英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜
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5月1日、同日PM12:20――――――

 

〜クロスベル帝国・ウルスラ病院・研究棟〜

 

「ん………ここは………?」

目を覚ました”リィン”は起き上がり、周囲を見回した。するとその時病室にセシルが入ってきた。

「あら………フフ、ようやく目を覚ましたのね。」

目を覚ました”リィン”を目にしたセシルは目を丸くした後微笑んだ。

「あなたは確かセシルさん………という事はここはもしかしてクロスベルのウルスラ病院ですか?」

「ええ。どうやら、”そちらの世界の私”とも面識があるようだから自己紹介は必要ないようね。」

「”そちらの世界”?……そうか………俺達は俺達の世界ではないゼムリア大陸に突然転位して………その後そちらの世界の俺達が俺からイシュメルガを引きはがした後……イシュメルガを滅ぼして………ヴァリマール達を見送った後俺は倒れて……――――――クロウは!?それにミリアムも、本当に消えていないんですよね……!?」

セシルが口にしたある言葉が一瞬理解できなかったがすぐに目を覚ます前の出来事を思い出した後血相を変えてセシルに訊ねた。

「落ち着いて、二人とも無事よ。二人は今食堂で昼食を取っているから、今呼んでくるわね。」

血相を変えて訊ねるリィンを宥めたセシルは病室から出た。そして少しすると”クロウ”と幽体の状態の”ミリアム”が部屋に入ってきた。

 

「おはよう〜、リィン!」

「よっ!ようやく目を覚ましたみたいだな。」

「ミリアム……!クロウ……!ハハ……二人とも本当に消えないで、よかった………」

部屋に入ってきてそれぞれ声をかけた”ミリアム”と”クロウ”を目にした”リィン”は安堵の表情で呟き

「ったく、俺達が消えずに済んだ所か俺は人間に戻ったのはお前も自分の目で確かめたのに、何を今更な事を言ってんだよ。」

「まあ〜、あの後リィンは倒れて二ヶ月も眠っていたんだから、しょうがないよ〜。」

「二ヵ月も俺は眠っていたのか………」

”リィン”の様子を見て呆れた表情で溜息を吐いた”クロウ”に”ミリアム”は苦笑しながら指摘し、自分が二ヶ月も眠っていた事を知らされた”リィン”は驚きの表情で呟いた。

「ま、24時間食わず眠らずであのイシュメルガとの”喰らい合い”をずっとお前自身の意識を保ちながら続けていたんだから、むしろ起きたのが二ヶ月でも早いくらいだと思うぜ。」

「うんうん!後でこっちの世界のZ組のみんなもそうだけど、リィンにもリィンが目を覚ました事を教えないとね〜。」

「…………”こっちの世界”で気になっていたんだが……今いるこの世界が俺達が知るゼムリア大陸ではない事は理解しているが、あの時の俺やアリサ達、”幻想機動要塞”――――――”黄昏”が発動した後のゼムリア大陸であるにも関わらず、今の俺達よりも年下に見えたんだが…………」

二人の話を聞いてある事が気になっていた”リィン”は静かな表情で呟き

「そりゃそうだよ〜。こっちの世界で”黄昏”が発動したのは2年前の内戦終結から2週間後くらいだそうだから、時期的に言えばまだリィンどころかボク達もトールズを卒業していない頃だもん。」

「な―――――2年前の内戦終結から2週間後に”黄昏”が発動したって……!」

「うふふ、”その程度”でそちらとこちらの世界の”違い”に驚いているのだから、この後知る事になる様々な”違い”に頻繁に面白い反応をしてくれそうね♪」

”ミリアム”の話を聞いて”リィン”が驚きの表情で声を上げたその時、レンが病室に入ってきた。

 

「君はこちらの世界のレン・ブライト……だよな?」

「”レン・ブライト”………ああ、そういえば”そちらの世界のレン”はエステル達”ブライト家”の養子になったのだったわね。――――――まずは自己紹介をしましょうか。レンの名前はレン・H・マーシルン。メンフィル帝国の皇女の一人で、現在はクロスベル帝国との外交の為にメンフィル帝国から外交官の一人として派遣されているわ。」

