英雄伝説〜黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達〜
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9月19日。10:25――――――

 

〜公衆浴場〜

 

「ぷはあああああっ…………(……キタキタ……この水風呂こそがロウリュ(蒸気サウナ)の……」

公衆浴場にてサウナで汗を流したヴァンは水風呂に入って身体を冷やして堪能していた。

「ヴァンさ〜ん、いますか〜!?」

「わわっ、つ、冷たい……!?」

「水風呂なのですから、冷たくて当然ですよ……」

するとその時聞き覚えのある娘や女の子、女性の声が女性側の風呂から聞こえてきた。

「……おい、まさか……」

聞き覚えのある女性達の声を聞いたヴァンは表情を引き攣らせ

「あ、やっぱりいました!」

「ってお前ら、なんでいやがる!?」

ヴァンの声を聞いた女性側の風呂にいるアニエスは嬉しそうな表情で声を上げ、ヴァンは疲れた表情でアニエス達に指摘した。

 

「あはは……モンマルトで聞いてこの時間ならこちらじゃないかって。」

「いい機会なのでわたしたちもご一緒させて頂く事にしましたっ。」

「ふふっ、勿論メイヴィスレインも一緒ですよ。」

「フウ……私は別にいいと言ったのですが、二人が一緒に入る事を強く希望したので仕方なく私もアニエス達と一緒に入らせてもらいました。」

ヴァンの指摘にフェリと共に答えたアニエスは自分達のように湯着を纏い、更に人間の姿になったメイヴィスレインに視線を向け、視線を向けられたメイヴィスレインは溜息を吐いて呟いた。

「それにしてもメイヴィスレインさん、わたし達のように人間の姿になれたんですね……!」

「本来はわざわざ人間の姿になる必要はないのですが……さすがに天使の姿ですと、他の客達から余計な注目を浴びて目立つ上、風呂に入れば風呂が私の翼の羽だらけになり、他の客達の風呂に入る意欲を失くしてしまうでしょうから、仕方なくです。」

「フフ……あ、二人とも、早速ロウリュを試しましょう……!」

興味ありげな表情で訊ねたフェリの疑問に答えたメイヴィスレインを微笑ましそうに見ていたアニエスは二人にある提案をし

「ロウリュ……ハマム(蒸し風呂)とは違うんでしょうか?」

アニエスの提案を聞いたフェリは不思議そうな表情で疑問を口にした。

「う〜ん、私も詳しくありませんけど熱さとか入り方が全然違うみたいですね。」

「それは楽しみです。」

「こうなってしまった以上、最後まで付き合いますよ。」

そして3人はロウリュに向かい始め

「お、俺の……至高の時間が……クソ、こうなったらもう一セットだ!――――――ランチ前だがジェラートもつけてやる!」

至高の時間を邪魔されたヴァンは肩を落とした後自棄(やけ)になった。

 

その後風呂を終えた4人はヴァンの驕りで風呂上がりのアイスを食べていた。

「「「んんんん〜〜〜〜っ!!」」」

「……ふむ。」

アイスを食べていたヴァン達は美味しさのあまりそれぞれ表情を崩して声を上げ、唯一メイヴィスレインは静かな表情で味わっていた。

「冷たくて甘くて美味しいです……!」

「お風呂上りだと格別ですよねぇ。」

「ええ…………よく考えたものです。」

「そう……冷たくて、甘くて、美味しい。ただそれだけだ。」

三人がそれぞれ感想を口にしている中、ヴァンは真剣な表情で呟いた。

「ヴァンさん?」

「奇をてらった味付けもなく、特におしゃれな見た目でもない。単に基本を忠実に押さえただけのミルクジェラート。だからこそ、この場所に相応しい!冷たくて、甘くて、美味しいだけというシンプルな奥深さ――――――人生にも通じる所がある。湯上りの体に爽やかな風を吹き込む、究極の癒しが濃縮されたようなひと時。この瞬間のために生きているんじゃないか?――――――コイツを食べる時はいつもそう思うんだ。」

「な、なるほど……ちょっとだけわかる気がしますっ!」

ヴァンの様子にアニエスが不思議そうな表情を浮かべるとヴァンは詳しい感想を語り、アイスの美味しさに浸っていた。その様子を見たアニエスとメイヴィスレインが冷や汗をかいて呆れている中フェリはヴァンの意見に同意していた。

