恋姫英雄譚 鎮魂の修羅50 |
麗羽「・・・・・・・・・・」
幽州の一室にて、麗羽は用意された椅子に背中を丸くして座っていた
その部屋は薄暗く、今の麗羽の気持ちを体現するかのような空間であった
縄の拘束は解かれている
そのようなものが有ろうと無かろうと、何をするでもない雰囲気であったからだ
そんな中で、麗羽はこれまでのことを思い返していた
一体自分は、いつ、どこで、何を、どう間違えたのか
そんなもの分かり切っている、最初から何もかもを間違えていたのだ
張譲が冀州を訪ねてきた時から、周りはその怪しさを指摘していた
空丹と白湯を人質にされているという言葉に気を取られ、周りの言葉を完全にシャットアウトしてしまっていた
再び張譲と相まみえた時もそうだった、周りは事の重大さを自分に知らせてくれていたというのに、それにも自分は聞く耳を持たなかった
何ゆえそうなったかと言えば、答えは簡単
漢王朝が定めた地位、袁家の教育方針という名の基準に、馬鹿正直に従ったがためだ
黄巾の乱にて、まともな報酬を受け取れなかったこと
皆が帝から真名を預けられているのに、自分は預けられなかったこと
大将軍に自分の言を咎められた時に、いつかその地位を奪ってやろうと思い、そのチャンスが来たと、色めき立っていたこと
難しいことから目を背け、簡単でシンプルな方へと逃げた結果が、この様である
思い起こせば、それ以前から自分は間違っていたのだ
自分は華琳を好敵手と見ていて、華琳もまた自分を好敵手として見ていると思っていた
しかし、それは全くの思い違い、自分が一方的に華琳をライバル視していただけであった
彼女の王としての資質に、嫉妬していたためである
彼女はそんな自分を煩わしく思っているなど、当に気付いていたはず・・・・・いや、気付きたくなかっただけである
そんな彼女に対抗し、嫉妬という名の憧れ、劣等感という見栄のもと、このような大袈裟なドリルヘアを維持してきた
そんなもの、何の意味もないなど、当に気付いていた癖に
本当に、自分には王としての資質など皆無だったのだと思い知らされる
麗羽「もう何も聞きたくありません、何も見たくありません・・・・・」
自分に汝南袁氏の末裔などと名乗る資格など無かったのだ
なぜ、自分は袁安邵公の忠告を思い起こさなかったのだ
なぜ、かつての一刀の言葉を思い出さなかったのだろう
麗羽「このまま消えてしまいたい・・・・・」
袁紹本初、麗羽という人間など最初から居なかったものとしてもらえたら、どれだけいいか
そんな鬱も鬱、座っている椅子ごと床に沈んでいきそうな心境の中
真直「麗羽様」
麗羽「・・・・・真直さん・・・・・皆さん」
突然扉が開き、真直が自分の顔を覗き込むように入って来た
斗詩「・・・・・・・・・・」
猪々子「・・・・・・・・・・」
悠「・・・・・・・・・・」
その後ろに、袁紹軍の将軍達が勢揃いしていた
麗羽「まだ私を、そのように呼ぶのですか・・・・・この何もかもが空回りな、どうしようもない私を・・・・・」
真直「・・・・・・・・・・」
麗羽「私は、余りにものが見えていませんでした・・・・・」
斗詩「・・・・・・・・・・」
麗羽「このような頓珍漢な私を、笑ってくださいませ・・・・・」
猪々子「・・・・・・・・・・」
麗羽「悠さんの言う通りでした・・・・・私は、もっと自分を疑うべきでした・・・・・」
悠「・・・・・・・・・・」
麗羽「でも、何もかもが手遅れですわね・・・・・いいですわよ、好きにしてくださいませ・・・・・」
この四人に葬られるなら本望と言わんばかりに、麗羽は覚悟を決める
しかし
真直「そうですか・・・・・では麗羽様、着替えてください」
麗羽「・・・・・え?」
真直「聞こえなかったのですか?お着替えをしますので立って下さい」
麗羽「な、何に着替えると・・・・・」
真直「質問は許しません、好きにしていいと言った自分の言葉には責任を持って下さい・・・・・斗詩、猪々子、悠」
