恋姫英雄譚 鎮魂の修羅 57
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桃香「・・・・・そんなことが」

 

葵「ああ、こっぴどくやられちまったよ・・・・・」

 

ここは武都、陽平関に隣接する街の茶屋にて人徳の君と涼州筆頭が相対していた

 

両者が出会ったのは偶然である、目的地が益州であることから一番の近道を選んだのと一番の安全道を選んだ結果たまたま重なっただけである

 

鶸「なるほど、そっちの目標は分かりました」

 

蒼「朝廷の復興が目的なら、目標は蒼達と同じだね」

 

愛紗「では、我々の同志となっていただけますか?」

 

鈴々「そうなのだ、目的地も同じだし、一緒に行けばいいのだ」

 

翠「そいつは、あたし達もやぶさかじゃないけど・・・・・」

 

蒲公英「うん、気になることがあるんだけど・・・・・」

 

葵「そうだな・・・・・劉備、一つだけ聞きたいことがある」

 

桃香「はい、何でしょうか?」

 

葵「お前は朝廷の復興が目標と言ったが・・・・・その言、真か?」

 

桃香「と、言いますと?」

 

葵「まさかお前は、空丹様や白湯様に成り替わろうという魂胆じゃなかろうな?」

 

桃香「え、ええええええええ!!!?そそそそんな、恐れ多い、私なんて遠い親戚というだけで、あのお二人と比べるなんて、とてもとても!!!」

 

葵「・・・・・はは、いや悪かった、お前の気持ちが知りたかったんだ」

 

桃香「それじゃあ・・・・・」

 

葵「ああ、俺達も同行させてもらう・・・・・お前ら、劉備殿に協力しな」

 

翠「いいのかよ、そんな適当で」

 

葵「どの道、益州には行かにゃならん・・・・・俺達だけの戦力じゃ、劉璋と交渉したとしても尖兵として使い捨てにされるのが関の山だろうからな」

 

翠「分かったよ・・・・・じゃあ、代わりと言ってはなんだけど、こっちの怪我人の面倒を見てもらえるか?」

 

蒲公英「うん、皆ここに来るだけでも相当きつかったし・・・・・」

 

桃香「はい、こちらもご協力させていただきます・・・・・雛里ちゃん、お願いするね」

 

雛里「はい、手配します」

 

そして、お互いの意思を共有し、両者は同じ目標に向け協力体制を構築することとなる

 

療養と益州進駐の準備の為に、暫くこの武都に滞在することが決まった

 

そんな中

 

鶸「星さん、白蓮さん、お久しぶりです」

 

星「おお、鶸、蒼、息災で何よりだ」

 

白蓮「見たところ怪我も無さそうだな」

 

蒼「うん、蒼達は大丈夫だよ・・・・・でも二人も大変だったんだよね」

 

白蓮「ああ、それはもうな・・・・・」

 

鶸「一体何があったんですか、一刀さんはどうしてあんなことに・・・・・」

 

星「すまん、我々も事の経緯を全て知っているわけではないのだ・・・・・ただ、あのお方は完全に我らの敵に回った、これは厳然たる事実だ」

 

白蓮「ああ、私達が反董卓連合から帰って・・・・・」

 

そして、白蓮は事の経緯を知っている範囲で話した

 

鶸「そんなことが、どうして白蓮さんと星さんが桃香さんと一緒にいるのか、分かりました・・・・・」

 

蒼「ホント、袁紹って馬鹿だよね・・・・・」

 

白蓮「まぁ、今はあいつも曹操軍に討たれたか捕まっているんだろうがな・・・・・」

 

星「それでなんだが、私達はこの事実を桃香様達に伝えていない」

 

白蓮「ああ、反董卓連合の真相も誰にも告げていない」

 

鶸「それは、助かります」

 

蒼「うん、こんなことが公になったら大混乱だよ・・・・・」

 

白蓮「だが、いつかは明かさなきゃならんだろう」

 

星「ですな、一刀殿の名誉を私も守りたいですからな・・・・・しかし、それはいつになることやら・・・・・」

 

目線を、そっと横に流すと

 

朱里「・・・・・・・・・・」

 

その先には、物陰に隠れている伏龍が居た

 

