ウイークエンダー・ラビット 〜パーフェクト朱墨の山〜 6.全自動こん棒つなぎマシン |
外に飛びだす!
私はシロドロンド騎士団のおじさまの手を引いて歩きだす。
顔は氷のように青ざめているはずなのに、手は不快なほど熱い。
しかもネバネバの気持ち悪い汗をだしてる。
足もふらふら。
どう見てもイヤイヤだ。
(かまうもんか! )
私が向かうのは、テントの中だよ!
と思ったら、ドドドドと足音が追ってきた。
「装備は仕様書どうりに! 作れ! 」「装備は仕様書どうりに! 作れ! 」
「「装備は仕様書どうりに! 作れ! 」」
重なる叫びとともに、ハンターキラーのデモ隊が、やってきた。
{装備は仕様書どうりに! 作れ! }のプラカードが迫ってくる。
カードを手にした茂 しゅうじさんが。
「装備は仕様書どうりに! 作れ! 」
スゴイや。デモの掛け声に正式採用だよ。
さっきもいっしょの宇潮 心晴さんは、好奇心いっぱいの笑顔でタブレットのカメラを向ける。
「ひっ」
引きつるおじさまが、恐怖に息をのんだ。
デモ隊の意をくんだのか、足が早くなった。
「うさぎちゃん、待ってよ」
そうじゃなかった。
頭上にやっていた赤い影。
「心配してくれるのはありがたいけど、わたし元気だよ」
ワニのような口から、ドラ声で訴える声。
不快なゴボゴボという音とともに。
ボルケーナ先輩がプワプワ浮いてる。
そうだ。
腹がたつ!
おじさまが足を速めたのは、先輩がこわいからにすぎないんだ!
その先輩のシッポが、ダラ?ンと垂れさがっている。
あの人は空を飛ぶとき、重力をあやつる。
その範囲が、シッポまで届いていないんだ。
わたしはそのシッポに、中学生にしては驚異的と言われるジャンプで、飛びついた!
先輩は、同じ大きさの風船くらいの浮力しかなかったの。
「寝不足は元気っていわないです! 」
先輩は「あーれー」と情けない声をあげて、ひき落とされた。
浮力が同じ大きさの風船くらいしかない。
これは私には、悲劇なの。
元気なら、わたしを飛びつかせたまま飛んでいけるのに。
無念の表情につながるシッポは、安菜にわたした。
そのまま、マフラーのようにシッポを巻きつける。
「安菜は先輩といっしょにコンサートに行って。
誰か、捕まえれる人がいるでしょう」
「誰もいなかったら? 」
「あなたがずっと捕まえてればいい」
「ここまで来たなら、続きを見届けたい気もするけど」
「まだ付いてきてくれるつもりだったんだ。ありがとう」
私は進んだ。
その分、後ろから追いかける人波にはばまれる。
「「うさぎー! 」」
2人の声が重なった。
「コンサートは! たのんだよー! 」
おじさまの部下、男女と子供の3人の騎士もついてきてる。
「ヒエエ?」「神に逆らった」と、おののきながら。
「あ、朱墨ちゃんはついてくるの? 」
「ついていくよ」
小さな体で人波に逆らいながら。
押し寄せる人の流れを読んで、縫うように勧めるのはさすがハンターキラー。
「何をしたいか、見せてもらうよ! 」
そうなんだ。
私を見てくれる人はここにいる。
ボルケーナ先輩しか見ていない、見ているつもりでしかない暗号世界の人たちとは違う。
私は、声をはり上げた!
「道をあけてくれませんか?! 」
黄色さがふえても暑さはかわらない空気も、デモ隊もかき分けて進む。
今の私は、プンプン怒りモードだ!
「彼らには私から、見ていただきたいものがあります! 」
聞こえる。「おー、ウイークエンダー・ラビットのパイロット」みたいな、驚きの声が。
人波がわれていく。
エリートでよかった!