「(うーん、ヴァンさんの事だから本気で言ってそうな気も……)そ、それよりもメイヴィスレインも食事ができたのね。言ってくれれば、用意をしたのに……」

ヴァンの様子を見た後ある事を思い出したアニエスはメイヴィスレインに話しかけた。

「私達天使は貴女達人間のように生きる為に食事をする必要がない為、言わなかっただけです。」

「そうなんだ……あれ?でも、メイヴィスレインと同じ”天使”のレジーニアさんは普通に食事をしていたけど……」

メイヴィスレインの説明を聞いて納得したアニエスだったが、レジーニアが食堂や教室で食事をしている様子を思い出して首を傾げた。

 

「恐らくレジーニアは貴女達の生活に合わせる為にあえて食事をしているのでしょう。」

「そうなんだ……フフ、でも”人間”になれる上食事もできるとわかったんだから、これからは時々こうやって私達と一緒に食事をしながらのお喋りを楽しみましょうね?」

メイヴィスレインの推測を聞いて目を丸くしたアニエスはメイヴィスレインを見つめて微笑みながら提案し

「貴女がそれを望んでいるのでしたら、仕方ありませんね。――――――ですが、肉や魚といった他の生物等の命を犠牲にする食物を口にする事はさすがに無理ですから、その点は必ず覚えておいて下さい。」

「そういえばレジーニアさんも肉や魚の料理を口にしている様子は今まで見た事は無かったわね……という事は”他の生物等の命を犠牲にする食物を口にする事は絶対にできないというのが天使という種族の特徴”なのね。――――――わかったわ。」

溜息を吐いた後念押ししたメイヴィスレインの指摘を聞いてレジーニアの食事の様子を思い返したアニエスは納得した様子で頷いた。

「で、なんで午前中に来てるんだ?今日は午後からって言っただろう。」

するとその時ヴァンが予定外の早さに来たアニエスに訊ねた。

「ええと、フェリちゃんがまだ旧首都に慣れていないと思いまして……お仕事がてら案内はどうかなって思ったんです。」

「べ、別に大丈夫です、一人でも。これも修行のうちですし……!」

アニエスの話を聞いたフェリは強がった様子で答えた。

「実際はどうなんだ?どの区に何があるか把握してるか?」

「えと……六区の”りばーさいと”に七耀寺院があるってくらいしか……」

「そういえばそちらの日曜学校に通うようになったんですよね?」

しかしヴァンが質問をすると自信無さげな様子で答え、フェリの話を聞いたアニエスはある事を思い出した。

 

「はい、その挨拶も兼ねて伺いましたが、他の区なんかはまだ……そもそもイーディスは大きすぎです!市街戦の作戦も立てづらいかと……!」

「市街戦って……」

「私達は軍人や傭兵でもないのですから、そもそもそのような事を考える必要もないというのもありますが、これほどの大都市での市街戦等、間違いなく大事(おおごと)になりますよ。」

「(ま、仕方ねぇか。)ウチの事務所は出張以外じゃ、旧首都での依頼しか基本請け負わねぇ。各エリアの位置や施設を把握しねぇと仕事に支障をきたすぞ。」

フェリの指摘にそれぞれ冷や汗をかいたアニエスは困った表情を浮かべ、メイヴィスレインは呆れた表情で指摘し、心の中で溜息を吐いたヴァンはフェリに指摘した。

「ううっ………」

ヴァンの指摘を聞いたフェリは自信無さげな表情を浮かべた。

「てわけで、今日もバイト研修だ。」

「ヴァンさん、それって……」

「いきなり全部とはいかないが、依頼をこなしながら各区を案内する。実戦経験は豊富みたいだし、アニエスの時よりペースを上げていくぞ。しっかりついて来い。」

「はいっ、よろしくお願いします!」

その後、モンマルトに戻ったヴァンたちは早めのランチを取り――――――準備を整えてから”裏解決屋(スプリガン)”の活動を開始するのだった。

 

