Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)三巻の3 |
三章 実技試験1
試験当日。
リョウとリリ二人は、試験を受けるために学園の裏にある第三演習場の入り口前に言った。そこではリニアとサブがすでに待っており合流した。
演習場は金網で囲まれており、扉の横には『第三演習場』と書かれた看板が掲げられていた。
リニアは演習場の森を見上げると、そのありえないほど木々の大きさに呆れながら、
「これ、マジで自然にできたものなのか?」と呟いた。
その言葉に横にいたリリは、
「そうだよ。
確かこの森を切り開いて学園を建てたって聞いたことがあるから……」
と答えると、リニアは「マジ?」と驚いた表情を浮かべた。
そんなやり取りを黙って聞いていたサブは
「そんなことより、さっさと行こうぜ。
俺たちは植物の観察にきたわけじゃねぇんだからよ」
と、リニアとリリに言うと、扉を開けて入っていた。
その言葉に、リニアは不機嫌な顔をすると、
「んなこたぁー判ってんだよ」と悪態をつき、後に続いた。
リョウもその後に続いた。
そのとき、リリは見上げた状態で固まっているのに気付いた。
リョウは「どうかしたか?」と訊くと、リリは「え?」と声を漏らし、視線をこちらに向けた。
「今、なにかが木の上を通ったような気がして……」
その言葉に、リョウも上を見上げるが、そこには何も居なかった。
「気のせいだろ。
早く行こうぜ」
と言うと、リョウは歩き出した。
「そうかなぁ……
あ! リョウ君待ってよ!」
その声といっしょに、後ろからリリが急いでこちらを追ってきた。
1
四人が森に入って一時間ほど経った。
森の中は日差しを遮るように高く生えた木が茂っていた。そして、進む道は険しく、鳥の鳴き声や獣の呻き声などが聞こえてくる。
すると、リニアはダルそうに口を開いた。
「……なかなかいねぇもんだな。
もう結構歩いたぜ……戻るのもメンドくせぇーなこりゃ」
サブも苦笑いを浮かべて、
「こんなところで野宿だけはやりたかねぇわな……まあ、食材には困らなそうだけど」
「オレはパス。
んなところで寝たかねぇー」
「わたしも遠慮しとくよ」
「……」
女の子二人はホントに嫌そうな顔をして賛同していた。だが、リョウはその会話に参加しなかった。リョウは両目を閉じて、その場に立ち止まって集中した。
そのリョウの近くにいたリリは、その行動に不思議に思い、
「リョウ君。どうかしたの?」
「……近い、な」
リリは「え?」と聞き返してくると、リョウは両目を開け、ある方向を見入った。そのときにはもうすでに、目の色を赤くし、戦闘体制はいった。
だが、リリはこちらの意味が理解できないみたいだった。なので、補足する。
「獣の鳴き声だ」
「獣の鳴き声?
それならここまでに何度も耳にしたけど?」
「違う。これは……ほし、だ」
と言い、その方へ駆け出した。
そのいきなりの行動に、リリは「ちょ、ちょっと!」と驚いた声をあげた。
「おい! リョウ、どこに行くんだ?」
サブはこちらに向かって叫んでいたが、止まらずいく。
リョウは耳を澄ましてその方へ急いだ。
そして、リョウは森掛けてくと、開けた空間に出た。
そこには、
「おい。リョウいきなり走しんじゃね―――」
サブがすぐに追いついてきた。
サブがリョウに文句を言おうとしたが、それをリョウは手で制した。
「見ろよ。ビンゴだ」
次にリニアが追いつき、少し遅れてリリが追いついた。
みんなの目の前のものを見た。
リョウたちの目の前には三匹の獣がこちらを睨みつけていた。
《ガゼル》
その姿は目が鋭く、ライオンのような鬣があり、体はとても締まっておりシャープである。そして、爪は鋭く、最大の特徴は額についているとても長い角だ。
サブはそれを前にして、
「三匹か……角は一本で十分なんだけど、な」と言うと、リリが少し困った顔をして、
「ガゼルは群れで獲物を襲う魔物だからしょうがないけど……」
と言った。
だが、リニアは楽しそうな笑みを浮かべながら、
「いいじゃねぇか。全部狩りゃー」
と言うと、手に武器であるガントレットをつけた。
サブも右腰に提げている鞘から剣を抜いた。
リリは軽く左腕を開くと、足元から魔方陣が展開すると、自分の周りに五つの光の玉が浮かび上がった。
リョウも刀を抜いた。
その瞬間、リリの光の玉を放ち、会戦を告げた。
それと同時に、リョウ、リニア、サブもガゼルに向かって飛び出した。
リリの放った光の玉は、三匹のガゼルに向かって飛び、爆発した。
その爆発で砂埃が舞うと、そこから三つの影が飛び出した。
ガゼルは2対1に別れると、木の上を使って後退していった。
それに向かってリニアは「まちやがれ!」と叫ぶと、二匹の方を追いかけた。
「おいリニア!―――くそ!」
サブはリニアに叫ぶが止まることはない。
「リョウ! リリ! 俺はあのバカ追うからお前たちは、もう一匹の方を頼む。終わったら無線で連絡しろ!」
と、サブは言い残すと、リニアを追いかけていった。
サブが去ったあと、リリが「どうしよう」と呟いていた。
リョウは刀を鞘に納めると、リリの前でしゃがみ込んだ。
「俺たちも追うぞ。とばすから乗れ」
と言った。
リリは「でも…」と躊躇してなかなか乗らないので「置いてくぞ」と付け足すと渋々背中に負い被さった。
リョウはリリを背負い上げると、ガゼルが逃げた方向に駆け出した。
リョウは木から木へと移動し、ガゼルと追う。
その中、背中にしがみついているリリが急に、
「……重くない?」
と訊いてきた。
いきなりの事にリョウは少し考えると、
「……軽ぃーよ。もっと召し食え」
と、リョウは素っ気無く答えた。
すると、前方のガゼルがスピードを上げた。
「そんなことより、しっかり捕まってろよ」
「うん」
と、リリが返事をすると腕に力が入ったのが判った。
だが、何でコイツ、うれしそうそうなんだ?