斗詩「・・・・・うん」
猪々子「ああ、分かった・・・・・」
悠「あいよ」
指示を受け、三人は麗羽の服を剥がしにかかる
麗羽「ちょっと皆さん、何をしますの!!?私に何をさせるつもりですの!!?」
真直「黙ってください、あなた様に拒否権などありません」
麗羽「せめて説明を聞かせてください!!」
真直「そのような資格が、ご自身にあると思っているんですか?」
麗羽「そ、それは・・・・・」
そんなものは無いと分かり切っているが、そうこうしているうちに、麗羽は下着姿にまで召し物を取られてしまった
そして、その下着も今まさに脱がされようとしていた
麗羽「お、お待ちなさい!!それ以上は流石に・・・・・////////」
真直「悠」
悠「おう」
なんとかして下着を取られることを防ごうとする麗羽の後ろに悠が回り込み、羽交い絞めにした
麗羽「ちょっと、悠さん!!?////////」
悠「悪いな麗羽、これも麗羽の為だ」
麗羽「わ、訳が分かりませんわ!!//////////」
そうこうしているうちに、残りの下着も脱がされ、麗羽は一糸纏わぬ、生まれたままの姿にされる
そして、羽交い絞めを解かれ、麗羽はその場に跪くも、大事な所を腕と手で隠す
麗羽「も、もしや、このまま私を辱めるつもりですの・・・・・////////」
真直「まさか、その程度の事でご自身が許されるとでも思っているのですか?」
麗羽「そ、それは・・・・・」
そのようなこと、ある訳がない
それ程までに、自分はとんでもなく甚だしくもむごたらしい、法外な事をしてしまっているのだ
本当であれば、今生きているだけでも考えられない、とっくに殺されていてもおかしくないのだ
自軍の兵士達が自分を殺しに大量に押しかけてきても不思議ではない
それが起きていないのは、事の真相が公にされていないからだ
そのような事をすれば、袁紹軍はあっという間に怒り心頭な暴徒と化し、麗羽を八つ裂きにしに来ているであろう
ただでさえ、袁紹軍、烏丸と連戦続きの中、再び袁紹軍の鎮圧などやってられない
そのような自らの足元をグラつかせる行為など、馬鹿馬鹿しいことこの上ない
真直「何もかもが空回り?どうしようもない?・・・・・であれば、あなた様はこれからです」
麗羽「何がこれからですの!!?私にはもう何もありません、先などありません!!」
真直「あります、ご自身が、何もかもが空回りでどうしようもない人間だと気付かれたのでしょう、であれば先はまだあります」
麗羽「もう何もしたくありません、私の事など放っておいてください!!」
真直「甘ったれないでください!!!!!」
麗羽「ヒッ!!!???」
これまでの真直からは聞いたことのない怒声を叩き付けられ、麗羽は委縮してしまう
真直「そうやって何もしないのも、ご自身がまた傷付くのが嫌なためでしょう!!ご自身のやること成すこと全てが裏目に出て取り返しが付かなくなるのが怖いのでしょう!!?全てが自分のせいだから、もう何もしたくないというだけでしょう!!」
麗羽「・・・・・では、私はどうすればいいのですか、これから先、どうすれば」
真直「簡単な事です、あなた様は、私の管理下に入ってもらいます」
麗羽「・・・・・・・・・・」
それは仕方がない、というより当たり前である
あれだけの事をやらかしている自分が常に誰かの監視を受けるなど至極当然と言える
真直「これからは、私の命令には絶対服従です、何もするにしても私の許可無しですることは禁止です、勝手に死ぬことも許しません」
麗羽「・・・・・分かり、ましたわ、真直さんの、言う通りに、いたします」
真直「分かっていただけて何よりです・・・・・しかしその前に、あなた様は他の何よりもやらねばならないことがあります」
麗羽「それは、何でありましょう・・・・・」
真直「斗詩、猪々子、悠・・・・・出しなさい」
斗詩「うん・・・・・」
