Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)三巻の2
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第二章 嫌われ者

 

 

 試験勉強を始めて、一週間たった。

 週末の休日、今日も朝から勉強……だったのだが。

 今は本島に在る魔連の研究施設へと向かっていた。

「リョウさん、すみません。今忙しいときなのに」

運転席に座っている、蒼髪の女性ルナが、バックミラーでリョウを確認しながら、申し訳なさそうに言ってきた。

 持っていたノートを眺めていたリョウは「ん?」と呟くと顔を上げた。

「別にいいぜ。そのお陰で、これ、もらえたから、な」

リョウは持っているノートがミラーに映るように、ヒラヒラ振りながら嫌味っぽく答えた。

 今、リョウが向かっている施設では、数ヶ月に一度、リョウの体の検査の為に通っている。

 なぜ通っているかというと。

 二年前に起きた事件。

 その時、リョウの中の能力が暴走し、大惨事を起こした。

 そのため、保護された後、再発を防ぐ為に通っている。

 だが、検査といっても血を採ったり、機械で魔力を測る、といった、簡単な検査である。

 そんな嫌味を言うリョウに、助席に座っているマリアが、席の間から顔を覗かした。

 その顔には、リョウの魂胆が判っている、と言わんばかりに、笑みを浮かべていた。

「残念ね。逃げれると思ったのに」

「……人の心を勝手に読むの、やめてくれよ」

その言葉に、リョウは嫌そうな顔を浮かべた。

「まあ、後でご飯でもご馳走するからさ。機嫌直しなさい」

「それは、どうもありがとさん」

マリアの笑みに、リョウは適当に相槌を打つと、ノートに視線を戻した。

 そんな二人のやり取りに、ルナは苦笑いを浮かべた。

「リョウさん機嫌直してください。リリも、夜遅くまで、一生懸命作業していましたよ。あの子、責任感強い子ですから……」

「別に、悪く言うつもりねぇよ…世話になってる身だし、な」

ルナの言葉に、リョウは少し恥ずかしくなり、右手で後ろ頭をかきながら返答した。

 そのリョウの返答にルナは「それならよかったです」とうれしそうに言ってきた。

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 そんなリョウの姿に、マリアが楽しそうな笑みを浮かべて、こちらに振り返ってきた。

「じゃあ、帰ったらまた、地獄が待ってるわね。

 いやー。愛されてる男はいいわねー」

「……おもいっきり人ごとだよな」

そんなマリアを、リョウは睨み付けた。

 

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 車は目的の場所に着くと、リョウたち三人は研究施設に入った。

 施設に入るなり、マリア、ルナと別れ、リョウは検査を受けるため、研究員の案内について行った。

 検査は採血、MRI、魔力検査などいくつかの検査を受けた。

 やっとのこと終わるころには、毎回半日潰れ、リョウはグッタリして検査室からでるのだった。

 今日も、もちろん疲れた。

 そんなことを思いながらロビーに向かうと、ルナが椅子に座って待っていた。

 そして、こちらに気付くと、手を振って呼んできた。

 リョウは無言で、ルナの横に座ると、ポケットからリリに渡された単語帳取り出し、眺め始めた。するとルナが「どうでしたか?」と聞いてきたので「いつも通り」と答えるとそれ以降何も聞いてこず、リョウは単語帳に集中した。マリアはもう少し帰ってこないだろ。

 二人はしばらく待っていると、ふと、リョウの前に人影が現れた。

 リョウはもちろん無視した。

 だが、横にいたルナは、すぐに立ち上がり、

「お疲れ様です。准将」とお辞儀した。

「おう、マーベル。

ガキのお守りか?……ん?」

准将と呼ばれた男性局員は、ルナの横に座っているリョウに気付くなり、険しい顔つきになった。

 だが、リョウはメンドくさいので無視する。

 すると、男性局員はリョウの前に立ち、見下ろした。

「あのときのガキか。

こんな化け物がまだ、生かしてるとわな。

オメエらもの好きだな」

「……」

この男も、あの事件の関係者か……。

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 そんな言葉を言われても、リョウはいつもの事のように何も言い返さず、心を無にして流す。

 背負うと決めたから。

「オマエも研究員も物好きな奴らばかりだからよかったな。

お前の使いみちなんか、こんなことしか―――」

「そのあたりでやめてもらえませんか?」

すると、ルナが男の言葉を遮った。

 顔には、普段見せない険しい表情を浮かべていた。

 男性局員はその表情怯むと、体を少し引いた。

 リョウもいつもと違うルナに驚くと、顔を上げ、マジマジとその表情を見た。

「あの事件はもう解決したはずです。

今更になってあれこれ言うのはおかしいのではないでしょうか?」

「そ、それはそうだが……」

「これ以上、リョウさんに何かあるなら私が聞きます」

と、ルナは言い放つと、男性局員を睨みつけた。

 それに男性局員は恐れると、また少し引いた。

 沈黙が数分間続いた。

 すると、いきなりリョウの横から、

「なに睨み合ってんの? 