白蓮「すまんな、私達も肩身が狭いんだ・・・・・」

 

星「余裕が無くてすまん・・・・・」

 

鶸「いえ、それは私達も同じです・・・・・」

 

蒼「うん、お互い本当にギリギリだね・・・・・」

 

なるべく声が他に漏れないよう話をする四人

 

こんな崖っぷちの綱渡り状態をいつまで続ければいいのかという不安と戦いながらも、事は進んでいく

 

雛里「それで何ですが、葵さんはあの天の御遣い様と一騎打ちをしたと聞きました」

 

鈴々「うん、お兄ちゃんと本気で戦って生き延びたなんて凄いのだ」

 

愛紗「何か、あの北郷一刀を倒す秘策がないものでしょうか?」

 

葵「何だ、お前らあいつと旅をしていたんじゃないのか?」

 

翠「ああ、むしろそっちの方が詳しいんじゃないか?」

 

愛紗「確かに手合わせをしたことは何度かあるが・・・・・」

 

鈴々「うん、鈴々達がしていたのは全部稽古だったのだ・・・・・」

 

葵「秘策ねぇ・・・・・うん、無いな」

 

翠「おい、結論早過ぎだろうが!」

 

蒲公英「いきなり詰んでるんですけど!」

 

葵「以前のあいつだったら付け入る隙もあったんだろう・・・・・だが今のあいつにそんな隙があるとは思えん」

 

愛紗「それでも、何かしらの糸口はあるはずです!」

 

鈴々「そうなのだ、じゃないと葵のおばちゃんが生きているはずがないのだ!」

 

葵「おば・・・・・まぁいいか・・・・・あいつは俺を捕まえることを前提としていたからな」

 

あの時の一刀は、可能であれば馬騰を捕虜にするよう華琳から指示されていた

 

殺ろうと思えば殺れた、殺る気で拳を繰り出さなかった、だから生き延びたと言っていい

 

反董卓連合で恋と戦っているのを見たことがあるが、あの攻撃の威力は自分の時とは比べようもないものだった

 

おまけに、包帯を巻いて戦っていたので、抜身の状態であれを使ったらどうなるか分かったものではない

 

現に、今も葵はダメージが抜けておらず、歩くだけで精一杯の状態なのだ

 

葵「相当な策謀を何重にも張り巡らせ、国一つを丸ごとぶつける位の覚悟が必要だ・・・・・正々堂々さしで倒そうなんて考えていたら、それこそ負ける未来しか見えん」

 

雛里「・・・・・分かりました、今からその策を練っておきます」

 

葵「もし、あいつをさしで倒せるとしたら、恋・・・・・呂布くらいしか思い浮かばねぇな」

 

蒲公英「恋、か・・・・・蒲公英も同じ意見だよ」

 

翠「ああ、あいつの強さときたら、同じ人間とは思えないからな」

 

月が太守をしていた時から、涼州は天水と深い付き合いだった

 

葵が病に臥せっていた時は、相当お世話になった間柄である

 

五胡と戦をするにあたって、何度も援軍に来てくれて、その度に涼州は呂布奉先の強さを目の当たりにしてきた

 

お蔭で五胡にも呂布の名は知れ渡り、お互いに伝説に語り継がれる武人となっていた

 

愛紗「しかし、反董卓連合で呂布はあの男に・・・・・」

 

鈴々「そうなのだ、負けているのだ・・・・・」

 

葵「そう思うのは早計だな、何せあいつらは真剣(ガチ)でやり合っていなかったからな、お互いに本気を出せばどうなるかは分からん」

 

愛紗「では、直ぐにでも呂布を引き入れねば!」

 

鈴々「そうなのだ、呂布は今どこにいるのだ!?」

 

翠「それが分かりゃあ苦労しねぇよ・・・・・」

 

蒲公英「うん、あの後ほとぼりが冷めるまで隠れるって聞いて、それっきりだよ・・・・・」

 

愛紗「なんという・・・・・」

 

鈴々「鈴々達、本当に運が向かないのだ・・・・・」

 

今になって、反董卓連合に参加したことに後悔が募ってくる

 

涼州連合とも敵対してしまい、得るものなど何もなく、失うものばかりだった

 