猪々子「姫、立ってくれ・・・・・」
悠「まずは、これを着な」
一刀「・・・・・・・・・・」
あの後、一刀は自分の執務室に一直線に向かっていた
自分が作った全ての書簡と竹簡を燃やしたため、執務室の書棚はほぼ空と言っていい
他の誰も、良いと言うまで近付かないようにと厳命しているため、一人籠城状態である
窓も閉め切り、部屋の中は暗闇に目が慣れていないと何も見えない程に暗い
椅子に座っているが、背を仰け反らせ体重を乗せ、椅子を傾け、机に足を乗せている
まるでロッキングチェアに座っているが如く、腕をだらんとぶら下げ足でバランスを取りながらユラユラと揺れている
そんな誰もが近づき難い姿を晒している最中、部屋の扉がゆっくりと開く
一刀「・・・・・誰だ」
麗羽「あ、あの・・・・・一刀さん・・・・・」
入って来たのは、外套に身を包んだ麗羽であった
一刀「誰も入るなと言っておいたはずだが」
麗羽「す、すみません・・・・・私は、何も・・・・・」
一刀「ああ、聞かされていないのか、それは失礼した」
麗羽「・・・・・・・・・・」
その姿に、麗羽は愕然とする
暗闇に映るその姿は、まるで影そのものが動いていると言っていい
息遣いも荒く、鼻呼吸が部屋全体に響いているため、猛獣でも蠢いているのではと思う程だ
以前の一刀からは考えられない、全身からどす黒いオーラが立ち昇っていた
開けた扉から光が差し込むも、そのオーラをかき消すことが出来ない
それ程までに、目に見えて変わってしまっているのだ
麗羽「申し訳ありません、本当に申し訳ありませんでした・・・・・一刀さん・・・・・」
一刀「・・・・・・・・・・」
麗羽「謝って済むなどとは、これっぽっちも思いません・・・・・しかし、今の私には、これしか「何を謝っている」・・・・・え?」
一刀「お前はどうして謝っているのかと聞いているんだ」
麗羽「そ、それは・・・・・私の誤りで、皆さんに・・・・・特に、一刀さんに、途方もない迷惑を掛けてしまって・・・・・」
一刀「何を言っているんだ、お前は何も誤ってなんかいない」
麗羽「え・・・・・」
一体、彼は何を言っているんだ
あれだけの事を誤りではないなどと、どうしてそんなことが言えるのだ
これまでの自分の空回りっぷりは、誤りなどという言葉で片付けるには無理があり過ぎる
そのとばっちりを一番被っているのは、外ならぬ彼だというのに
麗羽「・・・・・・・・・・っ!」
そして、部屋に入り、麗羽はそのまま外套を脱ぎ捨てた
外套から現れたその肢体は、白を基調とした美しいランジェリーに包まれていた
透明な生地が上半身を包み込み、麗羽の美しさをより際立たせるも、透明であるが故に大事な所は全く隠せていない
乳房は丸出しで、下半身はすぐにでも男を受け入れる体勢万端と言わんばかりに、中央が開いている
そんな男を誘惑する為だけに存在する、全ての男が一瞬で野獣と化す、娼婦の様な姿を晒しながら、麗羽は一刀に近付いていく
一刀「・・・・・何のつもりだ」
麗羽「一刀さん、私を犯して下さいませ・・・・・これが私の一刀さんに出来る最低限の罪滅ぼしです」
一刀「お前は罪なんか一つも犯していないと言っているんだ」
麗羽「そんなはずありません、私は一刀さんに・・・・・ぐぅっ!!!」
言葉が途切れたと思った途端、麗羽は壁に背中を打ち付けられる
一瞬で一刀が麗羽の首を掴み、扉に持って行ったのだ
一刀「言っているだろう、お前は何も誤ってなんかいない、何も間違ったことなんかしていないんだよ」
麗羽「うっぐ、うう・・・・・か、一刀、さん・・・・・」
片手で首を絞められ、まともに喋れない
しかし、それでも言葉を紡ごうと必死になる
一刀「張譲の操り人形になったのも、反董卓連合を作ったのも、幽州を攻めたのも、漢王朝を滅ぼしたのも、全部誤りじゃない」
麗羽「そ、そんな・・・・・こと・・・・・」