フェリに旧首都への案内がてら4spgをこなしたヴァン達はキンケイドを通してのGIDからの依頼である上水道の手配魔獣の撃破の為に上水道に向かい、手配魔獣を撃破した後地上へと帰り始めると突如ゲネシスが反応した。

 

〜サイデン地区・上水道〜

 

「あ………」

「どうかしましたか?」

「今、一瞬光ったような。気のせいでしょうか……?」

「周囲を警戒しろ。」

フェリの疑問に答えたアニエスは今は光っていないゲネシスを確認した後不思議そうな表情を浮かべ、ヴァンは真剣な表情で忠告した後アニエス達と共に周囲を見回して警戒した。

「……ッ!?」

「そこだっ!!」

「キャッ!?」

するとその時凄まじい速さで壁を走る何者かが現れ、ヴァンがある場所を攻撃すると女性の悲鳴が聞こえた後仮面を被り、身体のボディラインが強調される大胆なスーツを身に纏った女性が現れた。

 

「こ、これは………」

「何なのよアンタたち……!というか、なんであたしに気づいたわけ!?」

謎の女性の登場にアニエスが驚いている中謎の女性はヴァン達を警戒しながら問いかけた。

「企業秘密だ。それよりアンタの方だろ。」

「その猫耳のようなフォルムに今の身のこなし、もしかして……」

「グリムキャッツっつー痴女か。」

「だ、誰が痴女よ!?」

「例の噂の……何かの迷彩でよく見えませんが、体のラインがはっきりとわかる格好……あれが大人……ですか。いつかわたしも……」

ヴァンの指摘に謎の女性が反論している中、フェリは目を丸くして謎の女性を見つめた後抜群なプロポーションの謎の女性と未発達な自分の体を見比べた。

 

「だ、ダメですよフェリちゃん!真似したらダメです!」

「ったく、子供の教育に悪いだろうが。」

フェリの様子に気づいたアニエスが慌ててフェリに注意している中ヴァンは溜息を吐いて謎の女性に指摘した。

「う、うるさいわね!これが幻夜(グリム)の猫(キャッツ)のスタイルなの!」

「やっぱアンタがグリムキャッツか。」

「あ。――――――そうよ、あたしがグリムキャッツよ。何よ?文句でもあるの!?」

ヴァンの指摘に反論した謎の女性――――――怪盗グリムキャッツだったが、自ら正体を確定した事をヴァンに指摘されると呆けた声を出した後自棄気味に答えた。

「いや、同じ”仮面の怪盗”でも”怪盗B”とはえらい違いじゃねぇか。」

「ちょっと!?あたしをあんな外道愉快犯と一緒にしないでよ!?そもそもアンタたちこそ何者?遊撃士……じゃあなさそうね。女の子もいるみたいだけど……只者じゃないわね。もしかしてあたしを捕まえに……!?」

「あの、誤解です!私達はGIDから依頼されて……」

ヴァンの指摘に反論した後自分達の事を警戒しているグリムキャッツにアニエスは説明しようとしたが

「GID!?やっぱり体制側じゃない!そっちの男もなんか気に喰わないし、力ずくで押し通らせてもらうわ!」

グリムキャッツは話を最後まで聞かず、自身の得物である流星鞭(ステラビュート)を構えた。

「面白ぇ、やってみろよ。」

「怪盗との戦闘……いい訓練になりそうです!」

自分達と戦うつもりでいるグリムキャッツの言葉を聞いたヴァンとフェリはそれぞれの得物を構えて戦闘意欲を高めた。

「ハンっ、後悔させてやるわ!」

「ちょ、話を聞いてくださいよ〜!?」

ヴァンとフェリの様子を見てグリムキャッツが不敵な笑みを浮かべている中、アニエスは困った表情でグリムキャッツを見つめて指摘した後諦めてヴァン達と共にグリムキャッツとの戦闘を開始した。

 

3対1と数ではヴァン達が勝っていたが、グリムキャッツはトリッキーな動きで人数差をカバーしていた事でヴァン達と互角に戦っていた。

 

「な、中々やるじゃない……」

自分と互角に戦うヴァン達をグリムキャッツは警戒しながら評価した。

「怪盗だけあって大した身のこなしだ。だが、いつまで持つかな?そろそろそのトリッキーな動きにも慣れてきた頃だ。せめて顔を拝ませてもらおうか?……ククッ。」

(ヴァンさん、顔がすごく悪人っぽいです……)

(確か情報提供で謝礼が貰えたような。それが目当てとか?)

