追姫†無双 2 |
scene-玉座の間
「あなた達はどうしたいの? いえ、どうして欲しいの?」
それは華琳の質問だった。
季衣と流琉の経験したという外史の旅を聞き、それを信用すると言った上での質問。
「ボクたちは兄ちゃんに……ボクたちの兄ちゃんに会いに行きたいです!」
「そして、兄様を連れ帰ります!」
力強く答えた季衣と流琉に将軍たちは色めき立つ。
ある者は頷き。
「せやな。そらあったり前や!」
ある者は涙する。
「グスッ……よかったの。やっと隊長に会えるの〜! ほら凪ちゃんも喜ぶの! ……凪ちゃん?」
ある者は固まった。
「あかん。ガチガチや。もう隊長に会った時んこと考えて緊張しとるんかいな?」
みな、興奮を抑えきれない様子だ。
だが、魏武の大剣の反応は違った。
「なあ、なぜ華琳様はあんな聞き方をしたのだ?」
「姉者も気づいたか」
「季衣たちが北郷に会いに行くのは当然ではないか。なのに、どうして欲しいとお聞きになられた」
「うむ。すぐに連れてこい、ならば納得がいくのだろう?」
秋蘭が姉の疑問を補足する。
「ああ、それだ。華琳様が季衣たちの気持ちがわからぬはずがないのに……むむむむむ」
「そんなこともわからないの?」
華琳の質問の後、ずっと黙っていた軍師たちが口を開いた。
「華琳さまのお考えは、やはり私達軍師が一番よくわかっているのね。よく考えてごらんなさい。あの万年発情男を捕獲するには季衣と流琉だけでは無理だからよ」
勝った! との表情を見せながら桂花が春蘭に言った。
「季衣と流琉だけでは一刀殿に、私達の……いえ、華琳さまの一刀殿に会えなかったではありませんか」
華琳さまの、と言ったあたりで眼鏡をクイッと持ち上げる稟。
「思い出してください。季衣ちゃんは言ったのです。コツを教えてもらったと」
「コツ? ええと……」
「ぐ〜」
「寝るな!」
思い出そうと悩んでいる間に眠りに入った風に怒鳴る春蘭。
「寝てませんよ〜、お兄さんに会いにいけるか試そうとしただけなのです。……季衣ちゃんは言ったのです。想いが引合うと。そうでしたね〜?」
「うん! だからボクたちと兄ちゃんの想いが引き合えば、きっと兄ちゃんのところへ行けるよ!」
その言葉に将軍達はハッと気づき、表情を変えた。
「なんや、そういうことかい」
「えっと、つまり〜」
「隊長に」
「会うためには!」
「……どうすればいいんだ?」
霞、沙和、凪、真桜の盛り上がりについていこうとして春蘭が聞く。
凪も含めた四人ともがズッコケる。
「春蘭〜、まだわからんのかい!」
「うむ。サッパリだ!」
そう自信タップリに胸を張った。
「隊長に会いに行くには想いが引き合わなくちゃ駄目なの〜」
「せやけど、隊長ってホラ、アレやろ?」
「うむ。アレだな」
「わかっとらんやろ、自分。女好き言うとるんや」
ジト〜とした目で春蘭をツッコむ霞。
「わ、わかっていたぞ。うん! ……で、北郷が女好きだとどうなんだ?」
「はあ」
と聞こえたため息はいったい誰のものだったのだろう。
「いい、あの無責任複数同時攻略逃亡全身精液男に会うにはこちらから想うだけじゃなくて、むこうもこっちを想わなければいけないのよ! ……ああ、あいつに想われるなんて妊娠してしまうわ!」
「む? 北郷がこちらを想う?」
「そですよ〜。気の多いお兄さんに会うためには、季衣ちゃんと流琉ちゃんだけじゃなくて、お兄さんが想う可能性のある女性を揃えなければならないのです」
「ええと……」
「つまり、ここにいる皆がいないと一刀殿の所へ行けない、というわけです」
遠い異界の一刀に「自分を想うな」とそうわめく桂花にかわり稟がまとめる。
「あと、張三姉妹もですよ〜」
風がここにはいないが、一刀と関係を持った三人を追加する。
「なんだ、もっといぶらずにはじめからそう言えばいいではないか」
やっと得心いった春蘭。
そして華琳が再び口を開く。
「行けないわ」
「華琳さま?」
全ての将軍がその答えに驚く。
「本当に一刀の所へ行けるの? 仮に天に行けたとして、戻ってこれるの? 戻ってこれるとして、それはいつ?」
「みんながいれば、多分……ううん、絶対に! 兄ちゃんのところへ行けます!!」
季衣が自分の迷いを消すように強く言う。
「戻ってこれるかどうかは……わかりません。お師様に会うことができれば戻ってこれるとは思いますが、それがいつになるかはわかりません」
流琉が辛そうに下を向いたまま答える。
「王としての政務を放り出して、いつ戻れるかわからぬ旅へ行けと言うの? まして、ここにいる皆が帰ってこれなければ魏はどうなるの?」
「それは……」
華琳の言葉に将軍達が答えられぬ中、春蘭は不思議そうに皆を見回した後に華琳に告げる。
「どうにもなりません!」
「なっ! あなたわかってないでしょ! いい、」
桂花が即座に春蘭に説明しようとするが。
「遠征で国を空けることなど以前にもあったではないか。それとさして変わらん。ましてや、兵も連れてゆかず、軍も動かさないですむのだろう?」
「あのねえ……」