”リィン”の確認に対して目を丸くした後”改変前の自分(レン)”の事を思い出したレンは納得した様子で呟いてから、上品な仕草でスカートをつまみ上げて自己紹介をした。

「お、”皇女”……!?そ、それにメンフィル帝国という俺達の知らない国もそうだが、クロスベルが”帝国”って一体どういう事だ……!?」

「アハハ、リィンが眠っている間にボク達はこの世界の状況について把握したけど、世界の状況もそうだけど”黄昏”が起こった時の状況もボク達の世界とは大分違うから、今から驚いていたらキリがないと思うよ。」

「それもあるが、”こっちの世界のリィン”の状況がリィンが一番驚くと思うぜ。」

レンの自己紹介を聞いて驚きの声を上げた後困惑している”リィン”の様子を見た”ミリアム”と”クロウ”はそれぞれ苦笑しながら指摘した。

「俺が………?”こちらの世界の俺”は今、どういう状況なんだ?」

「簡単に説明したら、”黄昏”によって起こった世界大戦で”エレボニアの敵国の軍人”として活躍して、その活躍が評されて敗戦後のエレボニアの”総督”に就任したわ。後ついでに十数人の女性を侍らすハーレムを築いていて、そのハーレムの中にはエリゼお姉さんやアルフィン元王女、それとミルディーヌ公女も含まれているわよ♪」

「…………………………はあっ!?」

二人の指摘を聞いて戸惑っている”リィン”にレンが小悪魔な笑みを浮かべて軽く説明すると”リィン”は少しの間石化したかのように固まった後信じられない表情で声を上げた。そしてレンは”リィン”に並行世界の”零の至宝”によって改変された事で今自分達がいる世界が異世界――――――ディル=リフィーナと繋がった事やメンフィル帝国、そしてメンフィル帝国が本格的にゼムリア大陸に進出する出来事となった”百日戦役”の事について説明した。

 

「異世界と繋がったって………しかも”百日戦役”でユミルがその異世界の大国――――――”メンフィル帝国”の軍によって占領されて、戦後はメンフィル帝国に帰属したという事はユミルやシュバルツァー家は………」

「当然、ユミルはメンフィル帝国領として帰属して、シュバルツァー家はメンフィル帝国の貴族として引き続きユミルの領主を任され続けているわ。――――――ちなみにシュバルツァー家の家族構成は”そちらの世界”と違って、エリゼお姉さんに双子の妹がいるわ。」

「エリゼに双子の妹が……!?という事は、”そちらの俺”には二人の妹がいるのか………ハハ、並行世界とはいえエリゼに加えてエリゼそっくりの妹までいるそちらの”俺”が少しだけ羨ましいな。」

自分達の世界と違ってエリゼに双子の妹がいる事に驚いた”リィン”は目を丸くして呟いた後苦笑したが

「ちなみにエリゼお姉さんの双子の妹――――――エリスお姉さんもエリゼお姉さん同様リィンお兄さんの事を恋しているから当然、こちらの世界のリィンお兄さんのハーレムの一人よ♪」

「え、えっと……こちらの世界の”俺”がエリゼどころか、皇女殿下やミュゼを含めた多くの女性達を侍らしている話も気になっているが、そちらの世界の”黄昏”の件について教えてくれないか?君の話ではエレボニアが敗戦した事もそうだけど、そちらの世界の”俺”がエレボニアの敵国の軍人として活躍したという事らしいけど、まさかその敵国というのは先程の話に出た”メンフィル帝国”か?」

からかいの表情で答えたレンの話を聞いて冷や汗をかいて表情を引き攣らせた”リィン”は話の続きを促し、続きを促されたレンは”巨イナル黄昏”も深く関係している内戦終結以降の出来事――――――内戦での件によるメンフィル帝国からのエレボニア帝国に対しての宣戦布告から始まったメンフィル・クロスベル連合とエレボニア帝国の戦争やその結末を”クロスベル帝国”の建国についての説明を途中に入れながら説明をした。

 

「…………………………ミリアムが言っていた通り、確かにこの世界は俺達が知る世界とは随分違うな。」

「あら。本来の歴史でのリィンお兄さんはどんな状況でも例え相手が敵であろうとも一人も命を奪わなかったことから、”殺人”に忌避感があると思っていたのに意外な反応ね?並行世界の話とはいえ、リィンお兄さん自身が数え切れない数の猟兵やエレボニア帝国の軍人を殺害している上、Z組――――――いえ、”トールズ士官学院にとっては身内”にあたるルーファス・アルバレアやヴァンダイク元帥をもその手で討ち取っているのに。」