ヴァンの表情を見たアニエスが冷や汗をかいて困った表情を浮かべている中、フェリはヴァンの考えを推測した。

「くっ、本っ当気に障る男ね……!こうなったら……こっちも本気で行くわよ!!」

一方グリムキャッツは唇を噛み締めた後ヴァン達を睨んで闘気を纏い、武器を振り回し始めた。

 

「今まで本気じゃなかったんですか……!?」

「二人とも、警戒してください!さっきまでと纏う闘気が違います!」

「へえ……」

グリムキャッツの言葉を聞いたアニエスが驚いている中フェリは警告し、ヴァンは興味ありげな表情を浮かべた。

「さあッ、後悔させて――――――ちょっと待って!」

そしてグリムキャッツが戦闘を再開しようとしたその時ザイファのアラーム音が聞こえ、アラーム音を聞いたグリムキャッツは戦闘再開を中断した後自身のザイファを取り出して時間を確認した。

「ええっ、もうこんな時間!?ヤバ……遅れたらどうしよう……!もう、アンタたちのせいだからね!」

「いや、絡んだのはアンタだろ。」

「まあ、これ以上の戦闘は本意ではありませんし。」

「えっと、急いでいるのでしたら、早く行かれた方がいいのでは?」

時間を確認して慌てた様子のグリムキャッツはヴァン達を睨んで指摘し、グリムキャッツの指摘に対してヴァンは呆れた表情で答え、フェリは困った表情で呟き、アニエスは苦笑しながら先に行くように促した。

「そ、そうね……これ以上はちょっとヤバいし……どういう事情があるかは知らないけど、貴女たちは悪い子じゃなさそう。でもそこの男は覚えときなさい!いつか絶対目にもの見せてやるからっ!」

アニエスの提案に頷いたグリムキャッツはヴァンを睨んで指差しして宣言した後その場から走り去った。

 

「……怪盗グリムキャッツ。少しロマンが崩れた気がします。」

「あはは……」

「あんなのが都市伝説の正体とはな。なんつーか……中身が残念過ぎる。あれならまだ”怪盗B”の方がマシな気がするぜ。」

グリムキャッツが去った後グリムキャッツの事についての感想を口にしたフェリの言葉を聞いたアニエスが苦笑している中ヴァンはグリムキャッツとブルブランを思い浮かべて互いを比べながら呆れた表情で呟いた。

「べ、別にそこまででは……」

「ですが腕前は本物ですね。まだ本気ではなかったようですし、一流の戦士にも劣らないかと。」

「ああ、それにあの光学迷彩(ステルス)、ザイファにRAMDAとも違いやがる。」

「”ゲネシス”が一瞬だけ光ったのも何か関係があるんでしょうか……?」

「そいつがあったか。ふむ、よくわからんが――――――」

アニエス達とグリムキャッツの事について話し合っていたヴァンは会話を中断してある方向に視線を向けた。

「?ヴァンさん?」

「足音です、しかも複数……!」

ヴァンの行動にアニエスが不思議がっている中、フェリは二人に報告した。

 

「いたぞ!!」

「この流れって……」

するとその時男の声が聞こえ、最近体験した同じ流れにアニエスは困った表情を浮かべた。するとその時武装を構えようとしたフェリをヴァンが制止させると、数人の警官達を連れたダスワニ警部とネイト捜査官がその場に現れた。

「な、お前達……!?」

「また、このパターンかよ……」

自分達を目にしたネイト捜査官が驚いている中この後の流れを察したヴァンは呆れた表情で呟いた。

「そ、それはこちらの台詞だっ!」

ヴァンの言葉に対してネイト捜査官が反論した後警官達はヴァン達を包囲した。

「よっぽど縁があるようだな、”裏解決屋(スプリガン)”。新顔もいるようだが……とりあえずご同道願おうか?」

その後ヴァン達は警察署に連行されて、取り調べを受けていた。

 

〜サイデン地区・サイデン本署〜

 