どう説明していいか悩む桂花。困ったように華琳を見るとその目が笑っているのに気づいた。
「春蘭、あなたは私たちがいなくとも、魏は大丈夫だと言いたいのね」
「はい! さすがは華琳さまです。見ろ、華琳さまはわかってくれるではないか!」
我が意を得たり、とはしゃぐ。
「では、私たちは魏に不要だということ?」
「え? いやそういうわけでは……」
「いなくなって困るほど必要ではないと、あなたは言ったのよ」
「!」
やっと自分の言ったことの意味に気づき、慌てる春蘭。
「そ、そんなつもりではありませんでした!」
「……あなたはたしかに魏には不要かもね。一刀の所へ行くなり、好きになさい」
「か、華琳さま!」
その春蘭の叫びを無視して続ける。
「他にも一刀の所へ行きたいものは好きになさい。止めはしないわ。けれど、私は王としての責務を全うする!」
そう、宣言した。
「お待ち下さい!」
「流琉?」
「兄様に会うためには、華琳さまの力が必要なんです」
「そうかしら? 一刀のことだもの、あなた達がこれだけいれば上手く会えるはずよ」
言外にいつも自分を想っているわけではないと一刀を非難する。
「兄ちゃんの一番はやっぱり華琳さまですよ! だって兄ちゃんは華琳さまのものだもん」
季衣の説得には嫉妬の色はまったく見えない。
「せやな〜。やっぱそうやろなあ〜。まったく羨ましいでホンマ」
「お兄さんは目の前にいる時はその女性が一番なのですよ〜。他の女性に悪いから、とかは全くないのです。切替が凄いのです」
風が一刀の女性対応の本質を述べた上で。正面に、ではなくチラリと横目に華琳を見ながら。
「でも、目の前に誰も女性がいなかったら、いったい誰が一番になるんでしょうね〜」
「華琳さま、お聞きしてよろしいでしょうか?」
「なにかしら、秋蘭」
「先ほど姉者を魏に不要とおっしゃいました」
「そうね」
「華琳さまにとって必要なのは、魏ですか? 北郷ですか?」
秋蘭は聞く。大好きな姉のフォローもせずに。いや、これは姉をかばおうとしての質問でもあるのだ。
「ふむ。では逆に聞くわ。あなたはどうなの?」
「先に断っておきますが、私は華琳さまと魏を同一視しておりません」
用意しておいた答えを述べる。
「あなたも私は魏に不要と言うの?」
「魏は華琳さまの所有物ですが、それだけにしかすぎません。華琳さまの全てではありません。ですので、同じ華琳さまの所有物ということで比べるなら、私は北郷を選びます」
「ほう。春蘭も同意見ということでいいわね?」
「はい。姉者も私と同意見です」
「しゅ、秋蘭!? ……そ、そうか。……わたしはもともとそう言いたかったのです、華琳さま!」
自分に確認もせずに即答した妹に慌てるが。自分のためだったとやっと気づいて華琳に答えた。
「起きなさい風、あなたはどう?」
「おお、秋蘭ちゃんの問題点のすり替えに感心していて眠ってしまったのです。風の話を聞いてくれる男の人など、国よりも得がたいのですよ〜」
国にとって必要かという政治レベルから、国が必要かという個人レベルに問題点を変えられた、と言いながらも一刀を選ぶと答える風。
「では稟、あなたは?」
「難しい質問です。……ですが、私も一刀殿を選、ぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
大きくアーチを描く稟の鼻血。
「なぜそこで鼻血?」
「きっと、鍛錬の相手だから、と言い訳しようとして、その鍛錬を思い出してしまったのですよ〜」
「ふがふが」
風にトントンされている稟を尻目に次へ。
「凪、あなたは?」
「隊長を選びます」
「即答ね?」
「はい」
秋蘭や風、稟に質問せず真っ先に凪に聞いたとしても同じだったであろうと確信して。
「そんなにも一刀を愛しているのね」
「!」
真っ赤になった凪を堪能したので次へ。
「真桜、あなたは?」
「重っ。重すぎる質問やわ〜。隊長選ぶわ」
「全然重そうじゃないけれど?」
「ややわ〜、お約束やんか〜」
一刀と螺旋槍ならどちらを選んだかしら? と少し頭をよぎるも次へ。
「沙和?」
「隊長なの、当たり前なの〜。それに天の服も気になるの〜」
「新兵達はいいの?」
「タマナシ新兵たちは心配なの。でももう毛の生えたフニャチンどもが面倒見てくれるからいいの〜」
経験を積んだ者たちが新兵を見る、でいいのかしら? 聞きなおす気はしなかったので次へ。
「霞は?」
「一刀や。魏ぃなくても約束は果たせるしな」
「約束?」
「ウチと二人でな、羅馬行くって約束したんや!」
「そう……そんな約束を……」
一刀に会いたい、という気持ちがより強くなった華琳。増えた分の想いは若干黒かったが。
「桂花は聞くまでもないわね?」
「はい!」
「そう。そんなに一刀に会いたいのね」
「華琳さま!」
「ふふ。桂花の気持ちはわかっているから答えなくていいわ」
そうズルイ言い方をして、残る最後を見つめた。
「季衣、流琉。あなた達こそ聞くまでもないわね」
「はい! 兄ちゃんがいいです!」
「魏も大事ですが、兄様を選びます」
二人の答を聞くと華琳はそっと目を閉じた。
一刀、聞こえた?