葵はそのことは気にしていないようだが、もし尾を引いていたらと思うとゾッとする

 

もしここで殺し合いに発展いていたら、自分達の命運はここで尽きていた可能性大なのだから

 

葵「(だが、もし恋でもあいつに勝てないとなると、あいつを止められる者は・・・・・俺が知る限りは・・・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋「ふっ!!」

 

方天画戟が縦横無尽に天下無双の手で振り回される

 

一刀「しっ!!」

 

それを縮地で素早く、手摺に乗り軽やかに躱す天の遣い

 

石橋の上では、方天画戟による風切り音が鳴り響くばかりだった

 

一刀「どうやら、傷は回復しているようだな」

 

恋「(コク)・・・・・もう大丈夫」

 

反董卓連合で受けたダメージは、完全に癒えていた

 

ここまで回復するのに、どれだけの食費がかかったかは割愛である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴「・・・・・凄いですね、あれだけの動きを見せながら、両雄余裕がありますよ」

 

霞「まだまだ、恋はあんなもんちゃうで」

 

雅「ああ、一刀も全く本気を出していない」

 

音々音「こんなもの、あの時の一騎打ちと比べるまでもないのです」

 

巴「しかし、あの呂布の攻撃、どれも小技ですが、明らかに全てが必殺の威力を有していますよ」

 

並の人間なら、一撃であの世行きの攻撃が連続で放たれる

 

それを何の武具も持たず、紙一重で躱す天の遣いの精神力は驚嘆ものであろう

 

霞「あんな狭いとこで、よく躱し続けられるもんや・・・・・」

 

雅「一刀の胆力には恐れ入るばかりだ」

 

橋の上という限られたスペースでの回避行動

 

方天画戟を最大に使えば端から端まで届く程の幅しかないはずなのに、どうやって躱しているのか不思議でしょうがない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗春「おお、なんと美しい演武か、流石は私の一刀だ♪♪」

 

氷環「しかし、恋さんのお力は、あんなものではありません・・・・・」

 

炉青「はいな、あに様も本気じゃないどすが、いつ均衡が崩れるかと思うと、ハラハラもんどす・・・・・」

 

綾香「せめて一刀君が敗れる結末は、避けたいところですね・・・・・」

 

桂花「そうですか、私はあの薄気味悪い奴が死んで呂布が後釜に座る方が、今後の為になると思うのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「流石だな、こっちの間合が取れない」

 

恋「お前、凄い、同じ条件なら、きっと恋でも勝てない」

 

一刀「そいつは光栄だな・・・・・なら、そろそろ実力を見せるとするか」

 

恋「っ!!」

 

次の瞬間、天の遣いの纏う邪気が数段色濃く膨脹する

 

方天画戟を両手で握り込み、天下無双は臨戦態勢を取る

 

一刀「っ!!!」

 

恋「速い!!」

 

邪気と比例するように縮地の鋭さも数段増す

 

右側面に回り込まれ、そのまま左の下段蹴り、ローキックが襲い来る

 

反撃は間に合わない、方天画戟の石突を橋に立て柄で受け止める

 

恋「くっ!!」

 

受け切ることは出来たが、武器から伝わってくる衝撃がビリビリと手を震わせる

 

恋「ふっ!!!」

 

すかさず反撃するも、当然の如く躱される

 

恋「・・・・・凄い蹴り、やっぱりお前、強い」

 

一刀「この程度でへばっていたら、お前に先なんてないぞ」

 

小刻みな縮地で翻弄しに掛かる

 

恋「・・・・・んっ!!」

 

しかし、そんな程度で動じる天下無双ではない

 

天の遣いの動きを正確に読み切り方天画戟を突き出す

 

しかし

 

一刀「しぃっ!!!」

 

恋「っ!!!?」

 

方天画戟を左腕で無理矢理受け流し、懐に入り込む

 

腕に切り傷が入るも、お構いなしに無理矢理ねじ込む

 

いきなりの力技に、天下無双も反応が遅れた

 

その流れのまま、右拳を天下無双の左肩口に叩き込む

 

しかし

 

恋「・・・・・??」

 

確かに拳は左肩の急所にクリーンヒットした、にも拘らず天下無双は首を傾げるばかりである

 

恋「やっ!!」

 

