暗算
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「こんな暗算もできないの?」

 始まりは友人のこの一言だった。

 数学をあんな奴に教わろうと思った僕が馬鹿だった。

 あれから僕は悔しくて、暗算だけを集中して勉強した。

 今じゃあもう、足し算くらいなら、どんな桁数だろうと暗算でできるようになった。

 

 でもそれが間違っていたんだ。

 

 どこを歩いていても、数字はいたるところに氾濫している。

 その数字を見る度に、僕の頭は暗算をするようになった。

 どの数字だろうと一目見て暗記する、そして次の数字を見たら、頭の中で自動的に足し合わせる作業が行われる。

 

 

 次に見た数字も、その次も……。

 

 

 これを便利だと言う人は多いと思う。

 でも、そうなった本人にしてみれば便利などとは程遠い。

 

 目を動かせば数字。

 

 数字。

 

 また数字。

 

 

 

 見る度に暗算してしまう。

 

 こんな苦しみが他人に分かってたまるか。

 おかげで、ついいつも下を見てしまう。

 

 でも数字は道路にも存在している。

 

 この時ばかりは、道路交通法の存在がたまらなく憎かった。

 

 登校の時に通る道なんか、商店街まであるからいっそう頭に来る。

 ショーウインドウのセールの商品なんか見た日には、数字で頭がいっぱいになってしまった。

 電器屋の広告紙は前までは大好きだったけど、今となっては見たくもない。

 見たら暗算をしてしまい、大変なことになる。

 

 この間、下校中に危なく電器屋の中に入れられるところだった。

 あの友人どもは、きっと僕を殺すつもりだ。

 

 今こうして歩いている時だって、数字を見てしまう。

 この道を通ると、通り終えた頃には215も頭の電卓に追加される。

 だからあまり出歩かないようにしているのだが、今日みたいに用事のある日は仕方ない。

 今周りを見渡して見て思ったんだけど、ホントに数字がいっぱいだ。

 前も数字。

 後ろも数字。

 右も左も下まで数字。

 

 

 広がる広がる数字が広がる

 上下前後右左

 あそこに数字ここに数字

 数字、数字、あれも数字

 1と3に6と4

 数字数字数字数字………

 

 

 僕は両目をくりぬいた。

 

説明
書いたのはもう12年も前。

ひぃ!時間の流れが怖い!
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