英雄伝説〜黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達〜 |
ゼムリア歴1208年、8月16日、PM10:05――――――
遥か昔よりエレボニアに巣食い続けた”巨イナル黄昏”という呪いを利用して大陸全土を終焉に導き、エレボニアの名の元に新たなる秩序を築き上げようとした鉄血宰相ギリアス・オズボーンがメンフィル・クロスベル連合との戦争によって敗戦し、またオズボーン自身もその戦争によって討伐されてから4年後、エレボニアとの戦争の前にメンフィル・クロスベル連合によって滅ぼされたカルバード共和国の首都にある名門高等学院の寮のある一室である異変が起ころうとしていた。
〜クロスベル帝国領・旧都イーディス・アラミス高等学校・女子寮・アニエスの私室〜
「えっと、明日の授業は………」
アラミス高等学院に通っているある清楚な雰囲気を纏わせた金髪の1年女子生徒――――――アニエス・クローデルは時間割を確認しながら鞄に翌日の授業に必要な教科書等を入れていた。するとその時、突如その場に強烈な光が迸った!
「キャッ……!?」
突然の出来事と眩しさにアニエスは思わず声を上げて目をつぶった。
「今の光は一体…………?――――――え。」
光が消えた後目を開けたアニエスは困惑しながら周囲を見回すと何とアニエスがいつも使っているベッドに一人の女性天使が倒れていた。
「………う……くっ……」
「て、”天使”……?――――――!!そ、それよりも怪我をしているようですけど大丈夫ですか……!?
天使は満身創痍の状態で呻き、天使を目にしたアニエスは一瞬呆けたが全身にある天使の傷や天使自身についている大量の血を見るとすぐに血相を変えて天使に声をかけた。するとその時、扉がノックされた。
「(こんな時に一体誰が……)――――――はい、どなたですか?」
「私よ、アニエス。何か騒がしいようだけど、何かあったのかしら?」
「その声は……レン先輩!その……何かあったというか、今起こったというか……とにかく鍵は開いていますから、中に入ってください!緊急で先輩に相談したいことがあるんです!」
扉をノックした人物が自身が学院の中で最も信頼する人物にして尊敬する人物であり、また自身の私室の隣人でもある”とある女子生徒”である事に気づいたアニエスは安堵の表情を浮かべた後倒れた天使を見つめながら困惑の表情で答えを濁し、そして部屋に入るように促した。
「?とにかく中に入らせてもらうわね。――――――あら。」
アニエスの答えを聞いた”とある女子生徒”――――――ある目的の為に身分と正体を隠して”交換留学”という体裁でアラミス高等学院に滞在し、更に”とある出来事”によって生徒会長に就任した”レン・ヘイワーズ”は部屋に入った後すぐ目にした満身創痍の状態の天使を見ると目を丸くした。
「”天使”とは随分と珍しいお客様ね。――――――一体何があったのかしら?」
「それが………」
興味ありげな様子で天使を見つめたレンはアニエスに説明を要求し、アニエスは戸惑いながら天使が現れる前の出来事を説明した。
「……………(アニエスの話から察するに、十中八九この天使は並行世界のキーアの仕業でしょうね……それにしても、わざわざアニエスの部屋にこの天使を転位させたという事はもしかしてアニエスもエステルやロイドお兄さん、リィンお兄さんのように何らかの大事件に関わる”中心人物”になるという事かしら……?)――――――怪我をしているようだし、とにかくまずは手当てをしてあげましょう。」
アニエスからの説明を聞き終えたレンはその場で目を伏せて考え込んだ後目を見開いてアニエスに視線を向けて考え込んだがすぐに考える事を一旦止めて指を鳴らした。すると異空間から救急箱が現れた。
「ええっ!?と、突然救急箱が………えっと、メンフィル帝国出身のレン先輩は異世界の”魔法”――――――いえ、”魔術”を使える話は少しだけ聞いた事がありますけど、それも”魔術”の一種なんですか?」
救急箱が突然現れた事に驚いたアニエスはレンにある事を訊ねた。