一刀「ぐっ!!」

 

お返しと言わんばかりに、右拳を叩き付ける

 

腕で防ぐも数メートル吹っ飛ばされ距離を取られる

 

恋「・・・・・その右手、どうしたの?」

 

一刀「なんだ、この期に及んで人の心配か」

 

恋「もしかして、怪我してる?」

 

一刀「仮にそうであっても、お前には関係のないことだ」

 

恋「・・・・・(コク)・・・・・分かった、気にしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾香「・・・・・どうやら、バレてしまったようですね」

 

麗春「ああ、少しばかり拙いか・・・・・」

 

桂花「そういえばあいつ、右手を負傷しているんでしたっけ・・・・・そんなんでよく呂布に挑もうなんて思えるわね」

 

詠「だから僕も反対していたんだよ・・・・・」

 

月「うん、あれじゃ恋さんに勝てるはずないよ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「何や今の一刀の拳、まるで力が入っとらんかったで」

 

雅「あれだけの啖呵を切っておいて、手心を加えたというのか?」

 

巴「いえ、あれは手心ではありません、今の一刀は右手を負傷していますので・・・・・」

 

潼関の戦いで、華琳を敵の矢から救った時の傷がまだ癒えていなかった

 

音々音「呆れたのです、そんな状態で恋殿に挑もうなど、愚かし過ぎるのです!」

 

雅「いや、おそらく関係ない」

 

霞「それはどういうこっちゃ?」

 

雅「一刀は、両利きであるからな」

 

霞「何やて!!?ちゅうことは、片腕が潰れても、もう片方で十分戦えるっちゅうことか!!?」

 

音々音「本当に多芸な奴なのです、両手両足を切り落とさない限り安心できませんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「っ!!」

 

再び縮地による加速

 

周りの人間には、天の遣いの姿が掻き消えたようにしか見えない

 

恋「ふっ!!!」

 

一刀「っ!!!」

 

しかし、今度は方天画戟の切っ先が天の遣いを捉える

 

戦闘装束の脇を切り裂き、天の遣いは縮地の軌道を変え天下無双をやり過ごす

 

一刀「もう対応してくるか、流石と言っておこう」

 

恋「これだったら、あの時、見た・・・・・それに、あの時より、遅い」

 

一刀「そうか、それは失礼した・・・・・ならこっちも、礼儀を見せないとな」

 

恋「っ!!」

 

膨張した邪気が収束していき、薄皮一枚にまで絞り込まれ、漆黒の羽が舞う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雅「早速使うか」

 

霞「ここからが本番ちゅうわけやな」

 

巴「ええ、もはやどうなるかは時のみぞ知るです」

 

音々音「恋殿、勝って下され、でないと・・・・・ねねは、ねねは・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月「詠ちゃん、教えて・・・・・私は、何に祈ればいいの・・・・・」

 

詠「月・・・・・一刀の奴、月をこんなに苦しめて、後で覚えておきなさいよ・・・・・」

 

麗春「この程度で何を言っている、お前達とて元太守と軍師であろうに」

 

桂花「そこは同意するわ、役目を全うするにあたって、あんた達にだって切り捨ててきたものがあるはずよ」

 

綾香「はい、でなければ私達はここまで来れていません、全てはこの時、この一瞬に繋がっているのですから」

 

氷環「それは、その通りですけど・・・・・」

 

炉青「それでも、きついものはきついどす・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・行くぞ」

 

恋「っ!」

 

何の構えも取らず、ゆっくりと歩を進める天の遣い

 

まるで散歩でもするかの如く、ごく普通に近寄ってくる

 

しかし、そんなだらんと無防備に腕を揺らしながら距離を詰めてくる天の遣いに再び天下無双は臨戦態勢を取る

 

武人の本能が、警笛をけたたましく鳴り響かせる

 

ただでさえ恐怖をまき散らす存在が、何をしてくるか分からない恐怖までもチラつかせてくる

 

恋「っ!!!??」

 

瞬間、天下無双は天の遣いを見失った

 

恋「っ!!!」

 

体が勝手に動き、方天画戟で防御姿勢をとる

 

恋「ぐっ!!!」

 

今度は右中段回し蹴りが炸裂する

 

