みゆみこログB |
<高1・3学期あたり>
『おやすみなさい、深行くん』
「ああ、じゃあな」
『・・・』
「・・・」
『・・・』
「・・・切れよ」
『深行くんこそ・・・』
しばらく押し問答をし、深行は軽くため息をついた。これではいつまでも切れそうにない。かといって、自分から切るのはなんとなく嫌だった。
「じゃあ同時に切るか。それならいいだろ」
『うん・・・っ』
深行が3つカウントしたらお互いに切ることにした。
泉水子はそれに素直に従い、しんとした静寂が部屋の中に満ちた。通話が切れたことを確認してから、深行はスマホをタップした。
黒くなった画面を見つめる。
毎日学校で会い、放課後は一緒に勉強までしているというのに、どうして声が聞きたくなったのだろう。
今の今までこの電波の向こうには泉水子がいた。そんな当たり前のことを思って、少し不思議な気分になる。
泉水子の声がすぐそばで聞こえていた時は、まるで目の前に彼女がいるような・・・。
通話が切れてしまうと、電話をする前には感じなかった部屋の静けさが妙に気になる。これまで、誰かと電話で話しても、こんな気持ちになったことはないのだが。
「――・・・」
考え出したら止まらなくなりそうで、深行はむりやり思考を中断させた。スマホを机の上に置き、参考書を開く。
もう五位以内ならいいとは思わない。次の定期試験こそ、学年1位をとるつもりだ。
* * * * *
(同時に切ると言いつつ、泉水子ちゃんが切ったのを確認してから切る深行くんと、そして素直に切る泉水子ちゃん(笑)
逆なような気もしなくはないですが、オトメン深行くんが書きたくなっただけです)
<高2設定>
深行が怒っている。
怒らせたのは、たぶん泉水子だ。
きっと何か余計なことをしたか言ったかしてしまったのだろう。自分できちんと理解できていないから、謝ることもできない。
ページをめくる音、シャーペンをノートに走らせる音だけが室内に響く。ふたりしかいない生徒会室。空気が重たく、淀んでいる。
放課後、生徒会室に行くとき、真夏と少し話をした。
ここのところ実に楽しそうなので聞いてみると、最近馬場にきた新しい馬がタビに少し似ているのだという。その画像を見せてもらい、本当にどことなくタビに似ていたので泉水子も嬉しくなった。
「タビが一番なのはずっと変わらないけど、やっぱり馬は可愛いよ」
そう言う真夏が微笑ましくて、他の写真も見せてもらった。一緒にケータイを覗き込んで盛り上がっていると、深行がC組の前を通りかかったのが見えた。
しかし、深行もこちらに気がついたはずなのに、ふいっと顔を背けて行ってしまった。機嫌が悪くなってしまったのはそれからだ。
深行は分からない。
落ち着いているように見えて、その実、子供っぽくもある。優しいと思っていると、いきなり不機嫌になったりする。ころころ変わる彼のことを、泉水子はまだ把握しきれていない。
(真夏くんくらい、分かりやすいといいのにな)
けれども、それでは深行ではないだろう。それに、泉水子が好きになったのはそういう深行なのだ。
そんなことを考えているうち、閃いた。あのとき機嫌が悪くなったのだから、原因はそこにあるはず。泉水子は真夏に聞いてみようかと考えた。
「どこに行くんだよ」
そっと立ちあがると、深行は顔を上げることなく言った。
「ええと・・・馬場に」
「・・・何しに?」
ひときわ低い声に、びくりと肩をすくめる。
「深行くんと、仲直りがしたくて」
言った瞬間、まずいと思った。つい口が滑ってしまった。本人に言ってどうする。
こうなっては全部言うしかないような気がして、泉水子は一息に説明した。
「あのう、真夏くんと話している時に深行くんが怒ったような気がしたから、真夏くんなら原因が分かるかと思ったの」
きっと呆れているだろうと思っていると、深行は泉水子を見上げた。しばらく見つめ合い、やがて深行は深々とため息をついた。
手を引かれて、泉水子はもう一度椅子に座った。
握られた手にきゅうっと力がこめられる。
大きくて、あたたかい手。
「・・・それなら、俺に言えばいいだろう」
「言えないよ。だって、怒ってるんだもん。今だって・・・」
泉水子はハッとなった。
深行が不機嫌になったのは、真夏とケータイを覗き込んでいたとき。そして今、真夏の所に行こうとしたとき。
それでは、まるで・・・。
泉水子も、深行と真響が盛り上がっている時に複雑な気持ちになったことがあった。
(深行くん、やきもち焼いた・・・?)