あんたたち」と声がした。

そこに現れたのは呆れ顔をしたマリアだった。

「キミもそんなところで油売ってないで仕事しなさい」

「え? あ、はい判りました!」

男性局員はそう言われると、逃げるようにしてその場から去っていった。

 マリアはそれを見届けると、ため息をつき、ルナの方を向く。

「またリョウ絡みでしょ? 

あんたがそんな顔するのは大体そんなときだから」

「す、すみません」

マリアの指摘に、ルナは恥ずかしそうに顔を赤くすると、小さくなった。

 その様子にマリアは苦笑いを浮かべると、

「まあ、いいけど。

姉バカも程々にしなさい」

「……はい」

ルナは返事をすると、ますます小さくなった。

「さてと、検査も終わったし、そろそろお昼だから何か食べに行こうか? 何かリクエストある?」

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「別になんでも」

その問いに、リョウは素っ気無く答えるが、

「じゃあ、近くのうどん屋があったからそこでも行こうか」と関係なしにマリアはことを決めた。

 その提案に二人は、

「いいですね」

「良いぜ」と答えと、

「じゃあ、行こうか」

とすぐにお昼が決まり、三人は目的地に向かった。

 

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三人はそこで食事を終えると、仕事があるからとの理由で、リョウをリリが待つ家に下ろすと、マリアとルナはさっさと仕事に戻っていった。

 部屋に帰ったリョウはマンションの部屋の扉を開けた。

 だが、そこには悪魔がいた。

 待ち構えていたリリはすぐに、

「じゃあ、始めようか」

と言って、有無も言わさず、リリの部屋に押し込まれた。

 そのときの力は、もしかするとリニアを超えたのでは?

 そのあと、始まることは思い出したくもなかった。

 

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 リョウの決戦(テスト)の日が始まった。

 兵士科は、他の科より筆記の教科は少ない。

 今回の期間は二日間。

 一日目、なんとか乗り切った。

 二日目の最終日……考えないことにしよう。

 そんなこんなで、リョウの魔の二日間は終わりを迎えた。

 リョウは力尽き、机に伏せっていると、楽しそうな笑みを浮かべたサブが、近づいてくるなり、前の空席に座った。

「それで…できたか?」

その問いに、リョウは顔を上げると、

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「なんとか……な。

今回ばかりはあいつに感謝だ」と答えた。

「よかったじゃねぇか。

人選は間違ってなかったみてぇで」

そうだな、とリョウは相槌を打った。すると、いきなりポケットの中のケータイが震えた。

 リョウはダルそうにポケットから携帯を取り出し、ディスプレイを見て確認した。

 メールで、送信者はリリだった。メールを開くと『テストできた?』とのことだった。

 その問いに、リョウは『まあな』と送り返すと、すぐに『よかったね。がんばったかいがあったね。あと、少し用があるから先に帰るからね』と返ってきた。

 そんなリョウの様子を眺めていたサブが笑みを浮かべていた。

「なんだ?

彼女からのラヴメールか?」

その言葉に、リョウはディスプレイからサブの方へ視線を移すと、

「んなわけねぇだろ。

だいたい、誰から来るんだよ?」

と答えると、なぜかサブが呆れ顔を浮かべて、

「ここまでいくとある意味、すげーな」と言ってきた。

 リョウは意味が判らないので無視して『了解』とメールを打つと、ケータイをポケットにしまった。

 その瞬間、サブは席から立ち上がると。

「んじゃ、次の実技試験の課題でも見に行きますか?」と言ってきたので、

「そうだな」と答えると、リョウも席を立った。

 そのまま、二人はクラスを出て、課題が発表される学生課に向うのだった。

 

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 リョウとサブは、実技試験の課題が掲示されている学生課の前にきた。