本能と勘で防御を間に合わせるが受け切れず、左脇腹にズシンと衝撃が走る

 

恋「がっ!!!」

 

衝撃を殺しきれず、天下無双は石橋の手摺に背中を打ち付け、腰を落とす

 

一刀「休んでいる暇があるのか」

 

恋「っ!!」

 

続け様に左のローキックが迫り、足を踏ん張り飛んでやり過ごす

 

恋「・・・・・痛い」

 

一刀「何だ、まさか痛いのは嫌だとか、武人にあるまじき言葉を使うんじゃないだろうな」

 

恋「・・・・・本当に痛いと思うのは・・・・・久しぶり」

 

一刀「っ!!」

 

天下無双から、凄まじいオーラが噴き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「な、何なのですかあれは、あんな恋殿、見たことないのです!!!」

 

雅「あのような気迫、五胡や黄巾党相手でも見せなかったぞ!!」

 

霞「こういう事やねね、恋に何が起きてるんや!!!??」

 

音々音「言ったのです、ねねにも分からないと!!!」

 

巴「ということは、あれが真の天下無双ということですか・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋「・・・・・お前、恋を本気にさせた」

 

一刀「・・・・・ほぅ」

 

回天丹田をはじきそうなほどのオーラに天の遣いは感嘆の息を吐く

 

片目が深紅に輝き殺意がビリビリと伝わってくる

 

妖術使いである氷環と炉青以上の形相に、畏怖しか伝わってこない

 

何故にこんなことが起きているかは簡単である

 

黄巾党三万を一騎で倒した時でさえ息一つ乱さず、掠り傷一つ負わなかった天下無双が天の遣いの一撃で目を覚ました

 

対等に戦える相手にようやく巡り合ったのだ

 

恋「呂布、奉先・・・・・参る」

 

方天画戟を両手で握り締める

 

一刀「ようやく自分の役目を理解したようだな・・・・・そうだよ、お前には戦って死ぬ以外の道はない」

 

ようやく、構らしい構えをとる

 

天下無双のオーラを天の遣いの回天丹田が受け流していく

 

恋「・・・・・だっ!!!!!」

 

これまで聞いたことのない掛け声と、感じさせたことのない気迫と共に方天画戟が振り下ろされる

 

一刀「ふっ!!!!!」

 

これを紙一重で躱す

 

恋「やあああああああああああああああ!!!!!」

 

掠っただけでも絶命しそうな攻撃を連続で繰り出す

 

一刀「はああああああああああああああ!!!!!」

 

縮地を駆使し、これらを只管に躱す

 

回天丹田により戦闘力が何倍にも達しているため、普通の縮地が干支の型と大差なくなってくる

 

それほどでなければ躱せないということだ

 

一刀「大したものだ、俺の力をここまで引き出すとはな!!!」

 

恋「恋も、こんなに全力を出したこと、無い!!!」

 

石橋の全てのスペースを使った攻防は、照覧する者達を黙らせてしまうほどである

 

風切り音だけでも、これがいかにぎりぎりの鬩ぎ合いかが分かる

 

恋「しいっ!!!」

 

一刀「ふっ!!!」

 

方天画戟を突き出すも、紙一重で躱される

 

それは計算のうち、間髪入れずに方天画戟を引く

 

刃が天の遣いの首をスライドするように戻ってくる

 

それを頭を下げ、屈むように躱すも連続で突きを見舞う

 

一刀「っ!!!」

 

その突きを跳躍して躱す

 

恋「取った!!!」

 

空中であれば、縮地もへったくれもない

 

返す刀の如く、宙に浮いた天の遣いに更なる突きを見舞う

 

照覧している一同を、勝負が決まってしまったと思わせる

 

それくらいの絶望的な一瞬に

 

恋「っ!!!??」

 

その突きには、何の手応えもなかった

 

今のは、絶対の一撃であった、躱せるタイミングでもなかったはず

 

恋「うっ!!!??」

 

刹那、天下無双の頭上に嫌な気配が迫る

 

反射的に左腕を上げると

 

恋「ぐっ!!!」

 

まるで金槌でも振り下ろされたかのような衝撃に腕が震える

 

何が起きたのか分からないが、とりあえず防御は出来た

 

片手で方天画戟を戻そうする

 

