追憶 2
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追憶 2

 

 

ひと月目が過ぎた朝

 

少女を薬湯につける前

王はガイコツの手をのばすと

妹に残された片足を持ち上げ

その親指と母指球の腹に ヤスリで擦り傷をつけた。

 

血がにじむほど足指と指球をこすられたが

邪神の加護を受けたとされるそのヤスリは

妹に痛みを与えなかった。

 

あとは いつも通り 

日がな一日中薬湯に漬け込み 独房に戻す。

 

繰り返す事1か月が過ぎたころ

妹は自身の身体の異変に気が付く。

 

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不意に地面に足裏をつけた瞬間

全身に稲妻が走りその場に倒れ込んだ。

 

求め続けた甘い感覚が

久しく体を包み込んだのだ。

 

最初は何が起きたか分からなかったが

甘美の出どころを察すると

少女は 

手に入れた快楽に

必死によりすがろうと身をよじり始めた。 

 

その様子を見ていた王は

彼女の残された足に

特別な中敷きが施された木靴を履かせた。

 

甘美な焦燥感に襲われ

しばらくもだえていると

靴の中で 足が動かせることに気付く。

 

もはや恥も外聞も消え失せた妹は

短くなった右脚で木靴を固定すると

懸命に全身をくねらせた。

 

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劣情に支配され 邪神に曇らされた星読みの力に

妹は絶望していた。

 

仮に今未来を覗けても ろくな光景は見えないだろう

 

この窮地を脱しても

手足を失い ただでさえ脆弱な自身の能力は

先の短い姉にさらなる負担を強いることになる

ならば いっそ・・・

 

そんな想いが交錯するさなか

突然もたらされた快楽に

しばし狂喜乱舞し ひさしぶりの快楽を噛みしめる。

 

何回目かの至りのあと

ふた月ぶりに冷静さを取り戻した妹は

己の生こそが姉に対する唯一の報いなのだと

自身を鼓舞した。

 

薬湯漬けの日々は続いたが

新たな快楽のはけ口によって冷静さは保たれた。

 

しかし 最後の週が訪れると

またも王は 少女の心を折りにかかる。

 

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王は妹を独居房から出すと

けっして足裏がどこにも接しないように

彼女の体を張り付けにした。

 

「最後の週は

 ずっと浸ってもらおう。」

 

少女は青ざめた。

 

幼い身体 その半身が 

拘束具と共に薬湯のプールに沈められる。

 

地獄 全身をつらぬく焦燥感の地獄。

 

口に詰め物をされ

舌をかみ切る事も出来ない。

 

自身で首や背骨を折り砕こうと試みるも

巧みに設計されたくびきは負荷を逃がし続ける。

 

生き地獄。

 

一度奪われ 

代わりを与えられ 

それすらまた奪われて なぶられる。

 

耐え忍ぶ余力は 一切残されていなかった。 

 

妹は本心から死を望んだが

邪悪なやさしさに満ち満ちた薬湯と拘束具は

柔らかにそれを拒絶する。

 

そして運命の朝がやってきた。

 

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朦朧とした妹の前に 姉が放り出される。

 

妹の判断力は限界までそぎ落とされていたが

愛した姉の異変にはかろうじて気が付く

 

おかしい 姉の様子がおかしい

五体は 揃っている

外傷らしい傷は 目視出来ない。

 

だが 明らかに

自身がそうであるように

姉の意識がおぼろげだ。

 

獰猛な王は 姉にも自身と同じ責め苦を施していた。

 

高笑いとともにヒトの姿に戻った骸の王は

姉にゆっくりと近づいた。

 

秘術の詠唱が繰り返される中

王はあろうことか

妹が見ているその前で姉を犯し始めた。

 

疲れ果て もう動かないかとおもわれた妹の体は

自身の意思に反して勝手に暴れ狂い始めた。

 

妹の胸中を支配するのは

愛する人を犯された怒りでも

姉の身を案ずる配慮でもない

 

自分にも慈悲を・・・。

 

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どれだけ時間が過ぎたろうか。

 

日の光が傾き始めたが

詠唱手は交互に入れ替わり 秘術の呪文を唱え続けている。

 

姉は何度達したのか 

 

顔を合わせたときは呆けた表情だった

今は疲労を浮かべこそしているが

妹を気遣い 叫ぶだけの平静は取り戻している。

 

その妹は 

 

逃げ場のない焦燥の炎に全身を焼かれ

痴呆の様相を呈していた。

 

王は妹の口から詰め物を引き出す

 

そして

 

王のガイコツむき出しの口から

 

悪魔の言葉が放たれる。

 

「{はい}。

 

 ヒトコトだ。

 ヒトコトよこせ。 

 足の裏を撫でてやる。」

 

 

 

何を言われたのか 

 

判別できていなかった

 

言葉の意味どころか 

今 現状 己 場所 時間 

 

欲望以外の全ての概念が脳裏から消え失せていた。

 

ただ 彼女の口は 彼女の意思を無視して動いた。

 

何百回目かの詠唱

その終わりに続いて

 

喉の奥から空気が漏れ出た。

 

「はい・・・。」

 

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王は

 

妹の足裏を握りしめた。

 

意識が砕け散る音がした。

 

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恒星の今際のごとき白昼夢から意識が身体に帰ると

数え切れぬ痙攣と身震いに襲われた。

 

我に返った妹は

後悔の悲鳴を上げる。

 

魔法陣が輝く中 

愛した人の方を向き直ると

 

視線の先には

いつもと変わらぬ

やさしい笑顔があった。

 

姉はただ伝えたかったのだ。

 

「悲しまないで

あなたは十分頑張った」

 

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鮮血がほとばしり

愛した笑顔は

宙に投げ出された。

 

姉の亡骸にいくつもの光が浮かび上がる。

 

その中でもひときわ大きな一つが

妹の胸に吸い込まれた。

 

亡骸の輝きが薄れる中

王の笑い声と 

幼い悲鳴がこだましていた。

 

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香油のプールにたたずむ黄金の玉座

鎖と足首が浸されている。

 

鳴り響く 邪王の高笑い。

 

そして 

 

愛なき まぐわい。

 

妹は王のために星を読み続けた。

 

見返りは極上の快楽

 

怒りも憎しみも

欲望を御する枷にはならなかった

 

悲しみが 拠り所を求め続けていた。

 

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