Beginning of the story 第六章 チーム解散5
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王家の血を引いているかも、王女の生まれ変わりかも!と興奮状態のカスガから言われても、リウヒは鼻を鳴らしただけだった。

「だからって別に、お金持ちになれる訳じゃないし。事実かどうか分からないしさあ」

「なんでそんなに冷静なの?ティエンランの王家の血だよ!あの王女だよ!ああ、生き残りがひそかに生きているって本当だったんだ、しかもぼくの幼馴染だったなんて…」

「カスガー。落ち着いてよ。うちは平凡なサラリーマン家庭だし、わたしはあの王女が嫌いなんだから」

「何?嫉妬してくれてんの?」

シギがリウヒの頬を撫でた。リウヒは馬鹿、と柔らかく笑う。

「そこ、禁止。なんか恥ずかしくなるから、いちゃつくの禁止」

「どちらにせよ、王女の血を引いていようが、生まれ変わりだろうが、わたしはわたしだもの。関係ないもの」

あ、でもあの人生を辿るのはしんどそうで嫌だ、と顔を顰めた。

「シギとは絶対離れなーい」

「おれもー」

クスクス笑う馬鹿二人、いや、バカップルにカスガは、頭を抱えた。

「君たちさ…隙あらばベタベタするの止めてくれる?見苦しいし、恥ずかしいよ…」

「ごめん、ごめん。でもカスガもトモキの生まれ変わりなんでしょう?」

「うーん。分かんないけど」

「いいなあ、お前らは」

心底うらやましそうにシギが言った。

「おれの前世の人間はどこにいるんだろう」

「案外近くにいるかもしれないね」

「ここ、海の近くだしね」

リウヒとカスガが笑う。

そして、シギたちの話を聞いて、カスガの表情が変わった。

「君たちがそんな所にいたなんて思ってもいなかったよ…」

王女が王に立つ。ただそれだけのことなのに、どこまで裏があるのだろうか。

カガミというオヤジ。ジュズという老女。二人の思惑は一緒なのだろうか。それとも別々なのだろうか。

しかも

「ハヅキが例の家庭教師だったなんて…。いやまさか、…でもトモキの弟だったんだよな…」

考え込むカスガに、リウヒがきょとんとする。

「どうしたの?ハヅキがどうかしたの?」

「リウヒは知らないの?」

「なにが」

シギと目が合った。その顔が歪む。そうだよな、言えないよな。

リウヒは、幼馴染は知らず知らずの内に歴史の中に関わっていた。まさかとは思うが、そう考えた方が自然だ。

多分、知れば大きなショックを受けるだろう。

これはアウトなのか、セーフなのか。

だけどもカスガの知る限り、歴史の道筋はブレていない。となると…。

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「…なんでもないよ。それよりも、もう日が暮れるね。ご飯食べにいこうか」

「ねえ、カスガ!気になる」

リウヒが裾を引っ張った。

「何でもかんでも、ぼくに聞かないでよ!聞いたら分かると思わないでよ!」

声を荒げたカスガに、驚きリウヒが身を震わせた。

「あ…ごめん」

「いや、ぼくも…。もし、現代に帰ったら調べてみて」

きっと、リウヒはものすごく泣くと思うけど。とは言わなかった。

「おれが、聞きづらくなってしまったな」

場を救うようにシギが明るい声をだした。

「ジン国、第三王子のヤン・チャオのことなんだけど」

ジュズに元気かと聞かれた、なんか繋がりがあるのかな。

「その老女自体、ぼくは分からないけど…。王子は…ほら、愛姫スズの話を知っているだろう」

「あ、知っている」

リウヒが声を上げた。

「ヤン・チャオは溺愛していた恋人、スズを兄たちに殺されたんだよね。それが原因で性格が変わったって」

「何で歴史嫌いのお前が、そんなこと知っているんだよ」

「恋愛ものは別なの」

にっこり笑うリウヒに、シギの手が伸びる。カスガが咳払いをして、その手は引っ込んだ。

「ヤン・チャオが王になってティエンランに攻めてきた、でも戦争中に死んで、ジンは内戦がはじまったんだよな。それは知ってんだけど…」

「そうそう。で、その王子は病弱で有名だったんだ。実際は建前で、放浪癖のある人だったんだけどね」

「あのババア、おれを引っかけたのか」

シギが舌打ちをする。そして、ふと顔色を変えた。

「おれもヤバかったかもしれない…。それより、お前だ、カスガ。今後一切王女をつけ狙うな。妙な連中に目えつけられてるぞ」

老女と少女のやり取りを話したシギに、カスガとリウヒも蒼白になった。

「あの子、なんなの…?」

「そんな、ぼくのライフワークだったのに…」

あと二日でこの騒ぎは終わる。そして、伝説の王女が誕生するのだ。

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「カガミサンの毒をもう一段階強くするように、できれば一か月以内に死ぬほどで、と伝えるよう言われマシタ」

