ふたつの澪の来し方行く末
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レーンにいた頃のあいつの事で、よく覚えてんのは、

何か頼まれごとを持ちかけられた時のこと。

 

 

「裏の藪でマムシが出たらしいんだ。

 この辺のは毒はほとんどないから、ヒューザ、お前何とかしてくれ。」

「はあ? わざわざめんどくせえ。見かけた奴が捕ればいいだろ。」

 

「ヒューザ、ヒューザ。」

「あ?」

「これ。こんなこともあろうかと新しく捕獲用具作っといたんだ。

 使ってみて。安全だし速く動くしきっとばんばん捕れるよ!」

「……お前、人の話聞いてたか?」

 

オレが断ってんのに、あいつはとんだおせっかい病で、

オレも巻き込んで受ける前提の話をしてきやがる。

しかも妙な新作発明品つき。試したい感前面な表情つき。

あいつは、孤児院での生活当番や、オレとの剣の稽古の合間には

暇さえあればなんかアイテムいじって便利なもん作ったり、本読んだりしてたよな。

 

 

「あ、海に逃げたらこの槍使うといいよ! もちろん普通にも使えるけど。

 この前ジュレットに行ったとき、素材と交換してもらったんだ。

 槍先の金属が被膜を作るから、海水でも錆びないよ。銛がわりになるんだ^^」

「いや、そうじゃなくてだな、」

「うん、ほんとはこれじゃなくてプラチナ鉱石製だと一番いいんだけど、

 さすがにここらの素材と交換じゃ手が出なかったんだ。」

「そうじゃねえって。」

 

 

……あの事件のあとも、あいつは同じようにお人よしだったけど、

いつもマイペースに笑うあいつは、あのときどっかへ行っちまった。

 

死ぬか生きるかの経験をしたせいだ、と、最初は思った。

けど、たぶん、違う。

 

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村を出てからも、何度か会ったけど、

どう確認していいかもわからねえまま。

 

だけど、元のあいつが言うはずのことを、言わねえんだ。

 

『小さいと猫もかわいいなあ。あ、運ぶのにこの前改良したこの麻袋使えるね!

 首だけ袋から出してやればいいよ。さすがにそのまま運ぶのは怖いしなあ。』

 

『あ!王子の服そのまんま借りたら腕のタトゥーも隠れてる。

 ちょうどいいじゃないか。影武者のためにあつらえたみたいだ!』

 

そんなこと、言うだろうな。オレが乗り気かどうかなんてお構いなしに。

目の前のあいつが、なんて言ってたかは、……忘れた。

 

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海の底で死にかけて、フィナに助けられて、

ルシュカで説明したら「言葉がわかるのか!?」とか言われて。

 

面倒そうだと思ったとき、いるはずもないあいつの声が頭によぎったんだ。

 

『どういう理由で声が聞こえるのかなあ。わかれば他の人にも聞こえるかも。

 とりあえず側で助けてあげながら声のこと考えればいいよ。ね、ヒューザ!』

 

 

あいつが無事で、一緒に旅でもしていたら。

きっとそう言うだろう。オレはここで騎士になるんだろう。

 

……かなわないなら、せめて。

もしあいつが生きていたなら在るはずの世界と、同じ世界になればいい。

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「……いくら聖職にある僕でも、そんなに負のオーラ出されてたら呪われそうですよ。」

虚空に向かって言ってみる。

 

ウェディの『彼』とは滅多に話せたことはない。自分の姿を取り戻せたときと、

冥王の城と、夢現の呪いのさなか彼の両親を見つけたときと……

そんなに頻繁に現世に意識を持ってはこられないんだろう、とは、思う。

 

けど。

「聞こえてたんでしょう、巫女フィナの部屋でヒューザの話したこと。

 ご存知の通りの『敬虔な』僧侶でよければ、話くらいはできますよ。

 解決の保証は、しませんけど。」

 

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水の領界で。

エテーネの彼と、彼を見守る僕は、ヒューザに会った。

 

最初は、ここに連れて来られて、水の領界にとらわれてるんでないといい、なんて

心配してたんだ。町の人は海上に出られないみたいだったしね。

 

だけどヒューザは、海のとらわれびとじゃなかった。

 

僕の、とらわれびとだった。

 

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「ヒューザに……縛られてほしくないって、思ってるだけ。」

現れたウェディの『彼』は、しばらくしてからそう言葉を紡いだ。

 

「ヒューザを僕が縛るなんて、いやだ。僕の分も、自由に生きて欲しいんだ。」

 

「君の立場なら、そう思うのは、わかるんですけど。

 同じように、ヒューザの……残される側の気持ちも、わかってあげては?

 例えば僕だって、君や君のご両親に申し訳ない気持ち、ありますよ。」

 

「だってヒューザには肉親……家族もいないし、

 もう何かをなくして、それにとらわれて生きてほしくないよ。」

 

「つぐないの時を生きようと思うのも、ヒューザの自由ですよ。」

 

「……。」

 

「ほんとはわかってるんでしょうけど。

 ヒューザが何も言わなくても察して、贖罪の旅をしてるのは、

 君が大事だったからですよ。」

 

「………っ!」

 

「家族がいない?

 そうやってつぐなおうとするくらい、大事な家族がいたんでしょ。

 君だ。」

 

「…………でも、どうすればいいんだろう……。

 僕にはだって、もう……何もできない。」

 

そうひとこと言い残して。

彼はまた、虚空に消えた。

説明
【ネタバレ】 DQX3.4

【その他】 1ページ目がヒューザ、2ページ目がいわゆる「器」視点です
3.4クリアで、もうちょっと掘り下げたくなったテキスト。
いわゆる「器」に、両親の属性を付加してみています。
突然聖職だの敬虔なだの言ってるうちのエテーネ主人公は、本職僧侶だったりします。
ご自身のところの設定とシンクロできるようでしたらそのようにお楽しみ頂いても、
うちの子としてお読み頂いても嬉しいです。

※pixivさんから引きあげて来ました
※少なくともtumblrさんにも同じ話が上がる予定です
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