江東の覇人 5話
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黄巾党の暴乱は続く。

 

その暴乱は、既に大陸中に広まっていた。

 

民達は恐れ、流通は途切れる始末。

 

そんな時、孫呉に使者がやってくる。

 

聞けば、漢王朝が各有力諸侯に対し、黄巾党討伐の命が下っているらしい。

 

即ち、漢王朝は黄巾党を抑えるだけの力がない・・・という解釈にもなる。

 

各地の諸侯、曹操や袁紹、公孫賛、義勇軍を結成している劉備。

 

官軍劣勢の中、諸侯達の活躍により黄巾党は徐々に抑えられていった。

 

蓮聖は察した。ついに来たと。この乱世に乗じて、孫家は、独立を果たすと。

 

独立の日は・・・近い。

 

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袁術からの召喚命令により、袁術を訪ねた雪蓮。

 

その内容は・・・思わず雪蓮の手が腰にある南海覇王に手を伸ばそうとするものだった。

 

袁術曰く・・・

 

「朝廷からの命だから、妾も出るのじゃ!妾は西の部隊を叩くので、孫策達は黄巾党本隊を殲滅せい」

 

である。

 

流石の雪蓮も南海覇王に手を伸ばしたが、呆気のあまりにやる気が失せた。

 

「あのねぇ・・・それはいくらなんでも無理よ?私達の軍は1万。あっちは少なくとも20万・・・どんな策であろうと、無理なものは無理」

 

「ほぉ?英雄と民達から祭り上げられる者の言葉とは思えんのぉ?民の気持ちを裏切るつもりかの?」

 

一番裏切っている奴が何を言うか・・・と、心の中で思いながら、蓮聖から提案された策を実行する。

 

「そうねぇ・・・今、地方にいる呉の旧臣達を呼んでもいいなら・・・いけるかな?」

 

袁術の目的は被害を出さず名声をあげる事。

 

その為、些細な事には気づかない。

 

「なら許可するのじゃ!さっさと呼び寄せて出陣せぃ!」

 

「りょ〜かい」

 

思惑通り・・・と、ほくそ笑みながら、雪蓮はその場を後にする。

 

これで、役者はそろった。

 

 

「よ〜し、よくやった。冥琳、小蓮を除く将兵、及びその部隊を呼び寄せろ。黄巾党本隊に向かう途中で合流、そのまま黄巾党を殲滅する。いいな」

 

「はっ」

 

王間で呉の将達が集まって、雪蓮からの報告を聞き、蓮聖が指示を出した。

 

「シャオは呼ばないの?」

 

「俺達が全員死んでも、シャオが残ってたら孫呉はやり直せるだろうが。ま、直に呼び寄せる。今は時期じゃねぇだけだ」

 

「なあ、旧臣って言ってたけど、誰が来るんだ?」

 

軍議に参加するようになった一刀が声をあげる。

 

「んーと・・・・・・孫権に、甘寧、周泰・・・・・・とかね」

 

一刀にとって、何れも聞いた事のある武将ばかり。

 

ついに・・・始まるのだ。

 

孫呉の独立が。

 

そう感じ、一刀の体が無意識に震えた。

 

「うぉ・・・」

 

「ほぉ・・・いい武者震いじゃねぇか・・・・・・つう事は・・・わかるな?」

 

「ああ・・・近いんだろ?」

 

「そう・・・そろそろだ。既に、漢王朝に力はない。そして、黄巾党の暴乱。これが終われば群雄割拠する真の乱世が始まる・・・そして、俺達孫呉は袁術から独立を果たし、天下に名乗りをあげる事になる!!」

 

「堅殿の代から続く・・・孫呉の宿願・・・・・・」

 

「そう・・・今こそ果たす時・・・・・・」

 

呉の将達の瞳に映る炎。

 

その炎は闘気となり、王間を包む。

 

「行くぜ・・・お前ら・・・・・・出陣だ!!」

 

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数日後、黄巾党本隊へと向かう雪蓮達に合流する為、孫権の部隊が行軍していた。

 

「・・・ついに来たのね・・・・・・思春、準備はいい?」

 

「はっ・・・それにしても、袁術公認で合流出来るとは・・・」

 

「ほんと・・・バカで助かったわ・・・・・・でも、そのお陰で姉様にも会える・・・」

 

