「赤ひげ」 |
説明 | ||
山本周五郎原作の「赤ひげ診療譚」を元にした、船越英一郎さん主演のテレビドラマ「赤ひげ」の舞台版を観に行ってきた。 東京ドームの近くにある小石川植物園には今も井戸が残る。 江戸時代、徳川吉宗政権下の享保の改革で開設された小石川養生所にあった井戸で、舞台でもしっかりと出てきた。養生所の内部や奥行きは黒澤明監督の映画『赤ひげ』を見れば「思った以上に広い」という感想を持つと思う。 その広い養生所の戸の一つを開ければ、弱っているのに医者に払う金もない窮乏した市井の人達が身を寄せ合っている、という場面が序盤に出てくる。 長崎で蘭学を学び、当時の最先端医療を知った若き医者保本登が幕府から配置されたのがこの小石川養生所。自分の居場所はこんな所ではないと周囲に隠さずに態度に出していたが、所長である赤ひげ先生こと新出去定(にいできょうじょう)と接して、徐々にその考えが変わっていく。 作品を通じて描かれるのは「貧困」とそれを救済しようとしない者の「無知」。そして「徒労に賭ける」という絶望と相対する赤ひげと保本達見習い医師達の奮闘ぶり。 特に印象深いのは原作にもあった「鶯ばか」という場面。 貧しい長屋で家族と住み、いつも鳥の入っていないカゴを持ちながら「千両の鳴き声がする!」と満面の笑顔を浮かべる男。 傍から見れば頭のおかしい奴という所で「鶯ばか」というあだ名がついていた。養生所の医者に見せても頭に異常は見受けられない。 これは当時の医者では見つからない病状なのか、それとも一時現実を忘れるための男の演技なのか。 それを知ってか知らずか、父親の喜ぶ顔を見て家族も嬉しそうだ。 どうせ困窮から抜け出せないのなら幻想を持って自分達だけの幸せを感じる。のちに一家心中を図るココの所は見ていて心が痛む場面だったな。 幕府のお目見え医を断り、養生所に残る決断をした保本に「お前は必ず後悔をする」と言う赤ひげ先生。原作では冷たく言い放つようにして終わったが、舞台では船越英一郎さん演じる赤ひげは言った後に、鯉のぼりを上げて笑う。櫓から養生所の人たちを見下ろしながら、 「この人たちの笑顔が見たいんだ」 絶望の中に希望を見せるラストだった。保本も物語の途中、「自分は徒労に賭ける」と言う赤ひげに影響された言葉を発したが、カッコ良さと同時に若さからくる青さも感じた。 最後の赤ひげ先生にも同じ青さが見えたな。 |
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