英雄伝説〜黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達〜 |
チョウの案内によって東方系の料理を出しているレストランに案内されたヴァン達は客がいない2Fの席に案内された。
〜東方レストラン”彩雲閣”〜
「黒月貿易公司社長のチョウ・リーと申します。――――――お嬢さん方、今後もお見知りおきを。」
ヴァン達と対峙したチョウは初対面のアニエス達に自己紹介をした。
「”黒月(ヘイユエ)”って確か……」
チョウの自己紹介を聞いてチョウが所属している組織を知ったフェリは真剣な表情を浮かべた。
「ああ、カルバード両州の東方人社会のまとめ役、と言やあ聞こえはいいが……カルバード両州最大の巨大シンジケートの方が正しいだろ。」
「フフ、まあそれも一面ですが。」
フェリに説明をしたヴァンの説明を肯定するかのようにチョウは口元に笑みを浮かべながら答えた。
「その”黒月”の方がどのようなご用件で?ヴァンさんのお知り合いのようですが……」
「あんまり知り合いたくなかった口だがな。前に”黒月”から――――――つーかそいつから三度ほど依頼を受けた事があってな。ミラ払いは良かったんだがどれも体よく利用されちまった。歓迎できない類の客ってヤツだ。」
アニエスの疑問に対してヴァンはチョウとの過去の出来事を思い返してジト目でチョウを睨みながら答えた。
「それは残念、こちらとしては貴方とは良好な関係を築きたいと思っているのですが。まあ、折角ですしお食事の前に話だけでも聞いていただけませんか?」
チョウの問いかけに対してヴァンは断っても無駄である事を悟っていたのか肩をすくめて続きを促した。
「―――――実はヴァンさんには煌都に”出張”して頂きたいのです。」
「なに……?」
「”煌都”って確か北カルバードの南の……」
「ええ、カルバード南部に位置し、メンフィル帝国領でもある”南カルバード州”の州都でもある巨大海港都市”煌都ラングポート”。カルバード第二の人口を誇る街で、大陸最大の東方人街もそこにあります。」
チョウの依頼にヴァンが眉を顰めている中目を丸くしているフェリにアニエスが説明をした。
「ついでに”黒月”の本拠地もな。」
「その煌都で最近、厄介事が続いていましてね。警察やギルドにも頼れないこともあってほとほと困り果てているのです。無論、我々”黒月”も対処するつもりですが我らが振るう力はあまりに大きすぎる――――――そこで”裏解決屋(スプリガン)”殿の手をお借りできないかと思った次第でして。」
「正直、御免だな。――――――厄介事もどうせ”A”だろ。」
チョウの話を聞いたヴァンは腕を組んで依頼を断る意思を示した。
「フフ、流石お耳が早い。ええ、アルマータのダミーカンパニーが先月煌都の新市街に支社を開きました。それ以降、関係者と思しき者達が度々、挑発するような嫌がらせを仕掛けています。中には酷い諍(いさか)いに発展することもありまして、いささか見過ごせぬ状況かと。」
「裏勢力同士の話だ、勝手に潰し合ってりゃあいいだろ。」
「これは手厳しい――――――ですがヴァンさんも我々の果たす役割についてはご存じの筈。”バランサーとしての我々”になら少々手を貸していただく余地はあるのでは?」
「………チッ………」
「それって……」
「ばらんさー、ですか?」
チョウの話を流そうとしたヴァンだったがチョウのある指摘を耳にすると舌打ちをし、アニエスは目を丸くし、初めて聞く言葉にフェリは不思議そうな表情を浮かべた。
「”黒月”は言わばカルバード両州における裏社会の顔。我々は秩序を重んじます。無論、法の範疇にないようなことに手を出していることは否定しませんが……”はっきりと一線”を引いています。度が過ぎるようなことを”黒月”は”掟”で禁じているのです。例えば……依存性の高いドラッグの流通や、人身売買のような、ね。」
「ッ………!」
チョウの説明を聞いたアニエスは思わず息を呑んだ。
「同時に、目を光らせて他の非合法組織にも同じ掟に従うよう”協力”してもらっています。カルバードの裏社会の秩序は、昔からこうして保たれてきました。」