 教室に入るなり、中はたくさんの生徒があふれかえっており、明らかに定員オーバーだった。

 二人は何とかして、課題の張り出されている掲示板の前まで行った。

 そこに書かれていたのは、

一週間以内に第三演習場にいるガゼルの角を取ってくること

 この第三演習場とは、学園が管理する三つの訓練施設の一つ、樹海エリアのことである。

 この学園では、訓練所一つ一つにさまざまな怪物が危険難易度別に放し飼いしている。

 普段は、立ち入り禁止区域だが、このような試験のときなどに開放されて使われている。

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「条件は……二人以上、四人以下で参加すること、か」

「その条件は、いつものメンバーでクリアだな」

そう言うなり、サブは周りをキョロキョロっと、辺りを見渡し始めた。

 すると、いきなり教室の扉が開いた。

 サブはすぐに視線を扉の方へ向けると、目的の人を見つけたのか、

「おーい! リニアこっちだ」と笑顔で手を振りながら叫んだ。

 リョウもサブが叫んだ方に視線を向けた。

 こちらに気付いたリニアは、明らかに嫌そうな顔を浮かべていた。そして、人ごみをよけながらこっちらに向かってきた。

「あんまデケェ声出すんじゃねぇよ。まったく…で、なんだ?」

「? んなもん決まってるだろ?」

と、サブは呆れながら言うと掲示板に張られている課題を指した。

 リニアは「はぁ?」と言うと、視線を掲示板の方へ向けた。

「……なるほど、な」

「で、お前もう誰かと組んでんのか?」

「んなわけねぇだろ。

今、課題確認したんだからよぉ」

「じゃあ、一人確保だな」

「……おい。勝手に決めんじゃねぇよ……。

って、言っても聞かねぇだろうけど、な」

と言うと、リニアはあきらめた様な溜息をついた。

 まあ、こいつに反論しても無駄だと判断したんだろう。

 サブはまた、キョロキョロと辺りを見渡すと、もう一人の犠牲者を見つけると、

「ジーク!」と呼んだ。

 すると、それに気付いたジークは、誰かと話していたのか、近くにいた人に一言二言、言うと人ごみを避けながらこちらに向かってきた。

 サブもそれを見ていたのか、

「お前、誰かと決まったのか?」と言った。

 その言葉に、ジークは、

「ごめん。他の子たちにさっき誘われちゃって、今登録するところだったんだよ」

と申し訳なさそうに答えた。

「そうか、じゃあしょ―――」

「―――ジーク!そろそろ登録しようぜ!」

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と少し離れたところから声が聞こえてきた。そちらの方を見ると、男子生徒がこちらに向かって手を振って、ジークを呼んでいた。

 ジークはそれに向かって、手を上げて答えると、

「うん! 今行く!……じゃあ、ごめんね」

と言った。

 サブは「おう」と答え、ジークはそれを聞くと、人ごみの方へ消えていった。

 リョウは受付の方を見ると、人だかりができていた。

 これは当分、受付できないだろう、な。

 そんなことを考えていると、サブが、

「こりゃー、当分無理だな。受付は明日にしようか?」

とこちらに訊いてきた。

 リニアは「そうだな」と返事を返し、リョウは

「あれに、行く気にはならねぇな」

とうんざりした顔で返事を返した。

「んじゃ。今日は解散だな」

ということで、三人の意見は一致し、今日は解散することになった。

 

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 リョウはマンションに帰ると、そのままリビングに向かった。するとそこでは、リリが机の上一面に本やメモを広げて、座っていた。

 後ろから覗いてみると、本はどれも分厚く、数式や記号などが書かれていて、さっぱり判らない。

 そして、当の本人はそれを前にして、何やら悩んでいた。

 リョウは「……なにしてんだ?」とリリに声をかけた。

 その声に気付いたリリは、顔を上げ、こちらに振り向くと「あ」と呟いた。

「おかえり」

「なに悩んでんだ?」

その言葉にリリは疲れたような溜息をつき、

「ちょっと課題でトラブルが起きちゃって、ね」

「トラブル?