事情を聞き終えた”リィン”は少しの間黙り込んだ後静かな表情で呟き、予想とは違う反応にレンは意外そうな表情を浮かべながら指摘した。

「確かに君の言う通り、正直に言えばこちらの世界の俺の行動には憤りや思う所はある。猟兵や”劫焔”はまだ理解できるが、ルーファスさんや学院長――――――”トールズの身内”どころか、数え切れない数の帝国軍の人々をその手で葬った事もそうだが、何よりも幾ら現在の自分の祖国の貴族や軍人としての”義務”を果たす為とはいえ”Z組”と決別してまで、エレボニア帝国との戦争に挑んだ結果エレボニア帝国に莫大な負債を負わせた挙句帝国の国力も大きく衰退させて………――――――その結果こそが”こちらの世界の俺がZ組と決別してまで戦争に参加した目的”でもあったそうなんだから。」

「リィン………」

「別に俺はこっちの世界の”リィン”を庇うわけじゃねぇが、話によるとこっちの世界の”リィン”はそのメンフィル帝国とやらでトールズに来る前に”Z組”のような”強い絆”で結ばれた見習い軍人の連中がいたそうだし、何よりもこっちの世界のリィンの所属国家の戦争相手国がエレボニアなんだから、戦争している状況でエレボニアに味方するなんて事をしちまえば祖国に”裏切者”扱いされて家族や領地の民達にも危害を加えられる可能性もあっただろうから、こっちの世界の”リィン”も相当悩んだ上でそんな決断をしちまったと思うぜ。」

複雑そうな表情で答えた”リィン”の様子を”ミリアム”は心配そうな表情で見つめ、”クロウ”は複雑そうな表情で指摘した。

「勿論それらも理解しているよ。そしてこちらの世界の”俺”がそんな決断をしたからこそ、俺達もこうして救われたし、”何よりも俺達はこの世界にとっては部外者”である事も理解しているから、”こちらの世界の俺”の決断に対して騒ぎ立てるような”筋違い”な事はしない。………まあ、多くの女性達を侍らしていてその中にはエリゼやミュゼもそうだが、恐れ多くも”帝国の至宝”の片翼たるアルフィン皇女殿下までいる事に関しては物申したいけどな。」

「クク、”そこ”に関してはお前も他人(ひと)の事は言えないんじゃねぇか?」

「そうだよね〜。多分、ボク達の世界に帰ったらリィンも似たような状況になると思うよ〜。だってリィン、結局特定の女の子と恋人関係になっていないし。」

静かな表情で答えた後困った表情を浮かべて呟いた”リィン”に”クロウ”と”ミリアム”はそれぞれからかいの表情で指摘した。

「うふふ、何せその身を犠牲にして世界を救った”悲劇の英雄”なんだから、元の世界に帰ったらそれこそ”報償”としてリィンお兄さんにアルフィン皇女が嫁ぐ――――――いえ、”子供達”の一員になって鉄血宰相と共に世界を”終焉”に導こうとした皇太子の件を考えたら”黄昏”後の皇太子は最低でも帝位継承権は剥奪されるだろうから、エレボニアの次期女帝に内定した”アルフィン皇太女の皇配”にするという提案が挙がって、その提案に内心は嬉しくてもエリゼお姉さん達に対して申し訳ないと思ったアルフィン皇太女が自分以外にリィンお兄さんに想いを寄せている女性達――――――エリゼお姉さん達にも幸せになってもらう為に、”特例”としてリィンお兄さんの”側室”として迎えるという提案をして、その結果”そちらの世界”のリィンお兄さんもハーレムを築くという事になるんじゃないかしら?」

小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの推測を聞いた3人はそれぞれ冷や汗をかき

「現実味も帯びている話だから洒落になっていねぇ推測だな、オイ………」

「”黄昏”後の帝国は国外もそうだけど、帝国の人達の信用も失っていると思うから、その信用を少しでも取り戻すためにアルフィン皇女殿下の相手をリィンにという意見は間違いなく挙がるだろうね〜。元々一部の貴族達の間では皇女殿下の将来の相手はリィンじゃないかっていう噂もあったし。」