「組織としての格上の”黒月”に他の小規模組織も逆らえないと……」
「警察やギルド以外に、”黒月もまたカルバード両州の秩序の一部”……ですか。もしかして、メンフィル帝国が南カルバード州の総督府を煌都に設置しなかった理由の一つは………」
「ふふ、その通りです。メンフィル帝国も昔から”カルバードの秩序”を担っている我々への”配慮”として、南カルバード州の総督府を南カルバード州最大の都市である”煌都”に設置する事を避けて頂いたようなのです。流石はヴァンさんの助手さん方、ご理解が早くて助かります。」
自分の話を聞いてそれぞれ黒月の事を理解したフェリとアニエスに感心したチョウは笑顔を浮かべて二人を賞賛した。
「い、いえ……」
「―――――と言っても、さっきの話はあくまで数年前までの状況、だな。」
「ええ、ここ数年で急速に力をつけてきた”アルマータ”は我々の掟を無視しています。明らかに一線を超えた数々の悪行――――――我等との全面対決を辞さない姿勢でしょう。つられた、他の幾つかの小規模組織までも”掟”に反発し始めていましてね……まあ、それらの有象無象は正直大した問題ではありません……今はまだ。ですが、万が一”黒月”が”アルマータ”との抗争に敗れれば――――裏社会のルールが完全に書き換わり、文字通りの”無法地帯”となるでしょう。それがどういう未来なのか、……ご想像いただけるでしょうか?」
「で、連中をどうするか――――――”黒月”としての方針は?」
ヴァンの話に頷いた後説明を続け、問いかけたチョウの問いかけに二人がそれぞれ不安そうな表情を浮かべたている中、ヴァンは真剣な表情でチョウに訊ねた。
「『やるからには徹底的に一撃で』――――――これが長老がたの方針です。今の”アルマータ”はかつての中規模マフィアだった頃とは訳が違います。狙いの見極めも含め慎重を期して掛かる必要があるでしょう。挑発されているとはいえ、短絡的な報復などは避けるべきかと。」
「ま、妥当だな。」
「ただ――――――跳ねっ返りが一人いるのですよ。”黒月”にまだ所属していない、溢れんばかりのカリスマのある問題児が。」
チョウは黒月を悩ましている人物を説明しながらその人物の事を思い浮かべて苦笑を浮かべた。その様子を見守っていたヴァン達は話に出て来た”問題児”が依頼に関わると察し、それぞれ表情を引き締めた。
「―――――少々長くなりましたが食事前のお話はこれくらいで。これ以上はヴァンさんが出張を引き受けて頂いてからと致しましょう。」
「……状況は大体わかったが、面倒くさすぎだろ……確かに”アルマータ”のことは気になるっちゃ気になるが……」
チョウが話を終えるとヴァンは溜息を吐いて答えを濁していたがゲネシスが入ったアニエスのポーチから光が放たれている事に気づいた。
(あ……)
「ふむ……?」
ヴァン同様ゲネシスの反応に気づいたアニエスは驚き、二人の様子を見たチョウは興味ありげな表情を浮かべた。
「とにかく話が急すぎる……!返事は明日にでも――――――」
「いえ、実は私は明朝、”帝都に発つ”予定でしてね。この場で返事が頂きたいのですよ。」
「”帝都”というと……」
「現在のゼムリア大陸で”帝都”と呼ばれている場所は3年前の”大戦”によって”自治州”でありながら二大国に対して”下剋上”をして、この北カルバード州を含めた広大な領土を治めるようになったクロスベル帝国の都――――――”帝都クロスベル”ですね。」
チョウの注意を逸らす為にヴァンは話を戻してチョウの依頼の返事についての答えを伸ばそうとしたがチョウは現時点での返事をヴァンに要求し、チョウが口に出した地名を目を丸くしたフェリにアニエスが真剣な表情で説明した。
「ッ……」
「ふふ、そこで黙られるから貴方には期待してしまうのです。――――――言うまでもなく”保険”です。”そちら”は応じて頂けるかわかりませんので。」
「……そういうことか。やっぱ嫌な野郎だな、アンタ。要は”そこまで”する必要があるほどの事態って訳だろ。」
「そうご理解いただければ。」
「”黒月”と”協力関係”の”ラギール商会”もだが、”中央”とメンフィル”本国”による例の”合同捜査隊”の連中の手は借りねぇのかよ?」