「はい・・・蓮華様・・・そういえば、あの噂・・・聞いておりますか?」

 

「噂・・・?あの、天の御遣いっていう男?・・・大丈夫よ、孫呉に仇なす者なら、すぐに斬り伏せるわ」

 

「ええ・・・それに・・・・・・その男の他にも、1人、男が行動を共にしてるようです」

 

「他に・・・?・・・・・・まさか・・・ね」

 

孫権の頭に過ったのは・・・かつて英雄と呼ばれた兄の顔。

 

でも・・・ありえない。

 

「噂では・・・雪蓮様や蓮華様と同じように、褐色と・・・桃髪・・・・・・と」

 

「え・・・?嘘よ・・・・・・そんな・・・でも・・・」

 

それではまるで兄ではないか。

 

確かに、全ての人達がその生を否定し、死だと思ったのには理由がある。

 

当然、少女達が死を否定したのも理由がある。

 

周囲の人々は知っていた。

 

蓮聖がどれだけ孫呉を愛し、何より妹達を愛していたか・・・妹達を置いていくとは誰にも思えないのだ。

 

だから、死んだと思った。

 

しかし、少女達は違う。

 

蓮聖の死んだ姿・・・もしくは、その死体を見た者は誰もいないのだ。それ所か、似たような人物を見たという目撃証言まである。

 

 

そして何より、蓮聖は・・・妹達との約束を破った事はない。

 

 

『早く帰ってきてね!今日は私と遊ぶんだから!』

 

 

『そうだな・・・約束は・・・・・・守らないとなぁ』

 

 

蓮聖が、兄が約束を破るはずないと・・・1日中起きていたあの日。何時の間にか寝ていて、起きても兄はいなかった。憤慨するよりも先に、幼い孫権は泣いた。

 

 

何でいないの?

 

 

兄様はどこ?

 

 

小蓮は1日中泣き止む事なく、雪蓮でさえ放心したようにいた。

 

それから数日、数週間、数ヶ月、数年・・・兄はいつになっても帰ってこない。

 

待っていた・・・待ち続けていた。

 

兄が帰らぬまま、母である孫堅も逝ってしまい、孫呉は弱体化、姉である雪蓮とも離されて、全てが絶望だった。

 

だから・・・雪蓮と会えると聞き、孫呉が独立すると聞き・・・嬉しかった。

 

もう、兄の事を忘れようとした矢先・・・これだ。

 

また、幻想なのだろうか。

 

また、期待だけさせて・・・偽物なのだろうか。

 

また・・・・・・

 

 

「れ〜んふぁ〜!!」

 

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「え・・・きゃっ!!」

 

「蓮華様!?」

 

突然、何かが孫権に対し突進し、馬上から落とす。

 

「ちょ・・・何・・・が・・・・・・っ!?」

 

幸い、男が下敷きになったので孫権に被害はなかった。

 

「れんふぁ〜!久しぶりだなぁ・・・ああ、もうこんなに可愛くなっちゃって〜」

 

突進してきた男が孫権の頭を撫で、頬ずりする。

 

「貴様っ!蓮華様から離れろ!!」

 

いきなり現れた男に、失態を感じながらも、思春と呼ばれた少女が剣を向けた。

 

「何だ〜?おお、思春か・・・お前、俺の事忘れちゃったのかぁ?おむつ変えてやった事もあるのに」

 

「なっ・・・」

 

ぼっ!と少女の顔が見事に赤く染まった。

 

だが・・・その発言で少女の中で1つの仮定が生まれる。

 

それは・・・・・・

 

 

「兄様・・・?」

 

 

「おう、何だ愛しき妹よ?」

 

その微笑みは変わらず優しい。

 

「ほんとに・・・兄様なの・・・・・・?」

 

「それ以外に誰がいる?というか、男でお前の真名知ってるの俺か親父ぐらいだろう?」

 

それもそうだ。

 

いや、待て。本当に・・・?

 

だって・・・だって・・・・・・でも、笑みはあの時と変わらず優しいもので、この腕の温もりも変わらない。

 

あれだけ信じていたのに、願っていたのに・・・いざ現実となれば、否定の考えしかでない。

 

どうしてだろう・・・?納得したいから?それが現実だという確信が欲しいから。

 

それとも・・・

 

「兄様!!」

 

その後に来る喜びを・・・何倍にもしたいから?

