真・プリキュアオールスターズ 三章 |
海に面した自然に囲まれた夕凪町にて店を構えるPANPAKAパンの店内から3人の少女達が店のロゴが印字された大きな紙袋を抱えて出てくる。それを見送るために、店のなかからパン職人である日向沙織と娘であるみのりが出てくる。
「ありがとうございました」
「バイバーイ」
一礼し、みのりが嬉しそうに手を振ると、3人もまた微笑を浮かべて手を振り、楽しげに離れていった。その背中が見えなくなると、徐にみのりが母親に話し掛けた。
「ねえお母さん、今の人達お姉ちゃん達のお友達かな?」
その言葉にプッと噴き出すように口元を抑え、頷いた。
「そうかもしれないね! チョココロネばっかり買っていったし…」
ここには居ないもう一人の娘の顔を思い浮かべ、笑みを浮かべ、みのりも楽しそうに頷いた。
「咲が帰ってきたら聞いてみようか」
「うん」
店のなかへと戻り、二人は先程の少女達がパンを気に入ってくれることを思った。
紙袋を抱え、PANPAKAパンでお目当てのものを購入したなぎさ、ほのか、ひかりの3人は街のシンボルのように聳える巨木の立つ山へと足を運んだ。
見晴らしのよいところで食べようと提案したなぎさに付き合い、3人は山を登り、頂上の祠とそれをたたえるように立つおおぞらの樹の幹に腰掛け、空を見上げていた。
視界を覆うように揺れる樹の枝と葉の隙間から差し込む陽光と微かに吹く風が心地良く、思わず感嘆の声を上げた。
「登ってきた甲斐があったね」
その風を感じるようにほのかが深呼吸し、身体を落ち着かせる。
「気持ちいいです」
周囲の自然の息吹を全身で感じるようにひかりが頬を緩める。
「メップル達も来ればよかったのにね」
同じように息を吸い込み、堪能するなぎさがポツリと漏らすと、ほのかが眉を僅かに顰める。
「今日は大事な用があるんだって……」
「フーン…」
ここに居ないパートナー達のことを思いながら、なぎさは手元の紙袋を取り、なかから一つのチョココロネを取り出す。
「有名なPANPAKAパンのチョココロネ、ついにゲット! いただきま〜〜」
美味しいと評判のパン屋のチョココロネを手に入れ、それを味わおうと口を大きく開けた瞬間、背後から何かの声が響いた。
「ムプ〜〜」
「ププ〜〜」
思わず振り返ったなぎさは次の瞬間、樹の幹部分にできた空洞のなかから飛び出してきたものが顔
にぶつかり、大きく仰け反った。
その拍子にぶつかった何かも大きく弾かれ、なぎさは仰向けに倒れた。
「なぎさ!」
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄るほのかとひかりの手元に収まるように落ちてきたのは、ムープとフープであった。だが、突然現われた二匹に二人は首を傾げる。
「この子達は…?」
「もう、何よ〜」
軽く呻きながらクラクラする頭を持ち上げるなぎさの声を遮るように空洞の奥から低い声が轟いた。
『ヨコセ……』
「え……?」
それに反応し、3人が視線を向けた瞬間、空洞のなかから勢いよく飛び出してくる金属質の液体。まったく予想もしなかったものの登場に眼を見開き、大声を上げる。
驚く3人を尻目に眼前に降り立った液体は大きく蠢き、威嚇する。
『ソイツヲヨコセ…!』
低く鋭い声で狙うフュージョンに竦み、ムープとフープは背中に隠れる。
「助けてムプ!」
事情が呑み込めず混乱するほのかとひかりだったが、立ち上がったなぎさは吼えるように叫ぶ。
「ちょっと! これは私のチョココロネなんだから…!」
手に握るチョココロネを隠し、睨みつけるなぎさに二人は思わずコケそうになる。
「なぎさ、それは違うと思うよ……」
「へ…」
引き攣った声で苦笑混じりに告げると、間の抜けたように乾いた声を漏らす。そんなやり取りをまったく意にも留めず、不規則に動くフュージョンはその姿を変えていく。
『プリキュアダナ…ソイツラヲヨコセ…!』
影が徐々に輪郭を帯び、手足が伸びる。そしてその顔が凶悪な人相を描いた瞬間、その眼がギラリと睨みつけた。