勝手な想像に体温が上がる。
深行は真っ赤になった泉水子を見て、ばつが悪そうに目をそらした。その顔が少し赤い。
「分かったのなら、もういいだろ」
軽く泉水子の頭を小突き、深行は何事もなかったように再び参考書に目を落とした。
剣呑な空気が消えている。
深行は分からない。いきなり不機嫌になったかと思えば、こんなにも泉水子の心を揺さぶったりする。
その度にこんなにドキドキしていることを知っているだろうか。いや、知っているわけがない。
くやしい。
でも、嬉しい。
* * * * *
(無意識に仲よくするまなみこにヤキモチ。
高柳のことはハッキリむかつくと言えても、真夏くんだと複雑でしょうね(笑)
<高3の夏。帰省中>
気がついたら身体が浮いていた。
床に叩きつけられる衝撃に備えて目をぎゅっと閉じる。その瞬間強い力で引っ張られ、床に落とされたダメージはほとんどなかった。
「今日はこれくらいにしておこうか」
「・・・はい。ありがとうございました」
野々村が手を差し出してくる。深行はふがいなさと呼吸を落ち着けるためにひとつ大きく息を吐き、その手を取った。しかし、自分の力でサッと立ちあがる。
野々村が去った後も、深行は道場に残った。
しばらく型稽古を続けるが、しかしちっとも身に入らず、深行は壁にもたれて座った。天井を見上げる。
古武道を野々村から教わるようになってしばらくたつ。学園でも朝晩怠ることなく鍛錬を積んでいるつもりだが、ちっとも上達している気がしない。いいかげん一撃くらい当たってほしいのに、難なく野々村にいなされてしまう。
これでは雪政を打ち負かすどころか、泉水子をきちんと守れるかどうか・・・。
ガチャリと静かに音がして、道場の入口のドアが開いた。泉水子がおずおずと顔をのぞかせる。
「鈴原?」
「ごめんね。邪魔をして」
「いや、もう終わったから。どうしたんだ」
泉水子は靴を脱いで上がると、深行の前にぺたんと座った。
「野々村さんから、深行くんはまだ残っていると聞いたから。いつもがんばっていてすごいね」
にっこり笑ってタオルを渡してくれる泉水子の言葉が、今は素直に受け取れない。
「別に、がんばっているからすごいわけじゃないだろ。根性論でなんとかなる問題じゃない。仮に雪政に挑んだとしても、またボコボコにされるのがオチだ」
冷たく言い放ってから後悔した。これはただの八つ当たりだ。
泉水子の顔がみるみる萎れていくのが分かり、深行は顔をそらした。
「・・・悪い」
「ううん。私こそ、考えなしでごめんね」
どうして泉水子が謝るのか。
どうして自分はここで顔をそらしてしまうのか。
泉水子にも勝てないな、と気分が沈んでいく。
「でも、野々村さんも言っていたよ。だいぶ上達してきたって」
「野々村さんが?」
「うん。それに、私、深行くんのこと、本当にすごいと思っているよ」
ふわりとタオルを頭からかけられる。洗剤の香りと、優しい手。花のような笑顔。
沈んでいた心が浮上してくるのを感じる。一気に身体の力が抜けた。
我ながら単純すぎて、深行は苦笑した。
「・・・勝てないな、鈴原には」
「えっ わ、私? 勝てないのは相楽さんにじゃないの?」
あっさり地雷を踏み抜いたりもするけれど。今日は気づかないふりをしておく。
「それより、俺に用があったんじゃないのか?」
野々村に聞いたということは、深行に何か話があったのだろう。尋ねると、泉水子は頬を赤らめもじもじした。
「用というか・・・あ、あのね」
「なんだよ」
なにが恥ずかしいのか、泉水子は両手を組んでうつむいた。
「ここのところ、深行くん、野々村さんとばかりいて・・・会いたかったの」
言いきった泉水子は、耳や首まで赤くなっていく。