2
木が茂る森の中、リョウとリリはガゼルを追って木から木へと飛び移りながら追いかけた。
最初の位置から大分移動したそのとき、前を移動していたガゼルが急に失速すると、ポッカリ空いた空間に木から降り立った。
リョウも、少し距離をとった位置に木から降り立つと、背負っていたリリを下ろした。
そのとき、いきなりガゼルが逃げることをやめたのに、リリは少し戸惑っているようだった。
「どうしたんだろう?」
「判らん。
だが、あっちはやる気になったみてぇだから良いじゃねぇか」
その言葉通り、目の前にいるガゼルは姿勢を低くして、こちらを睨みつけている。
どうやら臨戦態勢にはいったようだ。
その様子にリリは、少し緊張した趣で、
「……そう、みたいだね」と返してきた。
リョウは刀を鞘から抜くと、正眼の構えをとる。
その瞬間、緊張感が高まる。
初めに動いたのはガゼルだった。
ガゼルはそちらに向かって飛び出してきたのだ。
「リリ! 援護!」
その言葉と同時に、リョウは向かってくるガゼルに向かって走り出した。
リリは「うん!」と返事をすると、足元に魔方陣を展開さした。
そして、左手を横に振ると、周囲に尖った氷が三本あらわれた。
攻撃魔法アイスニードル
リリはそれをガゼルに向かって放つ。
この氷の針は、リョウの横を通り過ぎ、ガゼルに向かった。
だが、ガゼルは当たる瞬間飛び上がり、氷の針は後ろの木に刺さった。
すると、リョウもガゼルに向かって飛び上がり、高さを合わせると刀を上段から振り下ろす。
刀はガゼルの角で受け留められたが、リョウはそのまま力技でガゼルを地面に叩きつけた。そのまま空中で宙返りをして体勢を整えると、地面に伏しているガゼルに向かって、追い討ちをかけるため刀を上段に掲げ、体重を乗せて一気に叩き落した。
金剛落とし
だが、リョウの攻撃があたる直前にガゼルが飛び退のかれ、地面を叩きつけるだけだった。
攻撃をかわしたガゼルはダメージが大きかったのか、足を震えおぼつかない状態だ。
それでもガゼルはこちらに角を突き出すと、リョウに向かって突進してきた。だが、ダメージの所為か、スピードはなく、リョウは右に横飛びしてかわした。それだけでなく、そのまま体を捻り空中で横回転すると、その回転にあわせて刀で斬り上げた。
その斬撃でガゼルの腹部を切りつけた。
その切り口からは血が噴出した。
そして、ガゼルは着地をすることができず、地面に倒れた。
ガゼルは地面に伏したまま動かなくなった。
リョウはそれを確認すると刀を振り、刀についた血を振るい落とすと、そのまま鞘に収めた。
すると、リリがこちらに近づいてきて、
「リョウ君、大丈夫?」と訊いてきた。
リョウは「ああ」とガゼルの方を向いたまま、素っ気無い返事をすると、リリのほうへ向き直り、
「倒した……みたいだな。
さっさと角を採取してあいつらに合流するぞ。
早めに合流しないと夜になっちまう」と言った。
「そうだね。
じゃあ、サブ君たちに連絡するね」
と言うと、リリは無線を取り出し、サブと連絡をとり始めた。
その間、リョウはガゼルに角を採取することにした。
リョウはガゼルに近づくと、刀を抜き、ガゼルの額に刀を当てた。
ガゼルの角は以外に簡単に切り落とすことができた。
「……あ! サブ君……うん。
こっちは今お―――」
リョウは採取した角を持ってきていた腰袋に入れると、顔を上げた。
その瞬間、何も気付かず連絡を取っているリリの立っている横の草むらから、球体状のものが飛んできた。リョウはすぐにそれに反応すると「リリ!」と叫びながら、リリに向かって飛びついた。
そして、リリを庇うように追いかぶさった。
飛んできた球体は、リョウたちの頭上数センチを通過し、大木にぶつかって破裂した。
大木はえぐれ、大きな音をたてて倒れた。
リョウは顔を上げると、ゆっくりと攻撃が飛んできた方に視線を向ける。
その方向からは力強く、重い足音がゆっくりと近づいてきた。
草むらから出てきたものは、見たことのない強大なものだった。
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