「ええ。指示は私が出すから、アニエスは私の指示に従って天使さんの傷の手当てをしてあげて。」
「はい……!」
そしてレンとアニエスは二人で協力して天使の手当てをした。
「これでよし……と。天使さんから事情を聞くのは目覚めてからにするとして……アニエス、ベッドはそちらの天使さんが使っているから、今晩――――――というか天使さんが動けるようになるまで自分はどこで寝るかとか考えているかしら?」
「い、いえ……突然の事なんでそこまで頭が回らなくて……あはは……床で眠るしかないですよね。」
レンのある指摘にアニエスは苦笑しながら答えた。
「フウ、仕方ないわね。」
アニエスの答えを聞いて溜息を吐いたレンは再び指を鳴らした。すると今度はベッドが天使が使っているアニエスのベッドの対面に現れた。
「幾らまだ夏とはいえ、大切な後輩を地べたで眠らせるような事は私が許さないわ。だからそのベッドを使いなさい。部屋は狭くなるでしょうけど、地べたで眠るよりは断然いいでしょう?」
「は、はい!お気遣いありがとうございます!えっと……レン先輩。これは素朴な疑問なんですが……救急箱はわかりますけど、どうしてベッドまで携帯……?しているんですか?」
レンの指示に頭を下げて感謝の言葉を口にしたアニエスはある疑問をレンに問いかけたが
「うふふ、それは乙女のヒ・ミ・ツよ♪」
「あはは………」
レンは口に指をあてて小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化し、レンの答えにアニエスは冷や汗をかいて苦笑した。
8月18日――――――
「ん………ここ……は………?」
二日後、アニエスが何かの本を読んでいるとアニエスとレンによって手当てされた天使が目覚めた。
「!目覚めたんですね……!よかった……!」
天使が目覚めるとアニエスは読書を中断して天使を休ませている自分のベッドに近づいて声をかけた。
「人間………?何者です……?それにここは一体……」
「私はアニエス・クローデル。アラミス高等学校に通っている学生です。そしてここはアラミス高等学院の女子寮の私の部屋です。」
「”アラミス高等学校”……?……どうやら、ここは私が知るいずれの場所ではなさそうですね。アニエス、でしたか。貴女には伺いたい事があるのですが。」
アニエスの自己紹介を聞いた天使は戸惑いの表情を浮かべた後すぐに自分が陥っている状況を推測した後アニエスに視線を向けて問いかけた。
「えっと、それはいいのですけど、天使様の事は何と呼べば……?」
「……失礼。――――――私の名はメイヴィスレイン。天使階級第五位”力天使(ヴァーチャーズ)”です。」
アニエスの問いかけを聞いて自分がまだ名乗っていない事を思い出した天使――――――メイヴィスレインは自己紹介をした。その後アニエスはレンを呼んでメイヴィスレインにレンと共にゼムリア大陸の事を説明した。
「………私が何らかの要因によって異世界であるこの世界に転位した事もそうですが、私達の世界――――――ディル=リフィーナにある国の一つであるメンフィル帝国という国――――――私達天使のような”光”に属する者達が魔族達のような”闇”に属する者達と共に協力して生きている国の存在等信じるとでも?――――――ましてや、その国の出身者を名乗り、更には”魔族の魔力を宿す人間”である貴女の戯言に。」
「ま、基本”魔族滅すべし”の考えを抱いている天使の一人であるメイヴィスレインさんが信じられないのも仕方ないわね。――――――だけど、メイヴィスレインさんも”天使”なんだから、私はともかく、純粋に貴女を心配しているアニエスに二心がない事くらいはわかるでしょう?」
事情を聞き終えて厳しい表情で自分を睨むメイヴィスレインの答えを聞いて肩をすくめたレンはアニエスに視線を向けて指摘し
「それは………」
「え、えっと……話はよくわかりませんけど、レン先輩は私にとってはとても頼りになって、優しい先輩なんです。メイヴィスレイン様の傷の手当ても的確に指示してくれた上その後の色々な問題についても解決してくれましたから、少なくてもレン先輩にメイヴィスレイン様を騙す等と言った意図は絶対にありません。」
