おい森短編 「母よりレター3」
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 >Foretへ。

 >温泉の効能を意識するあまり、

 >がんばりすぎて、のぼせちゃった。

 >なにごともほどほどにね。母より。

 

 

 花のお世話をして帰宅すると、部屋に露天風呂が置いてあった。

 一瞬、現状を把握できなかったので、一度外に出て、それからもう一度入ってみたものの、目の前に置かれたそれは、変わらず存在していて、ほこほこと温かそうな湯気を出している。

 恐る恐るそのお湯に手を入れてみると、突如、湯柱が派手に上がった。

 「ふはははは! おかえり、フォレ!」

 そこにはしっかり腰にタオルを巻いたほぼ全裸の同居人のアニーが、長いこと私が帰宅したタイミングで驚かそうとするために長湯でもしていたのか、全身茹蛸のように真っ赤にしながら仁王立ちしていた。

 今の登場の仕方で、飛沫がカントリーな床に大分飛び散ったのだが、そんなことよりも、いやあとで責任を持たせてこいつに床を拭かせるが、なぜ露天風呂が我が家にあるのだろうか。

 湯船なら、この村に引っ越してきて初めて仲良くなったリスのももこさんさんから頂いた、ネコ足バスタブがあるというのに。

 「今日、たぬきちさんの店に行ったら、売ってたから買ってみたんだ!」

 ちなみに露天風呂のお値段、4900ベル。

 …露天風呂とは本来、野外にあって、屋根や囲いを設けない風呂のことを言うのだが、この場合、なんと言えばいいのだろう。

 「うん、露天風呂の意義はとりあえず置いといてさ、フォレも入ったらどうだ? たぬきちさん曰く、一応効能はあるらしいぞ」

 「え? どんな効能?」

 「それは入ってからのお楽しみ、だってさ。その…毎日フォレには飯作ってもらってるし、たまにはこういうのに入ってゆっくり疲れを落としてくれよ」

 ざばあとお湯から上がり、露天風呂を葉っぱのオブジェクトに変えたあと、それと一緒に私の背中をぐいぐいと東側の、バスルームの部屋へと押していく。

 「ちょ…分かったから、とりあえず服を着て、それから床のお湯をちゃんと拭いておくこと! 分かった?」

 「はいはい、のんびり浸かってこいよ」

 「あと覗いたりしないこと!」

 「しないって!」

 

 

 リゾートなスクリーンを出入り口に移動させて、しっかり封鎖したあと、二層式洗濯機に服を投げ込み、シャワーを浴びてから、先ほど押し付けられた露天風呂を適度に広い場所でオブジェクト化し、さっそく浸かってみることにする。

 最初はちょっと熱く感じたが、それも浸かっているうちに気にならなくなった。

 ふと、シャワーの隣に置かれているあるものが目に止まる。

 ももこさんからもらったネコ足バスタブだ。

 露天風呂が来てしまった今、ネコ足バスタブを使うことは殆どなくなってしまうのではないだろうか。

 ある思い出が脳裏によみがえってきた。

 

 ――村に来てまだ最初の頃、大雨が降った日があった。

 その時、まだ家は小さく、同居人共々ずぶ濡れになって帰宅。

 お風呂場なんてものはなく、川が洗濯機、雨がシャワーだなんて言っていたそんな日々の頃のことだ。

 一応そのままじゃ風邪を引くので、タオルで全身拭いて、乾いた服に着替えてその日は寝たのだが、結局、運悪くお互い風邪を引いてしまった。

 そんな時お見舞いにやってきてくれたももこさんが、その時の我が家の内装を見て、お古だからあげると持ってきてくれたのが、ネコ足バスタブと、シャワーだ。

 当初、どこから水を引いてお湯が出て排水するんだろうと、同居人と風邪で真っ赤になった顔を見合わせてももこさんの様子を見ていたのだが、そこはたぬきちマジックという名の企業秘密技術、葉っぱをぽぽーんとオブジェクト化し、バスタブに向けてシャワーを設置。不思議なことにガスや水がなくても普通にシャワーからお湯が出て、ネコ足バスタブに溜まっていった。

 「小さなおうちだから、すぐにお湯から出る水蒸気が部屋を暖かくしてくれるよ。おくすりも置いておくから、はやく元気になってね」

 「あの、本当にいいんですか…?」

 「いいのいいの! あと排水する時は、お湯を汲んで外に出したりしなくても、一度葉っぱに戻せばあら不思議! キレイになくなってるから、大丈夫! じゃあね!」

 どこが、大丈夫なのだろう。

 とりあえず幾つかの不思議現象に対する疑問は残ったが、水蒸気の熱とそれの水分のおかげで喉の痛みも治まって、数日後には元気に回復したのだった。

 

 …今思うと、なぜ暖炉でもなくストーブでもなくネコ足バスタブとシャワーという組み合わせなのだろうとは思うのだが、おかげであの時は本当に助かり、こうして今でもこの二つは大事に使っている。

 けれどもう、ネコ足バスタブからは卒業かな――

 少し寂しく思ったものの、それを振り払うようにして、露天風呂から上がることにした。

 

 

 翌朝、朝風呂と洒落込んで、あの露天風呂を楽しもうといざ入ったバスルームに先客がいたことに、アニーは驚いた。

 見れば昨日まで設置されていた露天風呂を葉っぱのオブジェクトに戻して、リゾートなクロゼットの中にしまいこんでいるところだった。

 「フォレ、何してるんだ?」

 「露天風呂を片付けてるの」

 「え、どうして?」

 リゾートなクロゼットから顔を出し、パタンと扉を閉めて、フォレはアニーに向き合う。

 「んー、たまにだからこそ、こういうものって贅沢なものに感じると思うの。だから、たまーにだけ使うことにして、普段はネコ足バスタブでいいかなって」

 「…そっか。まあ、それもそうだよな」

 

 

 そう、だからまだしばらくは、ネコ足バスタブのお世話になろうと思います。

 

 

 後日、たぬきちさんのお店に、花の種を買いに行った際、露天風呂の効能について訊いてみたところ、それはこういう効能だろうと思えばそうなるなも、と言われた。

 つまり、ないんですね、効能。

説明
DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。基本的に一話完結なので、番号に関しては特に関係ありません。

2011年6月13日 18:14にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。
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