「おい。なんでハイテクビームライフルがサビついて折れかかってるんだよ」
……聞こえてくるフキゲン声は止められない。
「そ、それは、ワタクシたちの世界には、こ、これら作り物を整備する能力がないからであります」
また暗号世界の店員さんが、ハンターキラーに怒られてる。
ハンターキラーは筋肉質な男の人だ。
店員さんも決してひ弱じゃないけど、迫力に押されてタジタジ。
「我われは進化の果てに異能力を手にいれ、その過程で物作りの能力を捨てました」
浮かべるのは、深刻さをごまかすための、笑顔。
「しかしながら、このような遺産でも、研究資料としては価値があるものかと……ね」
当然、ハンターキラーさんが詰め寄った。
「それ! 買います! 」
そうしたら横から、女の人が割って入った。
茶色い髪で、大きな3角のケモノ耳と、髪と同じ色の三日月のようなシュッとしたシッポを持ってる。
「こういう物には、持ち主の強い想いがこもってるのよ。
それは呪術には使い道があるから……」
「俺には使い道がなくていいのかよ! 」
あ、あの2人って。
「うちのパパとママです」
朱墨ちゃんが言いにくそうにつぶやいた。
そうだ。
あの男の人がフォクシン・フォクシスの副隊長で、女の人が瑞獣たちを含めた総隊長。
九尾 大さんと九尾 疾風子さん。
疾風子はシップウ子じゃない。トシ子と読むの。
化け狐で、海の向こうに見える山脈の守り神でもあるの。
……ええい! あの人たちも連れて行こう!!
私と朱墨ちゃんは方向転換。
私はママさんの、朱墨ちゃんはパパさんの手をとって、無理やり走りだす。
「手が空いてる人は、一緒にきなさい!
そうでない人も、あとでポルタ社の“全自動こん棒修理マシン”を見てください!
見なさい!! 」
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
来た倍以上の時間がかかったけど、テントには入れた。
目指すはポルタ社の紫のロゴがあるパビリオン。
ポルタ・プロクルサトル、ラテン語で門の先駆者を意味する2つのP。
そのPのたて棒をVの字に合わせたロゴマーク。
目立つ製品は、ドラゴン・マニキュアとドラゴン・ドレス。
タイプごとに灰や黒、茶色と緑のマダラに塗られてる。
ドラゴン・マニキュアは、装甲や体力を増強する機械を服のように着こむ、強化外骨格。
パワードスーツとも言う。
ここにあるのは最新型で、マーク5の試作機。
宇宙服にもなるし、翼がついて空も飛べる。
ドラゴン・ドレスは人型ロボット。
高さ3メートルで重さが2トンあって、人が乗りこむ。
これも空が飛べて、いきなり宇宙へ飛ばされても、へっちゃら。
さらに、どちらも多彩な装備を運用できる。
その前にできた人がきが、高性能ぶりを物語る。
パワードスーツも人型ロボットも、ほかの会社からいろいろでてる。
けど、ポルタ社のものが最高級品って言われてるの。
でも私が目指したものは、そんなハンターキラーたちの目を引くものじゃないの。
「見ていただきたいのは、これです」
自動で動くいくつかの機械をベルトコンベアでつないだもの。
工場にいくらでも並ぶような、地味な機械。
まだ試作機だから、使われてる部品も古いもののツギハギ。
その入り口には、曲がった鉄の棒や、折れた木の棒が、手で持てるコンテナにはいって山積みされている。
「これが、全自動こん棒修理マシン」
ここまでは、シロドロンド騎士団の目はうつろなまま。
「ボルケーナ先輩が作ったものです」
そう言ったら、4人は駆けだした。
目をむいて、マシンをなめるように見てるよ。
奇怪なものを見た衝撃で、周りの人たちもこっちを向いた。
私の顔は、ひきつってきた。
(私たち地球人は、こんな人たちに頼らなきゃいけないの? )
そんな思いは、できるだけ隠して。
「第四次世界大戦の武器、という考えがあります」
この時、シロドロンド騎士団の子ども騎士がこっちを向いた。
その目はおびえて、それでも私をまっすぐ見てる。
彼以外は、目もくれない。
「第三次世界大戦は、未来で起こるかもしれない地球全土をおおう戦争のこと。
全面核戦争になると言われています」
私の声は、振り向かない騎士たちには、どう聞こえてるんだろう?
