紫閃の軌跡 |
他の転生者との話を終え、アスベルは一人貴賓区画を回ることとした。自分の世界にいる彼らとは置かれている状況そのものが変わってしまうが、それでも彼らがここまでに至る道を見ることで、その源泉を見つめる。これは、八葉一刀流の修行を終える際にユン・カーファイから言い渡された『宿題』でもあった。
まるでやっていることは主人公(リィン)のような感じだが、これも修行の一環だと腹を括って回ることにした。どこから訪れようか色々悩んだが、やはりここは自分の第二の故郷とも言うべきリベール組を訪問することとした。
部屋を訪れると、エステルたちがクローディア王太女やカシウス中将と話していた。当然、彼らの視線は訪問したアスベルに向けられた。
「ふむ、お邪魔だったかな? それだったら改めさせてもらうけど」
「いえ、お気遣いなく。にしても、異なる世界から来たとは言え、エステルさんのお兄さんとはとても思えませんね」
「全くだな。ここまで成っている人間を見ると、エステルの将来が不安に思えてしまう」
「大きなお世話よ!」
よもや、エステルとしても異なる世界とはいえ実の兄たる存在が出てきて、それと比較されるということは想定外なのだろう。だが、あっさりと受け入れてしまっているクローディアとカシウスに対して、エステルがジト目をしつつ反論した。
何はともあれ、この世界のリベール組と情報交換がてら話をさせてもらうこととなり、その後でカシウスと直接話すこととなった。
「あの場で込み入った話は出来なかったが……アスベルといったか。もし、君が居たらヨシュアを引き取るなんてことは考えなかったと思うが」
「あー、その時は自分の素性を全く知らなかったもので。医療機関での検査の結果で漸く知り得た次第ですから」
転生した当時は、自分がカシウス・ブライトの嫡男だったなんて知る由も無かった。周りに星杯騎士団の総長の義妹や傭兵団『赤い星座』の長の娘がいる以上、流石にこれを超えるなんてことはないだろうと思っていた過去の自分を思いっ切り殴りたかったのは言うまでもない。
それに、その事実と向き合うきっかけになったのは<百日事変>のため、それまで本当の自分と向き合えていなかったのも事実なのだろう。もしかしたら、ユン・カーファイはそこまで見越した上で目録は渡したが、剣聖に至るまでの見極めを先送りしたのもアスベルの事情を見抜いていたからかもしれない。
「それにしても、その若さで<理>のみならず、師父がかつて口にしていた<無我の領域>にまで踏み込んでいるのは流石と言うべきか」
「……そこまで見抜かれるとは、流石<剣聖>ですね」
「元、の前置きは付くがな。尤も、君は己が内に抱えるもう一つの領域と戦っているようだが、それに関して俺が言えることは……決して目を逸らすな、ぐらいだな。剣を置いた自分が言えることではないが」
カシウスの言葉……それもまた、アスベルを構成する大事なものの根源―――前世の両親から受け継いだ“御神流”の神髄。それが未だアスベルの中で馴染めていないのも事実だった。
「いえ、勝手は違えど八葉の兄弟子にそう言っていただけるだけでも嬉しい限りです」
「そうか……ただ、そちらの師父も相当厳しいというか、自由奔放すぎるとは思うが」
「この世界のユン・カーファイも大分そんな感じなんですね……」
そうして、話は武術方面―――主にアスベルが<雷神>マテウス・ヴァンダールを倒したという話になった。
「ミルディーヌ公女殿下が仰っていた話だと、かの<雷神>を打ち負かしたそうだが」
「あれは半ば強引に吹っ掛けられた勝負みたいなものですから……その際は大剣を用いて対処しました」
「ふむ、大剣か。それだと、大方アルゼイド流かヴァンダール流とお見受けするが」
「修めているのは両方ですかね。何故か、勝負の後に残されたメモでヴァンダール流剛剣術の皆伝だと認めるような文言がありましたが。クルトも苦笑していたほどです」
八葉一刀流のことですら整理が出来ていないのに、ヴァンダール流剛剣術のことで一つ功績が積み上がったら、ますます整理が大変になってしまう。アスベルの言葉にカシウスは笑みを漏らした。
「俺自身、八葉の技術を棒に落とし込むのは苦労したというのに、そんな芸当を見せられたら自信を無くしてしまいそうだな」
「いやいや、寧ろ勝負を挑まれる回数が増えましたよ。師父に手紙を出しても『精進せよ』としか返ってこなかったぐらいですから。まあ、アルゼイド閣下からも勝負を挑まれる回数は増えましたが……」