「いやいやっ!俺が皇女殿下のお相手とか分不相応だから!………そんなことよりも、レンがさっき”元の世界に帰ったら”と言ったが、もしかして俺達が俺達の世界に帰る方法についての目途も既についているのか?」

我に返った”クロウ”は疲れた表情で呟き、”ミリアム”は苦笑しながら答え、”リィン”は必死に否定した後気を取り直してある事を訊ねた。

 

「ええ。貴方達をこの世界に連れて来た”張本人”――――――並行世界の”零の至宝”が3ヶ月後に貴方達を貴方達の世界に帰す事に力を貸すと言っていたわ。」

「3ヶ月後?俺達を元の世界にすぐに帰せない事に何か理由があるのか?」

「ええ、それに関しては”碧の大樹”の件が関係していてね――――――」

レンの話を聞いて新たな疑問を抱いた”リィン”は不思議そうな表情で訊ね、”リィン”の疑問――――――”碧の大樹”でマリアベル・クロイスがケビンによって”狩られた”際、死に際の悪あがきとして時空間を滅茶苦茶にした事で時空間が不安定になり、安定するのが3ヶ月後である事についての説明をレンが答えた。

「……そうか………こちらの世界の結社の”盟主”もそうだが”蛇の使徒”もクロチルダさんとサンドロット卿を除けば全員メンフィル帝国によって殺害されたという話を聞いた時から薄々察してはいたが、マリアベル・クロイスも殺害されていたのか………」

レンの説明を聞き終えた”リィン”は静かな表情で呟いた。

「この世界の場合、”結社が事実上の崩壊をした後にマリアベル・クロイスが狩られた”から正確に言えば”レン達の世界のマリアベル・クロイスは蛇の使徒じゃない”けどね。それで元の世界に帰還するまでの3ヶ月間、リィンお兄さんはどうしたいのかしら?先に釘を刺しておくけど、”自称ただの新妻”みたいに自分達が知るゼムリア大陸とは違うゼムリア大陸であるこの世界を旅行したいみたいな意見は即却下よ。他の二人はともかく、”リィン・シュバルツァーという人物が二人いる事によって起こりうる事が十分に考えられる混乱”を収拾させる手間がかかり過ぎるでしょうからね。」

「何なんだ、その”自称ただの新妻”という人物は………というか、何で”俺が二人いる事で混乱が起こる”と確信しているんだ?」

レンの釘刺しに対して冷や汗をかいた後疲れた表情で呟いた”リィン”は気を取り直してある事を訊ねた。

「”リィンが二人いてそれぞれ別々の場所で行動していたら混乱は間違いなく起こる事”はボク達でもわかるよ〜。”この世界のリィン”はエレボニアどころか世界中で有名な人物になっちゃったし。」

「何せ世界大戦を終結に導いた上世界を救った”現代のゼムリアの大英雄”にして”エレボニア総督”だから、当然マスコミ連中によってお前の名前や顔が世界中の人々に知れ渡っているだろうからな。下手すりゃ各国のVIP達以上の知名度があると思うぜ。」

「…………………………俺達を救ってもらった恩もあるし、何よりも俺達はこの世界にとって”部外者”である事も理解しているから、”この世界の俺達”に迷惑をかけるつもりは毛頭ない。そちらの希望としては俺達が元の世界に帰るまでの3ヶ月間俺達は人気(ひとけ)のない所で過ごして欲しい……と言った所か?」

それぞれ苦笑しながら指摘した”ミリアム”と”クロウ”の指摘を聞いた”リィン”は複雑そうな表情で少しの間黙った後静かな表情でレンに訊ねた。

「それも一つの選択ね。もしくはメンフィルの”本国”――――――つまり、異世界で過ごすか、後はこのウルスラ病院みたいに事情を知っている人達の所で過ごすかね。先に言っておくけど生活費はオリビエお兄さん達――――――エレボニア王家が出してくれるから、生活費の心配は必要ないわよ。」

「殿下達が…………だったら、俺の希望は――――――」

そしてレンの説明を聞いて僅かに驚きの表情を浮かべた”リィン”は少しの間考え込んだ後レンに自分の希望を口にした。

 

5月8日、AM8:30、HR――――――

 

〜エレボニア王国・トールズ士官学院・Z組〜

 

