椰子の実のきもち |
乾いた音を立てて、目の前に木片がはじけた。
「わりい、大丈夫か?」
「大丈夫。避けるのももう慣れたし。」
「……。」
「何本目?」
「17本目。」
木刀だった木片を拾いながらヒューザが言う。
よく覚えてるなあ、と思う。
「またかヒューザ。お前、スジはいいが、
力の加減がなっちゃおらんの。
木刀使うてるうちに木刀に教えてもらうんじゃな。」
いつの間にか横で見ていたバルチャ爺の声。…と、いうことは。
「さてそろそろ稽古は仕舞いじゃ。先に火は起こしておくからの。
夕飯の準備にしておくれ。ほれヒューザ、そいつは貸せ。薪にするでな。」
「……ああ。」
一瞬、微妙な表情を浮かべて、ヒューザは木片を渡す。
いつも、こうだ。
知ってる。
ヒューザは、自分の前から自分のものが消えるのを、人一倍嫌う。
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「よかったの?」
「何がだよ。」
「薪にしたくなかったんでしょ?」
「……別に。とっといたって仕方ないだろ。」
夕食のあと。
洗ったお皿を隣でふいていたヒューザに聞いてみる。
「まあ、あの薪で焼いた魚、おいしかったからいいか。ね。」
「……お前、いつもそうだよな。」
「そう?」
ああ、そういえば。
孤児になってつらくないかと聞かれたときにも、
ここでみんなに会えたのはよかったと答えたっけ。
「オレはそんな風には思えねえな…。」
ヒューザは、もう手の中にないものの事を、いつまでも心に留める。
小さい頃に拾った貝殻、折れた木刀、……血のつながった家族との絆も。
たぶん、ヒューザも辛いんじゃないかな。全部心に置いておくのは。
だから、あまり自分から、何かに入れ込んだりしない。
親を恨んでいないのかと聞かれたこともあった。
ヒューザは、ヒューザを孤児にした親を、憎んでしまっているのかも。
でもきっと、…いつまでも、心の中で大事にしていることの裏返し。
「お前ほんとマイペースだよな。」
そうだね。
ヒューザがかわりに怒ってくれるけど。
「何本目?」
「17本目。」
「またかヒューザ。」
バルチャ爺さんの忠告も17回目だ。
木刀が薪にされちまうのもな。
……なんでこんなに執着しちまうのか。
ガキの時、初めての「自分のもの」だった最初の木刀なら、まあ大事にしてたけどな。
爺さんが、問題しか起こさなかったオレに、
『これで正しい力の使い方を知れ、そうすればその力で世界を回ることだってできるんだぞ』
とかなんとか、大仰なこと言ってくれた木刀だったな。
オレには……オレ達には、自分のもの、が少ないからかな。
なくなってしまうもの……二度と手に入らないものが、いつまでも頭から離れてくれねえ。
こんなに執着するなら、自分のものなんか、ない方が身軽かも知れないけどな。
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「薪にしたくなかったんでしょ?」
片づけついでにさらっと聞いてくる。こいつはいつもこうだ。
「まあ、あの薪で焼いた魚、おいしかったからいいか。」
……こいつは、いつもこうだ。
辛いことも経験にしちまう。いつもマイペースに笑ってな。
この村でキツいことがあっても、……親のことを思い出しても。
でも、本当にどう思ってるかはわからないのかも知れない、とも言ってた。
だから、親に会いに行くって。
オレはお前みたいには思えねえよ。
だから、自分からはなるべく、執着しないで生きてくしかない。
大事なものは、自分からは持てない。
追えない。
……そう、思ってた。
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この後オレは、シェルナーになれず、一人前の証も持たずに旅立つことになる。
この腕一本で世界を回る方が、自分らしい、なんて思ってた。
何もわかってなかった。
「オレも、この孤児院でみんなと、お前と過ごせたこと、」
そのことは、よかったかも知れない……とも、伝えないまま。
オレと「独り」を分け合ってくれた奴を
この手で、この世からなくしてしまうことになるなんて。
説明 | ||
【ネタバレ】 DQX 3.4を前にうちの魚たちを衝動的に掘り下げてみただけのテキスト、なので 作者的にはバレのつもりないんですが、3.4バレみたいになってます…… 【その他】 1ページ目がいわゆる「器」、2ページ目がヒューザ視点です いわゆる「器」に、両親の属性を付加してみています。 ご自身の器とシンクロできるようでしたらそのようにお楽しみ頂いても、 うちの子としてお読み頂いても嬉しいです。 ※pixivさんから引きあげて来ました ※少なくともtumblrさんにも同じ話が上がる予定です |
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