スレッタが男の子を欲しがる話 |
秘書が告げる。
「ジェタークCEOがおいでになりました。ご指示の通り、第3応接室にお迎えしております」
「ありがとう。重要な商談なので、内から終了の合図するまでスレッタ以外は通さないように。連絡事項は火急かつ重要な案件でなければ、商談の間は取り次ぐ必要はないわ。必要があれば、スレッタに伝えて私まで」 鈴の音がなるような声で、ミオリネが矢継ぎ早に指示を出す。
「了解いたしました」
第3応接室にミオリネが入ると、座っていたグエル・ジェタークCEOが立ち上がり、定型文じみた挨拶と握手を求めてきた。しかし、ミオリネはお座なりな握手をするやいなや、ラフなアクションで彼に座るように促した。「今日は私的な話なの。人払いもしてある。学生時代みたいにラフな応対でいいわ」
「…なんだそれは。こんなところにまで呼びつけて私的な話とは、同窓会の陰謀でも企むつもりか?」
「いや、更にもっと私的な話よ」 雪のように白いミオリネの顔が、こころなしか赤らんで見える。ほとんどの人には分からないが、学生時代から付き合いのある人達なら、「浮ついて見える」、あるいは「恥ずかしがって見える」と評したかもしれない。
「単刀直入に言うわ。あなたの遺伝子情報を頂戴」
「…なんだと?」
ことの始まりは閨の中、スレッタとの何気ない話から始まる。
「男の子が欲しいですねぇ」
「何よそれ」
「子供どうしようかって話をしたじゃないですか、色々考えたんですけど、男の子と女の子が欲しいです。ミオリネさんそっくりの女の子と、あと活発な男の子。私、男の兄弟とかいないのでちょっと憧れてるんです。教えてると楽しいですよ、男の子」
「女の子は問題ない。私はスレッタ似の子がいいけど。問題は男の子よ」
「どうしてでしょう?」
「遺伝情報的に女二人からは男の子は作れない。どうしてもと言うなら、どこかから遺伝子情報を貰わないと」
「…そっかー。…残念ですね…」
今までで五指に入るレベルのがっかりした顔を見せられたミオリネは、なんとなく動揺した。この時代、同性でも結婚はできるし子供もできる。それは問題ないが、無い遺伝子情報ばかりはどうしようもない。ただ、理屈で切り捨てるには、スレッタのがっかり仕方は心に「くる」ものがあるのだ。ただ、言われてみれば男の子がいてもいいかもしれない。地上で聞いた話だと、一人目は女の子で二人目は男の子がいいとか。情操教育的にも確かに異性の子がいるのは悪くない。…どんどんあとから理屈がついてくる。こうなると実現手段を講じてみたくなるのがミオリネという人物である。
「分かったわ。何か手段を考えましょ」
「…で、俺に?」
「アスティカシアに優秀な男性はいくらでもいるけど、1)学業優秀で、2)肉体的にも秀でていて、3)私的にこういったお願いが可能で、4)いざというときに資産的にも頼ることができる、という条件を勘案したら、あなたに白羽の矢が立ったの」
頭を振りつつグエルはつぶやく。「いや、理屈は分かる。分かるが…」 なんでこいつはこんなにバッサリと物事を決められるんだ。
しかし、ふとグエルは考えた。当初は、応対しているのがミオリネであるがゆえに、「自分とミオリネの子」という(今の彼にとっては)いささか遠慮したい状況に思えた。しかし、考えようによってはこれは「自分とスレッタとの子」の話でもある。綺麗にフラれたし今更そんなつもりも毛頭ないが、そう考えると協力する意義はある。…男の恋心は別フォルダ保存だからな。仕方がない。内心のささやかな下心を隠しつつ話を続ける。
「…あー、資産的に頼ると言うが、法的にはどうするつもりだ?」
「将来のことも考えて、遺伝情報のみの譲渡で、遺産譲渡その他の法的な権利は放棄するつもりよ」
「そのへんをもう少し詰めたい。法的な問題や実際の遺伝情報の受け渡しも含めて…」
バーン! 突然扉が開いた。
「やあ、面白そうな話をしてるじゃないか。ただ僕には看過しかねる話題だな」
褐色の肌に薄い髪の色、ガタイの良さをいい意味で感じさせない優男風の人物がそこに突然現れた。
「「シャディク?! 何故ここに?!」」
飛び抜けた長身を優雅にソファにうずめ、まるでその場に最初から呼ばれていたかのようなゆったりとした仕草で、強引に話に分け入る。