武術を極めるのは、あくまでも自分や大切な人を守り切る為。そこに剣術家としての評判が加わってしまうのは仕方のないことだろうが、ユン・カーファイから見極めのタイミングを置かれている為、自らの剣術を見た人間がカシウスと対比する形で<紫炎の剣聖>と呼ばれるようになったに過ぎない。
大剣術は八葉を更に研鑽する意味で学んでいたにすぎないが、元々いた世界ではリューノレンスもヴィクターもそれを承知の上で自分に印可を渡していた。曰く『あの弟子を叩きのめしてほしい』と言われた際は答えに窮してしまったが。
「あとは、自分の弟子であるエリゼとの鍛錬ぐらいですかね。彼女はリィンの妹に当たります」
「え、そっちの世界のエリゼさんって父さんと同じ八葉を学んでるの!?」
そこで反応したのはエステルだった。この世界では学んでいないが、アスベル達のいる世界線では学んでいる。しかも、アスベルが直々に鍛え上げているというオマケつき。
「この世界の八葉とは勝手が違うが、彼女も剣聖の領域にまで踏み込んでいる。言っとくが、あくまでも彼女から志願したから、俺が責任を持って鍛え上げただけだ」
「え……アスベルってもしかして父さん以上?」
「元々居た世界ではユン・カーファイから筆頭継承者の目録を貰っている。ただ、奧伝や皆伝の目録は一切貰っていない」
「……師父ならやりかねんと思ってしまうのは何故だろうな」
一応弁明に近くなるが、申し出たのはエリゼのほうであり、エリゼに稽古をつける時点でシュバルツァー家に許しを貰っている。その際、リィンに対しての説明はエリゼに任せたが……疲れ切った様子のリィンを見て、何があったのかは敢えて聞かなかった。
「しかし、エステルとそこまで差が離れていないように見えるが」
「元の世界では20歳ですから」
「……エステル、世の中はまだまだ広いようだな」
「ええ、あたしもそれを痛感したわ」
「……」
英雄と呼ばれる二人を以てしても更に上がいるという現実に、カシウスとエステルは揃って溜息を吐いた。なお、それを目撃した側のアスベルがジト目をしたのは言うまでもないことだが。
◆ ◆ ◆
アスベルは貴賓区画のホールに戻って来た。リベール組との会合はグレイス・リンの突撃取材で幕を閉じることとなったためだ。アスベルに対する取材もしようとしたが、流石に今後いない可能性が高い人物で盛り上がっても大変なことになるため、カシウスとクローディア王太女の機転で事なきを得た。
すると、アスベルの許にルドガーとマリクが姿を見せた。
「アスベル」
「ルドガーにマリク。そちらはもういいのか?」
「まあ、聞きたいことは聞けたからな。……二人とも、気付いているか?」
「ええ」
「こんなことを考えるのは大方奴が関与していそうだが……この後、食事会が開かれるそうだ。それでアスベルを呼びに来たんだ」
「なら、タイミングが良かった。これから忙しくなることを思えば、腹ごしらえには丁度いい」
会談が無事に済むという保証はない。国家として不干渉というルールはリベールやカルバード、レミフェリアだけでなく、エレボニアにも当然適応される。なら、それに託けて結社が来ることも想定できる。
「連中が現時点でパンタグリュエルを沈める選択肢は|ほ《・》|ぼ《・》|な《・》|い《・》。ここでそれを敢行すれば、アルテリア法国の呼びかけに応じる形で大陸東部諸国もエレボニアの敵となる。ギリアス・オズボーンも現時点で早急の開戦など望まないだろう」
「仮に奴らが神機で力押ししてきた場合は?」
「―――策は講じてある。最悪、ここに攻めて来る連中の何人かは見せしめに殺すことも厭わない」
予測に反して首脳陣を殺そうと目論んだ場合、敵を殲滅させることも考慮に入れる。この世界の人間に良くない感情を抱かれるかもしれないが、黙って命を落とす事など誰も望みはしない。
「ただ、目に見える形での見せしめは必要だろうと考える。誰に対して刃を向けたのかを思い知らせるためにも」
「……そうだな。いずれにせよ、敵方の出方次第だな」
カイエン公爵家主宰の昼食会が行われた。遅めの昼食だが、参加者同士の交流も相まって穏やかな空気が流れた。本来ならば邂逅するはずのない並行世界の人間たちも加わり、食事に華を添える形となった。