恋「がっ!!!!!」

 

次の刹那、右肩に衝撃が走る

 

防御した金槌が再び降ってきたかのような、そんな錯覚に襲われる

 

一刀「・・・・・危ない危ない、危うく串刺しだ」

 

空中で方天画戟を突きこまれた時、天の遣いは前方宙返りでこれをやり過ごした

 

その流れのまま、右の踵を相手の脳天に落とす

 

更にそこから、左の踵も時間差で落とした

 

流石の天下無双も、これを片手で防ぐことは出来なかった

 

恋「うっ、ぐ・・・・・うう・・・・・」

 

肩口の人体急所に決まったため、右肩から先が痺れる

 

方天画戟を持つ手に力が入らず、後ずさるしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「ああああ、なんて、なんてこと、恋殿おおおおおおおおおお!!!」

 

雅「いかん、利き腕をやられたぞ!!」

 

霞「ウチらも決まったと思うたからな・・・・・」

 

巴「完全に油断を突かれた形となりましたね・・・・・勝負ありましたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋「く、う・・・・・ぐぅぅ・・・・・」

 

右肩を抑えながら、方天画戟を引きずる

 

その表情は、激痛に耐える苦悶に満ちていた

 

一刀「どうした、呂布、もう終わりか」

 

恋「・・・・・(フルフル!)・・・・・まだ、終わっていない」

 

苦痛に身を震わせるも、そのオーラは決して衰えてなどいなかった

 

その時

 

一刀「おっと、終わったのはこっちか」

 

どうやらリミットの三分が経過してしまったようだ

 

回天丹田と共に漆黒の羽も消えていく

 

しかし

 

一刀「ふっ!!!」

 

再び天の遣いは回天丹田を身に纏う

 

一刀「まさか情けをかけてもらえるとか思ったんじゃないだろうな」

 

恋「・・・・・(フルフル)・・・・・恋も武人、武人は泣き言なんて、絶対に言わない」

 

一刀「それでこそだ・・・・・ふっ!!!」

 

恋「ぐっ、くっ、かはぁっ!!!」

 

縮地で周りを取り囲み、打撃を肢体に次々と叩き込んでいく

 

一切の油断も慢心も容赦もなく、天の遣いが天下無双に襲い掛かる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月「え、詠ちゃん、もういいんじゃないの!?」

 

詠「そうだよね、これ以上やったって不毛なだけだよ!」

 

桂花「待ちなさい、この勝負はどちらかが死ぬまで続くんじゃなかったの?」

 

氷環「しかし、もう勝負は決まったのです!!」

 

綾香「そう思うのは早計ですよ、一刀君だって最初から傷を抱えていたのですから」

 

炉青「そうかもしれないどすが、あに様だって分かってくれるどす!!」

 

麗春「そんなわけがないだろう、お前達とて分かっているはずだ、一刀は自分の言葉を曲げる奴ではないことを・・・・・それに、向こうはまだやる気のようだぞ」

 

美羽「もう何をやっているのか、妾には分からんのじゃ・・・・・」

 

七乃「ですねぇ、あんなの私達の知っている武の域を超えてますよ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「しぃぃぃぃぃっ!!!」

 

恋「ぐぅぅぅ!!!」

 

あらゆる打撃技が天下無双を追い詰めていく

 

拳が腹に決まり、蹴りが足を襲う

 

次々と叩き込まれる殴打に、天下無双の肌にうっすらと青痣が浮かんでくる

 

こんなものは、ほとんどリンチにしか周りには見えないであろう

 

しかし

 

一刀「(こいつ、何か狙っているな)」

 

目の前のタコ殴りにしている天下無双のオーラは、未だ健在である

 

しかも、天の遣いの攻撃は確かに当たってはいるが、その全てが綺麗に当たっているというわけではない

 

内功を練りダメージを極力減らし、身を捩ることで急所への被弾は避けている

 

一刀「(こいつ、右肩を守っていやがる)」

 

ダメージが一番酷い右肩に左手を添え、そこへの被弾は一回も許していない

 

負傷箇所への追加ダメージは、一番拙い

 

とにかく右肩を守ることのみに神経を集中する天下無双

 

一刀「(無駄なことだ)」

 

右拳に氣血を通し、右肩を抑えている左手もろとも貫く気で振り抜く

 

恋「・・・・・っ!!!」

 

その拳に合わせ、天下無双は右肩から左手を離し、左拳を繰り出す

 

ドゴンッッッッ!!!!!

