Kaikaeshi and Automata 2「怪の名はテケテケ」
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 翌日。

 学校中で、夏純の話が大きな話題になっていた。

 

「ねえねえ、六年二組の女の子が怪物を見たらしいよ」

「緑色の大きな顔をしてたんだって。身体はなくて、顔に手と足がついてたんだって」

「そんな怪物が、大きな口を開いて、その子を食べようとしたらしいよ」

 皆、信じられないような様子で、その話に夢中になっていた。

 

 一方、六年二組の教室では、夏純の周りにクラスメイト達が集まっていた。

「僕のお兄ちゃんが言っていたのと同じかも」

 そう言ったのは、和也だ。

「まさか、お兄さんも同じ怪物を見たの??」

 琴葉が尋ねると、和也は皆の方を見た。

「僕のお兄ちゃんは、中学二年生なんだけど、同じクラスの友達が、夏純ちゃんが出会った怪物と同じようなものに襲われそうになったんだ」

 その友達は、夕方、野球部の練習終わり、駅前で怪物に遭遇したのだという。

「大きな口を開けて、その人を食べようとしたんだって。お兄ちゃんが僕を怖がらせるためについた嘘だと思ってたけど」

 すると、メガネをかけた女の子が手を挙げた。

 学級委員長の瀬戸由香里だ。

「私もこの前、同じような話を聞いたわ」

「由香里ちゃんも??」

 由香里の話によると、近所に住んでいる女子大生が、彼氏と一緒に商店の近くを歩いている時、怪物に襲われそうになったのだという。

「犬だか何かを見間違えただけだと思ってたけど……」

 どうやらそうではなさそうだ。

 琴葉やクラスメイト達はゴクリと唾を飲み込んだ。

 その時、輪の中心にいた夏純が、口を開いた。

「もしかしたら、あの怪物は『テケテケ』だったのかも」

「テケテケ?」

 琴葉が首を傾げると、和也が「そうか」と声を上げた。

「確かにテケテケだよ! きっとそうだ!」

「ええっと、それって」

「琴葉ちゃん知らないの? 都市伝説の怪物だよ!」

 テケテケは大きな口をした怪物で、人間を襲って食べてしまうらしい。

「だけど、それはただの噂話だよね?」

 琴葉はそんな話は誰かがついた嘘だと思っていた。

「私だって今まで半信半疑だったけど、実際に見ちゃったんだよ」

「ああ、お兄ちゃんの友達も、由香里ちゃんの近所のお姉さんも見たんだぞ」

「それは、そうだけど……」

 人を食べる怪物は、本当に存在するのかもしれない。

 琴葉はゾッとしながらも、ふと、「食べる」という言葉に引っかかった。

「そう言えば、あの時、地鳴りのような低い声が聞こえたよね」

「それって、琴葉ちゃんがいつも言ってた不思議な声?」

「うん」

 声は、「―――ベタイ」と言っていた。

「あれって『食べタイ』と言ってたような気がする」

 それなら意味が分かる。

 そして、不思議な声の主が誰なのかも理解できた。

「あの声は、もしかして、テケテケだったのかも」

 テケテケは「食べタイ」と言いながら、夏純に襲いかかったのだ。

 だがそれを聞き、夏純は首を捻った。

「琴葉ちゃんの言う通りかも。だけど、私はそんな声聞いてないよ」

「え、そうなの?」

「確かにあの時、テケテケは声を出してたよ。だけどそれはウウゥゥゥっていう、唸り声だったから」

「そうだったんだ」

 声は琴葉だけに聞こえたらしい。

「じゃあ、あの声は一体誰が??」

 琴葉がそう思った瞬間、集まったクラスメイト達の隙間から、一本の手が伸びた。

 その手は、琴葉の腕を掴んだ。

 驚いて声を上げるよりも先に、その手の持ち主が琴葉を引き寄せた。

 

「今すぐ来てくれ!」

 光一郎だ。

「え、あの」

「いいから、ここじゃ話がしにくいんだ」

 光一郎はそう言うと琴葉の腕を引っ張り、半ば強引に廊下に連れ出した。

「あの、ちょっと!」

 光一郎は琴葉の腕を掴んだまま、廊下を早足で歩く。

「ねえ、どこに行くの??」

 琴葉は戸惑いながら尋ねるが、光一郎は答えない。

 やがて、渡り廊下に出た。

 光一郎はようやく立ち止まると、琴葉の方に顔を向けた。

「まさか、こんなところにいるなんて」

「あの、何を」

「君は、僕にとって必要な人間だ」

「はああ?」

 光一郎は真剣な表情で琴葉にグッと顔を近づけた。

「君は、僕にとって運命の人なんだ!」

「うううう運命の人???」

 突然の告白に、琴葉は一瞬でパニックになってしまった。

 