「無論、その両方にも手を貸して頂くつもりですが、幾ら協力関係とはいえ別の組織である”ラギール商会”にそこまで手を貸して頂くわけには行きませんから”アルマータ”との抗争に備えての異世界(ディル=リフィーナ)でしか手に入らない物資を黒月(われわれ)に優先的に回して頂くことが限度です。そして”合同捜査隊”の件ですが……最近、捜査の為に彼らも煌都で活動を始めましてね。メンバーの顔ぶれが”黒月(われわれ)にとっても少々厄介な顔ぶれ”なので、ヴァンさんや”保険”のように全面的に信頼して任せる訳にはいかないのですよ。」
「”黒月(アンタたち)にとって厄介な顔ぶれ”だと……?」
(よ、よくわかりませんが……交渉が難航しているようですね。)
(ええ、ヴァンさんの決断は……)
ヴァンとチョウの話し合いを見守っていたフェリとアニエスが真剣な表情を浮かべて小声で話し合っていたその時チョウが指を鳴らした。すると店長が現れてヴァン達の前にそれぞれ何らかの果実を使った料理と蜂蜜に見える液体が入った飲み物を置いた。
「大陸中東は”ヴァリス市国”から取り寄せた秘伝の”生ドライフルーツ”を使った前菜と異世界――――――”ディル=リフィーナ”から取り寄せた木の精霊――――――”ユイチリ族”の蜜を使った蜂蜜水です。まずはご賞味あれ。」
料理と飲み物が置かれるとそれらについて説明したチョウはヴァン達にそれらを口にするように促し
「これがドライフルーツ……?」
「……わたしが知ってるのと違います。それに蜂蜜水の方は異世界の精霊様の蜜を使ったものと仰っていましたが……」
アニエスと共に興味ありげな表情で自分達の目の前に置かれた料理と飲み物を見つめたフェリはある事が気になって、チョウを見つめ
「フフ、ご安心ください。私も直接その場面を目にしていませんが、それを仕入れた方の話によりますとユイチリ族の蜜というのは例えで現わすならサナギが羽化した後に残った殻のようなものでユイチリ族にとっては不要になったものとの事ですから、貴女が懸念しているような血生臭い事を行って手に入れた物ではありません。」
フェリに見つめられたチョウは説明をした。
「ぐっ、話は終わっちゃ――――――」
一方好物である甘味を出された事に思わずうなり声を上げたヴァンは反論しようとしたがチョウと背後に控えている店長はそれぞれ無言の笑顔を浮かべ、その様子を見て諦めたヴァン達はそれぞれ料理や飲み物を口にした。
「……じゅわっと………口の中でじゅわっと来ましたっ……!」
「甘さと味わいが凝縮されているのに瑞々しさも残っているなんて……それに蜂蜜水の方も蜂蜜水とは思えないくらい、絶妙な甘さで喉ごしもすっきりしているなんて………」
あまりの美味しさに目を見開いたフェリとアニエスがそれぞれ感想を言い合っている中ヴァンは葛藤した様子で料理や飲み物を見つめたがやがて誘惑に負けたのか料理や飲み物を口にすると美味しそうな表情を浮かべて味わっていた。
「―――――大変貴重なものでして、黒月でも滅多に手に入らない逸品です。依頼を引き受けてくださったら、16種詰め合わせの”特箱”と瓶箱3セットをお贈りしましょう。もちろん報酬とは別に……あくまで”感謝の気持ち”として。如何ですか―――――ヴァンさん?」
ヴァン達が味わっている料理や飲み物が珍しい物である事を伝えたチョウは口元に笑みを浮かべてヴァンに問いかけた。
その後チョウの依頼を引き受けたヴァンはアニエス達に依頼に関する今後の予定を伝えた後学院の寮に戻る為に地下鉄に乗ったアニエスを見送り、更に事務所の上にある部屋に戻るフェリと別れたヴァンは夜の旧首都を一人で回っている途中にタイレル地区のカフェに向かい、テラス席で休憩をすることにした。
〜タイレル地区・カフェ〜
(ふう、たまにはこういうのもいいもんだ。昼間は色々ドタバタしてたしな……)
「今なら他の客も少ないようです。ちょうどあの席が空いていますね。」
(あの声は……)
ヴァンがカフェでコーヒーブレイクをしていると聞き覚えのある女性の声が聞こえ、声を聞いたヴァンが目を丸くして声が聞こえた方向に視線を向けると記者とエレインがカフェに現れた。