心臓を射抜かれた深行は、やはり泉水子には勝てない、と思ったのだった。
* * * * *
(道場があるかどうかは捏造です。弓道場があるならあるかもしれないなと・・・
落ち込む深行くんとなぐさめる泉水子ちゃんみたいなものを書きたかったのですが、そっこー解決してしまいました。あら不思議)
<高2・冬休み>
1月1日、玉倉山で過ごす二度目の正月のこと。
深行は、朝から忙しなく動き回っている佐和に、郵便受けを見てくるように頼まれた。入っていた年賀状の束を佐和のもとへ持っていくと、宛名別に分けておいてくれると助かると言う。
泉水子のほうがいいのではと思ったが、彼女の姿が見当たらなかった。
(裏を見ないようにすればいいか)
鈴原家の居間で、深行は1枚ずつ宛名を見ながら分けていく。
竹臣に佐和、泉水子にも粟谷中の同窓から来ており(表面に書いてあるので見えてしまった)、大成や紫子にも数枚届いていた。分けているうちに、昨年は泉水子がこうして仕分けしていたことを思い出す。
神社宛にも年賀状が届くのだなと深行が関心していると、泉水子はおかしそうに微笑んだ。
そして――深行に1枚も年賀状が来なかったことに、どんよりとしていた。
こちらに住所を置いているはずもなく当たり前の話なので、深行はちっとも気にしていなかったのだが。その時にあわあわとした泉水子の顔を思い出して、深行は思わず口元を緩めた。
と、鈴原方で自分宛てに年賀状が届いていて、深行は手を止めた。首をかしげながら、すぐさまひっくり返してみる。
『あけましておめでとう。今年も、よろしくお願いします』
数時間前に直接言ったばかりなのに。
(・・・ばかだな)
年賀状など気にしていない。転校が多いためそこまで誰かと深く関わったことがないし、面倒事がなくてよかったとすら思う。今だって新年の挨拶メールがくれば返すだけ。
深行は年賀状の文字、『相楽深行』をそっと撫でた。
泉水子の字はやわらかくてきれいだ。どことなく彼女自身を思わせる。
ひとことのメッセージと自分の名を、深行は何度も読み返した。
* * * * *
(ちょっとセンチメンタリー(?)
泉水子ちゃんにはあゆや春っちから届くのに、深行くんが0だったら泉水子ちゃんは気にするかなと(笑)
泉水子ちゃんと一緒にいるうち、自分の名前も悪くないと思うようになったらいいなと思うのです)
<高1 節分妄想>
冬と春の節目。2月に入ると、残寒の中にもかすかに春の気配を感じるようになった。
陽の光が燦々と射し込めば、日中はもう暖房なしでもあたたかい。
2月3日、鳳城学園生徒会室では、節分行事が行われようとしていた。
事の発端はクラウスだった。
「クラスで聞いたんですけど、セツブンってなんですか?」
「あ、そうか。留学生は知らないんだな」
首をかしげるクラウスに、さっそく星野が節分のなんたるかを伝授し始めた。
「いいか、節分というのは、2月3日に襲ってくる『なまはげ』という恐ろしい鬼を、豆を使って退治するというものなんだ」
「オウ・・・」
クラウスとアンジェリカが驚きの声を上げる。
「なまはげは包丁を持ってて凶悪だからな。毎年全国で数人の死者が出るくらいだ」
「そ、そんな凶悪相手にマメでどうやって・・・?」
「この時だけ用意される豆鉄砲を使うんだ」
「マメデッポウ?」
「ほら『鳩が豆鉄砲を食らう』って言葉があるだろ?」
「あ、確かに聞いたことあります・・・!」
そこでさすがに仄香が割って入った。
「いいかげんにしなさいよ。嘘ばっかり。本当の節分は鬼・・・不幸とか病気とか、そういう災厄だね。それを祓って、福を招き入れる行事なんだよ」
律儀に説明する仄香に、おおっ、と声が上がる。