 放課後。

 琴葉は光一郎と共に道路を歩いていた。

 その隣には、いつの間にか三つ編みの少女がいた。

「そういえば、この子は……? 見た事がないけど……」

「ユズ……」

 少女はユズと名乗った。

 見た目は幼そうだが、醸し出す雰囲気は戦士のそれだった。

「彼女は戦闘用のアンドロイドだよ」

「……」

 ユズは人見知りなのかそうでないのか、口数は少なかった。

「アンドロイドって……?」

「簡単に言うと人造人間だよ。さ、早く行こう」

「ねえ、どこに行くの?」

 光一郎は、「詳しい話は放課後にする」と言って、何も教えてくれなかった。

 聞きたい事が山ほどあるが、全く話してくれない。

(もしかして、私とデートしようと思ってるのかな?)

 琴葉はそう思いながらも、すぐに頭をブンブンと横に大きく振った。

 何故なら、ユズが隣にいるからだ。

 その時、光一郎が止まった。

 琴葉は周りの風景を見る。

「ここって」

 そこは、昨日夏純がテケテケに襲われた住宅地の路地だ。

「どうしてこんなところに?」

 琴葉が戸惑っていると、光一郎が口を開いた。

「今から、君に『仕事』をしてもらおうと思っているんだ」

「……わたしも手伝う。話を聞いて」

「仕事?」

 光一郎は、小さく頷くと、右手の甲を見せた。

「僕は、こういう者なんだ」

 そう言うと、右手の拳を強く握り締めた。

「鑰!」

 次の瞬間、光一郎の右手の甲が光り輝く。

 そして、鍵のような紋章が現れた。

「な、何これ??」

「証だよ。『怪帰師』の」

「かいかえし……?」

 光一郎は「ああ」と答えるが、琴葉にはさっぱり意味が分からない。

 ユズは相変わらず、無表情のままだ。

 そんな琴葉を見て、光一郎は話を続けた。

「僕達がいるこの世界には、この世界で生まれた者と、そうじゃない者が紛れ込んで存在するんだ」

 光一郎は、道路を見る。

「森永夏純さんが見たのは、彼女が言う通り、テケテケだ。あれは、僕達とは違う世界で生まれた『怪』という存在なんだ」

「怪??」

「怪には、様々な種類がいる。ユズみたいなのもいる。彼らは時々この世界に現れ、人々に災いを与えるんだ」

 突然の事故や事件には、怪が絡んでいる事も多いらしい。

 彼らを放っておくと、被害は増える一方なのだという。

「当然何とかしなければならない。だけど、怪は違う世界の存在だから、人間がいくら攻撃してもダメージを与える事はできないんだ。

 そこで、怪を元の世界に帰す、怪帰師という仕事が生まれたんだ」

「……わたしは、怪帰師の護衛をする」

 怪帰師は、手の甲に鑰という紋章を持っていて、特別な力があるのだという。

 怪と交渉し、元の世界に戻すのが仕事らしい。

 また、ユズは怪帰師の護衛であり、高い能力を持つという。

「そんな仕事があったんだ……」

 琴葉はすぐには信じられずにいた。

 だが、怪は本当にいるし光る紋章もこの目で見た。

 何より光一郎とユズが嘘を言うとは思えなかった。

 そんな中、琴葉は光一郎とユズがなぜこの場所に来たのか理解した。

「もしかして、今からテケテケと交渉しようと思ってるの?」

 琴葉の問いに、ユズは「ん」と答えた。

「そんな……」

「……やらなきゃ、いけない」

 琴葉は周りを見てゾッとする。

 またテケテケが襲ってくるかもしれないのだ。

 しかし、琴葉はふとある事に気づいた。

「だけどちょっと待って。どうして私を連れてきたの?」

 光一郎は、琴葉の事を必要だと言った。

「運命の人って何なの?」

「それは」

 光一郎がその意味を話そうとした瞬間……。

 