一刀「それら全てに誇りを持て、いつもの高笑いをしながら、壮大に自画自賛しろ」
麗羽「そ、そのようなこと・・・・・で、出来るわけ・・・・・」
一刀「やるんだよ!!それがお前の最低限の責任だ!!」
麗羽「きゃああああああああ!!!!!」
斗詩「れ、麗羽様!!?」
猪々子「ひ、姫!!?」
悠「っ!!?」
真直「・・・・・・・・・・」
少し離れた所から事を見守っていた袁紹陣営は、開け放たれた扉から飛び出し廊下を盛大に転がる麗羽に驚愕し駆け寄る
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
それと同時に、部屋から出て来た一刀に戦慄を覚える
以前の一刀からは考えられない体を覆う邪気、畏怖をも感じる恐怖を目の当たりにし、体が硬直する
一刀「いいか、二度と罪だの謝罪だの、そんな言葉を使うな!!!お前は自分のやったことを、一生褒めちぎり、我褒めし、驕り高ぶっていろ!!!」
その言葉を最後に、一刀は扉を力任せに打ち閉め、部屋に戻っていった
麗羽「うあ、ああ・・・・・あああああああ、ああああああああああああ!!!!!」
尊厳も何もかもを投げ捨て、床に突っ伏し盛大に泣き崩れる麗羽
何もかもを、自分が壊したのだ、壊してしまったのだ
後悔しか募ってこない、自分の先見の無さを呪わずにはいられない
人は自分の過去を無かったことになど出来ないのだ
自分には、罪を償う機会すら、与えられないのだ
斗詩「・・・・・麗羽様、私も償います、一生をかけて」
猪々子「あたいも、付き合うぜ・・・・・」
悠「こうなるのは、覚悟していたがな」
真直「・・・・・・・・・・」
部屋に入った時間からして・・・・・いや、そんなものは関係なしに失敗したのは明らかだった
悠の言う通り、こうなることは想定していたくせに
何もかもを計算づくでやろうとしている時点で、自分もまだまだ修行不足であると思い知らされた
「や、止めてくれーーーーー!!!!!・・・・・がっ!!!!!」
「へ、陛下、後生です、どうかお情けを・・・・・ごふっ!!!!!」
「あのような事は二度と致しません、命だけは助け・・・・・ぎゃあっ!!!!!」
次々と、袋詰め状態の十常侍達が斧で首を落とされていく
張譲「んぐぐぐんんんん〜〜〜〜、んんんぐう〜〜〜〜〜〜!!!!!」
自分の同僚達の生首が転がっていくのを目の当たりにし、張譲は震え上がる
これが、この後訪れる自分の未来の姿であることを見せつけられ、失禁していた
猿轡が噛み千切られるのではと思うくらい、恐怖で顔が引きつっている
空丹「ああ、うああああぁぁ・・・・・」
白湯「お姉ちゃん、怖いよぉ・・・・・」
この凄惨な光景に、帝姉妹は顔を青くしながらお互いに抱き付き合っている
黄「主上様、劉協様、目を逸らしてはなりません・・・・・」
今後のことを華琳と話し合った中に、十常侍の処刑が含まれていた
それは、この処刑に立ち合うことである
なにせこれらは、漢王朝が生み出した膿であり、それを吐き出している真っ最中であるのだから
これらを全て受け止めるのは、彼女達の責務なのだ
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」
この光景を、曹操軍、董卓軍、官軍の一同も見守っていた
みっともなく命乞いをしながら首を落とされていく十常侍を見ていると、あらゆる意味で胸糞悪くなってくる
とうとう、十常侍は張譲と黄の二人だけとなった
張譲「うぐぐぐぐ、ぐんんんん〜〜〜〜!!!!!」
次は自分の番であることを認識し、暴れようと藻掻くも兵士達に取り押さえられる
そして、余りの顎の力に猿轡が噛み千切られる
張譲「曹操おおおおおおおお、この様な事が許されると思っているのかああああああああ!!!!!」
華琳「あら、随分と元気のいい虫ね・・・・・ええ許されるわ、なにせこれは陛下と劉協様の承諾も得ているのですから」