節分行事。泉水子は玉倉山で毎年佐和の作った特製恵方巻きを食べていた。今年は叶わないのだなと少々がっかりしていると、大河内が名案とばかりに膝を打った。
「よし、じゃあ2月3日は執行部で豆まきやろうぜ。クラウスたちに日本の伝統を教えてやろう」
「ええ・・・」
深行はあからさまに面倒そうな声を上げたが、泉水子はにわかにわくわくした。行事に参加できるのはなんだって嬉しい。
そこで、今まで静観していた真響が軽く手を上げた。
「鬼はどうするんですか」
「ああ、それは男の中からじゃんけんででも決めるよ」
星野の言葉に真響は苦笑して首をすくめる。きっとこういったことが好きであろう弟に声をかけるつもりなのだろう。泉水子はひそかに節分が楽しみになった。
当日。
「まじかよ・・・」
じゃんけんで負けたのは深行だった。
「ふふ、しっかり退治してやるから、覚悟するんだな」
「だいたい、なぜお前がいるんだよ」
深行がげんなりと高柳を見やる。妙に張りきっている彼は、もはや定番の白袴スタイルで豆をかかえている。
「失敬な。ぼくは次期生徒会長なんだぞ」
「形だけのな」
「・・・くっ」
始まってみると、やられっぱなしの深行ではなかった。
鬼の面をつけた深行は、遠慮なく豆をぶつけ返している。特に高柳には3倍返ししているように見える。
「鬼がやりかえすなど聞いたことないぞ! お、おい、宗田弟! なぜ僕にぶつける!」
はしゃぎまくっている真夏とお腹をかかえて笑う真響。片付けが大変だとぶつぶつ言う玲奈。仄香は意外にも楽しそうに参戦している。
泉水子も控えめに高柳に投げた。こうしてみんなでわいわいすることが、とても楽しかった。
ひとしきりドタバタし、ふと泉水子は肝心のクラウスたちがいないことに気がついた。元々は彼らのための節分だったのに。
「真響さん、クラウスたちは・・・」
喧騒の中、真響に耳打ちしていると、いきなり生徒会室のドアがバンッと大きな音を立てて開いた。
そこには、かなりリアルな鬼の姿が・・・。
般若のようなマスクをかぶって長い角を頭からはやし、ぼろぼろの毛皮を着た者と、その後ろには小さい角がついたヘアバンドに虎柄ビキニのアンジェリカ。
「じゃーん。ピエールに頼んで作ったっちゃ。これなら豆鉄砲にも勝てる鬼だっちゃ」
「ク・・・クラウスか・・・?」
星野がごくりと息を飲む。鬼からはしゅこーしゅこーと不気味な息遣いが聞こえる。
真響も、深行でさえも真剣な表情で鬼を見つめている。
アンジェリカの可愛らしさを全消しするほど、クラウスの鬼は不気味で怖かった。
鬼はゆっくり、ゆっくりと辺りを見回し、みんなが豆を投げつけていたであろう人物を見つける。
「え・・・ぼ、ぼく?」
「・・・・・・」
鬼に扮したクラウスは無言だった。不気味なオーラをまといながら、一歩、また一歩と高柳に近づいていく。あまりの恐ろしさに、泉水子たちは見守ることしかできなかった。アンジェリカだけが楽しそうに声を上げている。
「一条、マメよ!」
「う、うわああああ! 悪鬼退散! 急々如律令!」
高柳がでたらめに豆を投げつける。思わず唱えた高柳であったが、幸か不幸か泉水子の結界がしっかりと効いているので、豆はただの豆だった。
「く、来るな・・・ぎゃー!」
次の日。
よほど楽しかったのかクラウスはにこにこ上機嫌だった。あの不気味な鬼だったとは思えない、いつもの見ているだけでこちらも頬が緩んでしまうようなあたたかい笑顔だ。
「おかげでとても楽しかったです。ミナサン、ありがとうございました」
「た、高柳は大丈夫か?」
留学生に適当なことを教えた責任を感じているのか、眼鏡コンビがおずおずと尋ねる。
「それが、一条もよほど楽しかったのか、夢まで見ているようです。オニ・・・オニ・・・と寝言を言ってました」
