからずいるかもしれない。

対戦相手にも、それこそ黒森峰の生徒自身も。

 

「まぁ、事実黒森峰は強いんだろうけどな。その強さに憧れて力のある奴が集まって、前年と遜色ない力を維持しながらその力を如何なく発揮して、当然のように優勝をかっさらっていく。そして今後も黒森峰の偉業は続いていく……違うんだよ俺が見たいのは。俺が見たいのはさ……」

 

そう言い、皆をジッと見つめる。

 

「相手がどれだけ強くても決して諦めず、皆が取れる手段を全て使って、知恵を出し切って、その瞬間その瞬間で機転を利かせて難関を突破して、ギリギリの攻防の末に勝利を手にする瞬間。しかも世間じゃ素人集団、弱小校と思われてる学校が、最強チーム黒森峰を打ち倒すなんて漫画みたいな名場面が見れたらもう最高だ……そう思ってた所に、地元大洗の戦車道が復活したって話を耳にしてな。君等には期待してるんだぜ? もしかしたら、そんな俺が望む展開を見せてくれるかもしれないってな」

 

これこそが俺が特別顧問を断らなかった理由だ。

なんだかんだ言ったけど実際の所、俺はみほちゃんがいないとしても、原作のように大洗が優勝するところを見たいだけなのだ。

1人のガルパンファンとして。

 

「そんな、私達が黒森峰を!?」

 

「そ、そりゃ、私だってこの前の試合みたいな、恥ずかしい試合はしたくないって思ってるけど……」

 

「黒森峰って、あの戦車道が1番強いって学校だよね? ちょっと、流石にそれは……」

 

「この前の聖グロより強いってことでしょ? いくら何でも無理じゃない?」

 

「……zzzzzz」

 

「麻子、今すっごい話してるんだから起きなよ!」

 

「はっ!? お、おう」

 

……この状況で立ったまま寝るとか、凄いな麻子ちゃん。

と、それは置いといて。

コホンと咳払いし、気を取り直して口を開く。

 

「えー、まぁ、そういうわけだ。俺が君たちに協力するのは、そういう俺の個人的理由が大部分を占めてるんだよ。だけど皆だって、弱い弱いっていつまでも思われてるのは嫌だろ? 地元の応援してくれてる人達に、家族にかっこいい姿を見せたいだろ? というか、出来る出来ないはともかくとして……黒森峰に勝ちたくないか? 王者を倒したいとは思わないか?」

 

その言葉に、この場のざわめきは静まり返る。

誰だって負けるために練習する奴はいない、何のために練習するかなんて結局は勝つために決まってる。

皆だってそれは同じだろう。

今までは漠然と、ただ前みたいな恥ずかしい試合をしないように練習していたのかもしれない。

だけどここで皆にもう1つ上の段階に気持ちを持っていってもらうために、俺は更に言葉を続ける。

 

「どうせやるならさ、でっかい目標持ってやってみないか? 目指すは大会初出場にして優勝! 皆、絶対ビックリするぞ?」

 

『……』

 

言葉なく、皆は互いに顔を見合わせる。

 

「(さて、俺に言えることは言ったつもりだけど……はてさて、どうなることやら)」

 

結局、俺が何を言ったところで皆にその気がなければ意味がない。

原作のようにみほちゃんがいない以上、原作以上に大洗は不利な状況にあるのは間違いないだろう。

それをどうにかするためには、原作以上に皆にやる気を出してもらうしかない。

気持ちだけじゃどうにもならないこともある、だけど気持ちがなければどうにもならないこともある。

果たして皆がどういう考えに至るか、期待と不安を持って見ていると。

 

「……いいんじゃない? 個人的な理由だって、協力してくれることに変わりないわけだし。それに打倒王者黒森峰! いいねぇ、私も好きだよ? そういう少年漫画みたいなノリ。これ実現しちゃったら、私ら世間から注目の的だね!」

 

そう、杏ちゃんが少し大げさな調子で言葉を発した。

その言葉に、ピクリと周りが反応を見せる。

 

「注目……男の人にも!?」

 

「ふふふ、そうかもしれませんね。優勝なんてしちゃったら、テレビに映ることになるでしょうし」

 

「大会の決勝戦は生中継ですからね! 私達の顔が大きくテレビに映るのは間違いないでしょう!」

 

「……優勝したら、何か褒美はあるのか?」

 

「え? さぁ、それは生徒会長に聞いてみれば?」

 

「んー、今でも戦車道受講者には結構サービスしてるんだけど……そう言えば、冷泉ちゃんは遅刻見逃し200日じゃ足らないっけ。なら、今までしてきた遅刻分、全部帳消しなんてどう?」

 

「っ!? ……ち、遅刻、帳消し!? 出来るのか、そんなこと!?」

 

「出来る出来る、生徒会長権限でパパッとやっちゃうよー」

 

杏ちゃんの口から出たご褒美に、他の子達もそれなら自分もと次々手を上げだした。

 

「会長! それなら我らバレー部の復活も!」

 

「それはちゃんとメンバーが集まればねー。まぁ、たくさん注目されれば、それだけメンバーも集めやすくなるんじゃない?」

 

「会長ー! 学食で出してほしいメニューがあるんですけどー!」

 

優勝したらあれをしてほしい、これをしてほしいと杏ちゃんや他2人の生徒会メンバーに詰め寄っていっている。

なんというか、流石は杏ちゃんといったところか。

柊ちゃんみたいな能力を持ってるわけじゃないのに、人をノせてその気にさせるのが中々に上手い。

 