張譲「くそがぁぁぁぁ・・・・・趙忠、貴様なぜそこにおる、貴様も我ら十常侍の一人であるというのに!!!」
空丹「黄を、あなた達と一緒にしないで!!」
白湯「そうなの、黄はお前達と違って、よくやってくれていたの!!」
張譲「はっ、ワシ等宦官が居なければ何一つ出来ん小娘共が偉そうなことを!!!」
黄「違います、何一つ出来ないのではなく、何一つさせなかったのです、我々十常侍が!!」
張譲「それがワシ等宦官の役目じゃろうて、帝の手を何一つ煩わせてはならんのは、基本中の基本じゃ!!!」
華琳「それはあくまで建前でしょう、そうやって天主を政から隔離し自分達の傀儡として、利権を貪ることしか考えていないくせに」
張譲「欲を持って何が悪い、宦官となったからにはどこまでも登り詰めるのは必定じゃ!!!そうでも言っとらんと、やってられんわい!!!」
華琳「どこまでも強欲な蝗ね」
張譲「ワシ等の世界では、そのようなものは強欲とは言わぬ、貪欲というのじゃ!!!」
華琳「どうやら強欲と貪欲の違いすらも分からない程、腐り果てている様ね」
張譲「はっ、何も知らん小娘が偉そうに、ワシ等宦官がどれほどの苦しみを持って仕事をしていると思っておるのじゃ!!!??」
華琳「それは去勢の事を言っているのかしら?・・・・・そのようなもの、宦官になると決意した時からそうなることは分かり切っていたでしょうに」
張譲「なればこそじゃ、当事者でもない者が、知った風な口を利くな!!!」
華琳「本当、ああ言えばこう言うわね」
張譲「その言葉、そっくり返すわ!!!」
華琳「はぁ〜〜〜〜〜・・・・・・陛下、劉協様、これが漢王朝の現状であり、実状なのです」
白湯「うん、よく分かったの・・・・・」
空丹「もう充分よ、首を落としなさい・・・・・」
張譲「よ、よせ、止めろおおおおおおおおおおお!!!!!」
兵士が振り上げた斧から逃れようと、身を捩る
数人がかりで押さえつけるも、思っていた以上の馬鹿力で、兵士達もびっくりな程だ
それ程までに自分の命が惜しいのかと、周りの者達はその醜さに反吐が出る思いを隠せない
その時、真直を先頭にして、袁紹軍の主だった者達が処刑場に現れる
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」
その中間を歩いている女性に一同は息を飲む
麗羽「・・・・・・・・・・」
裸足で歩き、白を基調とした質素な服に身を包み、髪をバッサリと切った短髪の麗羽が居たのだ
華琳「・・・・・・・・・・」
その姿に、華琳も思わず見惚れてしまう
何の飾り気も無いのに、それがかえって彼女の美しさを引き立て、お伽話の中の天から飛来した飛天のようにも映る
まるで菩薩の様な雰囲気を醸し出しながら優雅に歩くその姿からは、品格すら感じる
普段のやかましい態度がイメージとして定着してしまっているため、そのギャップの激しさに言葉が出ない
元々容姿端麗ではあったが、黙っているとこんなにも色気のある魅惑的な美人なのかと、驚きを隠せない
張譲「・・・・・はっ!!?え、袁紹殿!!!」
その美しさに張譲も暫く呆けていたが、我に返る
張譲「袁紹殿からも言ってくだされ、この様な事は間違っていると!!!」
麗羽「・・・・・・・・・・」
張譲「宮廷にはワシの様な経験豊富な宦官が必要なのじゃ、それは袁紹殿も分かっているであろう!!!」
麗羽「・・・・・・・・・・」
目線を合わせることなく、一言も言葉を発することもなく、麗羽は真直の後に続く
これも真直の指示である、張譲からどのような事を言われようと、決して耳を貸してはならないし、口も利いてはならないという
張譲「ワシの言う通りにすれば、袁紹殿が大将軍になれるのですぞ、今がまさにその時ぞ、袁紹殿!!!」
麗羽「・・・・・・・・・・」
張譲「〜〜〜〜〜〜〜っ!!・・・・・こんの、役立たずがあああああああ!!!!!」
麗羽「・・・・・・・・・・」
