おい森短編 「母よりレター8」
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 >Foretへ。

 >秋到来。

 >茄子もいいけど、魚もね。

 >今が旬なの、秋刀魚がうまい。

 >食欲の秋。 母より。

 

 

 つい先日、そんな内容が書かれた手紙が届いた。

 それも、ほんのりと、焼いた魚の匂い付きで。

 「秋刀魚かー」

 確かにこの時期、秋刀魚は大根おろしをつけて食べると、とても美味しい。

 そんなことを考えていたからか、一瞬、口の中にありもしない秋刀魚の幻の味がして、思わずよだれが出そうになった。

 とりあえずよだれは、ごっくんちょし、手紙に残る秋刀魚であろう残り香をくんくんしながら――他人には見せれない姿なのは自覚している――この村で採れるもので、秋の味覚に入るものは何かあったかなと思考を巡らせる。

 このところ、春に植えたリンゴの木に大量のリンゴが生ってくれたおかげで、毎日リンゴ尽くしの料理が多かったからか、そろそろ甘いもの系から離れたくなっていたところだ。

 基本、自給自足生活なので、主に食卓に上がるのは、魚か果物が大半だ。飽きないように様々な工夫を凝らした料理を考えて作っているのだが、それでもたまには別のものが食べたくなる時がある。

 一度、同居人のアニーが、一時期だが、肉が食べたいと言いだし、当時この村の住人だったハムカツさんに――名前と姿形でだろうか――捕食目的で襲い掛かろうとしたことがあった。

 その時は、偶然にもじりじりと斧を持って背後から接近するアニーをたまたま通りかかった先で見つけたため、全力で虫取り網を片手に、背後を狙うアニーをこちらも背後から牽制するという形で取り押さえたのだが、まあそれくらい食事事情に関しては、毎日頭を悩ませられている。

 「焼き魚か…」

 最後に食べた魚料理は、確かマグロの煮つけだっただろうか。

 あの時釣ったマグロはとても油が乗っていて、刺身にしても美味しく、またあら汁にしたりもして、最後の最後まで堪能した記憶がある。

 「おさかな……」

 そう呟いた時だ。

 「ただいまー!」

 がばっと、よだれを垂らしながら突っ伏していた、カントリーなテーブルから起き上がる。

 同居人のアニーが、釣竿片手に帰ってきた。

 「おかえりっ、今日は何が獲れた?」

 「今日はなー、川の方で鮭がたくさん釣れたぜ」

 「鮭!」

 脳内で鮭を使った料理のレシピがすぐさま展開された。

 まず、真っ先に思いついたのは、鮭の塩焼き。オーソドックスだが、シンプルに塩を振って焼いただけの鮭も、素材本来の味が出てなかなかに美味しい。

 次に鮭たっぷりのクリームシチュー。鮭蒸し、鮭茶漬け、鮭のムニエル、鮭のおむすび、鮭チャーハン、鮭のクリームパスタ……夢は際限なく、どんどん膨らんでいく。

 そんなドリームワールドにワープ中のフォレに、アニーはよっこいしょ、と釣った鮭を何匹か尻尾を掴んで取り出す。

 「お腹すいたし、何かこれで作ってくれ」

 「了解!」

 がっしいと力強く受け取ったフォレは、すぐさま調理に取り掛かるべく、キッチンへ向かった。

 フォレは思う。

 たとえ手に入る食材の種類が限られていても、それを使ってどんな料理を作るか、そしてそれを食べておいしいと言ってもらえるか、そういったことを考えられるということは、充実していて、楽しいことだ。

 時にそのことに悩まされることもあるが、それもいつか振り返ればいい思い出になっているだろう。

 

 さあ、腹ペコの彼のために、私にしか作れない、とびっきりの料理を作ってあげよう!

説明
DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。基本的に一話完結なので、番号に関しては特に関係ありません。

2011年9月25日 19:36にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。
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