真・プリキュアオールスターズ 一章 |
突き抜けるような青い空が拡がり、降り注ぐ陽の光は、春の陽気と夏の蒸し暑さを混ぜたような気持ちのよい印象を受ける。
高層ビル群の立ち並ぶ繁華街の海に面した横浜みなとみらいの街に電車から降りたラブ、美希、祈里、せつなの4人は視界に飛び込んできた光景に歓声を上げる。
「わぁ、すっご〜いっ」
その光景に圧倒されたように見惚れる。
「大きなビルだよ!」
すぐ飛び込むのは天にまで届くかと錯覚するような超高層ビルである『横浜ランドマークタワー』だ。
「観覧車もあるわ」
「すっごく大きな船ね」
「アレは日本丸っていう船らしいわ」
帆船を模した巨大な船を背景に回る観覧車と遊園地であるメモリアルパーク。どこもかしこも人でごった返しており、盛り上がっている。
「この街は今、開港150周年のイベントをやってるらしいわよ?」
美希のガイドを受けながら、人の波のなかを興味津々に見渡すなか、ラブの抱える鞄の中からひょっこりと声が響いた。
「おいおいエエんか? ダンスコンテスト間にあわんやろ?」
「きゅあ?」
嗜めるように呟くタルトに相槌を打つシフォンに思い出したように手を叩いた。
「おお、そうだった!」
すっかり観光気分で来ていたが、彼女達の目的は今日ここで開催予定のダンスコンテストに出場するためだ。懐から折りたたんでいた参加状を取り出し、拡げてラブは場所の確認をする。
「え〜っと…ん〜〜?」
地図を凝視しながら難しい顔で唸るラブにせつなが覗き込む。
「どうしたの、ラブ?」
「あ、ちょっと待って」
あたふたと取り繕う様に美希が呆れたように肩を竦める。
「いきなり迷ったのね…?」
図星なのか、乾いた笑みで返す。流石に初めて来た街である以上、土地勘がなければ戸惑うのは仕方ないのだが、ラブは誤魔化すように駆け出す。
「あははは…ちょっと、誰かに聞いてくる〜!」
取り残された3人はその背中に苦笑し、肩を落とす。
「誰かに聞かなくても、そこに地図があるんだけど」
不意に美希が脇を見やると、すぐ傍に大きな掲示板があり、そこにはみなとみらいの全域の地図が載せられている。
「まあ、時間はまだあるし」
「そうね、取り敢えずラブが戻ってきたらもう一度確認しましょう」
互いに顔を見合わせ、クスリと笑みを浮かべ、ラブが戻るのを待った。
参加状を手にラブは周囲を見渡す。
「と言っても、誰に訊いたらいいんだろ…」
多くの人が行き交っているだけに、誰に尋ねればいいのか逆に困る。しかも、観光地だけに皆それぞれの目的に夢中で足早だ。
周囲を見渡し、ダンスコンテストを知っていそうな相手を探して顔を回していると、不意に正面の人の波の奥に背中を向けて佇む人影が飛び込んできた。
ピンクのワンピースと赤にも似たピンクの髪を頭の上で束ねてリボンで留めているのが特徴的な同年代ぐらいの少女のようだ。
「あ、あの子に訊こうかな、すいませ〜ん!」
その姿に親しみを憶えたのか、思わず声を大きく上げて駆け出し、その声に気づいた相手もまた振り返った。
「え……?」
「……え?」
こちらに顔を向け、その瞳が視界に入った瞬間、ラブは思わず眼を瞬く。
なにか不思議な感覚が身体のなかを駆け抜ける。まるで、運命の相手と出逢ったかのような不思議な―――それでいてどこか親しみを憶えるものだった。
相手もなにか戸惑っているようで、二人は一瞬の時間の静止を感じ、その場で立ち尽くし、互いに凝視し合う。
どれ程そうしていたのか――実際にはほんの数秒だっただろう。人の行き交う波のなかで立ち止まる二人に遠くから声が響いた。
「のぞみ〜!」
その声にピクっと反応して振り返る少女にラブもつられてそちらを見やると、距離を空けたバス停に数人の人影が見えた。
