魏√ 暁の彼は誰時 4
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「この村の長の家はどこだ」

 

一刀はその居丈高な態度に少しむっとしたが、それを表さないように努めながら返答する。

 

「このままあちらに向かいますと厩がある建物がございますので、そこが長の家になります」

 

そう言って長の家の方をそっと指差す。

 

兵士はしばらく一刀が指差した先を見ていたが、改めて向き直るとこう告げた。

 

「では、案内してくれ」

 

はぁ?

 

目を合わせないつもりだったがあまりに間の抜けた事を言ってくれるので、顔をばっと上げ思わず睨んでしまった。

 

向こうも予想外の反応だったのか、口を半分開けてぼーっと見ている。

 

時間にしてほんのわずかのことだったが、顔を見せてしまったと気付き、慌てて下を向いた。

 

傍から見てその動作が相手にどのような印象を与えるかなどと考える余裕もなかった。

 

「・・・では、案内してくれ」

 

先ほどより少し柔らかい口調で告げられる。

 

はぁ・・・

 

すでに何回目かわからないが、心の中でため息をつく。

 

後ろを振り向き、様子を伺っているであろう婆ちゃんを見ながら

 

「お・ば・あ・さ・ま、今からこのお方を長の家にご案内して参ります」

 

と兵士に対して皮肉をたっぷりとこめて言い放った。

 

少しは心が晴れるかと思ったが、振り返ると兵士はまんざらでもない顔をして一刀を見ている。

 

「はぁ・・・」

 

ついに本当のため息をついてしまった。

 

肩を落としながら、婆ちゃんに告げる。

 

「じゃあ、行ってきます・・・」

 

婆ちゃんは苦笑しながら「気をつけて」と呟いた。

 

場違いな言葉のようだが、一刀はひどくこの場に合っている気がした。

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一刀は馬を引きながら長の家を目指す。

 

馬から降りようともしない兵士の態度にいらいらが募っていく。

 

先ほどより頭の上から何か声を掛けているようだが、まったく聞く気がしない。

 

冷静に考えれば、知りたいことはただ2つ。

 

何の用があって訪れてきたのか。

 

誰かの使いなのか。

 

直接聞けばいいのかもしれないが、今の一刀はただの農家の娘。

 

相手を刺激していきなり斬りつけられてもたまらない。

 

一つだけ思いつく手段があるにはあるが、それを実行してはいけないと一刀の心が叫ぶ。

 

きっと後戻りできなくなる・・・

 

すると今自分がしてしまった想像のせいで、顔が真っ赤に染まる。

 

初夏の陽気に当てられたんだと思い込むことで誤魔化そうとしたが、なかなかそうもいかず一人心の中で悶えるのであった。

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それから1月後。

 

一刀の住む集落は静寂に包まれていた。

 

道は埃一つすらないほど掃き清められ、昼時にもかかわらず家から炊煙も上がっていない。

 

その中を格式と威光を感じさせる行列が進む。

 

馬に乗った兵士20人を先頭に馬車が続き、その後を兵士約100人が整然と歩いている。

 

静かに進む行列を家の窓からうかがい見ながら一刀は呟く。

 

「ついに来たか・・・」

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その頃、許都の一室・・・

 

1人の少女が頭を悩ませている。

 

2ヵ月後に三国会議を控えているからであった。

 

この会議は華琳が三国同盟を提唱し成立した時から毎年行われている。

 

当初は三国の友好と同盟関係を確立するための会合という意味合いが強かったが、最近では実務的な意味合いが濃くなってきている。

 

というのも、国家の形やその存続性が問われてきているからである。

 

三国とはいうものの決して対外的に認められたものではなく、あくまで後漢王朝の中の三勢力に過ぎない。

 

曹操、劉備、孫策とも王を名乗っているが、何れも献帝の承認の下での役職である。

 

また三公としての役職も兼ねており、現代で言えば県知事でありながら国務大臣でもあるといったいびつな権力構造になっているのである。

 

そのため自ら皇帝となり、1つの国としての形を成すべきだという議論が活発に行われるようになってきた。

 