 

「兄様・・・兄様・・・!」

 

その逞しい胸に頬ずりをし、いつのまにか涙を流していた。

 

周りの兵士達の視線もお構いなく、愛しき兄にすがる。

 

「心配させたなぁ・・・ごめんな?約束・・・まだ大丈夫か?」

 

やっぱり・・・覚えててくれた。

 

「だめ・・・もう、遅すぎるもの」

 

「ははっ・・・ごめんなぁ。約束、初めて破っちゃったなぁ」

 

それでも、蓮聖は笑みを崩さない。

 

温もりを与え続ける。

 

孫権が満足するまであやし、立ち上がった。

 

兵達を見渡し、蓮聖は満足そうに頷く。

 

古くから呉に仕えし猛者達。

 

どれもこれも、戦場を共にした顔だ。

 

「久しぶりだな・・・お前ら・・・・・・俺ぁ戻ってきた・・・孫呉の宿願を果たす為に・・・・・・」

 

兵士達の間である感情が芽生える。

 

「俺が本物かどうか、この戦で確かめるといい・・・」

 

悩むまでもなく、それが理解できる。

 

「約束しよう・・・この戦で、お前らの中で燻っている孫呉の血を目覚めさせてやろう!!誇り高き虎の血を目覚めさせてやろう!!」

 

それは・・・歓喜。

 

武人として・・・孫呉の戦士として・・・・・・そして、1人の人間として、歓喜している。

 

「そして・・・見せてやる・・・・・・俺の覇道を!!」

 

 

覇人の再誕を!!

 

 

かつて、戦で常に先陣に立ち、敵の前線を撃破していく修羅がいた。

 

その背中は大きく、偉大であった。

 

英雄・・・そして、覇人と呼ばれる存在。

 

 

その覇人が今・・・目の前にいる!!

 

 

兵達が雄叫びをあげる。

 

それは、辺り一帯の大地を震わす程の雄叫び。

 

孫権でさえ、自分の兵の士気がここまで昂ぶるとこなど見た事がない。

 

いや、一度だけ・・・・・・母である、孫文台の戦を見た時・・・その時の昂ぶりによく似ている。

 

「これが・・・兄様の・・・・・・」

 

ひいては・・・英雄と呼ばれる人間の・・・・・・

 

真の英雄にこそ出せる・・・真に国を愛し、真に民を思う英雄だからこそ出せる信頼。

 

いつか・・・私も、こうなりたい。

 

そう思う、孫権であった。

 

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「よし、俺たちは陣を張っている雪蓮達の所へ向かう。思春、先頭を頼む」

 

蓮聖は、孫権の部隊への伝令としてやって来ていた。

 

早く会いたいからと、自分から志願したらしい。

 

「はっ」

 

「あの思春が・・・・・・」

 

思わず孫権が口にする。

 

思春こと、甘寧興覇・・・男に対し、マシな態度を取った所を孫権は見た事がない。

 

それがどうだろうか。

 

蓮聖に対してはまるで忠犬のような従いっぷりだ。

 

「うっ・・・蓮華様・・・それはどういう意味でしょう?」

 

「だってあなた・・・男が嫌いなんじゃないの?」

 

「わ、私は男が嫌いなんじゃなく『軟弱』で『気弱』な男が嫌いなだけです!後・・・女ったらしとか・・・・・・」

 

「ん?俺、妹に関しては女ったらしだぞ?」

 

自分で認めるのもどうだろうか。

 

「そ、孫覇様は『強く』『気高く』それでいて『優しい』ではありませんか・・・だから、その」

 

「ああ・・・そう言えば、思春て兄様が初こ・・・むぐ」

 

「れ、蓮華様!喉がかわいておられるんですね!そうですかそうですか!!ではこちらに!!」

 

何かを言おうとした孫権の口を素早い動きで押さえ、そのまま連れ去る甘寧。

 

しかし、新たな一面を見れた孫権はやけに嬉しそうだった。

 

「・・・・・・・・・・・・初恋だったのか」

 

無論、聞き逃す筈がない蓮聖。

 

顎に手を置きながら、ふむふむと頷いていた。

 

「孫覇様!前方に砂塵!!曹の牙門旗です!!」

 