「ッ……!」
「どうかなさいましたか?」
ヴァンに気づいて僅かに驚きの表情を浮かべて立ち止まったエレインに気づいた記者は振り返って不思議そうな表情で訊ね
「いえ、なんでもありません。」
訊ねられたエレインは答えを誤魔化してヴァンの前の席でインタビューを始めた。
「それでは、本日のインタビューを始めさせていただきます。」
「ええ、よろしくお願いします。」
(ハッ、雑誌のインタビューか。)
二人の会話を聞いていたヴァンは苦笑を浮かべた。
「まずは先日アンカーヴィルで起きた難事件の解決、本当にお疲れ様でした。各種交渉に現場に乗り込んでの犯人拘束、まさに”剣の乙女”のご活躍あってこそでしたね。」
「いえ、協力していただいた皆さんのおかげでしょう。沢山の支えがあってこそ私達の手の範囲を広げられる―――――A級を拝命してなお、改めて感じていることです。」
記者のインタビューに対してエレインは一瞬ヴァンに視線を向けた後答えた。
「なるほど〜、初心こそが大事であると。そんなエレインさんのご実家といえばかの大手菓子メーカーですが――――――」
その後インタビューは順調に進んで終わった。
「いや〜、本日は誠にありがとうございました!読者が気になるオフの話なんかも色々聞かせていただいて!」
「ふふ、大したことじゃありませんがお役に立てたならよかったです。」
「それにしてもエレインさんの笑顔、やはり画になりますねぇ。以前も打診させていただきましたが弊社から写真集を出す気はありませんか?」
「……すみません、そういうのは基本、お断りさせて頂いていまして。」
「うーん残念です、爆売れ間違いなしだと思いますが……とにかく今日はありがとうございました。私は一足先に失礼させていただきます。エレインさんはどうぞごゆっくりくつろいでくださいね。」
「ふう………」
「バニラココアです。」
記者が去った後溜息を吐いたエレインの所にウェイトレスがエレインの前に飲み物を置いた。
「え?注文していませんが……」
「あちらのお客様からです。」
注文していない飲み物が来たことに戸惑っているエレインにウェイトレスはヴァンに視線を向けて説明した後去って行った。
「……どういう風の吹きまわしかしら?」
「好きだろ?バニラココア……」
ウェイトレスが去った後ジト目で訊ねてきたエレインにヴァンは苦笑しながら指摘した。
「何年前のことだと思っているのよ……」
「いらねえのかよ、じゃあ俺が貰うが。」
「いらないとは言っていないわ。」
そしてエレインは目の前に置かれたバニラココアを一口飲んだ。
「今も好きよ、この味。ホッとするから。たまにルネとお茶する時に頼むと、”まだまだ子供だな”なんて笑われるけど。」
「ハッ、目に浮かぶようだ。――――――にしても、すっかりギルドの広告塔になっちまったなぁ。雑誌のインタビュー、今シーズンに入ってこれで何件目だ?」
「ギルドの理念を宣伝するのも仕事の内、A級を引き受けた時に覚悟していたことよ。」
「そういってる割には疲れた顔をしてるじゃねえか。」
「…………………」
ヴァンの指摘に反論がないのかエレインは目を伏せて黙り込んだ。
「上手く取り繕っててもわかんだよ。昔からそういう機会が多いくせに、本当は苦手なんだよな、お前。」
「ヴァン……知ったような口を利かないで。……何年も見ていなかったくせに。」
「っ……だな、悪い。」
指摘を続けたヴァンだったがエレインの自分にとって図星の指摘に唇を噛み締めた後謝罪した。
「別に謝られることでもないわ。私のことより、自分の心配をしたらどう?いつまでもそんな違法スレスレな仕事をして、貴方なら他にいくらでも……」
「いいんだよ、俺はこれで。性に合ってんだ――――――いろんな意味で。」
「……そう。せめてアニエスさんとフェリさんだったわね、あの子たちに危険な事をさせないように。」
「ああ、わかってる。幸いにもフェリはともかく、アニエスには”お目付け役”もいるからな。本当にやべぇ時は自分で何とかするさ。」
(それもやめてほしいんだけど……)