「引き返すよ〜! この街じゃないんだって、全然逆! なんで反対のバスに乗っちゃったわけ〜!」
遠くから見ても活発そうな少女が咎める怒声を上げ、周囲に居る友人と思しき少女達も苦笑や呆れといった様々な様子を浮かべて少女を呼んでいる。
その姿に引き攣った笑みを零す。
「あはは、やっぱり私間違えてちゃってた…ああ、ゴメンね!」
ラブに頭を下げて謝罪すると、慌てて仲間のところへと駆け出していく。
「りんちゃん待って! 置いてかないで〜!」
急ぎ合流すると、仲間内から手厳しい言葉を受けながら、一行はそのままバスに乗り込んでいった。
その一部始終をずっと見続けていたラブは、自然と微笑を浮かべた。
「なんだか不思議な子……」
あの親しみを感じた感覚。もしかしたら友達になれたかもしれない。そんな予感を抱きながら、ラブは走去るバスをずっと凝視し続けた。
「ラブ〜!」
背中に掛かる声に振り返ると、人波を掻き分けて美希、祈里、せつなの3人が駆け寄ってきた。
「もう、いつまで待たせるのよ」
「心配しちゃったよ」
「あ、ゴメンゴメン」
ついうっかり目的を失念していたことに苦い笑みで謝ると、せつなが困ったように首を傾げた。
「さっき地図を見て憶えてきたから、見せてくれる」
ラブがいつまでも戻らないので、せつなは掲示板の地図を暗記してきた。
「たははは…せつな、お願い」
乾いた笑みで参加状を差出し、受け取るとせつなは地図を一瞥し、あさっての方角を指差した。
「あっちよ。ここから、少し歩きね」
「じゃ、行きましょう」
「うん」
3人がせつなの先導で歩き出し、ラブも後を追おうとするが、不意に今一度バスが去った方角を見やった。
(不思議…なんでこんなに気になるんだろ)
さっき出逢った少女達――ほんの数秒の邂逅…初めて逢ったはずなのに、何故かずっと友達だったかのような感覚がずっと燻っている。
立ち止まるラブを呼ぶ声にハッと我に返り、ラブは慌てて駆けて行った。
駅の広場から離れ、海沿いの道を歩きながら、4人は公園内を進んでいた。
「せつな、こっちでいいの?」
「ええ、あの観覧車が目印みたい」
指差した方角の先には、ここからでもよく見える大きな観覧車がある。
「あそこの広場での特設ステージみたいね」
「うん、それで午後からだって」
緊張してきたのか、声が強張ったように震える。
「でも、あんさんらがダンスコンテストの一次審査に通過したんが信じられんなあ…まあ、練習頑張っとったもんな!」
足元で歩くタルトが激励し、4人は表情を和らげる。
確かに、こんなに大きな大会に出るのは初だが、今まで練習を重ねてきた。どんな結果になるにせよ、精一杯頑張ればいい。
気合を新たに頷き合い、進む足にも力がこもる。そんななか、タルトが不意に立ち止まった。
「……あ?」
「タルト、どうしたの?」
首を傾げながら立ち止まると、タルトはキョロキョロと周囲を見渡す。
「なんの音や…?」
その言葉にラブ達も耳を澄ませるように周囲に聞き耳を立てた。
「なんにも聞こえないよ?」
「待って…なにか、微かだけど妙な音がするわ」
せつなだけが異変を感じ、微かに端正な顔を顰める。その様子に3人も僅かに面を強張らせる。耳を凝らすなか、奥に響く音が大きくなる。
「近づいてきてる…?」
「上や!?」
寒気を感じ、身を震わせたタルトが叫び、上を見上げ、それにつられて視線を空へと向けた瞬間、上空に一つの物体が飛び込んできた。
それがどんどん大きく…いや、真っ直ぐにこちらへと落下してきた。
思わず見入っていた一行の視界を超え、その物体はすぐ傍の海面に激突するように飛び込み、飛沫が巻き起こる。