「即死するのはヤバいしなー。カナンに相談してみるわ。けど、それなら最初っからそう言えってえの。なあ?」

台所に立つワカの前にいる男は、何かを探すように扉や棚を開け閉めしている。

「そんな所にお酒はありまセン」

目付きの悪い男は、舌打ちして棚を閉めた。

「お前、隠したな」

「アカンに酒を渡すナ。イランにそう言われたノデ」

あの渋チン。再びアカンは舌打ちする。

「他に何かありまスカ?」

「戦になる事は間違いねえよ。今度はどこでそれをするかシャカリキ検討中―。スザクは王女の大盤振る舞いと兄ちゃんの武器大量仕入れ、及び民衆のウサウサな熱気でもう行きたくねえ。ああ、そうだ」

男は嫌らしく笑うと、ワカに向き直った。

「お前が情けをかけて逃がした男な、スザクに現れたぞ」

しかも。目を見開く少女を楽しそうに見やる。

「王女そっくりの女を連れてな。さらに、あの不審な男とも合流した。話していた言葉はさっぱり分からんかったが、ジュズの単語は出てきたなあ…」

凍り付いて動けないワカの両肩に、アカンの手が掛った。耳元で顰めるように囁く。

「イランにゃまだ言ってねえ。事態が動き始めたら、それどころじゃなくなるが、やつが今知ったらどうなるかな…」

「何が望みデスカ」

男の指が、震える少女の唇をなぞる。

「つれねえこと言うなよ、分かってんだろ…」

一転、床に正座すると、アカンは頭上で両手を合わせた。

「お酒を下さい、お願いします!」

「駄目、駄目デスヨ!絶対にアカンに酒を渡すなって、渡したら逆さ吊りの刑だっていわれてるんですカラ!」

「でもさー、おれがさー、ツルっと口を滑らしちゃったら、あいつら、殺されるよー、お前もヤバいよー」

「ううッ…!」

「ちょっとだけ、ちょーっとだけでいいんだよ。あれがないと、おれ、仕事できねんだよ、別世界に行けないんだよー」

今でも十分、別世界じゃないかとワカは思ったが、しぶしぶ酒を取ってきた。

「庭に埋めていたのかよ、お前…」

アカン愛用の徳利に、一杯分だけ入れる。瓶の底をアカンが持ち上げたため、大量に注いでしまい、ワカは悲鳴を上げた。

「よーし、よしよし。これでしばらくはがんばれるぞー」

キュッと徳利の蓋を閉めると、「んじゃ、いってくるわー」弾むような声を残してアカンは飛んで行った。こんなに無くなっちゃって、どうしよう。目の高さに瓶を掲げ上げると、三分の二に減っている。

ワカはしばらく考えるように頭をかいていたが、呼び鈴の音に家の奥へと消えた。酒瓶を隠すことは勿論忘れなかった。

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「お茶が飲みたくなったの。入れてくれないかしら。今日は、そうね、中つ国渡りのものがいいわ」

はイ、とにっこり返事をし、再び台所に引っ込んだ。

不思議な老女だ。名門出身ならではの品の良さと、このご時世でも贅沢ができる環境はさすがというべきか。そして、なぜかワカだけを手元に置き、他の仲間は一切寄せ付けなかった。報告と命令は、全て己を通してやっている。

