恋姫?夢想〜乱世に降り立つ漆黒の牙〜 第二話
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黄巾の乱、後にそう呼ばれる事件は漢王朝の手に負えるものではなくなり、漢王朝は各諸侯に討伐を命じた。これはすでに漢王朝の力が衰えてしまっていると言っているのと同義だった。そして、孫策の下にも一通の書状が届いていた。それは袁術からの召喚命令だった。

 

 

「さて、軍議をするのは構わないんだけど、どうぢてこんなところでするのか説明してほしいな。いくつかの理由は予想してるけどやっぱり本人たちから聞いた方がよさそうだからね」

 

「ここが一番、他者の耳を警戒できるからな」

 

「なるほど」

 

その一言でヨシュアは納得した。彼女たちの警戒する耳というには袁術の放っている監視のことだろう。そして彼女の口ぶりや様子から軍議は毎回この形式で行われているのだろう。この形式ならこちらがよほど大きな声で話すか、こちらにかなり近づかなければならないだろう。そして一流の武人だと思われる祭や孫策が気づかないわけはないだろうし、今回からは自分がいるのでなおさらだ。

 

「ここなら袁術とかいう人にも聞かれたくない話でも普段通り、というように話せるということだね。それで雪蓮の姿が見えないけど、袁術という人に呼ばれたのかな?」

 

「ああ、その通りだ。恐らくというか間違いなく袁術は我々に黄巾党の討伐をさせるつもりだろうな。しかしまったくもってお前は鋭いな。間違いなく良い拾い物だな。」

 

冥琳が感心したような声と、表情を緩めてヨシュアに声をかけた。祭も感心したようにこちらを見ている。穏はというと…にこにこしていて何を考えているのか表情からは読み取れなかった。

 

「それはともかく、儂らはそれを見越して準備ができ次第、この館を出発し、策殿と合流する予定じゃ」

 

「それでは、発生したいくつかの問題について意見を聞かせてほしい。問題は三点。兵糧の問題と軍資金の問題、最後に兵数の問題」

 

「まずは兵数の問題じゃな。敵の数はどのくらいおる?」

 

「現在、荊州で暴れている黄巾党は、北の本隊と南の分隊に分かれています。まず間違いなく本隊に私たちは当てられるでしょう。それで集められそうな兵数は多くて五千、無理して一万というところですぅ」

 

三人の表情を見るに兵は圧倒的に少ないようだ。ヨシュア自身も、分け身で変装して街の人から噂を聞いた限りでは兵が足りるとは思えなかった。

 

「兵数差は策で何とかするしかないな。兵法としては邪道だが、無い袖は振れん」

 

「では必要最低限の数……ということで仮決定しましょう〜。次は軍資金の問題ですが」

 

「用意できる金子はそう多くはない街の有力者に協力を要請してもそう多くは集まらないでしょう」

 

「それは袁術にださせればいい。皆の話を聞いてる限りでは袁術は自分では本隊とは戦いたくない。だったら袁術に兵士、軍資金、その他諸々をださせればいい。拒否されたならすぐに分隊を撃破して、そのことを各方面にできるだけ華々しく触れまわればいい。袁術がみんなから聞いた通りの人なら太守としてのプラ…面子があるから本隊に行かざるを得なくなるはずだ。それとこれを売れば多少の足しにはなるはず」

 

ヨシュアはそう言って懐からいくつかの小物を取り出した。それはこの世界に来てから自分が持っていたものを整理したときに、ここでは本来の用途では役に立ちそうでないが、何かの役に立ちそうなものや、普通に使えるものを選定しておいたのだ。そして今回差し出したものはその中でも特になくても困らないようなものだった。

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「いいのか?これはお前にとって大切なものではないのか?」

 

「別に気にしなくてもいいよ。それらは特になくても困らないけどこの世界じゃどれも手に入らないものだから結構な値段をつけてくれる人もいるかもしれない。それに、雪蓮たちには得体の知れない人間である僕をここに置いてもらっているっていう大きな恩がありますから」

 

ヨシュアはそうやって笑顔を冥琳たちに向けた。ちなみにそれは昔やっていたような作り物の笑顔などではなく、心から出た純粋な笑顔だった。それを見た冥琳たちは軽く頬を染めた。

 

(く、奥手かと思いきやこの笑顔は…)

 

(ほう、なかなかのものじゃな)

 

(…これはくるものがありますね〜)

 

急に黙り込んだ三人を見てヨシュアは首を傾げた。ジョゼットにも言ったが自分はそう鈍くはないつもりだ。だが、他人から見れば、やはりヨシュアは鈍かった。そして冥琳は気を取り直すように咳払いしてから口を開いた。