「何ぃ?曹だと・・・?この辺りだと・・・曹操か・・・?何で曹操がこんな所に・・・」

 

そう言いつつ確認すれば、確かにこちらへ向かってくる曹の旗。

 

通るではなく、向かって来るのだ。

 

仕方がな行軍速度を落とし、衝突を避ける。

 

曹の軍もそのまま行軍速度を落とし、蓮聖達の目の前で停止した。

 

そして、その軍から3人が下馬し、突出する。

 

「おいおい・・・こんな所でおっぱじめるつもりじゃあねぇだろうな・・・」

 

こんな所で被害など出したくない。

 

そもそも、黄巾党という共通の敵がいるのに、戦闘など・・・事態に気付いた孫権が蓮聖の隣についた。

 

「初めまして・・・あなたが孫権?」

 

真ん中にいる・・・恐らく曹操であろう少女が問いかける。

 

しかし、その眼には蓮聖の姿しか映っていない。

 

脇の2人・・・特に片方の視線など敵意剥き出しだ。

 

目的は・・・蓮聖。

 

声を出そうとする孫権を制し、蓮聖が口を開く。

 

「お膳立てなんぞいらねぇ・・・俺に何の用だ?」

 

「あら?それは自信過剰ではないかしら?」

 

「だったら何で全員視線が俺に向かってる?つうか、そっちの奴、俺に恨みでもあんのか?」

 

呆れたように、黒髪の女性を指さす。

 

「知るか!!」

 

「えー・・・」

 

全く身に覚えのない怒りを向けられても困るんだが・・・と、頭をかく。

 

「んで、結局なんのようだ?曹孟徳・・・ここで俺達を潰そうって訳じゃあるまい」

 

「無論・・・今は、その時じゃないわ。時がくれば、潰すけどね・・・・・・今は、一目あなたに会いたかったのよ。孫呉の全盛期、その活躍により、覇人とまで謳われたあなたをね」

 

曹操が知ってるという事は・・・呉内にも密偵がいるという証拠だろう。

 

「そりゃどうも。んで、本当の目的は?つうか、嘘ついてんのバレバレ」

 

「噂通り・・・大した眼力ね・・・相手の瞳を見れば、どういう思考をしてるか曖昧なれどわかるとか。さらに、その者が光か闇かならばほぼわかる・・・・・・いいわ。率直に言いましょう。あなた、私の下に来る・・・」

 

 

瞬間、蓮聖の腰にある剣が曹操の首元に添えられた。

 

 

誰も反応出来なかった。

 

 

曹操も、その脇の2人も、孫権も甘寧も・・・

 

 

「くだらねぇ・・・実にくだらねぇな・・・曹孟徳・・・・・・そんな誘いに、俺が乗るとでも?」

 

「貴様っ・・・!!」

 

「待て姉者!!」

 

1人が激昂し、そのまま斬りかかろうとするのをもう1人が制した。

 

「おう・・・そっちのアンタ、いい判断だな。そっちのアンタはもちっと冷静になれ」

 

「そういう事は、その剣をどけてから・・・っ!?」

 

2人の目が驚愕に染まる。

 

剣が・・・ない。

 

さっきまで押し当てられていた剣がいつのまにか蓮聖の腰に戻っていた。

 

「殺気が虚実かどうかぐらいちゃんと察しろ。それでも武人かっつうの」

 

とんとん・・・と剣の柄を叩き、嘲笑うかのような視線を向ける。

 

しかし、当の曹操は妖艶に舌舐めずりをし、その視線を返す。

 

「・・・やはり・・・欲しいわ・・・・・・」

 

「はっ・・・まだ言うかてめえ・・・いいぜ・・・・・・黄巾党終戦後、群雄割拠する乱世がやってくる。孫呉が独立した以降、孫呉を打ち負かせば・・・てめえの軍に入ってやらあ」

 

「へぇ・・・いい度胸ね・・・・・・途中で自決なんてしないでちょうだいよ」

 

「ったりめぇだ小娘・・・俺を誰だと思ってやがる。覇人だぜ?」

 

曹操は深く微笑みながら、己の軍に帰って行った。

 

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「結局、何だったんだあいつ」

 

「兄様!!」

 

「うお!な、何だ?」

 