やはりこの男は、最初から最後まで自分を只の駒としてしか見ていなかったのだ
それが分かっただけでも、十分である
華琳「さて、そろそろ良いかしら、その汚い口を永遠に閉じてもらうわ」
張譲「止めろ、止めてくれ、助けてくれえええええええええ!!!!!」
恥も外聞もなく、ひたすらに命乞いをする張譲
最早見るに堪えない、こんなものは只の余興であると察して、一同も興味を失いつつある
更に数人の兵士が加わり完全に動きを封じ、今まさに斧が張譲の首めがけて振り下ろされようとしている最中
一刀「待て、俺がやる」
氷環「あ、隊長様!?」
炉青「あ、あに、様・・・・・」
菖蒲「か、一刀様、なんですか・・・・・」
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」
処刑場に現れた一刀に、一同は度肝を抜かされる
その全身から沸き立つ漆黒の邪気に、全身に鳥肌が立つのを抑えられなかった
一刀「そいつを立たせろ」
「あ、あの、曹操様・・・・・」
一刀「立たせるんだ」
「・・・・・・・・・・」
華琳「・・・・・言う通りにしなさい」
「・・・・・はっ」
華琳の指示を受け、兵士達は押さえつけていた張譲を引っ張り上げる
張譲「おのれ天の御遣いいいいいい、貴様さえ居なけれ・・・・・ごひゅっっっ!!!!!」
目にも止まらぬ縮地で距離を詰め、抜き身の拳を張譲の顔面に繰り出す
その首は千切れ飛び、後ろの木に張り付き、グチャッと嫌な音を立てて血を滴らせる
「ああ、うああああ・・・・・」
「ひ、ひいいいいい・・・・・」
張譲を押さえ付けていた兵士達は、首が無くなった張譲の胴体を手放し戦慄する
首が無くなった胴から噴き出す鮮血を浴びた一刀の姿に、腰が抜けて後ずさりするばかりだった
これが、北郷一刀が初めて自身の手で、その手を血で染めた、人を殺した瞬間であった
一刀「・・・・・っ」
首が無くなった張譲の死体に興味が無くなったのか、一刀はそのまま空丹と白湯の元へと歩み寄る
空丹「か、かか、か、一刀・・・・・」
白湯「ああう、ああ、うああああ・・・・・」
黄「か、一刀、さん・・・・・」
返り血を一身に浴びながら邪気を溢れさせる一刀の姿に、さっきまでの処刑とは比べ物にならない戦慄を覚える
表情は無表情であるが、それがかえって恐怖心を煽ってくる
一刀「白湯、出すんだ」
白湯「な、な、何を、だ、出すの・・・・・」
一刀「俺が渡した、天の硬貨だ」
白湯「あ、あう・・・・・うん・・・・・」
指示の通りに、白湯は懐から以前に一刀から貰った五百円硬貨を取り出した
凪「(あ、あれか、私が感じた一刀様の氣は!)」
まだ僅かに氣を残し、淡く輝いている五百円硬貨を確認し、凪は得心がいった
そして、その五百円硬貨を受け取った一刀は
一刀「・・・・・っ!」
そのまま握り潰した
白湯「な、何をするの!!?」
空丹「それは、とても貴重なものなのでしょう!!?」
一刀「これからは、こんなものに頼るのは許さない、二度と俺の力を当てにするな」
原形を留めない程に拉げ、残りの淡い氣も邪気により消えた五百円硬貨を放り棄て、一刀は処刑場を後にしようとする
華琳「待ちなさい、一刀!!あなたそれはどうしたの!!?」
全身から湧き上がる邪気を指摘し、華琳は一刀を止める
一刀「ああ、いつの間にかこうなっていた、気にするな」
華琳「気にするなって・・・・・」
一刀「何か問題があるか、これからお前が歩む覇道には何も支障はない、むしろ好都合だろう」
華琳「・・・・・・・・・・」
この言葉を最後に、一刀は処刑場から去っていく
その邪気は、張譲を殺したことにより、より強く、大きくなったように見えた
風「・・・・・稟ちゃん、風達は間違っていたのでしょうか」
稟「風?」
風「お兄さんは、決して、決してその手を汚して良い人ではなかったのではないでしょうか・・・・・」