ほくほくとにっこり微笑むクラウスに、執行部員たちはさすがに高柳に同情したのであった。
* * * * *
(思いのほか、執行部のわちゃわちゃ妄想楽しかったです(笑)
そして深行くん不憫展開も好きですが、高柳のガチ不憫も考えるの大好きです)
<高校卒業後。謎期・謎設定・謎別離>
あなたが幸せになりますように。
泉水子のそばにいると決めた深行の心に迷いはなく、彼はたくさんのことを犠牲にしてきた。
だからこそ、これ以上泉水子の、姫神の運命に巻き込んではいけないのだ。
そう思ったのは本心で。自分から別れを告げて去ったというのに。
ひとりは、こんなにも寂しい。
触れる温もりはあたたかく、導いてくれる手は力強くて、守る背中は広かった。
夢に見るたび、笑顔を思い出すたび、茨のような棘が泉水子の心を締めつける。
(深行くん・・・)
会いたい。
ただそう思うだけなら許されるだろうか。
ケータイはすでに解約し、大事に大事にしまってある。泉水子は赤いノートパソコンを開いた。
宛先は空欄のまま、『会いたい』とだけ入力する。そのまま届くはずのないメールの送信ボタンをカチリと押した。
「・・・えっ あ、あれ?」
宛先がないどこにも届くはずのないメール。すぐにエラーになると思っていたのだが、画面に表示されたのは『送信完了』の文字だった。
「どうして・・・」
しばらく呆然としているうち、ディスプレイにメールの着信アイコンが現れた。変えた泉水子のアドレスを知るものは、家族など限られた人しかいない。
急いでクリックすると、まさに先ほどまで泉水子が思い浮かべていた人からだった。思わず目を見開き、口が半開きになる。
本物?
夢を見ているみたいで、泉水子はぱちぱちと瞬いた。
内容は、いきなりいなくなったことへの小言と、必ず迎えに行くという用件のみのあっさりしたものだった。
あまりにも彼らしくて、「ああ、これは現実だ」と気づくと、思わず笑いが込み上げた。
涙があふれて止まらなかった。
* * * * *
(泉水子ちゃんが深行くんのために身を引いていなくなる(「来ちゃだめ」のセンサー外し付)という話を考えたことがあるのですが、悲しい話はやっぱり書けなかったのでボツでした(笑) これはそのときのネタの一部なのですが、しかも離れて1ヶ月くらいという(私の妄想の限界・笑)
ネットの周波領域で変成を起こせるのなら(無自覚でも)、深行くんへの強い想いで宛先がなくてもメールが届いちゃうかなと思いました。まあ、泉水子ちゃんのそばにいることが深行くんの幸せなんですけどね!!!!!(きっとすごい探し回っただろうな)
<高1・3学期設定>
真響さん視点
それを見たのは、ほんの偶然だった。
お昼休み、いつものカフェテリアで私たちは昼食をとっていた。
最初は4人で話していても、食事が終わったころにはA組の生徒が近づいてきて、相楽はクラスメートと話し始める。
それをきっかけに真夏は馬場へ馬の様子を見に行くし、私もみんなの話に入ったりする。泉水子ちゃんはせっせと残りのごはんをつつきながら、話に合わせて微笑んだりしている。それがいつものこと。
予鈴が鳴ってみんながばらける中、相楽は実にさりげなく、ノートをそっとテーブルの上に置いた。
そして、これまたさりげなく、泉水子ちゃんはそのノートを手に取った。
お昼休みが終わった後に、そのまま移動教室へ向かう生徒は少なくない。実際、私と泉水子ちゃんも、この後の視聴覚室での授業のために教科書とノートはすでに持ってきている。だから、ノートを持っていたことはなんら不思議ではなかった。
問題は、相楽が置いたノートを、泉水子ちゃんがごく自然に取ったことだ。
まさか・・・! 交換日記!?
