探偵坂上、一人で調査する |
ここは、妖怪や都市伝説などが「実在する」現代世界。
そこの一角に、一軒のそれなりに大きな建物があった。
伝承に関わる事件を主に解決している「坂上探偵事務所」である。
「所長! メールが届きましたよ!」
「ん〜、なんだ〜?」
椅子の上に突っ立っている黒髪の男の前に、少女がセミロングの茶髪を揺らしながら、十治郎のパソコンを持ってやって来る。
男の名は((坂上|さかがみ))((十治郎|じゅうじろう))、坂上探偵事務所の所長である。
といっても、彼は依頼人と直接顔を合わせるのが嫌いなため、主に依頼は手紙やパソコンで請け負う。
事件解決能力は高いのに、その名が知られていないのはそのためだとか。
一方、パソコンを持ってきた少女の名は((日向|ひゅうが))((蜜柑|みかん))、面倒臭がり屋な十治郎をサポートする助手だ。
「はい、見てください」
蜜柑はパソコンをテーブルの上に置いた後、椅子に座っている十治郎の隣に立つ。
パソコンにあるメールソフトには、新着メールが届いていた。
「とりあえず既読スルーで」
「もう、それだから依頼が届かないんですよ。早く見てください」
「……はいはい」
十治郎は普段は面倒臭がり屋で、パソコンのメールを調べるのも億劫だという。
そのせいで真面目な蜜柑はいつも胃を痛めている。
蜜柑に急かされた十治郎は、渋々ながら届いたメールを開いた。
(((霧島|きりしま))((奏|そう))のメールアドレス)
宛先:坂上探偵事務所
最近、俺の周りで奇妙な事が起きている。
左腕に変な痣ができたし、変な奴に絡まれもしている。
4年前にいなくなった親友と関係がありそうだが、どうか調査してほしい。
待ち合わせ場所はここだ。
「あぁー、こいつは調べる価値がありそうだな」
「ねっ? 所長ならできますよ」
坂上探偵事務所は伝承や怪奇現象を専門とする探偵事務所だ。
一般人が調べれば命にかかわるが、生憎と十治郎も蜜柑もそこらの一般人とは比べ物にならない強さを誇る。
特に十治郎は鬼の血を引くため普通の人間では扱えない剣術が使え、蜜柑は特殊な小手と護符を使って式神を召喚する。
彼ら二人が調査をすれば、解決できない事件など、ほとんどないという。
これで十治郎が依頼人と直接顔を合わせるのが嫌いでなければ完璧なコンビだっただろう。
「私も行っていいですか?」
「いや、お前は留守番だ。この事件、俺一人で解決できる」
メールの文面からして、元凶は大した敵ではないだろう。
蜜柑がいなくても、何とか依頼は解決できそうだ。
高を括っているような態度を取る十治郎だが、確かに彼の実力は相当なものである。
十治郎は蜜柑を留守番させ、一人で依頼解決に向かおうとした。
「お前は留守の間に事務所でも掃除しておけ。土産はちゃんと持って帰るからな」
「はーい」
こうして十治郎は刀を携えて、坂上探偵事務所を後にするのだった。
「……ってメールを送ったんだが、届いてるか?」
黒髪の少年が携帯電話をしまった後、その男の足跡がどこかから聞こえてくる。
彼は、奇妙な出来事の原因を調べるために、坂上探偵事務所にメールを送ったのだ。
自分だけでは事件を解決できそうにないから、彼が来るのを待っているのだろう。
「おー、来た来た」
予想通り、メールを見たらしい男が、待ち合わせ場所にやって来る。
「お前が依頼主の、ええと……霧島奏、でいいんだよな」
「ああ。お前なら、この怪奇現象を調査できると思ったからな」
黒髪の少年、奏は、坂上探偵事務所の所長は優秀な探偵だとクラスメートから聞いていたため、会おうとしていたが拒否された。
そこで、奏はメールアドレスを調べ、坂上探偵事務所にメールを送って、所長の十治郎が来たというわけだ。
ふと、奏は十治郎が腰に携えている刀がちらっと眼に入る。
「なんだ、これは? 銃刀法に引っかからないのか?」
「いや、俺は特別だから銃刀法は関係ない。もし悪い妖怪が襲っても俺が守ってやるからな」
つまり十治郎の刀は伊達ではないという事になり、奏はごくりと唾を呑む。
すると、十治郎もまた、奏の左腕をちらっと見る。
「……何を見た」
「なるほどな。怪奇現象が痣ができる前と後、どっちに起こったのかをまずは調べる必要がありそうだ」
事件解決には、まず確固たる証拠が必要だ。
十治郎は助手と共に、そうやって普通の警察では解決できない事件を解決してきた。
今はまだ証拠が不十分なため、決定的な犯人を十治郎は言わなかった。
「まあとにかく、まずは情報収集をしよう」
「そうだな」
こうして十治郎と奏は、怪奇現象の原因を調べるために情報収集をする事にした。
「そういえば、坂上所長には大切な人はいるか?」
「ああ、いるぞ。今までに出会ってきた依頼主と、後、一緒に事件を解決している助手だな」
「その助手は今、どうしてる」
「留守を任せてある」
普段はコンビで事件を解決しているが、今、助手は坂上探偵事務所で留守番をしている。
助手の事を詳しく話すと空気が読めないと言われるため、十治郎はこれ以上は言わなかった。
「ちゃんと依頼してきた人を大切にしているなんて、坂上探偵事務所の所長らしいな」
「まあ、俺は依頼主の顔を直接見ないで、メールや手紙で依頼してほしいんだけどな」
(これだから知名度がないんじゃないか……?)
奏も助手と同じ考えをしていたが、十治郎は気が付かなかった。
「だったらお前にも大切な人がいるんじゃないか?」
「いる。メールに書いてあった奴だ」
「お前は友達思いなんだな。俺はそういう依頼主は嫌いじゃない」
「親友を大切にするのは人として当然だろ」
十治郎と奏はぶっきらぼうだが、お互いに大切な人を持っているのは共通している。
自分より年上だが、彼とは何だか気が合いそうだな、と奏は思った。
二人の会話は、少しずつだが弾んでいた。
まるで、怪奇現象の調査にきた事など、すっかり忘れてしまったかのように。
「さてと、そろそろ本格的に調査でもするか」
「この痣の真相を知りたいしな」
果たして、奏の左腕に痣を刻んだ犯人は、一体誰だろうか。
十治郎はまず、犯人が対話可能だったら、しっかり対話してから犯人に処遇を下す。
犯人が強大で人間と分かり合えない敵だったら退治する。
結局のところ、助手がいない以外はいつも通りの解決策である。
鬼の血を継いだ探偵剣士と、謎の痣を持つ少年は、この事件を解決できるのだろうか……?
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他者様のオリキャラを使った推理小説のプロローグ的なSSです。 和ホラーですが、私の場合はそんなのに立ち向かう! がモットーです。 |
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