稟「・・・・・・・・・・」
風「もしかしたら、風達は、取り返しのつかない事をしてしまったのではないでしょうか・・・・・」
稟「・・・・・私も、風と同じ気持ちです・・・・・しかし、我々はもう賽を投げてしまったのです、後はどのような目が出ても飲み込むしかありません」
風「・・・・・・・・・・」
その通りではあるが、どうしてもあの一刀の姿が頭から離れない
決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった気分であった
華琳「・・・・・見届けましたね、陛下、劉協様」
空丹「・・・・・ええ」
白湯「うう、気分が悪いの・・・・・」
黄「・・・・・・・・・・」
処刑に引き続き、一刀のあのような姿を見た後では、三人も神妙を通り越す気分であった
華琳「陛下、劉協様・・・・・私は、この張譲の言葉に一つだけ肯定せざるを得ないことがあります」
空丹「え・・・・・」
華琳「それは、皇室と宦官は切っても切り離せない関係であることです」
白湯「・・・・・・・・・・」
華琳「私も、酔狂で宦官の孫などと言われている訳ではありません、宦官であった祖父からよく話を聞いておりました、宮廷の仕組み、その背後に蔓延る闇、裏事情・・・・・それほどまでに、皇室にとって宦官は無くてはならない存在なのです」
そう、それ故に中国の歴史は同じことを繰り返すのである
華琳「一番の問題は、あなた方皇族が、宦官に依存し過ぎることです・・・・・恐らくあなた方は、ご自身の召し物の着方すらまともに知らないのでしょう」
黄「・・・・・・・・・・」
これもれっきとした事実である
皇族の身の回りの雑事は、全てを宦官が取り仕切っている
服の着脱から湯浴みまで、何もかもを過剰なまでの過保護で、箱入りの世間知らずに仕上げてしまうのだ
華琳「一刀の言う通り、これからは他人の力を当てにしないように・・・・・あなた方のこれまでの生活が、一体どれだけの多くの人々の犠牲と思いの上に成り立っていたか・・・・・まずはそれを知ることです」
空丹「・・・・・分かったわ」
白湯「うん、そこから始めるの・・・・・」
黄「微力ながら、私もお手伝いいたします・・・・・」
華琳「よろしい・・・・・では、待たせたわね、袁紹」
麗羽「・・・・・はい」
お呼ばれに素直に従い、麗羽は空丹と白湯の前に歩み、その場で正座し頭を下げた
華琳「何か言い残す事はあるかしら?」
麗羽「何も・・・・・どのような沙汰も甘んじて受けます」
その為にこの様な質素で価値の低い服装で出向いてきたのだ
お望みとあらば、誰の手も煩わせず自分で自分に始末を付ける為に、短刀も所持してきた
首を撥ねられるなら撥ねやすいようにと、このように髪をバッサリと落としてきたのだ
決して、見栄や命乞いの為ではない
華琳「その覚悟やよし!・・・・・では陛下、沙汰を」
空丹「・・・・・分かったわ」
そして、座っていた椅子から立ち上がり、空丹は麗羽の前に立つ
空丹「袁紹、面を上げなさい」
麗羽「・・・・・・・・・・」
顔を上げ、麗羽は空丹の目をまっすぐに見据えた
空丹「沙汰を、言い渡すわ」
麗羽「・・・・・はっ」
空丹「あなたは、これから私の侍女として暮らしてもらうわ」
麗羽「・・・・・え」
この言葉に、麗羽は目を見開いて唖然とした
麗羽「いえ、しかし、私は・・・・・」
あれほどの事をした自分がそんな罰とも言えない沙汰で許されるとはとても思えない
一体どういうことなのかと、真直の顔を窺うと、そこには僅かな微笑があった
黄「主上様も劉協様も、此度の件には責任を感じていらっしゃいます、決して袁本初だけの責ではないと」
白湯「うん、元はと言えば、白達が原因でもあるから」
空丹「但し、袁家は取り潰しよ・・・・・あなたから袁本初の名を取り上げるわ、これからは誰であろうと真名を預けて暮らす事よ」
華琳「その他の将はこれからの働き次第で、罪は帳消しになると思いなさい」