「……お前があそこにいたのがGIDからの依頼なのはわかった。」

「わかったらもういいだろ?こっちも暇じゃないんでね。」

「いいわけないだろう!依頼を隠れ蓑に、裏でグリムキャッツと通じていない証拠がどこにある!?」

「あのなぁ……証拠ってのはやったことに対して出すもんだろうが。やってないことに証拠を求めるのは捜査官として無能の表れじゃねえのか?せっかく”中央”からエリート揃いの”一課”でも名高い二人が派遣されているんだから、俺みたいな奴に無能呼ばわれりされない為にそいつらから色々と教えてもらったらどうだ?」

証拠もないのにグリムキャッツと繋がっている事を疑っているネイト捜査官に呆れたヴァンはネイト捜査官に指摘し

「な、なんだとぉ――――――!?というか、何でお前は当然のように”中央”から来た二人の事まで知っているんだよ!?」

ヴァンの指摘に頭がきたネイト捜査官は思わず机を叩いてヴァンを睨んで声を上げた。

「察するにどこぞの省庁に予告付きで入られたわけか。それで待ち構えてたはいいが裏をかかれてまんまと逃げられたと。」

「ぐぅ……」

しかしヴァンの推測を聞くと反論できないのが、唸り声をあげた。

 

「ま、無様にやられたのは同情するが……それで善良な市民に八つ当たりすんのは流石に見苦しくねえか?」

「う、うるさいっ!誰が善良な市民だ!そもそも暗闇とガスを使うなんて卑怯な――――――」

「ネイト……!グリムキャッツを抜きにしても、だ。学生と子供を連れて魔獣が出没する場所に潜り込むとはどういう了見だ?しかもあんな物騒な得物を持たせといて。」

ヴァンの指摘に反論と共に余計な事まで口にしかけたネイト捜査官に制止の声を上げたダスワニ警部は真剣な表情でヴァンを睨んで指摘した。

「いや……それについてはお説ごもっともでもあるけどよ。それでもあくまで本人たちの自由意志を尊重した結果だ。そもそもGIDから回ってきた”掃除”――――――武器も持たずに素手でやれってか?結果的にお国のために働いたっつーのに、随分な扱いじゃねえか。」

「国のためなら国家警察への真摯な協力はあって然るべきだろう!なのに情報提供を拒否、危険な武装の所持と年端もいかない戦闘員を育成しているなど……テロリストと繋がっていると見なされても仕方がないと思うがな!?」

ヴァンの反論に対してダスワニ警部は厳しい表情で机を叩いて反論した。

 

「…………………」

「…………………」

「ねえ、何か話す気になった?」

一方その頃ヴァンとは別室の所で取り調べを受けていたアニエスとフェリは黙り込み、二人の黙秘に女性捜査官は複雑そうな表情で訊ねたが

「…………………」

「…………………」

二人は何も話さず黙り込んでいた。

「これじゃあ埒が明かないわね。はぁ……仕方がない。(ダスワニ警部の方に期待して、切り上げるしかなさそうね……)」

二人の態度に女性捜査官は溜息を吐いて頭を抱えた。

「無駄です。」

「え。」

するとその時フェリが静かに呟き、フェリの言葉を聞いた女性捜査官は呆けた声を出した。

「捕虜となった際の訓練は受けています。どんな拷問をされても決して屈しません。」

「いや拷問って……」

フェリの指摘にアニエスと共に冷や汗をかいた女性捜査官は苦笑を浮かべた。

「どんな拷問でも構いませんが、やるならわたしにだけやってください。どうかアニエスさんにはひどいことをしないでくださいっ!」

「フェリちゃん……えっと……ありがと?――――――でも私もフェリちゃんにだけ背負わせるつもりはありません。二人で一緒に乗り越えましょう!」

「アニエスさんっ……!」

「しないわよ拷問なんてっ!ただでさえマスコミがうるさい事に加えて、今は”中央警察”――――――それも”一課”の人達が出入りしているのに……!でもね、あんな胡散臭い男と危ないことをするのはもうよしなさい。これは貴女たちのために言って――――――」

二人が盛り上がっている中疲れた表情で反論した女性捜査官は二人に注意をしようとしたが女性捜査官のザイファに通信が来た。

「はい、今取り調べ中で………………えっ!?」

通信相手と会話をしていた女性捜査官は通信相手からの話を聞くと驚きの表情で声を上げた。

 

「………いえ、その……マジですか……?」

一方その頃ダスワニ警部とネイト捜査官も通信をしており、通信相手から女性捜査官と同じ内容を伝えられたネイト捜査官は困惑の表情を浮かべて通信を切った。

(この反応……ルネじゃない?)

