ウイークエンダー・ラビット 〜パーフェクト朱墨の山〜 23.妖菓子鬼茶天タイム |
(パーフェクト朱墨、パーフェクト朱墨)
心のなか限定でつぶやいてみる。
(愛情がこもった良い名前だね)
ウイークエンダー・ラビットは、お母さんかつけてくれた。
ラビットはうさぎのことだし。
うちのきょうだいは、みんなそう。
でも、パーフェクト朱墨は誰が考えたんだろう。
朱墨ちゃんのお母さん、疾風子さんが?
・・・・・・どんなネーミングセンスかは、知らないや。
もしかして、アーリンくん?
そんなに朱墨ちゃんを認めてたのかな。
だったら、うれしいな。
そう思うと、足どりも軽くなるね。
達美さんを前にエスカレーターをのぼる。
1階は空港から運ばれた荷物を受けとる場所。
小さな売店がある。
2階からは会議室が、3階からは空港の管制室がある。
管制室のなか以外、人気はない。
飾りっけなんて、1階にはられた地域のポスターしかない、灰色空間。
だけどね、グロリオススメは違うよ。
グロリオススメは、このビルの屋上を改装して作られた。
ポルタ社の建築用3Dプリンターで。
長いアームがグールグールと回りながら、先から特殊樹脂をだして固める。
そして一晩でできた大きなドームが店舗なの。
ひさしの飛びでた傘みたいな屋根は、ツヤのある黒。
黒瓦と同じツヤ。
その下の壁は、窓を大きく作った白。
しっくい作りの和風建築をイメージしている。
もともとあったエスカレーターのならびから少しはずれて設置された、最後のエスカレーター。
それをのぼると、私の家にあるようなエントランスがあらわれた。
黒い瓦屋根をのせた太い木の柱に、厚い木の扉。
今はその柱に、貸し切りの札がかかってる。
自動ドアのそれが開くと、明るく照らされた店に入った。
「いらっしゃいませ」
入ってすぐ左。
レジが併設されたキッチンから、パティシエのお兄さんの声。
有村 修さん。
この人の作務衣は青だ。
左肩の白い藤の花の刺繍は、この店のスタッフの証。。
そして仕事中は白マスクを外さない。
「こんばんは。今夜は私もお客さんでいいんですよね?」
私のパティシエ師匠でもある。
「もちろんです」
うーむ。師匠に敬語を使われると何かムズムズする。
「それじゃあ、カプチーノください」
この店は飲み物の最初の一杯は無料なんだ。
「はい。そうだ、先ほど拝見した動画、大変興味深く引き込まれました。
生きる限り、リスクを背負う時がくる。
そのときに必要な意志のつかいかたをみせられました」
「そうですか、ありがとうございます」
バッグからサイフをだす。
アーリンくんにデザートを。
きっと落ち着くよ。
「すでに、出せるものは全て出しました。
若干胃もたれになってるかもしれません」
「うさぎの分も、そこから選んでよ」
達美さんに言われた。
「そうですか」
私は、バックから取りだしかけたハンターキラー小判を戻した。
小判。あの江戸時代にあった、金を楕円形にして作った金貨の、現代版だよ。
暗号世界にこっちの世界の紙のお金を持って行っても、ただの紙。
クレジットカードなんかさらに使えない。
だったら、溶かせば金の延べ棒にできる金貨の方が使いやすいことから、生まれたの。
殿様気分カフェと言うだけあって、その内装は特徴的だよ。
上から順番に紹介すると。
1.円形折上縁金格天井
天井の縁で角材を曲げ、1段たかくした天井のことを、折上縁天井(おりあげごうてんじょう)と言うの。
ここでは円形の屋根に合わせて作ってある。
釘を使わず、きれいな正方形を並べて組合わさった格子は、漆塗りな黒。
しかも縁は金箔が施されてる。
格子なかには、花や昆虫、海などの景色をカラフルに描いた日本画。
花鳥風月、春夏秋冬といったイメージを自然に沸かせてくれる。
2.赤い二俣和紙と加賀の青しっくいの壁
和紙ならではの繊細な赤。
青しっくいの鮮やかな青を、それぞれ1メートル幅の右あがりストライプとしてはった。
ところどころにある繊細な飾り棚には、地域の紹介本が並んでる。
3.寄せ木の市松模様の床。
一緒に刻まれた花のモチーフも、寄せ木細工で作られてるの。
マーケットリーというの。
使われるイスやテーブルも、アンティーク。
4.ステージ
ここは外せない!