斗詩「・・・・・・・・・・」
猪々子「・・・・・・・・・・」
悠「・・・・・・・・・・」
華琳「この者の監督は田豊に任ずる、次にこの者が何か良からぬことをすれば、その時こそ諸共首を撥ねる所存であることを、肝に銘じる様に」
真直「はっ!・・・・・麗羽様、聞きましたね、これからは身の回りの事はご自身で完璧に出来るようにしてもらいます、再教育が終わるまで、自由にしていいことなど、一つたりとも無いと思ってください!」
これが、自分の精一杯の罪滅ぼしである
麗羽をこの様な人間にしてしまった原因の一旦は自分にもある
袁家の頭首という肩書上、甘やかす事が多かったが為に、あの時止めることも出来なかった
それは即ち、自分も幽州進行に加担したも同然なのだ
今後は、麗羽を真人間にする事こそが自分の贖罪と割り切り、それに邁進していこうと固く誓うのだった
麗羽「・・・・・はっ、この麗羽、謹んで沙汰を受けます!!」
そして、清々しい表情で麗羽は顔を上げる
その様は、まさに生まれ変わったという表現が一番しっくりくるだろう
華琳「今のあなたは、前と比べれば随分とマシになったわ・・・・・ようやく一皮剥けた様ね、麗羽」
麗羽「華琳、さん・・・・・」
華琳「言っておきますが、私は冗談で言っているのではないですから・・・・・次は無いと思って、励みなさい!」
麗羽「・・・・・はい、もちろんですわ!」
改めて真名で呼んでもらえて、本当の意味で彼女に認めてもらえたような気がした
完全に目が覚めた感覚に、麗羽の視野はこれまでにないくらい広がっていった
詠「・・・・・月、いいの?」
月「陛下の沙汰だから、私には何も言うことは無いよ・・・・・それより、一刀さんが・・・・・」
傾「ああ、かなり拙い気配だったぞ・・・・・」
瑞姫「一刀君、一体どうなっちゃったの・・・・・」
風鈴「あの邪気、妖術の比ではないかもしれないわね・・・・・」
楼杏「何か、良からぬことが起きる気がしてならないわ・・・・・放っておくわけにはいかないわね・・・・・」
どうも、Seigouです
どうにかこうにか書けています
しかし、これは完全に闇ルート丸わかりですね
自分の書く小説というのは、恋姫外史における天の御遣いのダークファンタジーといっても過言ではありません
なにせこういった戦記物そのものがダークファンタジー無しでは語れませんから
偏り過ぎは良くないと分かっているんですが、これが自分なりのクオリティーと思っておくことにします
待て、次回・・・・・
説明 | ||
顛落の修羅 | ||
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魔に堕ちた一刀。将来的に彼を迎え撃つは炎蓮の孫呉と桃香の蜀漢。歴史の修正力と乱世の輪廻を断ち切るため邪気を纏う一刀は迷いなくその力を振るうでしょう。対して彼を止めるべく、どのような計略や戦いをするのか気になります。(戦記好きな視聴者) 大好きさん、あと2.3話くらい鎮魂の修羅を投稿したら阿修羅伝に移れると思いますので、もう少しお付き合いいただければ幸いです(Seigou) Jack Tlamさん、ご指摘ありがとうございます(Seigou) 個人的には阿修羅伝の続きが読みたいです!(恋姫大好き) ところで、タイトルが『高姫英雄譚』になってます。(Jack Tlam) なんだかんだとお人好しの面は残っていた雷刀よりも凶悪かも、この一刀は……外してはいけない枷を外してしまったかもしれないですね。風と稟、どこから間違えていたかと言えば、『天の御遣い』と呼ばれるのを一刀が嫌がるのをよそに言いふらしたあたりからです。これさえ無ければ、拗れ具合はまだマシだったかも?(Jack Tlam) |
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