「すべての文明が滅びてしまう。
残された者には、原始的な文明しか残りません。
だから、こん棒のような武器しか作れなくなり、第四次世界大戦はそれで戦わなくてはならなくなる。
そういう考えです」
暗号世界では、機械文明は落ちこぼれ。
その痕跡を恥として、残さない世界も多いの。
それでも、機械文明から生まれた誓い、MCOはある。
異能力を持たないはずの命から、なんで生まれたのかわからない力が。
「MCOは異能力のない機械の中でだけ動きます。
しかし、暗号世界に機械を作る力はない。
そこで着目したのが、第四次世界大戦の武器。
こん棒のような武器に取り付かせることで、MCOを運ぶことにした。
それは、たしかに成功しましたね」
「MCOのこん棒って、ハテノ市に、いつ飛んでくるかわからないんだよね」
「送り方が雑だから、折れたりするの、危ないよね」
突然に、朱墨ちゃんより幼い声が聞こえた。
それもそっくりな声が、二つ。
その瞬間、騎士団の残りの3人が振り向いた。
……やっぱり、無能力者のエリートなんてそんなもんか。
瑞獣のうち2人、デコとペタ。
双子の姉弟で、寝癖で頭がデコボコしてるのがデコ。
きれいなおカッパで、髪がペタッとしてるのがペタ。
ふたりで合体して二つ頭の大鷲になるよ。
その見た目はまだ10歳にもなってない子供そのもの。
でも、だまされてはいけない。
少なくとも1000年以上を生きた、本物の神さま。
その2人は、さらに後ろに立つ2人の女性に目を向けている。
何か言って、というように手を向けてた。
「……全自動こん棒修理マシンには、うるし漆器などの技術を使用されています。
通常では乾燥などに数か月かかる技術ですが、時空湾曲技術により一分以内に修理が完了します」
屈強な女性、天力 狼万さんが説明した。
恐怖をつかさどる狼で、本来絶滅動物のはずだけど、どこかの神社がクローンとしてよみがえらせた。
ほかの動物の遺伝子を組み込み、トラのしなやかさやクマの強さも併せ持つ。
「その時空湾曲技術を作るのが、大変だったんだよね」
天狐の女の子、疾風子さんの妹に見える、高校生ぐらいの子が受けついだ。
「ボルケーナちゃんの本質は時空の女神だからできたんだろうけど、それでヘロヘロになったんでしょ? 」
九尾 九尾さん。
九尾さん家に生まれた九尾さん。
血統を重んじた、遺伝子ブレンドで生まれた。
そして、瑞獣たちの隊長。
「それでも、こん棒のMCOと話し合いたいっていうんだから、大した根性だよね」
その声には、騎士団に対するトゲがある。
4人の瑞獣さんたちは、私の言いたいことを、見事に伝えてくれた。
だけど、どうしてもすっきりしないの。
このままじゃ、私たち能力者から、何も伝えられてないみたい……。
「あの、質問していいですか? 」
朱墨ちゃんだ。
手を上げて近づいてきた。
「その少年って、誰ですか? 」
朱墨ちゃんが気にしたのは、レストランから同行してる、あの少年。
「奴隷OKの世界で、その子をあげるから許してください。て感じじゃないでしょ」
だとしても、嫌悪とともに、お断りしそう。
「もしかして、あなたがリーダーじゃないですか? 」
……その発想はなかった!
そして感動した!
小学生の朱墨ちゃんのほうが、状況を見てるじゃないの!
同じ年頃の男の子と女の子の関係とは、思えない。
不思議な違和感。
「もし、そうじゃないとしても、これは私からのお願いとして聞いてほしいんだけど。
君……少年に聴きたいの。
あなたは私たちのために、これから何ならできるの? 」
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僕の作品、変な名前が多いかな こん棒エンジェルスとか |
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