しかし、華琳が皇帝を名乗ることについて、少女は一貫して反対の立場をとってきた。

 

「華琳様の名を傷つけることがあってはならない」という表向きの理由と、もう一つ人には言えない理由があるからだ。

 

もし魏の皇帝を名乗ってしまえば当然次代の皇帝、世継ぎの問題が不可避となってしまう。

 

華琳の皇女であればきっと美しく聡明で、少女にとって目に入れても痛くないほどの愛すべき存在となるであろう。

 

だがそのために、どこの誰とも知れぬ者に愛する主君が汚されることに我慢できるはずがない。

 

その点、魏王であるならば誰か適当な人物を見つけて「貴女が後を継ぎなさい」と言うことができる。

 

だから華琳の名も身体も傷つけないために、皇帝待望論を封殺しておかなければならなかった。

 

 

 

昨日も文官達と三国会議の内容をめぐって議論が紛糾し結論への道筋さえ見えていない。

 

彼らの言い分も道理にかなっている。

 

華琳に仕えている者達の多くは、王としての能力や権威に対して従っているのであり、少女たちのように華琳を一途に愛し敬っているわけではない。

 

また彼らも自らの生活があり、自身の名誉や糧を得るために仕えているにすぎない。

 

乱世もほぼ終結し秩序ある世界へと向かいつつある中で出世していくためには、王よりも皇帝に仕えていた方が都合がいいということだろう。

 

それを踏まえて文官達を論破しなければならない。

 

しかも魏一国の問題ではない。

 

華琳が皇帝に就かなくても、劉備や孫策が皇帝となり独立した一国となってしまえば三国の関係の基盤そのものが崩れ去ってしまう。

 

会議の議題にすら乗せるわけにはいかない。

 

そんな悲壮な決意すらもって対応策を練っているのであった。

 

 

 

ただ、ひたすら冷静に現実を見ている彼女にも一つだけ淡い想いがあった。

 

「・・・がいたなら」

 

悔しいけど違う結論が導けるかもしれない。

 

だけどそれはあくまで誰かにすがるような叶わない期待に過ぎない。

 

少女は今日で何度目となるかわからない甘い考えを振り払おうと頭を2、3度強く振り、再び対応策を練り始めるのだった。

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同じ頃、許都の別の一室・・・

 

魏王たる華琳も同様の悩みに囚われていた。

 

公私混同も甚だしいが、一刀以外の相手は考えられない。

 

とはいえ、いつ帰ってくるかもわからない。

 

冷静に期限を設けようとすれば、待って後2年ほどであろう。

 

いまだ乱世を引きずっている間はよいが、秩序ある世界となってしまえば世間からはそれこそ帝位の簒奪と見られ大乱のきっかけとも成りかねない。

 

公を優先して別の者と子をなした後に一刀が戻ってきてしまったら私の心が保てないかもしれない。

 

「ふぅ・・・」

 

いつものようにため息ばかりで考えが纏まらない。

 

その時一つの考えが頭に浮かび、まさに天啓がひらめいた。

 

しかしその中身は天啓と呼ぶには空恐ろしい考えではあった。

 

 

 

華琳の回りにあれだけ美しく優秀な家臣達が数多くいるということに改めて気付いたそうである。

 

 ちょっと秘術を探してきて誰かを私の相手にすればいいのでは・・・

 

 一刀も愛した者が私の相手であれば文句もないでしょう・・・

 

 ふふふ、誰がいいかしら・・・

 

ちょっと可笑しな微笑を浮かべ、想像の世界へと旅立つ。

 

今日はいつもの苦悩から逃れることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、明日の朝には余分な苦悩を背負うことになった・・・

 

 

 

・・・つづく

説明
遅くなりましたが続きです。
意見等ございましたら、お待ちしておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

最後のページは・・・。
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コメント
末期ですねw(ブックマン)
おいおい・・・・なんかヤバ気な展開だぞ? 大丈夫か?(峠崎丈二)
宝くじの一刀賞を当てたかな(誤字にあらず)(サイト)
これは荀ケを応援せざるをえない(とらいえっじ)
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真・恋姫†無双 華琳 

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