「今の発言は・・・」

 

「孫呉が負けたら下るって話か?蓮華は俺が負けるとでも思ってるのか?」

 

「そ、そういう問題じゃないでしょう!?曹操に独立の話・・・」

 

「いいんだよ・・・あいつは俺と同じように覇道を歩んでいる。卑怯な真似などせず、高らかに宣戦布告し、真正面からぶつかってくるさ。だったら、真正面から俺らも潰すまで・・・」

 

久々の強敵に会えたという感触に、蓮聖は口端を釣り上げた。

 

「孫覇様・・・」

 

「何だぁ?お前もか、思春・・・いくら俺でも傷つくぞ?」

 

微妙に凹んでいる蓮聖に少し頬を染めながら、甘寧がある方向を指さす。

 

孫の牙門旗が砂塵をあげながら近づいて来ていた。

 

「あ・・・やべ・・・・・・待ち合わせに遅れちった・・・」

 

そう、本当ならばもう合流している時間なのだ。痺れをきらしたのか、雪蓮達が迎えに来たのだろう。

 

数分後、雪蓮達と蓮聖達が合流した。

 

「もう、兄さん?いくら何でも遅すぎでしょ?」

 

「いや、遅すぎって言っても、蓮聖が出てって数分でもう向かってたよね」

 

雪蓮と共にいた一刀が少し付け足す。

 

「だってぇ・・・蓮華と兄さんがイチャイチャしてると思うとじっとしてられないんだもん」

 

「ね、姉様!?」

 

「お前はガキか・・・」

 

と言いつつ、とても嬉しそうな蓮聖。

 

「っ・・・・・・姉様、その男は?」

 

孫権の視線が、雪蓮から隣の一刀へと向かった。

 

「ああ、紹介がまだだったわね・・・ついこの前、うちに来た『天の御遣い』君よ♪」

 

「ええと、性が北郷で名は一刀。字と真名はない。よろしく」

 

と、微笑を浮かべながら手を差し出した。

 

「よろしくするかどうかは、これから見極める。覚悟しておけ・・・」

 

そう言い残し、孫権と甘寧は一刀から離れていった。

 

差し出した手が空しく空気を掴んでいる。

 

ま、わかっていた事だから・・・と、一刀はそれ程気にはしなかった。

 

「あ、そうそう、あの子はあなた達の夫になる予定だから、よろしく」

 

付け足すかのように、1番重大な事を雪蓮が言う。

 

「そうですか、夫に・・・・・・夫!?」

 

「どういう事です・・・?」

 

半ば、甘寧の眉間にしわが寄った。

 

「だからぁ、孫呉に天の血をいれる為に、一刀には呉の武将達を孕ませろっていう契約をしてるの。特に、次王であるあなたは絶対にね」

 

「そ、そんな・・・」

 

「あ、ついでに、これ兄さんの案だから」

 

「賛成したのは姉さん達でしょう!?」

 

蓮聖に非があろうとも、その矛先は雪蓮達に向かうのだ。

 

「あ、あのさ・・・嫌だったらいいんだよ、俺も、無理矢理ってのは嫌だし・・・でも、今この場で否定だけするのは止めてくれないかな・・・俺は、蓮聖達に恩がある。だから、恩返しがしたいんだ。だから、今回の戦を見ててくれ。そして、これからの俺の行動とかも・・・その上で駄目なら俺は諦める。だから・・・っ!?」

 

出来るだけ言葉を選んだつもりだが、何故か孫権と甘寧に剣を向けられていた。

 

一刀の中で色々な考えが過る。

 

今の対応、間違ってなかった筈!

 

少なくとも、悪印象を及ぼすようなものは・・・・・・

 

何だ、何が悪かった!?

 

「何故、兄様の真名を口にする・・・」

 

またそれかぁ―――!!!