「そういう話なら、僕も十分該当すると思うけどね」
「待てシャディク、その前にお前、なんでここにいる?」
「君たち二人が私的な会合をもつというのでね、ツテと袖の下と法的権利その他を行使して、日付を合わせて外出許可をもらったのさ。ちょっとした同窓会のつもりで来ただけだよ」 学生時代から暫く経つというのに、当時を思い出させるような掴みどころのない笑顔を二人に向ける。
「そうしたら何やら興味深い話をしているじゃないか。僕も俎上に載せてもらおうと思ってね」
「四番目の項目的にあなたは不適格よ。分かってるでしょ」 ミオリネがスパッと切り捨てる。
「むしろそこは、今の僕のほうが立場的に望ましいぜ」 食い下がるシャディク。「グエルの遺伝情報を継承すれば、今後、ジェターク社で何らかの社内抗争が発展した場合、資産継承者として今後神輿に担がれないとも言えない。ラウダ君が温厚で君たち二人の言うことをよく聞いてくれるとはいえ、ワイルドカードを増やす必要はない。そこで、今となっては何の柵もない僕の出番というわけだ」
「待てシャディク、ミオリネは俺を信用してこんな私的な話を持ってきてくれたんだ。横から突然かっさらうような真似はやめてもらおう」 少し怒ったような調子でグエルが応じる。
「より良い選択肢を提示しただけだよ。俺の法的立場はこの場合は無関係だしな」 しれっと問題点を封じるシャディク。
「そういう問題じゃない。商売だって交渉事だって信義と信用あってこそだ。突然掻っ攫うような真似は信義に悖る」
「信用と言うなら、ミオリネのお義母さんの揉め事を身を持ってサポートした僕に優るものはないと思うね。そういえば、ジェタークCEOはあの騒乱のまっ最中に兄弟喧嘩で脱落したんだったな」
これを聞いたミオリネが眉根を寄せる。彼女の知るシャディクの普段の物言いよりも、かなりきつい物言いだ。当然、言われたグエルは激昂した。
「ラウダの暴走の発端は、あの学内テロだぞ!? 手引したお前が何を言う!」
売り言葉に買い言葉、しばらくきつく睨み合った二人が、突然、同時に同じように叫ぶ。「「決闘だ!」」
「剣か、MSか。どちらか好きな方を選ばせてやるぞ、シャディク容疑者」
「MSで構わないよ。MSでの模擬戦はともかく、フェンシングの授業で僕に勝てたこと無かったろう、君」
「なら、温情で我社のMSを貸し出してやるよ。好きなのを選べ」
「使い慣れてない機体など必要ないね。自分で運用できる機体を持ってる」
「なんでその立場でMSを運用してるんだよ!」
男二人が言い争いしながら部屋を出ていく。残されたミオリネは、溜息を付きながら独り言ちた。「…男って馬鹿ね」
しばらくすると入れ替わるようにスレッタが走って入ってきた。ミオリネを見るやいなや興奮した様子で報告する。
「ミオリネさん! あのですね、この間の話、今のエランさんがエランさんの遺伝子情報を譲ってくれるそうです! そもそも、ガンダム社との契約の中にエランさんの情報も含まれるんですって!」 つまり、オリジナルのエランが、強化人士4号と呼ばれていた人物の遺伝子情報を、ガンダム社とのかつての提携契約の一部として譲渡するという話らしい。
話を聞いて、なんとはなしに、薄い嫉妬心がミオリネの心をよぎる。同時に、オリジナルのエランの真意を測りかねてる自分もいる。しかし、スレッタのこれまでの人生と、かつて彼女にあった初めての恋心を大事にしてやりたいと思う自分も、そこにいることに気がついた。
「…さっき身をもって知ったけど、男の子って馬鹿よ? それでもいいの?」
「私とミオリネさんの子なら、どんな子でも可愛いと思います!」
それを聞いて呆れたように嘆息したあと、ミオリネは笑って言った。「そうね、あなたと私の子だもんね」
終
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スレッタがミオリネとの間の子供に、男の子を欲しがる話。それだけ。 投稿時点で分かってない詳細設定が多いので、描写もふんわりです。 |
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