「何っ!?」
降り掛かる飛沫に身構え、見入る4人の前に海面に大きく浮かぶ銀色の濁った液状の物体が蠢く。
「なんなの、いったい…」
その禍々しさに気圧され、声が震え、冷たい汗が頬をつたる。緊迫するなか、その物体から声が響いた。
『大キナ力ヲ感ジル……』
地を這うように響く低い声。見えない視線に晒されているような不快感が身を襲う。その気配にシフォンが泣くように呻く。
「プキュ〜〜」
身を震わせるシフォンに眼をつけるように影が近づいてくる。
『ソイツダナ…ヨコセ……!』
液状の物体が大きく拡がり、呑み込むように上空を覆った瞬間、4人は慌てて身を翻した。そのまま陸地に乗り上げ、後を追いかける。
「何、あれ!?」
「解からない、ラビリンスじゃないみたいだけど!」
「シフォンとタルトを狙ってるの!?」
「でも、どうして!?」
追いかけてくる気配は、傍目から見てもずっと薄気味悪く、そして禍々しい。その標的にされたシフォンとタルト。
その理由が解からずに混乱するなか、追いかけていた影が突如舞い上がり、頭上を越えて先を塞ぐように降り立ち、慌てて立ち止まる。
眼前で不気味なうねりを繰り返す物体は突然中心に向けて拡がっていたものを収縮し始めた。まるで激突するような音が木霊するなか、物体はその中心に集り、大きさを縮める。
「小さくなった!?」
「っていうより、ギュッと縮まって、集まった感じよ!」
収縮したその影は不規則に形を変え、それがやがて人型に近いものへと変わり、その顔がゆっくりと擡げ、そこに鋭い瞳が浮かぶ。
『力欲シイ……ソイツヲヨコセ……!』
紅い光が宿る瞳を向け、殺気を振り撒くその影に気圧されながらも、4人は毅然と身構える。
「シフォンとタルトは渡さないっ! せつな、美希たん、ブッキー! 変身よ!」
「「「うん!!!」」」
頷くと同時に4人は素早くポケットから携帯型の変身アイテム、リンクルンを取り出す。そして、精霊のピックルンが変身した鍵を差し込んだ。
それに反応し、カバーが開き、内のボタンを押し、液晶が光を発する。
「チェインジ! プリキュア! ビートアップ!」
光が満ち、4人はそのなかを駆け抜けるように飛ぶ。
光のシャワーのなかを飛び、服が弾け飛び、光が新たに装飾を施していく。髪が伸び、そして色も変化していく。ダンス衣装のようなドレスに身を包み、リンクルンが腰に掛かる。
光のなかを超えて姿を再び現わした4人が同時に降り立つ。
「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし! 摘みたてフレッシュ、キュアベリー!」。
「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ、キュアパイン!」。
「まっ赤なハートは幸せの証! 熟れたてフレッシュ、キュアパッション!」。
それぞれが変身した名を名乗り上げ、腕を一斉に天へと掲げる。
「レッツ! プリキュア!!」
光が霧散し、その場に凛と佇むのは、伝説の戦士『プリキュア』の名を冠する4人だった。
4人が身構えるなか、シフォンを抱えたタルトは急ぎ物陰に隠れる。窺うように見やると、影が再び身を大きく伸ばし、プリキュア達を見下ろす。
その腕が伸び、勢いよく振り下ろされ、4人は素早く後方に跳ぶ。衝撃が粉塵を舞い上がらせ、相手の姿を隠す。
着地し、身構えると、その粉塵を切り裂くように無数の触手にも似た液体が伸び、慄く。
「ひえ〜〜!」
鋭く地面を打ちながら迫る触手から逃れるように走る。
「なんなのっ!? いったい〜〜!」
相手の正体が掴めず、困惑が襲うも、今は逃げるの精一杯だった。