皆こんなにもあなたを想っているのよ。
心の中で一刀にメッセージを送った後、華琳は自分の答を出す。
「私は一刀も魏も必要よ」
「華琳さま!」
「みんな〜選ばせといてそらズルイやろ?」
呆気にとられた者が多かったが。
「よかった〜」
「季衣?」
「だって兄ちゃんより魏が必要だって言われたら困るよ〜」
「そりゃそうだけど」
流琉はまだ納得がいかないらしい。
「それに両方だなんてとっても華琳さまらしいと思うけどな〜。ボク、今日の百人も明日の万人も助ける、って言った華琳さま思い出したもん」
「言われてみればたしかに。器の大きさが違うということだな!」
「姉者の言う通りだ。さすがは華琳さまだ」
「それで華琳さま。兄ちゃんが必要なんですね」
「そうね」
「待ってるだけなんて、華琳さまらしくないですよ! 兄ちゃんを捕まえに行きましょ〜!!」
「私らしくない?」
季衣のその言葉に心が動き始める。
「そうですよ。華琳さま、ううん、覇王らしくないです」
「逃げた男を追うのが覇王だと言うの?」
「違います! 兄ちゃんは逃げたわけじゃありませんよ〜!」
「天に戻りたくて戻ったわけじゃないと思います」
流琉も季衣とともに一刀をかばう。
「信じているのね」
「はい!」
二人の揃った返事を受けて問う。
「なら、覇王らしい行動とは?」
「え〜と」
「天によって連れ去られた兄様を取り返す! ではどうですか?」
流琉の答に満足し。
「ふふふ。天が相手か。面白そうね」
「華琳さま」
久しぶりに見せる主の顔に、安心する春蘭。
「天から帰ってきた時、魏がなくなっていたら再び魏をつくるぐらいの覚悟はしておきなさい」
「そっちの方がおもろそやな〜」
「霞。たぶんその様なことはないと思うぞ。どちらかといえば、そうならないための引継ぎの方が大変だろう?」
霞のわくわくを秋蘭が冷ました。
「そうね。全員に命令よ、私達が天へ行っている留守中を任せる者への引継ぎを一ヶ月で済ませておくこと」
「一ヶ月でですか?」
桂花が少し困ったように聞く。
「充分でしょう? それとも長すぎるかしら?」
「い、いえっ。……一月後に天へ旅立つ、でよろしいですね。民には知らせますか?」
「知らせましょう」
「よろしいのですか? 王の不在を知れば不安が広がるのでは?」
鼻に紙をつめたまま稟が聞く。
「期間がわからない以上、隠し通すのは不自然よ」
「そですね〜。天の御遣いを連れ帰る、なら民も納得すると思いますよ〜」
桂花と風が華琳に賛成し、国民にも告知するということで落ち着いた。
「あとは他国への対応ね。季衣、流琉。あなた達は夏休み前に引継ぎは済ませているわね?」
「はい!」
「親衛隊のみなさんは優秀ですから」
夏休み中に何が起こっても大丈夫なように、しっかり引継ぎを済ませていた二人。
「ならば書状を用意するわ。季衣は蜀に、流琉は呉に運びなさい」
<あとがき>
今回は玉座の間での問答だけになってしまいました。
対姫の頃よりはわかりやすくなっていると思うのですが、どうでしょうか?
説明 | ||
対姫†無双の続編第2話です。 タイトルの『追』は『つい』です。 |
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コメント | ||
ブックマンさんありがとうございます。殴りこみ……救出作戦よりもピッタリかもですね(こひ) 天に殴りこむ準備開始ですねw(ブックマン) Nyaoさんありがとうございます。修正しました。羨ましいかぎりですね(こひ) 誤字です。3p:私は本郷を → 私は北郷を。相変わらず皆から慕われている一刀は羨ましい(ノд`)(Nyao) rikutoさんありがとうございます。そう言ってもらえてホッとしました(こひ) 玉座、で場面が固定されていていたので背景描写は問題ないかと。会話も個人的に面白かったですし、次回が楽しみになりました。よかったと思いますw(rikuto) |
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