「えーと、後は……祝勝会でもしてパーッと騒いじゃう? 丁度“なんでも”協力してくれるって、太っ腹なお大臣様もいることだしー?」

 

「……え?」

 

皆に詰め寄られながらも、普段と変わらない調子の杏ちゃんはそう言ってニヤッとした表情で俺を見てくる。

 

「い、いや、何でもなんて言って……ひぇっ」

 

否定しようとした瞬間、杏ちゃんの言葉にノせられて期待にギラつかせた眼差しが一斉に向けられてくる。

ちょっと怖かった。

 

「……あぁ、もう! わかった、わかったよ! 皆が優勝したら、盛大なパーティを開いてやるよ! なんなら回らない寿司屋でも、高い焼肉屋でも連れてってやる!」

 

『やったー!!!』

 

少し自棄になって言ってしまってから、ハッと我に返る。

流石にこの人数相手に回らない寿司屋とか、高い焼き肉屋は言い過ぎたかもしれない。

だけど今更ランクを下げるのは、やる気になってる皆のテンションを下げかねない。

うん、これはもう変更は無理そうだな。

 

「どこいく!?」

 

「回らない寿司屋なんて行ったことないから楽しみ!」

 

「この前テレビで気になるお店紹介してたんだー」

 

「高級ホテルのレストランとか興味あるわね」

 

彼女達には、もう優勝してからのことしか頭にないようだ。

何のために優勝を目指すのかよくわからなくなってしまったけど、そもそもの目的を知らない子ばかりだからこうなるのも仕方ないか。

 

「……ま、これだけやる気があればなんとかなるか」

 

「西泉さん、ありがとうございます」

 

「ん?」

 

騒ぐ皆を苦笑いを浮かべながら見ていると柊ちゃんが近寄ってきて、俺にだけ聞こえるような小さな声で話しかけてくる。

皆は騒いでいてこちらに気付いてなさそうだから、わざわざ声を小さくする必要もなさそうだけど。

 

「……別にいいさ。現状、金には不自由してないしな。この際だ、勝っても負けても豪勢にいっちまうか」

 

「いや、そこは普通に優勝したいですけど……って、そうじゃなくて! 皆にやる気を出させてくれたことですよ!」

 

「なんだ、そんなことか。というかそれは俺じゃなくて、杏ちゃんがフォローしてくれたおかげだろ? 俺だけだったら、あそこまでのやる気は引き出せなかったさ」

 

俺の話しで静まり返ったあの場面。

あそこで杏ちゃんが一番最初にノッてくれたことで、俺のフォローをしてくれたのはわかっている。

同調圧力というほどではないかもしれないが、1人がその気になれば周りの意識も同じ方へ天秤が傾きやすくもなるだろう。

 

「それでもです。実際のところ、やっぱり皆も勝ちたいとは思ってたんですよ。普段の練習でも、聖グロ戦の悔しさを晴らすみたいに、すっごく頑張ってましたし。それでも皆の中では、大会で優勝しようなんて考えはなかったと思います。せいぜいが聖グロにリベンジして見返してやろう、ってくらいですかね?」

 

「……あー、そうかもしれないな」

 

俺が見た限りでも廃艦について知ってるメンバー以外には、そういう雰囲気は感じていた。

良くて優勝出来たらラッキーかな? と言ったところだろうか。

 

「西泉さんが皆に優勝を意識付けてくれたおかげで、杏さんもああやってフォロー出来たんです。だから、ここまで優勝したいっていう気持ちになれたんですよ」

 

「……うーむ、そうなんかねぇ」

 

「そうなんです。だから、本当にありがとうございます」

 

「……まぁ、どういたしまして?」

 

皆が優勝を目指すようになってよほど嬉しいのか、薄っすらと目の端に涙を浮かべながら感謝してくる柊ちゃん。

正直、柊ちゃんの能力を使って皆に強く呼びかければ、俺がいなくてもこのくらいにはなったのではないかという考えが頭に浮かぶ。

その能力自体、本人は知らないからやりようもなかっただろうけど。

 

「(能力のこと、やっぱり教えておいた方がいいのかな? でも、能力頼りになって柊ちゃん自身が成長しなかったら……それで試合でボロ負けって可能性もあるんだよなぁ……うーん……)」

 

あーだこーだと考え、結局やっぱり教えないでおこうという結論に行きついた。

俺の中では能力を教えたことによるメリットより、それによるデメリットの方が大きいと思えたからだ。

俺だけが気付いてるというのは、必要以上に頭を悩まされて嫌になるな。

 

「(まぁ、何はともあれだ。あちらさん方にも練習試合の件、正式にお願いしとかないとな)」

 

俺の組んだこの練習試合が、少しでも柊ちゃんや皆の力になってくれることを祈ろう。

 

 

-2ページ-

(あとがき)

話し的には全然進んでないのに、これだけで文字数1万超えですよ。

私の書き方って、どうしても地の文で説明だったり脱線話が多くなって中々話が進まないんですよねぇ。

書き方変えてみようかと色々試してはいるのですが、気付けばどうしてもこんな感じに。

もうこの書き方が染みついてしまったんでしょうね、悩ましい限りです。

 

説明
久しぶりのガルパン話し
今回もそこそこ長いです……もう短編取っちゃおうかなとか、色々悩み中。
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