”リィン”が目覚めてから一週間後、国内の混乱の収拾に協力し、ようやく学院生活を再開させることができたリィンとセレーネを除いたZ組はいつものように朝のHRを始めていた。

「おはよう、みんな―――――今日はみんなに短期間限定の新しい”教官”を紹介するわ。」

「”短期間限定の教官”……ですか?」

「生徒ならまだしも、何故”教官”を僕達のクラスで紹介するのですか?」

「しかも戦後ようやく学院が再開したばかりのこの時期に新任――――――それも、短期間限定という事は何らかの思惑が関係しているのではないのか?」

サラの話を聞いたエマとマキアスは戸惑いの表情で呟き、ユーシスは真剣な表情でサラに指摘した。

「ハハ、確かに今のエレボニアの状況を考えたらそう考えるのが当然の流れだな。」

するとその時教室の外から”その場にいる全員にとって聞き覚えがあり過ぎる青年の声”が聞こえた後灰色を基調とした軍服風の服――――――自分達の世界で”トールズ第U分校”の教官を務めている時の教官服を身に纏った”リィン”が教室に入ってきた。

「えええええええええええええっ!?」

「リ、リィン……!?」

「それも並行世界のリィンが何故…………」

「先週目を覚ましたという話は聞いてはいたが……」

”リィン”の登場にサラ以外のその場にいる全員が驚いている中エリオットは思わず驚きの声を上げ、アリサは信じられない表情で声を上げ、ガイウスとラウラは戸惑いの表情で”リィン”を見つめた。

 

「”初めまして”……というのはちょっとおかしいかもしれないが、改めて名乗らせてもらう。――――――リィン・シュバルツァー。俺達が元の世界に帰るまでの間、このトールズで”歴史学の臨時教官”を務める事になった。短い間にはなるが、よろしく頼む。」

アリサ達の反応に苦笑を浮かべた”リィン”は気を取り直して自己紹介をした。

「サラ、これはどういう事?」

「どういうも何も”本人の希望よ”。――――――あんた達も知っての通り、この世界のリィンは世界中の人々が知っていてもおかしくない超有名人になっちゃったからね。その”リィン”が別々の場所で行動していたら、混乱が起こる事は目に見えるでしょう?総督府は当然としてエレボニア政府もそんな混乱が起こる事は避けたくて、並行世界のリィンには元の世界に帰るまでは人気のない所で過ごすか、別々に行動しても混乱が起きない場所――――――メンフィルの本国である異世界か、事情を知っている人達の所で過ごす事のどれかにして欲しかったのよ。で、その話を聞いた並行世界のリィンは自分達の世界に帰るまでの間はトールズの教員関係者として何か手伝いたいってね。ちょうど”歴史学”を担当していたトマス教官が教職を辞めて”星杯騎士団”に戻った事で、歴史学を担当する新たな教官が見つかるまでの間の”歴史学”は”新学院長”のオーレリア学院長が担当していたから、短期間限定とはいえ多忙な学院長の負担を減らすにはちょうどいいという事で急遽決まったのよ。」

ジト目のフィーの疑問に対してサラは苦笑しながら説明し

「た、確かにエレボニア総督であるこの世界のリィンさんが二人いるなんて事実、事情を知らない人達が知れば間違いなく混乱が起こるでしょうね。」

「その件も考えるとトールズはZ組もそうだが他の生徒や教官達も”リィン”の事情を知っているから、そちらのリィンにとっても慣れ親しんだ場所であるこのトールズがちょうどいいだろうな………」

「しかも”そちらのリィン”は元々トールズの分校の教官を務めているから、教官が不足しているトールズにとっても都合がいいという事か。」

説明を聞いたエマは遠慮気味に”リィン”を見つめながら呟き、ラウラとユーシスは納得した様子で呟いた。

 

「フフ、私達が生徒としてリィンの授業を受けるなんて、何だか変な感じね。」

「アハハ、そうだね〜。あれ?”リィン”がトールズで過ごすって事は、”そっちのボクやクロウ”もそうなの?」

「ああ。俺達がトールズで過ごす事を希望しているという話を知ったトワ先輩の提案でクロウは”臨時用務員”として学院中を回っての清掃をしているよ。」

「って、オイ!?リィンが”教官”で、俺が”用務員”って扱いの差がありすぎるだろう!?」

苦笑しながら呟いたアリサの言葉に頷いた後ある事が気になったミリアムの疑問に答えた”リィン”の説明を聞いたクロウは立ち上がって”リィン”に並行世界の自分(クロウ)の待遇についての指摘をしたが