お前のとこの課題、何やるんだ?」

「リバリーボトル(回復薬)の精製……で、これがレシピ」

リリは机の上にあるメモの中から一枚の紙を取り出し、リョウに手渡した。

 リョウはそれを受け取ると、目を落とした。そこには材料や分量などが細かく書かれていた。

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 だが、どこが悪いのか判らない。

 リョウは視線をリリの方に移した。

「これだけ調べられてるなら後は簡単じゃないのか? どこがまずいんだ?」

「レシピは、ね」

「?」

リョウは訳が判らず首を傾げた。

「材料がね。

どうしても一つだけ手に入れられなかったの」

その言葉にリョウは、もう一度メモに目を落とした。

「どれがないんだ?」

「……ガゼルの角」

確かに、メモにはそれが入っていた……ガゼル?……確かそれって……。

「ガゼルって、あのガゼルの角か?」

「?……たぶんリョウ君が思っていのだと思うよ」

「それ、俺たちの課題で採りに行くぜ」

「……え?」

リリはその答えにポカ〜ンとした顔をして、こちらを見上げてきた。

 そのまま数秒、リリはその表情はまま、

「角、手に入るの?」と訊いてきた。

「まあー、一応俺たちも手に入れ……って、何してんだ?」

リョウが何か言い終わる前に、リリは急いで携帯を取り出し、すぐにどこかに電話をかけ始めた。

 すると、何も言わず、その携帯をこちらに差し出した。

 リョウは訳が判らず、ただただその携帯を受け取った。

『なんだ? リリ、どうかしたか?』

スピーカーから聞こえてきたのは、サブの声だった。

 リョウは横目でリリを見ると、頼み込むようにこちらを見ていた。

 それを見たリョウは、すべてを理解し、大きなため息をついた。

「サブ、俺だ」

『リョウ? なんでお前がリリの携帯からかけてんだ?』

「……成り行きだ」

『……まあいいや。で、なんか用か?』

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今の間は、むこうで懸念な顔をしたのだとよく判る。

 リョウは触れずにそのまま会話を続けた。

「課題のメンバーは、兵士科しかダメなのか?」

「いーや。

別にどこの科の奴でも構わねぇよ……でも、クリア対象は兵士科だけ、だけどな」

それを聞いたリョウは、もう一度リリを見ると、真剣な目でこちらを見ていた。

 リョウは電話に戻り、

「リリ、メンバーに入れちゃーダメか?」と聞いた。

『リリ? なんでリリを呼ぶんだ?』

「それは―――」

リョウは今さっきまでのリリとの会話をサブに伝えた。そうすると、サブから「なるほどな」という言葉が返ってくると

『別にいいぜ。

戦力になってこっちも楽になるし、な』と賛成してきた。

「判った。じゃあ明日、リリも連れて行く」

『了解』

と、サブは答えると、通話を切った。

 リョウも切ると、すぐにリリから「どうだった?」訊かれると、「良いだって」と答えてやった。

 すると、リリの表情はパッと明るくなった。

「ありがとうリョウ君。これで、課題、なんとかなりそうだよ」

とうれしそうにお礼を言ってきた。

 すると、リリは急いで机の上にある本を集めると、それを持って立ち上がり、リョウを横切って部屋を出ていった。

 リョウはそれを見送ると、一仕事終わったかのようにソファーに座った。

 すると、いきなりドアが開いた。リョウはそちらに視線を向けると、リリが顔だけ覗かせ、

「リョウ君。すぐにおいしいご飯作るからね」

とうれしそうに言うと、そのまま去っていった。

 リョウは急に元気になったリリのその姿に呆れると、開けっ放しのドアをただ見つめるのだった。

 

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 同時刻、魔法連盟保護局南支部支部長室。

「……なるほど、ね。

やっぱりこの前より数値が上がっているわね」

 そこでは椅子に腰掛けているマリアが、電子板を眺めながら呟いた。そして、机を挟んだ反対側にはルナが立いる。

 マリアは一通り電子板に書かれている報告書に目を通すと、机の上に投げた。

 それをルナは拾い上げると、報告書に目を通した。

「はい……やっぱり、四月の事件から侵攻が進んでいるようです」

報告書を一通り見終わったルナは、曇った表情を浮かべると、報告書を机の上に置いた。

 その言葉を聞いたマリアは、椅子に深く座り直すと、それに体を沈めた。

「そのようね。

あのときリリが言っていた、リョウの体に浮かんだという模様って、いうのも気になるわね……たぶん、二年前の事件となにか関係があるんだろうけど……あのときにはそんな報告受けてないから変化があったのは間違いないわね」

「私が暴走に立ち寄ったときも、そのような模様などありませんでした……リョウさんの体に何が起こったんでしょうか?」

「今はなんとも言えないわね」

ルナは曇らせた表情のまま、検査結果の報告書のリョウの名前を軽く指でなでた。

 部屋の空気が重くなり、マリアはため息をついた。

 そして、椅子から立ち上がると窓から空を見上げた。そこには、夕日が沈もうとしている真っ赤な空が広がっていた。

 この沈黙を破ったのは、ルナだった。

 ルナはリョウの名前の欄を撫でながら、優しそうな笑みを浮かべながら口を開いた。

「……大丈夫ですよ。

リョウさんは絶対にあれに呑み込まれたりなんてしないと思います」

その言葉を聞いたマリアは、呆れたような苦笑いを浮かべながら半身だけ振り返った。

「あなたの弟好きには時々感心するわ、ね」

 マリアに言葉に、ルナは顔を真っ赤にし、下を向いてしまった。

 その姿を見ると、マリアは窓の方に視線を直すと、

「あの子の行く末は空のみぞ知るか」

と呟くのだった。

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