 

もう、名前なんて知らなくてもいいと思ってしまった一刀であった。

 

「だぁー、もう・・・何でそんなに反応するかなぁ・・・俺が許したんだよ、決まってんだろうが」

 

1番最初にその真名で一刀に対し怒りを見せたのは何処の誰だろうか。

 

「何故、お前などが孫覇様の真名を・・・・・・私でさえ・・・許してもらってないのに・・・・・・!」

 

何か私情挟んでませんか!?と、威圧を向けている甘寧から一歩引く一刀。

 

でも、逃げてはいけない・・・と、踏みとどまった。

 

歴戦の戦士の威圧だとしても、ここで引いたら、覚悟が意味を無くしてしまう。

 

真っ直ぐに甘寧の目を見つめ、怒りが収まってくれる事を祈った。

 

「あ、そうだ・・・思春、明命はどうした?確かいる筈だろ?」

 

見かねた蓮聖が助け舟を出す。

 

孫権と甘寧は、その声でようやく剣を下げた。

 

「幼平なら、敵軍の偵察に・・・・・・あ、今帰ってきました」

 

見れば、遠くの方に騎馬が見える。

 

しばらくすると、まだ幼い女の子が走り寄ってきた。

 

「明命、大丈夫だった?」

 

孫権が一刀の時とは打って変わって、微笑みを浮かべながら出迎える。

 

「あ、はい!って、それどころじゃありません!!黄巾党本拠地で、大規模な衝突!現在義勇軍がぶつかってますが、圧倒されている状況です!!」

 

「何?いくら小規模の義勇軍と言えど、黄巾党に引けをとるとは思えないが・・・」

 

「それが・・・黄巾党の兵士達がおかしくて・・・・・・陣形も定まり、引き際も完璧・・・本当の正規軍のような動きをしてるんです!」

 

そこにいる誰もが驚愕の表情を浮かべる。

 

今までの黄巾兵と言えば、ただ烏合の突撃を続けるばかり。

 

諸侯達にとって敵ではなかった。

 

「つーことは・・・だ。相手にも、それ相応の指導者が出来たっつう事だ」

 

その中で、別段驚く事もない蓮聖。

 

「その程度なら予想の範囲内だ・・・だが、よく知らせたな明命」

 

「はい、孫覇様!」

 

「え・・・?明命って兄様の事知ってたの?」

 

「俺が旅してる時隠密中の明命に何度か会ってな。色々世話になってる。一刀が来る前も1度会って、近くに行くって言ったからな」

 

と、少女の頭を撫でる蓮聖。まるで猫のように少女は微笑んだ。

 

「この子は?」

 

未だ話についていけない一刀。

 

「あ、はい!天の御遣い様ですよね?性は周。名は泰。字は幼平、真名は明命です!よろしくお願いしますです!」

 

「あ、性は北郷、名は一刀、よろしく。いいのかな真名を預けてもらって?」

 

「はい!天の御遣い様なら、構いません!」

 

元気な女の子だ・・・と、思わず、一刀もその頭を撫でた。

 

「ほい。ほのぼの終わり。そろそろ行くぞ。黄巾党は待ってくれねぇ」

 

「そうね、全軍、黄巾党本陣まで、駆け足―――!!」

 

雪蓮の掛け声で、全軍が行軍を始める。

 

黄巾党との・・・戦が迫っていた。

 

 

説明
5話投稿です。

黄巾党の戦前。

ついにあの子が合流です。
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コメント
ああ・・・近いんだろ?(トイレが) とか考えてしまった・・・。(FALANDIA)
杉崎 鍵さん<ですよね〜・・・いやぁ、いい子です。うん(アクシス)
キラ・リョウさん<確かに。うん。正に種馬(アクシス)
ヒトヤさん<そ、そうですか・・・(アクシス)
ブックマンさん<ありがとうございます(アクシス)
霊皇さん<自分も、それは迷ったんですが・・・一刀は第2の主人公なので・・・・・・(アクシス)
ジョン五郎さん<そんなことは・・・・・・ない・・・ような(アクシス)
燐さん 狂風さん リョウ流さん<ですね〜・・・がんばります!(アクシス)
コメントありがとうございます(アクシス)
明命は素直でええわ~♪(杉崎 鍵)
一刀の存在がマジで種馬www(キラ・リョウ)
思春は好きじゃないから初恋が孫覇でも問題なし!(ヒトヤ)
一刀ガンバですよw(ブックマン)
一刀の必要性が全く感じられない(狂風)
もうこれ初めから一刀いらなかったんじゃね?ここまで蓮聖が中心なら(霊皇)
一刀が蓮聖の引き立て役(踏み台)で終わる気がする(ジョン五郎)
一刀さん・・・マジ空気w(燐)
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