チートでチートな三国志・そして恋姫†無双 |
第75話 子曰、民可使由之。不可使知之。
「しかし、君たちが『由らしむべし 知らしむべからず』などというつまらないことを考えているような者たちでなかったのは本当に良かった。これは一刀君の入れ知恵かね?」
「よら……?」
よらしむべし しらしむべからず……? どこかで聞いた言葉だ。週刊誌か何かのコラムじゃなかったかな。確か意味は……。
「((子曰|しいわく))、((民可使由之|たみはこれによらしむべし))。((不可使知之|これをしらしむべからず))。 論語にある言葉ですよ。残念ながら“論語読みの論語知らず”とでも言うべき愚かな者たちが、曲解して使っている言葉でもあります。」
水鏡さんの言葉を受けて、水晶がそう説明してくれた。この時代にも“論語読みの論語知らず”って言葉あるんだな……。
「“曲解”とは……?」
「民衆はただ政治に従わせておくのが良く、政治の内容を知らせるべきではない、といったような誤読です。」
「やはり誤読なのですね。その言説を聞くたび、あの孔子が果たして本当にそんなことを言うのだろうかと、ずっとそれが疑問だったのです。」
紫苑にそう朱里が説明すると、愛紗は感じ入ったようにそう呟いた。愛紗も、朱里たちほどではないにしても、兵法書やら論語読むような教養はあるもんなあ。さすがとしか言いようがない。
「そこなのだよ。」
「え?」
水鏡さんは我が意を得たりといった感じでそう言った。そこ、って……?
「それこそが、“読解”つまり“考える”ということなのだ。表面的に文章を追うだけなら、文字さえ読めれば誰でもできる。まあ、一刀君、君のいるところとは違い、ここでは人それぞれの事情からそれすらできない者が多いことは認めるがね。しかし、その、表面的に文章を追うことから一歩踏み出せる者は、本当に少ない。」
“読解”とは何か。現代文において試されている力はただ一つ、“精読”の力、つまり文章の意味をとっていく力だと。先生から口酸っぱく言われてきた。それはこの、文章の意味を自分で考えるということなのか。当たり前のことと言ってしまえばそれまでだけど、今ひとつ実感がわいていなかったことの意味が一つわかった、そう思えた。
「ちなみに、正しい意味は……?」
「政治に対する信頼を得ることはできても、政治の内容をいちいち理解してもらうことは難しい。つまり本来の意味は、為政者はいちいち政策を説明などしなくとも、民衆から信頼を得られるような人になれ、といったような意味でしょうか。言わずもがな、真逆です。」
桔梗の質問にはそう福莱が答えた。全然意味が違うのに俺も間違った解釈のほうしか聞いたことがないぞ……?
「確かに、俺の考えです。国が国として段階を一つ上に上げるためには、なにより人の教育が重要だと思っています。店で食い物の注文をすることができるだけの兵を増やすより、兵法書を読めたり、報告書を上げられるような兵を増やすのの、どちらが国の役に立つかなんで言うまでもないし、儒教を中心に教えたいということは、意味も含めて水鏡さんなら説明せずともおわかりでしょう?」
「本当に、とんでもない人物と巡り会ったものだ。朱里たちも、そして……私も。
福莱、お主の力については、私が一刀君との会話で理解し、掴んだものを伝えていくとしよう。先ほどの話だけが全てではないであろうし、それが良さそうだのう。私も『思考力』やら『理解力』あるいは『論理』や、それに基づいた『論理的思考力』の概念的な話を聞いたのは今日が初でな。ふわっとは理解したが、それをお主に説明できるまで理解はしておらん。今日明日で全てが決まるような話ではない。なにも、焦ることなどないのだ。」
「ありがとうございます……!」
福莱の焦りというか、ある種の劣等感的なものも、当然のこととして水鏡さんにはお見通しなのか。しかし、本当にすさまじい人物が集まってきててありがたいな……。
今後は春を迎えれば、まずは向こうにいくことになるのだろうか。何が待っているのやら、楽しみ半分、怖さもある。といっても、今さら怖じ気づいても仕方ない。堂々と行こう。
解説と後書き(という名のいいわけ)
便宜上、白文にも句読点つけてますが当時の漢文にはもちろんありません。この話、原作にあって興味を惹かれたところだったので1話使ってもいいかなと思って入れてみましたが、厳密には「((可|べし))」を漢文解釈すると誤読で書いた意味にはならないようですので、当時の中国でああ(誤読の意味で)読むことは不可能だったと思われます。ただ、どこから(日本なのか中国なのか他なのかも、いつの時代からかも)この誤読が流行るようになった(始まった)のかは私にはわかりませんでした・・・。
さて、もしかしたら察していらっしゃった方もいらっしゃったのではないかという気はするのですが、しばらくリアル多忙と、それに加えて次回以降の話が全く書けなくて更新が遅れ遅れになってきました。(書けなかった理由は数話後の後書きにて書こうと思います。)
ただ「どうせIfに近いほぼオリジナルストーリーで、あんまり書いていらっしゃる方がいらっしゃらなそう(失礼)なストーリー展開だし、別に今さら史実に沿い続けることを悩む必要はないんじゃないか」と開き直って書くことにしました。評価をお伺いするのは怖いところもありますが、これまで通り楽しんでいただけるように頑張って書いていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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第5章 “貞観の治 | ||
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