 

「…それではヨシュアの案を採用することにする。事実それぐらいしか打つ手はないからな。…誰かある!」

 

冥琳の声に一人の兵士が駆け寄ってくる。冥琳は先ほどの袁術への支援要請の交渉を雪蓮に伝えてほしいとのことを兵士に伝えるとその兵士は頷き、走り去っていった。

 

「ヨシュア、お前は剣を使えるのだったな?」

 

「並大抵の相手には負けないくらいの腕はあると思ってるよ。もちろん、僕も戦場に立たせてもらうよ。一つ聞くけど…やっぱり殺さないと駄目かな?」

 

ヨシュアはレーヴェを目標に戦闘力を高め続けてきた。その目的の第一はやはりエステルを何が何でも守りきるためだった。最終的にはジンと模擬戦をしても二回に一回、三回に一回は勝利できるようになったし、一度はあのヴァルターにも辛かったがなんとか勝利した。そして速さだけならもはや誰にも追随を許さないくらいの自信はある。今の速さにはレーヴェすら完全に対処はできないだろうとも思っている。そして、自分は相手を殺さずに無力化することを前提に戦っていたが、どうしても殺さざるを得ない状況もあったし、昔のこともあり、殺すという行為にそこまで躊躇いはない。だが、殺さずに済めばいいと思っているのも確かだった。

 

「やつらは元々は貧しかったりした民じゃが、更に力の弱いものに対して暴力をふるっておる。やつらは飢えた獣と同じじゃ、情けをかけてやる道理はない。それに情けをかけてもまた別の場所で誰かを襲うじゃろうな」

 

「…わかった」

 

ヨシュアは完全に納得がいったわけではなかったが頷いた。ここではここの流儀があるのだ。ここではヨシュアの考えは甘いのだろう。甘えを捨てなければ自分の命も失い、また知らない誰かの命も危険にさらしてしまう。レーヴェに言わせればこの甘さも欺瞞なのかもしれない。だから…

 

「僕の…僕たちの前に立ちはだかる敵は全て排除する。自らの意志で。そして、雪蓮たちは僕が守るよ」

 

ヨシュアは、この世界で生きる決心をした。他のものを斬り捨ててでも、自分を助けてくれた人たちを守る決心を。

 

「では軍議はこれまでとする。では皆、準備を頼む」

 

冥琳の言葉と共に軍議が終了し、それぞれ自分のすべきことをするために散っていった。

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「いよいよ戦乱の幕開けね…。ところでヨシュア、貴方はちゃんと戦えるの?」

 

合流した雪蓮がヨシュアの隣で笑みを浮かべる。そして隣にいるヨシュアに若干気遣うような口調で声をかけてくる。

 

「大丈夫だよ、雪蓮。戦う、相手を殺す覚悟は決めた。それに人を殺すという行為自体は初めてというわけでもない」

 

ヨシュアは若干平坦な声で答える。雪蓮はそれに、そう、とだけ答えると再び前を向いた。

 

「しかし、黄巾党が相手というのは物足りないにもホドがあるな」

 

「勘を取り戻すのには良い機会じゃろ」

 

「兵の練度を維持するために、調練だけは欠かさずにしてましたけどね〜。実戦を経験させないことには調練の仕上げも出来ませんし〜」

 

そのちかくでは冥琳、祭、穏の三人が話し込んでいる。

 

「ともかくさっさと黄巾党を皆殺しにするわよ」

 

「待ちなさい、雪蓮。私たちに必要なのは圧倒的かつ痛快な勝利よ。だから策を使う必要があるわ」

 

雪蓮の表情を見る限りでは、策なんて使う必要無いのに、という顔をしていたが、冥琳の言葉が正しいとわかってはいるのか、視線でその先を促した。

 

「火を使おうと思っているわ」

 

「火ね…。いいわ、私、真っ赤な炎は好きよ」

 

祭も冥琳の策には賛成なのか、腕を組んで頷いていた。ヨシュアは何も言わずにその決定を聞いていた。やり方は残酷でも徹底的に叩けば雪蓮たちの評価は上がるだろうし、そうなれば人や物が集まって来るようになる。今の雪蓮たちにはまだ足りないものが多い。それを補うためにはやはり知名度を上げるということも重要なのだ。

 

「孫策様!前方一里のところに黄巾党本隊と思われる陣地を発見しました!」

 

そのとき、一人の兵士が駆けてきて雪蓮に報告をする。その報告に雪蓮は礼を言ってから笑みを浮かべた。

 