二人の様子を見たヴァンは眉を顰めた。

「……またGIDからと思ったがまさか”あんな所”からのお達しとはな。一体何モンだ、あっちにいる――――――もういい、とっとと出ていけ!」

「へいへい。そんじゃ、ご苦労さん〜。」

するとその時ダスワニ警部は溜息を吐いた後アニエス達がいる部屋の方向に視線を向けて何かを言いかけたがすぐに続きを口にするのを止めてヴァンに退室を促し、ヴァンは退室した後既に自分より先に解放されて警察署の前で待っているアニエスとフェリの所に近づいた。

 

 

〜警察署前〜

 

「ったく、とんだとばっちりだったぜ。これもあの痴女のせいだ。」

「いずれ警察と対峙することもあると覚悟していましたが……こんな機会で実現するとは少し意外でした。」

「私も、この短い期間で2回も警察で事情聴衆されるとは思いませんでした……」

ヴァンの文句に続くようにフェリとアニエスもそれぞれ感想を口にした。

「やれやれ……優等生のお嬢様にはちとキツかったか?」

「い、いえ!私も解決事務所の一員ですから大丈夫です……!」

「えと……あ、よかったらわたしが対拷問の訓練法を教えましょうかっ?」

「そ、それはさすがに必要は……必要ないと……いいなぁ……」

フェリの申し出に苦笑しながら断りかけたアニエスだったが若干迷った表情を浮かべながら呟いた。

 

「……?それにしてもどうしていきなり解放されたんでしょう?」

「ああ……やけにあっさりだったな。」

「ど、どうしてでしょうね……(まさか”あちら”の方から……ううん、まだバレてないはず……!)」

いきなりの解放に二人が戸惑っている中心当たりがあるアニエスは苦笑しながら同意していた。

「……………ま、とりあえず研修は終了だ。二人ともご苦労だったな。少し早いが、打ち上げに行くか。」

「あ……」

「打ち上げですか?」

「昼間の映画館、あそこで映画鑑賞だ。今回は大盤振る舞いで奢ってやる。」

「わぁ〜、映画鑑賞!!」

ヴァンの提案にフェリは無邪気な笑顔を浮かべた。

「ちょうど気になった映画があってな、そのついでだ。言っとくが限定販売のチュロスに釣られたわけじゃねえぞ?」

「ふふ、わかっています。それじゃあ行きましょうか。」

「楽しみです、映画!」

念押しするヴァンをアニエスは微笑ましそうに見つめながら頷き、フェリは無邪気な笑顔を浮かべた。

 

その後ヴァン達は映画館に向かい、映画鑑賞を楽しんでいた。

 

〜タイレル地区・映画館〜

 

(『ゴールデンブラッド』――――――サルバトーレ・ゴッチの最新作か。ストーリーはいかにもテンプレだが補って余りある派手さにエンタメ性……主演女優のジュディス・ランスターもばっちり役にハマっていやがる。……やれやれ、夜間限定公開の”完全版”の方で見るつもりだったが。そういや、モンブランチュロスもなかなか美味かったな……帰りにパンフレットと一緒に追加で――――――………ん?)

映画鑑賞をしていたヴァンだったが主演女優のある動きに既視感があった為眉を顰めた。

(……ヴァンさん。……この人の身のこなしって。)

(……さすがに偶然だろ。)

するとその時ヴァン同様何かに気づいたフェリはヴァンに確認し、確認されたヴァンは軽く流し

(えへへ、ですよね。)

ヴァンの答えを聞いたフェリは無邪気な笑顔を浮かべた。そして映画が終わった。

「いい映画でしたね……!こう、血湧き肉躍るって感じで!」

「はい、想像していたものと違いましたけが、とっても面白かったです!なんだか主人公の露出が高すぎるような気もしましたけどっ。」

「あはは……ちょっとだけ目のやり場に困るシーンもありましたねぇ。」

(ま、新人歓迎としちゃ安いモンか。)