相手の注意がプリキュアに引き付けられてるなか、タルトはシフォンを抱えてその場を離れようとする。
その気配を見逃すほど相手は甘くなく、微かに眼元が歪む。
『逃ガサン…』
もう片方の腕がグニャリと歪み、狙いを定める。
「っ! シフォン!」
それに気づき、さっと身を翻し、触手が地面を大きく狙った瞬間、4人は宙に跳ぶ。目標を見失った触手はそのまま地面を大きく叩き割り、動きを鈍らせる。
そのまま相手の頭上に舞う4人に気づき、動きを止める。4人は互いの足を蹴り、別方向に飛ぶ。
分かれた瞬間、大地に足をつき、再度大きく勢いつけて蹴った。4人が攻撃に飛び掛かり、相手の身体に激突するも、柔軟な身体をうまく捉えきれない。
振るわれる腕を受け止め、拳を叩きつけるも、身体が歪み、勢いが削がれる。蹴りで身体を怯ませるも、その部位が再び元の状態に戻り、弾き返す。
4人を距離を取って身構えた瞬間、相手に変化が起きた。
『グオオ…力ガ足リナイ……』
不規則に膨張する身体がやがて統制を失ったように崩れていく。
『モット…力ヲ……』
だが、這うように響く声だけはずっと禍々しく木霊する。やがて、溶けるようにその身体を地面へと霧散させていった。
その液体が完全に消えたのを確認すると、ようやく緊張感が解けた。
「なんなの、いったい……?」
ポツリと漏れる言葉はどこか歯切れが悪い。
とても倒したとは思えないだけに、不安が拭えないのだ。他の3人も同じ心境なのか、浮かない面持ちで変身を解除し、ラブの許に集ってくる。
物陰から一部始終を見ていたタルトがひょっこりと顔を出し、大きく息を吐いた。
「はあ…なんやったんやろ、アイツ……」
頭に今しがたまでそこに居たモノの姿を思い浮かべ、首を傾げる。
「今までとは違う雰囲気やったな…なんや、わいらを狙っとたようやし……」
シフォンはプリキュアが無事だったのか楽しそうに先程から背中ではしゃいでいるが、タルトの疑問の答は出ず、不意に何かを思いついたように声を上げた。
「せや!」
思い立ったが吉日とばかりにタルトは4人の許に駆け寄っていく。
「あんさんら! ちょっとシフォンを頼むわ!」
シフォンを差し出し、唐突な言葉に戸惑いながら応じる。
「いいけど……」
シフォンを受け取ると同時にタルトは身を翻す。
「すんまへん! すぐ戻るさかいに!」
「あ、タルト…」
だっと駆け出していき、ラブの声も聞こえずにタルトはあさっての方角へ駆けていく。その背後を、ゆらりと小さな影が蠢いたのを、ラブ達は気づけなかった。
そのまま背中を見送ると、4人はなおも首を傾げた。
「タルト、どうしたのかしら?」
「急いで何処に行くのかな?」
「なにか、解かったのかしら?」
その意図を図りかね、思考を巡らすなか、不意にラブがプッと噴き出した。
「それにしても、面白い走り方」
何気に漏らしたその一言に誘われたのか、3人も今のタルトの姿を思い出して失笑する。確かにフェレットが2本足で走る姿など、普通は想像できないだろう。
暫し、笑いが続いたが、祈里が何気に視線を下げると眼を見開いた。
「あれ、シフォンちゃんがいない!」
「え…」
その言葉にラブが慌てて手元を見やると、今まで居たはずのシフォンの姿が消えていた。
「えっ? え、何で!?」
周囲を見渡し、その姿を捜すも見つからず、4人は動揺する。
「どうしよう…シフォンが何処かに行っちゃったよ〜〜!」
混乱と動揺に頭を抱え、ラブの声が周囲に木霊した。
説明 | ||
えらく遅れました。 今回は冒頭からフレッシュの戦闘まで。 |
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