まあ、人それぞれだから…。もっと変な雇い主もいたし。

茶器を盆にのせ、ジュズの前に置いてゆく。老女はおいしそうに一服した。

「あなたは本当にお茶を入れるのが上手ね」

「ありがとうございマス」

先程のアカンの報告を伝える。ジュズは聞きながら静かに茶を飲んでいた。

「明日、もしくは明後日に事態は動きマスネ」

「元気な王女のお陰で、ずいぶんとはやまってしまったのねえ」

でも

「そうなるとあなたともお別れね」

寂しそうに老女は笑った。

ねえ、ワカ。どうしてわたくしがこんな事をしているのか分かる?歌うようなその声に、少女は首を振る。

「…昔、友人に声をかけられたの」

思い出す様に窓の外を見た。

その男は歴史を変えてみたかった。もう一人の友人は面白半分に付き合った。

「そして、わたくしは宮廷に復讐がしたかった」

遠い昔、愛する人と娘の命を奪ったあの憎き宮廷に。

当初の計画は全然違ったものだった。東宮に少年がやってきて、小さな王女が心を開き始めた。教師だった三人は、その可愛らしさに夢中になった。

「そこからは、王女を中心とした物事が進められていったのよ。不思議なことね。あの子がいなければ、あんなに可愛らしくなかったら、この国は滅んでいたのかもしれないわ」

楽しそうにクスクスと笑う。

「もしかして、わたくしはあの小さな王女に娘を見ていたのかもしれない。そして、同い年のあなたに王女を重ねていたのかもしれないわね」

愛おしそうにワカを見ながら、茶器を卓に戻す。にっこり笑ったワカがお代りを注いだ。

「王女が王になれば、わたくしは満足なの。復讐などどうでもよくなってしまったわ」

だけど、あのタヌキは…それだけでよしとしないでしょうね。息子でさえも駒に使う男は、貪欲だわ。その内、あの可愛い娘を傀儡の王にするかもしれない。

「だから、お先に西へいってもらうのよ。どうせすぐにわたくしも追いかけるもの。それまでタイキと仲良くお茶でも飲んでいるはずだわ。それともさっさと転生してしまうのかもね」

「今後、ジュズサマはどうされるのでスカ?」

「そうね、体が動く内にまた旅でもしようかしら」

静かに笑うと、窓から注ぎこむ陽光に目を細めた。

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窓の外には、夕闇が広がり始めている。寝台の上にはカガミが苦しそうに息をしており、マイムが医師から薬を受け取っていた。

「これを夕餉後に飲ませるように。無理をすると命に関わります。絶対安静になさってくださいね」

「分かったわ。ありがとう」

リウヒもぺこりと礼をする。

白髪の背の高い医師は、いいえ、と白髭を震わせて言うと、助手の少年を引き連れて部屋を出た。宿を出た二人はすぐさま裏手に回り、衣を脱いだ。医師は鬘と髭をむしり黒装束になると同じく黒装束になった少年に僅かな声で言う。

「短時間でよくやってくれた、カナン」

「とんでもないです。イランさん」

そのまま壁を上って飛ぶように消えていった。リウヒは勿論知らない。

「なんか、こういうの嫌なのよ…。早く良くなっていつものタヌキに戻ってよ…」

「いいねえ。美人なお姉さんに看病してもらえるなんて、オヤジ冥利につきるよ」

カガミが、せわしない息をしながら笑う。

「余計な事を言う元気はあるのね。リウヒ、下でお水を貰ってきてちょうだい」

「分かった」

 

部屋を出ると、カグラにかちあった。

「どうしたのです、酷い顔をしていますよ」

「そうか?」

一向に良くならないカガミ、聞くのも苦しい民の声、これから歯向かう宮廷。この二日でそれらはどっしりとリウヒの肩にのしかかっている。

カグラはふと微笑むと、リウヒの頬に手をやった。

「では、わたくしが勇気づけのおまじないをしてあげましょう」

「おまじない?」

首を傾げるリウヒにカグラの顔が近づいてくる。驚きで動けないその唇に、男の唇が触れそうになった瞬間、部屋の扉が開いた。

「馬鹿!そして馬鹿!」

なに考えてんのよ!こんな所で!リウヒ!あんたはさっさと水を貰って来なさい!殴る事はないでしょう、殴る事は。わたくしはただあの子を慰めようと…。

マイムとカグラの言い争いに、恐れをなしたリウヒは転がるように階下へと走った。

「またやってるんだ」

帰ってきたキャラが感心したように上を見る。

「なんだか、ぼくの中のマイムさん像が崩れていく…」

同じく帰ってきたトモキが悲しげにうなだれた。

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深夜。リウヒは一人座り込んで、海を見ていた。時々小さなため息をつく。