「いや、会長の判断は適切だろう。並行世界の君はリィンと違って、教職についていない所か、トールズの卒業すらできていないし。」

「それに並行世界では叶えられなかった内戦の約束の罰――――――”卒業するまで毎日掃除当番”も叶えられるからいいじゃん。」

クロウ以外の生徒達は誰も反論や指摘をせず、反論をするクロウにマキアスがジト目で指摘し、フィーが口元に笑みを浮かべて指摘した。

「ぐっ………俺どころか、並行世界の俺にまで内戦の時の約束を守らせるとか、トワの奴、幾ら何でも根に持ちすぎじゃねぇか!?」

二人の指摘を聞いたクロウは唸り声を上げた後トワに対する恨み言を口にした。

「アハハ、ボク達の世界の方の内戦の時の約束を果たしていなかったんだから、ボク達の世界のトワ達もその話を聞けば罰の件は許してくれると思うよ〜。」

するとその時”ミリアム”が教室に現れた。

 

「ミリアム。」

「ちょっ、幽霊みたいに突然現れるのはやめてよ〜!」

”ミリアム”の登場にガイウスは目を丸くし、ミリアムは驚いた後文句を口にし

「ま、まあまあ………そういえば並行世界のミリアムちゃんはトールズでどう過ごしているのですか?」

「ボク?授業中はみんなの邪魔をしないように”剣”の中で寝ているか、暇潰しにトールズのいろんな所を飛び回って見て回るつもりだし、ヘイムダルにいるこっちの世界のリィンやアーちゃんの所にお邪魔したりとかもするつもりだよ〜。」

「えー!それって一人だけサボっているって事じゃんか〜!たまにはその役割をボクに代わって、君がボクの代わりに授業を受けてよ〜!」

「あのな……”並行世界のミリアム”と違って既に人間に戻った君がどうやって”並行世界のミリアム”のように飛び回るつもりなんだ――――――って、それ以前に替玉に授業を受けさせる事もそうだが、総督府関連の仕事で忙しいリィン達の邪魔をしたらダメだろうが!?」

苦笑しながらミリアムを諫めたエマはある事が気になり、”ミリアム”に訊ね、”ミリアム”の答えを聞いて文句を口にしたミリアムに呆れた表情で指摘したマキアスはある事に気づくと両方の”ミリアム”にその事について注意した。

「そういえばちょっとだけ気になっていたんだけど………僕達の世界に現れた時のリィンは”呪い”の力を抑える為に王太子殿下と同じ服だったけど………もしかしてその服って、並行世界のリィンが教官をしている時の……?」

「ああ。”黄昏”の件で所々破れていたのをエリゼが直してくれたこの服をいつか必ず着る事ができるように、荷物に保管していたんだ。」

「並行世界のエリゼが……」

「ふふっ、世界は違ってもエリゼさんのお兄さん思いな所は変わらないようね。」

エリオットの疑問に答えた”リィン”の答えを聞いたガイウスは静かな表情で呟き、アリサは微笑み

「”エリゼ”で思い出したけど、こっちの世界のリィンはエリゼを含めてたくさんの女性を侍らしてハーレムを築いている話も知っているんだよね?」

「しかもその侍らしている女性の中には並行世界のお前にとっては教え子の一人であるミルディーヌ公女もそうだが、恐れ多くもアルフィン王女殿下までいる上王女殿下に関しては自分専属の侍女として仕えさせている事についてどう感じているんだ?」

ある事を思い出したフィーはからかいの表を浮かべて”リィン”に訊ね、ユーシスも続くように静かな笑みを浮かべて”リィン”に訊ねた。

「う”っ。そ、それは………」

「はいはい、そのリィンのハーレムの中にいる痴女(ベルフェゴール)が現れそうな話は昼休みや放課後にしなさい。それじゃ、HRを始めるわよ――――――」

二人の指摘によって表情を引き攣らせて唸り声を上げた”リィン”が答えを濁しているとサラが手を叩いて話を無理やり終わらせ、いつものようにHRを始めた。

 

そして授業やHRが終わり、サラが退出するとアリサ達は談笑を始めた――――――

 

 

 

説明
第160話
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