店の奥の、今はカーテンの下りた空間が、ここをシャイニー★シャウツのコンセプトカフェにしてくれる。
そのカーテンは、デジタル緞帳。
天井に仕込まれたプロジェクターが、天井の日本画と同じタッチで描かれた能登半島をアニメにして映しだす。
デフォルメした能登を背景に、多くの人が行き交っている。
その姿は、漁師、会社員、農家、そしてハンターキラーとさまざま。
全体が暗いのは、いまが夜だからだよ。
天候によっても、自動で演出を変えてくれる。
そしてさっきまで、私たちの最新動画、『何が忘れられたのか』が映されていた。
そのステージのすぐ前に、アーリンくんはいた。
向かい合って座るのは、メガネをかけた赤い作務衣の男の子。
鷲矢 武志さん。
今はスマホ画面を見せながら、アーリンくんに何か説明していたみたい。
そのアーリンくんが食い入るように見つめてるのをみると、多分機械系の説明なんだろう。
武志さんは、達美さんの彼氏であり、メインエンジニアなんだ。
そして隣のテーブルには、有村さんの言う通り、デザートやお菓子が並んでいる。
「やあ、来たね」
こんばんは。
アーリンくんも、こっちを見た。
私に怯えているようだ。
かまうもんか!
私も絶対言いたいことがあるんだ。
「無事に帰れてよかったー」
武志さんは私に気づくと、アーリンくんにむきなおった。
「じゃあ、始めようか」
「・・・はい、丸い角砂糖をください」
お菓子の並んだテーブルから、武志さんはボンボニエールを持ってきた。
ロボットじゃない。
お砂糖をいれるものだ。
ふたを開けると、そこにあったのはまさしく丸い角砂糖。
アーリンくんの前においたカップに、新しい暖かいお茶を注ぐと、丸い角砂糖をいれた。
スプーンでかき混ぜながら。
「願いを言って、これを飲めば、契約成立だよ」
達美さんにいわれて、アーリンくんはカップに手をつけた。
「僕は、九尾 朱墨にあいたい!」
そういって、カップをグビグビ飲みほした。
彼の口のなかが心配になるよ。
だけど、達美さんは満足そう。
そのくらいの度胸がないと、朱墨ちゃんにあってもムダ、ってことかな。
「じゃあ、始めるよ」
そういって、両手を空に大きく広げた。
「Welcome to 妖菓子鬼茶天 time!」
あやかしきっさてんたいむ。
この店のなかでのみ使える、この人に許された最大の力。
色つやのよい皮膚や髪の毛が、液体金属のボルケーニウムの形質を戻す。
その波にのって、機械式の骨格から、様々な機能が解放される。
背中にはジェットエンジンと、鳥のような羽が。
さらに2本の新しい腕が生える。
全身は大ぶりな装甲で、服ごとおおわれる。
顔は、あのかわいい顔が銀色のガイコツじみた機械を見せる。
そこに、胴体からとびだしたヘルメットがおおう。
すべての機械が定まると、ボルケーニウムが赤い表面塗料としておおう。
自分の手で、ひたいに円錐形のツノを取り付ける。
最後はライオンの口に鞘に入った短刀をくわえさせた。
一見、横笛みたいに見えるけど、つばも握りもしっかり作られた、脇差しともいう日本風の短刀だよ。
メスライオンを思わせる凛々しい狩人の姿。
レイドリフト・ドラゴンメイド。
レイドリフト1号から連なる、ヒーローの一人。
「じゃあ、始めるよ」
自信にあふれた、その声。
アーリンくんがうなづいた。
ドラゴンメイドのかざした両手に光が宿る。
あの技は何度も見たよ。
あの光は大きくなると、ポルタになる。
遠くの空間と繋がる道ができて、中から朱墨ちゃんがたぶん、
「あれ? 私ご飯を食べてたはずなのに」とか?とまどいながら現れると思う。
だけど・・・・・・。
「あれ?」
ドラゴンメイドの体が、かたむいた。
そのままかたむいた方向に、歩いていく。
まるで、なにかに引っ張られるように。
そっちは、空港の滑走路がある。
今は、誰もいないただっ広い舗装された空き地。
それを見下ろす窓に向かって、ドラゴンメイドの光がほとばしった!
え、ええ!
「一体何をしたんだ?!」
武志さんが聴いてる。
「私知らない!」
ドラゴンメイドが、あの何百人もいるレイドリフト全体からいっても上位の強さを誇るドラゴンメイドが、怯えている。
窓は?!
よかった。
光は窓を割ることなく、すり抜けたようだ。
そして、その先は・・・・・・。
その場にいた全員の目が、滑走路のハシにくぎづけになった。
夜を、太陽のように照らしながら、光はそこにとどまっていた。
そのむこうから、光とは違う音が聞こえてきた。
あれは機械?
タイヤで走る音?
説明 | ||
皆さん、時間がない時のご飯て、どう料理しますか? レンジのカレーライスが僕の定番なんですが 新しいことしてみたいです |
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