「久々の実戦ね。派手に決めましょ」

 

「了解した。黄蓋殿。先鋒は伯符に取らせるのでその補佐をお願いします。私と伯言は左右両翼を率い、時機を見て火を放ちます。ヨシュアは…」

 

冥琳がヨシュアの方を見て少し考え込む。祭の反応からしてヨシュアが一角の将だとは分かっているが、実際の強さが分からないため決めあぐねているのだろう。

 

「ヨシュアは私と一緒に先鋒よ。期待してるわ」

 

「そうだな、それがいいかもしれん。ヨシュア、雪蓮が暴走しないように黄蓋殿と共にお守を頼む。では…出陣の号令を」

 

冥琳の言葉にヨシュアは頷き、そして雪蓮が一歩前に出た。

 

「勇敢なる孫家の兵たちよ!いよいよ我らの戦いを始める時が来た!新しい呉のためにっ!先王、孫文台の悲願を叶えるためにっ!」

 

雪蓮の号令が彼方まで響いていく。その声に兵士たちは士気を上げ、いまかいまかと待っているようだった。

 

「天に向かって高らかに歌い上げようでは無いか!誇り高き我らの勇と武を!敵は獣と同じ黄巾党!やつらに孫呉の力を見せつけよ!」

 

雪蓮の言葉を聞きながらヨシュアも自身を切り替えていく。ヨシュアの高まる闘気に盟主から授けられた双剣、「行雲流水・零式」が呼応するように共鳴する。

 

「剣を振るえ!矢を放て!正義は我ら孫呉にあり!」

 

「全軍抜刀せい!」

 

祭の号令と共に兵士たちが雄叫びをあげながら武器を抜いた。

 

「全軍突撃せよ!」

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そして雪蓮の突撃命令に一斉に突撃を開始した。それと同時に、雪蓮も敵に向かって駆け出していく。そして彼女が敵の一人を斬り倒したところで行動を開始した。地を蹴り、一瞬でトップスピードに乗り、すれ違いざまに敵の急所に一撃を入れ絶命させる。周りから見ればヨシュアの動きは全く見えず、文字通り消えて、離れた場所に現れたように見えただろう。祭もその動きを見ていたが、驚愕を禁じ得なかった。そしてなおも敵はヨシュアへと襲いかかって来る。だが、

 

「遅い。絶影」

 

瞬間、ヨシュアの姿が消え、その次の瞬間には離れたところにヨシュアは立っていて、その直線上にいた敵は全てその息の根を止められていた。そして、ヨシュアが冷たい殺気の宿った瞳を敵に向ければ、その方向にいる敵は恐怖の表情を浮かべて後退する。その異様な光景に敵は恐れを抱き、それを見ていた味方は雄叫びをあげて士気を上昇させた。

 

「予想以上ね。あの動き、思春や明命でもついていけるかどうか」

 

雪蓮は敵を蹂躙しながらも、ヨシュアの動きを見て呟いた。雪蓮の目でもヨシュアの動きは追えなかった。敵として戦えば、自分はまず間違いなく敗れるだろう。だが、そんな彼が味方というのはかなり心強かった。

 

「私も負けていられないわね。さあ、かかってらっしゃい!」

 

雪蓮は返り血を浴びた姿で敵を見据えた。

 

それからほどなくして敵は崩れた。そして後退を始めた。

 

「頃合いだ。…穏!」

 

「はぁ〜い。では皆さん、火矢の準備はよろしいですか〜?いいですね〜、では〜、発射〜」

 

号令と共に矢が放たれ、次々と敵陣地にそれらが飛んでいく。命中した矢は近くのものに火を移していく。敵はさらに混乱して、まともな動きはもはや取りようがなかった。それに乗じて前線の雪蓮たちは総攻撃を仕掛けていく。おしてほどなくして黄巾党は殲滅された。そして部隊は合流し、袁術のいる荊州の本城に向かって意気揚々と引き上げた。荊州の黄巾党は殲滅されたが、それは一地方の出来事に過ぎず、大陸全土に暴乱を呼んだ。朝廷の軍は各地で敗退し、黄巾党に自信をつけさせ、その勢力を膨らませていった。だが、各地の諸侯、曹操や袁紹、劉備のような義勇軍の活躍により、黄巾党は衰えを見せ始めていた。