「ここでサプライズで〜す!」

映画についての感想を言い合っているアニエスとフェリに視線を向けたヴァンが口元に笑みを浮かべると館内放送が入った。

 

「あん?」

放送内容にヴァンが眉を顰めたその時、スクリーンがあった場所に主演女優であるジュディス・ランスターが現れた。

「ハアイ、皆さん!作品は楽しんでいただけましたか?ゾーイ役の、ジュディス・ランスターです!」

「うそ、本物!?」

「おおおっ、生ジュディスだ!?」

「ラッキー!!」

「えっ、え?ヴァンさん、これって……」

「ああ……たまにサプライズで俳優が舞台挨拶することがあってな。」

「わああっ、こんな事もあるなんてすごく運がよかったんですね、私達!」

予想外の出来事に観客達がはしゃいでいる中アニエスは困惑しながらヴァンに訊ねたが、ヴァンの説明を聞くと嬉しそうな表情で声を上げた。

「……まあジュディス・ランスターを生で見たのは俺も初めてだが……」

アニエスがはしゃいでいる中ヴァンはジュディスを見つめながら何か含みのある様子で呟いた。

 

「私的に印象に残ったのは何と言っても後半のあの脱出シーンですね……!何せ撮影の際は、共演者も含めてクルー全員でズブ濡れになりながら――――――10回以上も撮り直したんですから!監督ったら『もっとじゃ、もっとエロ――――――情熱的にダイブしろ!』な〜んて容赦なくリテイクして!流石にちょっとキレかかりましたよ〜。」

観客達に映画作成の際の出来事を説明したジュディスは観客達の中にいるヴァン達に気づくと一瞬僅かに驚いて言葉を失くしたがすぐに気を取り直して話を続けた。

(ヴァンさん、あの人って……)

(ああ、多分な……マジで今日一番の驚きなんだが。)

(……まあ、私達に関わったのはあの時が偶然でしょうから、放置でいいでしょう。)

ジュディスの映画作成の際の裏話にアニエスが観客達と共に笑っている中グリムキャッツの正体がジュディスである事に気づいたフェリは小声でヴァンに確認し、確認されたヴァンは頷き、二人のようにグリムキャッツの正体がジュディスである事に気づいていたメイヴィスレインは興味なさげな様子で呟いた。

(……どうします?謝礼も出るみたいですけど。)

(ま、放っとけ。関わったらめんどくさそうだ。)

一方フェリに判断を委ねられたヴァンはグリムキャッツの事を放置する事にした。

 

その後ヴァン達が映画館を出ると日は落ちていた。

 

「日が落ちましたね。」

「いい時間だし、メシでも行くか。」

「はいっ、チュロスは美味しかったですけどまたお腹が空いてきちゃいました……」

「ふふっ、成長期ですね。でも何処にしましょう?このあたりはお店も多いですし――――――」

「―――――宜しければご馳走いたしましょうか?」

映画館を出たヴァン達が夕食を食べる店について話し合い始めるとある男がヴァン達に声をかけた。

 

「ゲッ……」

声に気づいたヴァンが二人と共に視線を向けると声の主はチョウであり、チョウを目にしたヴァンは思わず嫌そうな表情を浮かべた。

「お久しぶりですね、ヴァンさん。」

「おいおい、なんでアンタが……」

「旧首都で少々、所用がありまして。貴方にお目にかかるのも含めてね。近くに私共が経営する酒家がありますので、少々、話を聞いていただけませんか?」

そしてチョウの頼みに応じたヴァン達がチョウの案内によってある場所に向かっている所をサングラスをかけたジュディスが物陰から見ていた。

(あれは確か”黒月(ヘイユエ)”の……やっぱりあの男、只者じゃなさそうね。あたしにも気づいてたみたいだしママたちにも相談しなきゃ……)

ヴァン達を見つめたジュディスは今後の事について考え始めた――――――

 

 

説明
第15話
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タグ
エウシュリーキャラも登場 ディル=リフィーナとクロスオーバー 他作品技あり 空を仰ぎて雲高くキャラ特別出演 黎の軌跡 

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