 

一刀「ぐっっっ!!!!!」

 

今度は天の遣いが苦悶の表情を見せる

 

ビキッと右拳から嫌な音が響き、咄嗟に距離をとる

 

一刀「(まいったな、油断した)」

 

右拳を抑え、激痛で気を失わないよう痛みから意識をそらす

 

少しでも痛みを和らげるために、回天丹田を解除する

 

拳と拳が衝突し、照覧者達にも届くほどに地が震える衝撃に手の骨が割れた

 

空手を主軸としているだけあって、拳の練度は一刀の方が上である

 

しかし、怪我をしていたせいで十分に力が入っていなかった挙句、回天丹田という荒技を重ねていたことが裏目に出た

 

油断を突かれた上にこちらの力を利用され、先に負傷箇所への追加ダメージを許す結果となった

 

恋「・・・・・肩、良くなった」

 

方天画戟を担ぎ、全快をアピールする天下無双

 

もたもたしている間に右肩は回復してしまったようだ

 

対してこちらは骨折である以上、この一騎打ちの間の回復は望めない

 

一刀「(今ので決めきれなかったのは痛いな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「おおおおおおお、流石は恋殿なのです♪♪♪」

 

雅「なんという攻防だ・・・・・」

 

霞「ああ、どっちも一歩間違えばあの世行きや・・・・・」

 

巴「これが、この世の頂点同士の戦い・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋「・・・・・行く!」

 

一刀「ちぃっ!!!」

 

すかさず迫る天下無双に本日3度目の回天丹田を行使する

 

いかに右手に激痛が走っているといっても、回天丹田無しにこの武人の攻撃を躱すことは不可能である

 

後のことは考えず、再び氣のメーターが振り切られる

 

恋「はああああああああああああ!!!!!」

 

一刀「しいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

再び石橋の上に、方天画戟による鋭い風切り音が鳴り響く

 

北郷流が持てる身体能力を総動員し、只管に回避に専念する

 

忍術も構成されているだけあって、その機動力と身軽さを駆使する

 

石橋の手摺を器用に利用し、方天画戟の連撃を躱しに躱す

 

恋「・・・・・これ、邪魔」

 

ズガアアアアアアアアン!!!

 

一刀「っ!!!」

 

天の遣いを攻撃しつつ、天下無双は手摺を破壊し始めた

 

一刀「気付かれたか!!」

 

手摺を壊されないよう攻勢に出ようとするが、まるで結界のような方天画戟の連撃に距離を詰めさせてもらえない

 

その間に次々と手摺は破壊されていく

 

恋「・・・・・これで、おしまい」

 

一刀「ったく、力技もいいとこだな・・・・・」

 

そして、あっと言う間に殆どの手摺は粉々にされてしまった

 

一刀「(さて、どうするか)」

 

これでは、これまでのような回避行動は出来ない

 

氣弾による攻撃もあるが、それが通用しないことは以前の戦いで学習済みである

 

恋「お前、本当に強い、恋にここまでさせたの、お前が初めて」

 

一刀「そうだな、これが最初で最後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炉青「いかんどす!!」

 

氷環「あれでは、もう恋さんの攻撃を躱すことは・・・・・」

 

桂花「まさに、丸裸もいいところね」

 

綾香「いけませんね、これは最悪の状況も考えておかなくては・・・・・」

 

麗春「そのようなことはない、私の一刀があの程度で敗れはしない、きっと、きっと何とかしてくれる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋「はあああああああああああ!!!!!」

 

一刀「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

形勢は、天下無双に傾いていく

 

手摺を破壊されたことで行動範囲を削られた天の遣いは、方天画戟の連撃を躱しきれなくなっていく

 

次々と体に切り傷が刻まれていき、戦闘装束が赤く染まっていく

 

だが

 

恋「はぁ、はぁ、はぁ!!」

 

ここまで来ると流石の天下無双も息が切れてきた

 

全力で攻撃を繰り返してきた分、スタミナが切れるのはこっちの方が早かったようだ

 