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そしてしばらくして雪蓮にまた袁術からの使者が来る。今度は黄巾党本隊を撃破せよとの無謀な命令を携えて。しかし、雪蓮はこれをきっかけに各地に散らばった呉の将を呼び寄せることを袁術に了承させた。多分に袁術が馬鹿だったということがあるが。そして袁術は本隊を雪蓮に任せ、自身は北方の別慟隊へと向かった。

 

 

しばらくのときが流れ、ヨシュアは黄巾党主力部隊のいるという冀州へと向かう道中にいた。

 

「穏。蓮華たちはいつ合流するって?」

 

「兵を集めてからの合流なので、少し時間がかかるとのことです〜」

 

「なら初戦は私たちだけね」

 

「敵本拠地周辺では、諸侯の軍も動いてますから、まずは出城に籠っている奴らを処理しましょう」

 

「その後、諸侯の軍と足並みを揃えればこの兵数でも何とかできると思いますよ」

 

「なら方針はそれでいきましょ。そろそろ軍を止めてお昼にしましょうか」

 

「そうですね」

 

冥琳はちょうどいいくらいだろうというように頷き、全軍に停止命令を出した。その横では穏が嬉しそうな声を上げていた。

 

「それじゃ、私はヨシュアのところに行くから、後はよろしくね」

 

そういって雪蓮は走り去っていった。

 

「策殿はヨシュアのことが余程気に入ったようじゃな」

 

「それもあるでしょうが、恐らく蓮華様のことも伝えるおつもりでしょう」

 

「でも、ヨシュアさんのことを蓮華様が受け入れるかなぁ」

 

穏が自分ではそうならないだろうな、というような顔で言う。それに祭が、そういえばそうだ、という顔で口を開いた。

 

「…ヨシュアの手腕ならなんとかなるじゃろ」

 

「そうですね〜。深くは言いませんけど〜」

 

穏の声に冥琳と祭は苦笑を浮かべた。

 

 

 

「平和…かな」

 

ヨシュアは弁当を食べながら空を見上げていた。その弁当は美味しいものではなかったが、別に気にはならなかった。弁当を食べながらヨシュアはエステルたちのことを思い浮かべた。何の因果か自分はこうして二度目の人生を歩んでいるが、今頃エステルたちはどうしているだろうとふと思い浮かべていた。世界は違うが、空の青さは変わらない。だから、

こんなときに思いだしたのかもしれない。最近は人を殺すことに整理をつけていたのと忙しかったのとで忘れていたのだが。そのとき背中に柔らかい感触と人一人分くらいの体重がかかった。

 

「ヨシュア、何考えてるの?」

 

「別に大したことじゃないよ。これからのこととか。空が青いな、とか。それで何か用があるんじゃ?」

 

ヨシュアはあえて嘘をつくことにした。だが、完全な嘘ではないので別にかまわないだろう。それに気付いたのか気づいていないのか、雪蓮はヨシュアから

 

「やっぱりわかる?ヨシュアを拾ったときに言ったでしょ?呉の武将を口説けって」

 

「了承した覚えはないけど雪蓮の中じゃ確定事項なんだね」

 

ヨシュアはジト目で雪蓮を見るが、雪蓮は当然というように頷いた。

 

「それで、もう少しで私の妹が合流するんだけど。私の妹はちょっと真面目なとこもあるけど、とってもいい娘なの。可愛いし、おっぱいも大きいし、お尻の形も最高だし」

 

ヨシュアは無言でそれを聞いている、というより言葉が思いつかなかっただけだったが。

 

「で、私の後継者はその妹である孫権。だからヨシュアにはどうにかして孫権を孕ませること。約束よ」

 

「………できるだけ善処するよ。そういうのは苦手なんだけどね」

 

「でもこれからの呉の為にお願いね」

 

そう言って雪蓮は立ち去って行った。悩むというか頭を抱えるヨシュアを残して。そしてほどなくして軍は再び行軍を始めた。

 

説明
へたれです。…失敬、かみまみた。へたれ雷電です。

ヨシュア編第二話です。いまさらながら思うのはヨシュア、レーヴェともハーレムに向かないキャラだよね、ということです。オリビエならともかくあの二人をどうやって武将とくっつけるか…ああ、悩みます。
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コメント
devel様>もちろんです。ヨシュアといえばやはりあのハーモニカでしょう(へたれ雷電)
そういえばヨシュアはハーモニカは所持しているのですか?(devel)
devel様>魔眼は使用する気は現在ありません(へたれ雷電)
森番長様>自分もそう思いますが、エステル離れもするべきかな、と(へたれ雷電)
クラフトがありましたが魔眼も使う予定ですか??(devel)
正直ヨシュアにはエステルだけを愛して欲しい・・・(森番長)
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