宿の後ろにある黒い海は、昼間とは違いどこまでも闇と一体化していた。港の灯りが夜も遅いため、落ちている。

ああはいったけれど。

後ろの壁に凭れた。

本当は怖くて仕方がない。でも、わたしから仕掛ける戦なのだ。なのに、みんなに守ってもらいながら戦うなんて、情けなすぎる。

 

「どうしたのです、こんな所で」

低い男の声に、びくりと体を震わせたリウヒは、その姿を確認して安堵の息をついた。

「なんだ、シラギか…。驚かせるな」

「それは失礼いたしました」

シラギはリウヒの横に同じく座り込むと、視線を海に向けた。

「お前には、申し訳ないと思っている」

しばらくの沈黙の後にリウヒはぽつりと言った。

「大切な部下たちと対峙しなくてはいけないし…。ほとんど、お前に頼る形になると思う」

「まあ、確かに…。宮廷に話し合いに行った折には、副将軍たちに泣いて縋られましたが」

僅かに苦笑した。

「タカトオとモクレンが?」

一度会ったことのある、シラギの両腕と呼ばれる老人と女だった。タカトオは元気なおじいさんで背筋がしっかり伸びており、リウヒを見て、「うちの孫をぜひ婿に」と笑った。

モクレンは、緋色の燃えるような髪と藤色の瞳の、美しい人だった。宮廷軍の唯一人の女性だ。二人とも、シラギを尊敬し本当に慕っているのだと感じた。

横のシラギも思い出しているのだろう。深いため息を漏らした。

わたしのせいで。

そうだ。とリウヒは心の中で手を打った。

「なあ、シラギ。勇気づけのおまじないを教えてもらったんだ」

「なんですか、それは」

「うん」

顔を上げたシラギの唇に、リウヒの唇が重なる。まるでぶつかったような、色気もへったくれもない口づけだった。

シラギはただ、目を見開いて硬直しているだけである。

ど…どうしよう…。自分から合わせたものの、どうしたらいいのか分からず、リウヒは困ってしまった。これでいいのだろうか。こんなので本当に、勇気なんて出てくるのだろうか。

息を止めてしばらく口をくっつけていたが、苦しくなって離した。

「き、効いたか?」

シラギは石の如く固まっている。

「あの、シラギ?」

不安を感じて顔を覗きこもうとすると、腕を引っ張られて抱え込まれた。

「ぐふえ!」

思わず蛙を潰したような悲鳴が上がる。これもおまじないの一環なんだろうか?

「…とてつもない勇気をもらった」

呆けたようなシラギの声にリウヒは安心した。

そうか、効いたか。良かった。

「リウヒ」

顔を上げようとしても、シラギの腕はびくともしない。

「わたしは宮ではなく、あなたの為だけにあります。だから、明日の事は心配しなくていい」

そのまま、力を込めて抱きしめられた。

「ところでこのまじないは誰に教えてもらったのだ」

「カグラ」

いきなり腕の中から引き剥がされた。キョトンとするリウヒに、シラギは真っ青になって声を強める。

「まさか、まさか、あの男に…」

「してない。直前にマイムが乱入してきて、いつものごとくだ」

深い息を吐いたシラギは、再びリウヒを抱え込んだ。しばらくの間、二人はその状態で海を眺めていた。

宿の壁に張り付いて覗きこんでいる、痛々しい顔、感動している顔、髪を引っ張られて顰めている顔、銀髪を引っ張りながら微笑んでいる顔に気付く事もなく。

 

後日「勇気づけのおまじない」とやらは唯単にカグラのからかいで、実際は恋人同士がやる口づけだとリウヒは知った。恥ずかしさの余り、しばらくシラギの顔がみることができなかった。

 

説明
ティエンランシリーズ第三巻。
現代っ子三人が古代にタイムスリップ!
輪廻転生、二人のリウヒの物語。

「わたしは宮ではなく、あなたの為だけにあります」

視点:カスガ→ワカ→リウヒ

*しまった、配分間違えた。ということで今回は短いです。
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コメント
天ヶ森雀さま:コメントありがとうございます☆功労者ですねえ。おかげで初な黒は小娘に口づけ一つでやられました(笑)。(まめご)
ある意味カグラが功労者、なのかな?(笑)。個人的に褒めてつかわしたい(^m^)。歴史の裏と表が混濁してますね。ますます楽しみです♪(天ヶ森雀)
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ファンタジー オリジナル 長編 タイムスリップ 恋愛 

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