レンの指摘でアニエスに視線を向けたメイヴィスレインが答えを濁している中アニエスは真剣な表情でメイヴィスレインを見つめて答えた。
「………………………………」
「それよりも、メイヴィスレインさんがアニエスの部屋に現れた時、随分な重傷を負っていたけど、理由を聞いてもいいかしら?」
全く濁りのない澄んだアニエスの瞳に見つめられたメイヴィスレインが黙り込んでいる中レンはある事をメイヴィスレインに問いかけた。
「……その件は私にとっては信じ難いかつ屈辱的な内容なのですが、貴女達には傷の手当ても含めて世話になっているようですし、特別に説明して差し上げます――――――」
レンの問いかけに対してメイヴィスレインは当時の出来事を思い返して表情を歪めたがすぐに気を取り直して自身の事情――――――ある”霊峰”の守護を任された自分が魔族との戦いに敗れて虜囚の身になりかけたが、魔族の虜囚になる事が”死”よりも辛くかつ屈辱だったメイヴィスレインは自身に残っていた魔力を暴発させて自ら谷底へと落下しながら意識を失った事を説明した。
「……なるほどね。(魔族達との戦いに敗れて………まさかね。)――――――ま、とにかく今は傷の回復に専念なさい。アニエス、引き続きメイヴィスレインさんの看病をお願いね。」
「はい……!」
メイヴィスレインの話を聞いたレンはとある天使――――――リィンの守護天使の一人にして、リィンに仕えている白銀の髪の天使の智将――――――”力天使ルシエル”を思い浮かべた後アニエスに指示をし、レンの指示にアニエスは力強く答えた。
8月25日――――――
更に一週間後、ようやく傷が完治したメイヴィスレインは最後の包帯をアニエスに取ってもらっていた。
「うん、これでようやく傷も完治しましたね!」
「ええ。貴女の献身的な看病のお陰です。貴女の慈悲に心からの感謝を――――――アニエス。」
「そ、そんな……!私は当然の事をしただけですから、わざわざ頭まで下げなくていいですよ、メイヴィスレイン様!」
包帯を取ってもらった後頭を下げて感謝の言葉を述べたメイヴィスレインの様子にアニエスは謙遜した様子で答えた。
「それでメイヴィスレインさんはこれからどうするつもりかしら?」
「……最初は魔族達に奪われた霊峰の奪還の為にも私が撃破された事で撤退した天使達と合流、そして反撃の後奪還を考えていましたが……そもそも私が撃破された事によって、今の天使達の指揮官は変わっているでしょうし、それ以前に霊峰に辿り着く道のりすらもわかりませんから、恥ずかしい話正直今後の事についてどうすればいいかわからない状況です。」
「メイヴィスレイン様……」
レンの問いかけに対して複雑そうな表情を浮かべて答えたメイヴィスレインをアニエスは心配そうな表情で見守っていた。
「―――――だったら、メイヴィスレインさんの方針が決まるまでアニエスに対する”恩返し”の意味でもアニエスの”探し物”を手伝う為に一時的にアニエスと”契約”してあげたらどうかしら?」
「レ、レン先輩!?突然何を……」
するとその時レンがある提案をし、レンの提案を聞いたアニエスは驚きの表情で声を上げてレンに視線を向けた。
「アニエスの”探し物の手伝い”、ですか?”力天使”である私の”契約”が必要な程、貴女の”探し物”とやらは困難な道のりなのですか、アニエス。」
一方レンの提案が気になったメイヴィスレインはアニエスに問いかけた。
「えっと、”契約”というのが何かわからないのですが、その……私の探しているある物についてなんですが――――――」
メイヴィスレインに問いかけられたアニエスは自身の探し物は曾祖父が残した古い導力器(オーブメント)でそれが8つあり、曾祖父の日記にその8つの古い導力器(オーブメント)をある年までに取り戻さないと『全てが終わる』という不穏な言葉が記されており、それを知ったアニエス自身は何とかしなくてはという思いが日に日に強くなってきた事によって曾祖父が残したという8つの古い導力器(オーブメント)を探している事を説明した。