ふたりとも三年たった夫婦みたいに落ち着いた顔をしているくせに、実はラブラブってこと・・・?
しかも、交換日記!?
このデジタル社会で・・・と思いつつも、奥ゆかしい泉水子ちゃんならあり得るような気もしてきた。(相楽は全然まったく想像できない!)
当たり前だけど、泉水子ちゃんは視聴覚室での世界史の授業中もそのノートを見ることなく、何もなかったような顔で午後の授業を終えた。
じっと観察してみたけれど、相楽の教室での様子も腹立たしいほど変わりない。今日は執行部の活動もなかったので、双方の態度を同時に見られる機会はあのお昼休み以降なかった。
そこで私ははたと考えた。
試験前でなければそうそうふたりは一緒に勉強することがないし、生徒会室に集まらなければ食事時以外に会うこともない。きっとあのノートは、執行部がない日にああやってカフェテリアで渡していたんだ。
執行部でもカフェテリアでも、この私が今まで気がつかなかったなんて。なんて不覚! 相楽のやつ、ぬけぬけと!
寮の自室で私はクッションを抱えながら鼻息を荒くしかけて――、息をひそめた。
机に向かっている泉水子ちゃんが、例のノートを開いたのだ。
すると泉水子ちゃんは、目に見えてがっかりしたような顔をした。
「・・・どうしたの? 泉水子ちゃん」
こっそり見ていた後ろめたさも忘れてつい声をかけると、泉水子ちゃんはこちらを振り向いてへにゃりと眉を下げた。
「今度こそ、完璧に解けたと思ったのに」
「へ?」
気の抜けた声が出てしまった。泉水子ちゃんが特に隠す様子もないのでノートを覗かせてもらうと、そこには赤ペンで添削されたような数学の問題が。なにこれ。
「なに、この通信教育みたいなノートは」
私が首をかしげると、泉水子ちゃんはほんのりと頬を染めた。え、ここで?
「あのね、試験前はこれまでどおり勉強をみてくれることになったのだけど・・・。とりあえずそれ以外ではあまり頻繁に一緒にいない方がいいのかなって」
「それで、これ?」
「うん。なんとか成績は上がったけれど、まだまだ数学が不安だから」
泉水子ちゃんが両手をもじもじしながら恥ずかしそうにうつむく。私はあらためてノートを見つめた。
お世辞にもきれいとは言えない文字で、間違えた問題に赤ペン先生のように正しい式や解説が書かれている。
苦手な数式を間違えずに全問正解できれば、カフェテリアのデザートをおごってもらえるのだと泉水子ちゃんは言った。
その顔はすごく嬉しそうで――。
たぶんデザートが欲しいんじゃない。
相楽の気持ちが嬉しいんだ。
よく見ると問題の端っこに、時々ついでのようにメモ書きがあり、相楽からは天気による体調の注意喚起だったり、泉水子ちゃんからは「分かった」の一言だったり。意外と素っ気なくて、私は思わずぷっと吹き出した。
泉水子ちゃんがこのままでよしとしていても、私は泉水子ちゃんと相楽がきちんと彼氏彼女として公表できるようになったらいいなと思う。
相楽に泉水子ちゃんを渡すのは、まあむかつくけど、いろいろ協力してもらったし・・・泉水子ちゃんを大事に思っているのは分かるし。
しゃくだから、そんなこと相楽には絶対に言わないけれど。
差し当たっては、この交換日記のネタでしっかりいじってやろう。私はこっそりとほくそ笑んだのだった。
* * * * *
(なんか、内緒の恋ってメモのやり取りとか?って思ったら、みゆみこにやってほしくなったのでした(笑)
このメール社会で発想が古臭くてスミマセン(笑)数学の問題とかだったら自然かなあと(全然自然じゃない)
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みゆみこ短編詰め合わせです。6巻後、時系列バラバラ。妄想捏造激しいのでご注意ください。 ※スピンオフ準拠 最後に更新してから4年以上経ってました… また少しずつ載せていきたいと思います。 |
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