「―――食べタイ」

 琴葉の耳に、地響きのような低い声がかすかに聞こえた。

「これって」

「うわああ!」

 突然、男の人の悲鳴が響く。

「あっち」

 光一郎とユズは声のした方へと走る。

「あ、待って!」

 琴葉も慌てて二人の後を追った。

 琴葉達は路地を曲がり、さらに突き当たりの角を曲がった。

 そこは、小さな交差点がある十字路だ。

 その十字路に、犬を連れたおじいさんが尻餅をついて倒れていた。

「大丈夫ですか!?」

 光一郎が駆け寄ると、おじいさんは前方を指差した。

「さ、さっき、化け物が」

「それは、緑色の大きな顔をしてて、その顔に手足がついた化け物でしたか?」

 光一郎の言葉に、おじいさんは何度も頷く。

 テケテケで間違いない。

 光一郎とユズは身構え、周りを見るが、どこにもテケテケの姿はなかった。

「化け物はどこに行ったんです?」

「わしに襲いかかってきたんだが、タローが吠えたら逃げたんだ」

「逃げた?」

 琴葉はおじいさんが連れている犬を見た。

 タローという可愛い子犬らしい。

「テケテケは、このワンちゃんを怖がったの?」

「……弱っ」

 琴葉と、警戒を解いたユズは拍子抜けする。

 タローは琴葉達にも吠えていたが、キャンキャンと鳴いているだけで、全く怖くない。

 一方、光一郎は険しい表情をしながら、辺りを見回す。

「まだ近くにいるかもしれない」

 そう言うと、その場から駆け出した。

 ユズも、無言で光一郎を追いかけた。

「あ、光一郎君、ユズちゃん!」

 光一郎は、テケテケを捜す事に必死になっているようで、ユズも彼に従っている。

 琴葉は、テケテケの事も気になるが、おじいさんも放っておけないと思った。

「怪我はないですか?」

「ああ、大丈夫。それにしても、あれはイタズラだったのかね?」

 どうやらおじいさんは、誰かが驚かそうとしてテケテケに変装していたと思っているようだ。

(本当に怪がいるなんて言ったら、驚いちゃうよね)

 琴葉は、話を合わせる事にした。

「ええ、そのイタズラを注意しようと思って、私達、行方を探しているんです」

「おお、そうなのかい。まったく、無理矢理あれを奪おうとしてきたから、思わずびっくりして落としてしまったよ」

 おじいさんは呆れながら、近くの地面を見る。

 琴葉も釣られるように同じ場所を見た。

 そこには、小さな箱が落ちていた。

「これって……」

 その時、光一郎とユズの声がした。

「そっちに行ったぞ!」

「逃げた」

「えっ?」

 交差点の傍にある家の嘘から、何かが塀を飛び越え、飛び出してきた。

 緑色をした一メートルぐらいある大きな顔と、その顔についた手足……テケテケだ。

 テケテケは、琴葉の前を通り過ぎる。

「きゃっ!」

 琴葉は思わずその場にしゃがみ込んだ。

 瞬間、テケテケと目が合う。

 その目を見て、琴葉は思わずハッとする。

 テケテケは、そのまま逃げるように路地の方へ走って行った。

 入れ替わるように、光一郎とユズが琴葉のもとへ駆けてきた。

「絶対に逃がさない!」

「……捕まえるのが、わたしの役目」

 光一郎は、琴葉の腕を掴むと、立ち上がらせる。

 ユズも、すっくと身構えた。

「あの、ちょっと」

「いいから!」

 そのまま走り出す。

「あの、ちょっと! あの、だから!」

 琴葉は、また強引に引っ張られる羽目になってしまった。

 

 しばらくして。

 琴葉達は、交差点の近くにある公園にいた。

 あちこち捜したが、結局テケテケは見つからなかったのだ。

「無念」

 ユズは、無表情ながらも少しばかり苛立つ。

 一方、琴葉は顎に手を当てて、何かを考えていた。

 光一郎は、そんな琴葉に声をかけた。

「それで、テケテケは何か喋っていなかったかい?」

「ええっと、また『食べタイ』って言ってたけど」

「あのおじいさんを食べようと思っていたという事か。なんて凶暴な怪なんだ」

 光一郎は苛立ち、地団駄を踏む。

 すると、琴葉とユズが小さく首を横に振った。

「そうじゃないと思う」

「どういう事だい?」

「あれは、凶暴な怪なんかじゃないのかも」

「弱かった」

「だけど、食べたいって言ったんだろ?」

「それはそうだけど、そういう事じゃないと思うの」

 琴葉とユズは、光一郎をじっと見つめた。

「ちょっと、調べたい事があるんだけど」

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