『ザケンナ〜〜!』
見下ろすように立つその姿に3人は一際強く驚愕する。
「ザ、ザケンナー!?」
「どうして…!?」
そこに立つのはかつて3人が戦った『ドツクゾーン』の僕、ザケンナーだった。だが、ザケンナーは既に消えたはず。混乱するも、今現実に眼前に立ち、そして狙っているのは間違いない。
混乱を振り払い、なぎさはほのかに叫ぶ。
「ほのか、いくよ!」
とにかくこの場をなんとかしなければならない。ほのかを促すも、顔を顰める。
「無理よ、メップルもミップルも……」
「あ、ポルンもいません!」
そう、彼女達に力を与えてくれる妖精達は今はいない。彼らがいなければ、3人は普通の少女でしかない。歯噛みするなか、不意に声が響いた。
「なぎさ〜〜」
遠くから響いたように聞こえたのは聞き慣れた馴染み深い声…思わず周囲を見渡し、なぎさが背中に振り向いた。
「え……がっ!」
刹那、空洞のなかから凄まじいスピードで飛び出した光の球がなぎさの額に激突し、その反動でまたもや倒れた。
続けて現われた同じ光がそのまま眼前に降り立ち、その姿を見せる。
「なぎさ!」
「ほのか!」
「ひかり!」
煙のなかから現われたのはそれぞれのパートナーであるメップルとミップル、ポルンであった。
「ミップル!?」
「ポルン!?」
怪訝そうに見やるなか、額を抑えたなぎさが顔を起こし、抗議の声を上げる。
「…って、あんたね! なんて登場の仕方すんのよ!」
「話はあとメポ! 変身メポ!」
抗議を押し退け、説明が惜しいとばかりに三匹はその姿を変える。それは、彼女達に力を与えるもの―――3人は頷き合い、それを手に取った。
ハート・フルコミューンにクイーンのカードをセットし、カバーが一回転する。その瞬間、なぎさとほのかの手から離れ、光となって直上に舞い上がる。
その刹那、二人は強く手を握り締め合い、もう片方の手を天へと掲げる。
「デュアルオーロラウエーブ!」
伸ばした手に導かれるように天から降り注ぐ虹色の輝きを放つ光の柱が昇り、そのなかを二人は飛ぶ。
光が導くなか、回転するなぎさの姿が黒を基調とした装飾を纏い、回るほのかもまた白を基調とした装飾を身に纏う。
二人の胸元に光が収束し、大きなリボンが施される。
そのまま大地へと叩きつけるように降り立ち、虹色の光が周囲へと弾け飛ぶ。
「光の使者、キュアブラック!」
「光の使者、キュアホワイト!」
拳を握り締め、ブラックが猛々しく名乗り上げ、空中で一回転し、着地したホワイトが優雅に告げる。
「ふたりはプリキュア!」
「闇の力のしもべ達よ!」
「とっとお家に帰りなさい!」
並び立ち、雄々しく告げる二人が指差し、凛と構えた。
タッチ・コミューンのポルンの顔をなぞり、光が満ちる。
ひかりが両手を拡げ、声を上げる。
「ルミナス・シャイニングストリーム!」
胸の奥から光が輝き、黄金に輝く光の粒子が身体を覆い、淡い色彩が装飾を施していく。伸びる髪が両サイドで束ね、大きく靡く。
「輝く命、シャイニールミナス!」
その名を表わすように光り輝く煌きをその身に纏い、雄々しくそしてどこか威厳を持った口調で名を名乗り上げる。
「光の心と光の意志、すべてをひとつにするために!」
そして見た目にそぐわぬ落ち着きを宿し、光が収束し、その姿をより輝かせた。
「「プリキュアムプ(フプ)!!」」
眼前で凛と佇む3人の姿にムープとフープが喜色を上げ、光が消えると同時にルミナスの前に立つブラックとホワイトは険しい眼差しで顎を引き、身構える。
二人の闘志を感じ取ったのか、ザケンナーも気合十分とばかりに関節を鳴らす。このザケンナーはその体格から判断して恐らく格闘が攻撃の主になる。
それを一瞥し、接近戦ならブラックとホワイトの二人の劣らないと引き締める。
「ルミナス、その子達をお願い!」
「解かりました!」
反対に戦闘に不向きなルミナスを防御に徹する。それが3人の基本戦闘パターンだ。
「来るわよ、ブラック!」