「……という訳なんです。勿論、亡くなる間際の妄想かもしれません。ですが祖母から母、そして私へと受け継がれた事を考えると私自身は本当だと思っているんです。」
「………………………………――――――いいでしょう。そちらの人間の提案というのは気にいりませんが、貴女に恩があるのは”事実”。貴女の”探し物”とやらが見つかるまで、”力天使”たるこの私が貴女の力となりましょう、アニエス。」
アニエスの話を聞き終えて目を伏せて黙って考え込んでいたメイヴィスレインは目を見開いてレンに視線を向けた後答えを口にした。
「え……ほ、本当に私に力を貸して下さるんですか……!?その……レン先輩の話によりますと、メイヴィスレイン様は天使の中でも高位に位置する階級の天使様と伺っていますが……」
「呼び捨てで結構ですし、気安い態度で構いません。貴女は私の”契約者”になるのですから。――――――今から”契約”を行いますから、両手を出しなさい。」
自分の申し出を聞いて驚いている様子のアニエスにある指摘をしたメイヴィスレインはアニエスにある指示をした。
「えっと……こうですか?」
「ええ。――――――”力天使”メイヴィスレイン、これより貴女の力となりましょう。私の力が必要になれば、いつでも私の名を呼びなさい。」
そしてアニエスが両手を差し出すとメイヴィスレインはアニエスの両手を握って自身の魔力とアニエスの魔力を同化させた後光の球となってアニエスの身体の中へと入った。
「メイヴィスレイン様――――――ううん、メイヴィスレインが消えて光の球体になった後私の中に……」
「ふふっ、よかったわね、アニエス。心強い護衛ができて♪以前も少しだけ説明したように天使は階級が高ければ高いほど、強力な”力”を持っているから、”第五位”の”力天使”であるメイヴィスレインさんの戦闘能力も当然高いわよ。――――――それこそ、メイヴィスレインさんが”本気”を出せば”軍”をも退かせることができるかもしれないわよ♪」
呆けた表情で自分の身体を見つめているアニエスにレンは小悪魔な笑みを浮かべてアニエスを祝福した。
「あ、あはは………『一人で軍も退かざるを得ない力を発揮する』なんて、さすがにそれはヘイワーズ先輩の過剰評価だと思うのですが……そういえば、メイヴィスレインはレン先輩の事をあまりよく思っていない態度を見せていましたけど、どうしてなんでしょう?レン先輩も私と一緒にメイヴィスレインの手当てをしたのに……」
「(大方メイヴィスレインさんは私の力――――――”魔人としての力”にも気づいていたのでしょうね。)さあ?それこそ神――――――いえ、”天使のみぞ知る”、でしょうね。」
レンの推測に冷や汗をかいて苦笑したアニエスはある事を思い出して戸惑いの表情で疑問を口にし、アニエスの疑問を聞いたレンはメイヴィスレインの考えを悟っていたが、それを口にせず苦笑しながら肩をすくめて答えを誤魔化した。
(それにしてもダメ元で提案したとはいえ、まさか本当にアニエスと天使――――――それも力天使(ヴァーチャーズ)程の高位の天使が”契約”する事になるとはね。メイヴィスレインさんの件は並行世界のキーアの仕業である事を考えると、アニエスは今後間違いなく何らかの大事件に関わる”中心人物”になるでしょうね。”大事件”………――――――!まさかとは思うけど、”A”絡みかしら?)
ベッドを回収してアニエスの部屋を出たレンはアニエスの部屋を見つめながら真剣な表情で考え込み、ある心当たりを思い出すと目を細め
「うふふ、どうやら”終焉を超えた新たな物語の主役”はアニエスと貴方になりそうね、裏解決屋(スプリガン)さん♪」
やがて”とある人物”を思い浮かべて意味ありげな笑みを浮かべて呟いた後自室に戻って行った――――――
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プロローグ 前篇〜陽だまりと護り手の出会い〜 以前にも同じ話を投稿しましたが、プロローグにも当たる話なので黎篇を本格的に始める為再投稿しました。 |
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