そして……昼食後に『千の陽炎(ミル・ミラージュ)』作戦の概要が発表された。参加者の殆ど―――リベールの遊撃士勢、クロスベルの特務支援課勢、そしてトールズ士官学院組は絶句に近かった。
だが、転移者組はそこまで動揺を見せていなかった。
「―――ほぼ予想通りか」
「アスベルは、驚かないんだね?」
「帝国に伍するとなれば、周辺国家が総力を挙げないと太刀打ちできるレベルでなくなる。勿論、国家としては一番取りたくない最悪の手段だが……」
エステルたちやロイドたち、そしてリィン達からすれば、絶句しても無理はない。前者の二つは戦争に直接関与できる立場ではない。リィン達も士官学院の人間という意味で軍事に強く関わる立場だからこそ、内戦以上の戦争などは想定できなくても仕方がないことだ。
「『黄昏』が関わる以上、無視も出来ないか……」
「まあ、三者の答えはとうに出ているも同然だが」
「アスベルは、どうするの? 私たちの意思はアスベルに任せるけど」
「そうだな……」
そうして、諸国連合軍の内訳と要の総司令官がカシウス・ブライト中将に任命されたことも合わせて発表された。その上で尋ねられた各勢力の意向。
エステルたちは遊撃士の<支える籠手>として、民間人の避難誘導を最優先するため、事態打開の可能性を探る為に作戦には同意しない。
ロイドたちは特務支援課として、事態打開の為に動くために作戦参加は出来ない。
リィンたちはトールズ士官学院の人間として、『世の礎たれ』の信念を根底として、『呪い』に抗う道を探る。
各々が答えを出した中、転移者の代表としてアスベルが立ち上がる。
「各国の御意思は理解しました。ですが、我々はあくまでもこの世界においては“異質”とも言うべき存在。時が至れば、我々はこの世界から去ります。その事情がある以上、作戦への参加は出来ません」
あくまでもこの世界のことはこの世界に居る人間が決めること。なので、帰るまでの保証さえしてくれれば、それ以上のものを望む気など無い。
「遊撃士協会、特務支援課、トールズ士官学院がこの事態を解決するための道を探るのなら、その手助けぐらいはしてやろうと考えています。私も世界は違えどトールズ士官学院の人間。ドライケルス帝の『世の礎たれ』をこの身で体現する意味でも……甘いと評されても構いませんし、自分自身もそう思っています。ですが……どうせ聞いているのだから、モニターに姿を見せたらどうだ。結社<身喰らう蛇>執行者No.0、カンパネルラ」
『あらら、バレちゃってるか』
そうして姿を見せたのはカンパネルラ。それを皮切りに、新第三柱のマリアベル・クロイス、『赤い星座』シャーリィ・オルランド、『西風の旅団』ルトガー・クラウゼル、レクター・アランドール、ゲオルグ、シャロン、そしてセドリック・ライゼ・アルノール。
(……アスベルからしたら、負け犬が雁首揃えて来たとしか思えんだろう?)
(少しは思ったが、変に逆ギレさせたくないから黙っててくれ)
明らかに圧倒的な戦力とは思えず、しかも戦力となり得る<劫炎>や<鋼の聖女>を欠いている状態。魔改造に近いパワーアップを果たしている原作主人公勢を舐めているに等しい。いや、もしかしたらギリアス・オズボーンはそういうつもりでここに派遣した訳ではない可能性も出てくる。
そして、ブリッジからの館内放送で結社と『赤い星座』の猟兵が甲板に侵入したことが報告される。それを聞いたアスベルはエステル、ロイド、リィンに話しかける。
「そちらは格納庫を頼めるか? 甲板方面は俺らで片を付ける」
「えっ!?」
「……エステル、リィン」
「そうだな。アスベルたち、頼めるか?」
「ああ。じゃあ、片方は俺とシルフィ、レイアの3人で行く。残りはルドガー、クルル、マリク、リーゼに任せた」
「了解だ。さて、鈍っていた体の準備運動には丁度いい」
動揺しているゲスト陣に対し、理解力を発揮した原作主人公勢。そして、ゲスト陣の中で最も武に長けたカシウスがアスベルに対して話しかけた。
「アスベル……頼むぞ」
「……分かったよ、“父さん”」
そう告げると、7人はそれぞれ分かれて甲板を目指す。
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更新、お疲れさまです。続きを楽しみに待ってます。(☆疾風迅雷☆) | ||
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