ヴァンに注意をしたエレインだったがヴァンから帰ってきたある答えを聞くと小声で呟いた。
「そろそろ行くわね。バニラココア、ごちそうさま。おかげで大分疲れが取れたわ。」
「ああ、じゃあな。」
そしてバニラココアを飲み終えたエレインは立ち上がってヴァンに礼を言った後カフェから去って行った。
(……水に流して、ってワケにもかねぇよな。ま、少しは休めたなら奢った甲斐もあったってもんだ。)
エレインの様子を思い出したヴァンはふと自分が頼んだコーヒーに視線を向け
「こっちはすっかり冷めちまったな。ったく、やれやれだぜ……」
すっかり冷めたコーヒーを見つめて苦笑を浮かべた。
その後、あらためて一服してから巡回を再開したヴァンは巡回を終えると事務所に戻り、ソファーにもたれかかって一息ついた。
〜アークライド解決事務所〜
「ふう……明日は早いしとっととシャワーでも浴びるか。しかし今回もとはな――――――」
一息ついたヴァンは地下鉄駅でアニエスを見送る前の出来事を思い返した。
数時間前―――――
「―――――今回も三連休なので私も一泊だけなら大丈夫です。」
「!えへへ……よろしくお願いします、アニエスさん!」
「ええ、フェリちゃんこそ。」
「ってオイ……!少しは人の話を聞きやがれ。今回は”アルマータ”が端っからはっきり関わってやがる。俺のカンだが相当ヤバい。お前らは二日程留守番を――――――」
出張について行くつもりでいる二人の様子に思わず声を上げたヴァンは二人に留守番を指示しようとしたが
「だからこそです……!ヴァンさんの護衛の為にも!それに……アイーダさんの仇の”彼ら”の狙いを知るためにも。」
「……私も聞いてしまった以上、自分だけ旧首都になんていられません。それに……」
二人はそれぞれ決意の表情で出張について行く事を答え、アニエスは答えた後チョウとの会話の出来事でゲネシスが反応した事を思い返した。
「”ゲネシス”が関わっているなら私自身の問題でもあると思うんです。寮に帰ったらすぐに荷造りします。どうか連れて行ってください……!」
ゲネシスの事を思い返したアニエスはフェリと共に決意の表情でヴァンを見つめた。
〜現在〜
「はぁ、どいつもこいつも頑固っつーかなんつーか………助手2号も、今日の様子を見りゃあ戦闘以外は年相応なんだが……」
アニエスとフェリの事を考えていたヴァンだったが自身のザイファに通信の音が聞こえるとザイファを取り出した。
「国外からの長距離コール……?ああ、ひょっとして。」
「夜分に失礼します、ヴァン・アークライド様。」
通信してきている場所に目を丸くしたヴァンだったが心当たりがあった為すぐにザイファを操作すると淑やかな女性が通信に出た。
「アンタか。そろそろかけてくると思ったぜ。」
「フフ、それは光栄です。早速ですが先月の査定をさせて頂けますか?お忙しいようでしたら後日でも結構ですが。」
「いや、丁度明日から仕事が入ってるんでな。とっととすまさせてもらうぜ。(色々突っ込まれそうだしな……)」
通信相手である淑やかな女性の確認に答えたヴァンは女性から視線を逸らした。
「?どうかされましたか?」
「こっちの話だ。そんじゃ使用状況を送るぞ。」
「ええ、よろしくお願いします。」
そしてヴァンはザイファを操作して女性にあるデータを送信した。
「………頂戴しました。それでは零式頚術(ゼロシキストライク)と撃剣(スタンキャリバー)――――並びにザイファ用特殊ホロウ”メア”の使用状況を確認させて頂きます。相変わらずお忙しそうですね……あら?」
「………」
自分が送ったデータを確認した女性が眉を顰めるとヴァンは目を伏せて黙り込んだ。
「先月後半のバイタルの数値が……それにホロウ稼働時のこの異様な数値は………」
「…………………」
「…………………ヴァン様、一体何があったのですか?」
「………………………」
女性の問いかけに対してヴァンはどう誤魔化して答えるか黙って考え込んだ。
その後女性との通信を終えたヴァンは明日から始まるラングポートでの”出張”に備えて休み始めた――――――
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