?73 深海の底へ 
説明
嵐が過ぎ去ったように人はいなくなり
現場は俺と彼女の父親のみになった
「具合、大丈夫ですか?」

父親「ああ、それにしても、深雪が実の子ではないと気づいていたなんて
本人から聞いたのかい?だったら…」

「いえ、彼女は一言も言ってないです
でも4歳のころ引き取ったということは、彼女だって記憶にあるでしょう?」
父親「いや、無いのだ 覚えていないんだよ」
「もしかして、記憶喪失とか?」
冗談交じりの突拍子もない質問だったが、彼の返事は真摯だった

父親「喪失…というよりは、入れ替わっている というイメージだろうか
事故でね あの娘は、自分の母親のことすら、忘れてしまっているんだ」
「えっ?」

父親「君はもう無関係な間柄ではない だから
聞いてもらいたいんだ あの子の過去。私の懺悔を…

まず、私の兄のことから触れなければなるまい
兄は、後継者として厳しく育てられた 父もあんなに丸くなかったよ

でも兄は期待に応えた、決して天才ではなかったが、必死の努力で。
留学も終え、仕事に就くと、周りの評価も上々だった

でも、本人も恐らく知らないうちに、酷いプレッシャーとなって
兄を襲っていたのだろう。普段真面目にもかかわらず自分でも知らない間に
繁華街に一人、拠り所を求めてさまよっていたらしい

気まぐれで入ったバー。そこででたまたま歌手として
周りを魅了していたのが…
あの娘の実の母親だった」
「つまり母親も、芸能関係の女性だったと?」
「まだ駆け出しだったようだがね
捨て子で身よりもなく、天涯孤独ゆえ施設で育ち
自分の才能だけでのし上がろうとする、そんな女性だったようだ

一目惚れした兄は、その場で積極的にアタックしたらしい
まともに女性と付き合ったこともなく 父の決めた婚約者も既に居たのに…
その不器用だが真面目な姿勢に、周りの男とは違った魅力を感じた彼女も
兄を受け入れた」
そこまで言うと彼は深呼吸した それはまるで今まで喉につかえていたものを
飲み下すような、不思議な解放感を感じさせた
(続く)
+++
過去語りですが悲しめなんで神秘的な表紙で


作品において
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コメント
>ふかやんさま それに応えるのもまた才能なんですよね この根気強さが見事に受け継がれてますね(みらくる☆)
>mokiti1976-2010さま どうやら不幸の事故だったようですね…(みらくる☆)
事故…本当にただの事故なのだろうか?(mokiti1976-2010)
……父親の期待に応えなければならないと自分を追い詰めていたんですね、深雪のお父さんは。(ふかやん)
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