しかし、それは天の遣いも例外ではない

 

全身から血を流し、回天丹田を三回も行使しているため、右手の怪我云々に全身が激痛に苛まれる

 

恋「・・・・・恋も、もう限界・・・・・これで、決める!!」

 

感覚が麻痺しそうな意識の中、とうとう方天画戟が天の遣いを捉える

 

一刀「ぐっ!!」

 

胸を切り裂かれ、鮮血が舞う

 

明らかなダメージに天の遣いは仰け反る

 

一刀「がっ!!!」

 

恋「っ!!!」

 

だが、仰け反った上体を引き起こし天の遣いは天下無双に迫る

 

どうやら浅かったようだ

 

もう一度、方天画戟を返し、逆袈裟に切り上げる

 

恋「っ!!!??」

 

しかし、その手応えに違和感を感じる

 

迫る相手にカウンターで完璧に合わせたはずなのに、切り裂く感触が伝わってこない

 

恋「これ!!?」

 

方天画戟に何かが絡まっていることに気付く

 

それは、無刀術の戦闘装束の上半身だった

 

変わり身の術で、天下無双に一瞬の虚を作り出す

 

恋「っ!!!」

 

後ろに気配を感じ振り向くと、上半身裸の天の遣いが拳を振り上げていた

 

一刀「終わりだ」

 

恋「くっ!!!!!」

 

方天画戟に装束が絡まっているが、そんなものに構っている暇はない

 

渾身の力で、装束ごと方天画戟を突き出す

 

恋「うっ!!!」

 

しかし、その突きは左腕で受け流される

 

焦ってしまった

 

焦りの余り、必要以上に武器を突き出してしまった

 

一刀「ぜあっっっ!!!!!」

 

ガキイイイイイイイイイイン!!!!!

 

けたたましい金属音が鳴り響く

 

照覧者達が次に見たのは、宙に舞う方天画戟の折れた切っ先だった

 

突き出された方天画戟を受け流し、手摺の間に通しテコの原理を利用し膝蹴りで叩き折った

 

全ての手摺が破壊されたわけではない、所々残っていてそれを利用されてしまった

 

一刀「どうせ破壊するんなら、この石橋もろども割っておくべきだったな、呂布!!!」

 

恋「あっ!!!」

 

今度こそ、完全に懐に潜り込まれる

 

残された方天画戟の柄を使い、迎撃しようとするが

 

ドシイイイイイイイイイイイイイン!!!!!

 

恋「ごふっ!!!!!」

 

刹那、重厚な衝撃音と共に天下無双が激しく吐血する

 

天の遣いの左拳が天下無双の腹に突き刺さっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「ああ、あああああ・・・・・恋殿、恋殿おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・お前は、紛れもない、天下無双だったよ」

 

恋「・・・・・・・・・・」

 

賞賛を送る天の遣いに天下無双は何も返さず、力なく寄りかかるばかりであった

 

そして、天の遣いは天下無双を石橋の端へと持っていき

 

一刀「・・・・・っ」

 

バシャアアアアアアアアアン!!!

 

そのまま、下の水面へと投げ捨てた

 

同時に一気に体の力が抜けていき、回天丹田と共に漆黒の羽も消えていく

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

天の遣いは、勝者として勝ち誇るもなく、力なく血濡れの姿でその場に佇むのみ

 

照覧者達は一言も言葉を発することは出来ず、辺りには、天下無双の従者の叫びが、空しく響くのみであった

説明
徒爾の修羅
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コメント
このルートだと樊城の戦いが起きたら愛紗は史実通り死ぬのかな?(小説好き)
真相を知っても進んでくれるとは信じられない主君に仕えてどうしたいんだい、朱里……タイミングを計っているだけなのかもしれませんが、裏目に出そうな気しかしない。一刀も限界寸前だったのはわかりますが、殺すつもりなら腹を貫くだけでなく、明確な止めを刺さなかったのは……やはり「孤高の御遣い」と同様、一刀を止めるのは恋しかいないということか。(Jack Tlam)
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鎮魂の修羅 恋姫英雄譚 恋姫無双 恋姫†無双 北郷一刀 ファンタジー ダークファンタジー 

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