ホワイトの言葉と同時にザケンナーは身を一瞬屈め、力を溜めて駆け出した。
『ザケンナ〜〜!』
荒々しく叫び、その豪腕を振り上げる。だが、3人は素早く身を翻し、ムープとフープを抱えてルミナスが後方へと下がり、ブラックとホワイトは両側へ跳ぶ。
間一髪で回避し、豪腕はそのまま大地を穿ち、煙を噴き上げる。大地を砂埃を上げながら着地し、身を軽やかに跳躍させて回避した二人を無視し、ザケンナーはそのまま加速して一目散にルミナスに向かって行く。
「っ、この子達は…!」
ルミナスが腕のなかに庇い、ブラックとホワイトが立ち塞がる。
「「渡さない! はあっ!!」」
ザケンナーに向かって突進し、ブラックの拳とホワイトの蹴りが繰り出される。それを両腕でガードするも、それに止まらず二人は連撃を打ち込んでいく。
「だだだだだだだっっ!」
「たぁぁぁぁぁぁっっ!」
互いの息を合わせて絶妙のコンビネーションで打ち込む二人の打撃に反撃を封じ込まれ、またその勢いにザケンナーは徐々に後方へと押しやられていく。
捌きながら防いでいたザケンナーは両腕をクロスさせ、打撃を受け止める。衝撃が間に拡散するも、それに耐え、強引に弾き飛ばす。
弾かれよろめくも、吹き飛ぶのを堪え、ブラックは左腕に力をこめる。
「だぁぁぁぁっ!」
渾身の一撃がザケンナーの左肩に深く突き刺さり、身体を喰い込ませる。その凶悪な顔が驚愕に大きく歪み、左腕が麻痺する。
『ザケンナ〜〜!』
だが、その痛みすら耐え切り、残った右腕が鋭く突き出され、その豪腕が真っ直ぐにホワイトに向かう。
空気を裂くその突きをホワイトは頬を過ぎる風にのるかのように身体を回転させ、腕の軌道から逸れ、さらに腕を利用して自らの手を掴みかからせた。
両手をクロスさせて相手の腕を握り締め、ホワイトは身体の奥から沸き上がる力を全力にしてその巨体を持ち上げた。
「やぁぁぁぁっ!」
気合とともにザケンナーの腕を絡めたまま、相手を背負い飛ばした。
頭から大地に叩きつけられ、怯むザケンナーを一瞥し、距離を取って着地するブラックとホワイトだったが、腰のメップルが騒ぎ立てる。
「ブラック、油断するなメポ!」
「え?」
「あいつは今までの奴らとは違うメポ!」
「恐ろしい力を感じるミポ!」
そう…幾度となくドツクゾーンの繰り出してきたザケンナー達と戦ってきたメップルとミップルはその姿に違和感を憶え、同時に背筋が凍るような悪寒が抑えられない。
警戒する二匹に二人も幾分か表情を強張らせる。そんな二人の驚きをさらに煽るように引っくり返っていたザケンナーがその身体を最初の液体状に変化させ、溶けるように元のザケンナーへと姿を戻し、ダメージを意にも返していないかのごとく悠々と立ち上がり、二人は眼を見開く。
その光景と二匹の言葉に警戒を強め、ブラックとホワイトは互いに頷き合い、両手を握り締める。強く相手を感じるように握り、ブラックとホワイトは腕をかざす。
「ブラックサンダー!」
「ホワイトサンダー!」
掲げる二人の意思に反応するように天空から黒と白の雷が降り注ぎ、二人の腕へと落ちる。刹那、その雷の力に導かれるように二人の身体を虹色の輝きが覆う。
「プリキュアの美しき魂が…」
「邪悪な心を打ち砕く!」
一際強く相手の手を握り締め、二人は眼前を強く見据える。
「「プリキュアマーブルスクリュー!!」」
前へと掲げる二人の掌に黒と白の電撃が満ち、それを握り締めて後方へと引き締める。
「「マックス!!」」
限界まで引き、そして収束した二つのエネルギーを一気に撃ち出す。黒と白の輝きを纏いながら螺旋状に放たれるエネルギーの奔流の反動で二人は後方へと後ずさる。
ブラックとホワイトの力を併せた二人の必殺技が真っ直ぐにザケンナーへと伸び、その身体を穿つように突き刺さる。
防御すらせずに身体で受け止めたザケンナーが瞬く間にその姿を崩し、金属質の液体へと変貌する。そして、そのエネルギーを吸い込むように身を収縮させ、体内へと取り込み、膨張していく。
「「ええっ!?」」
その光景に二人は眼を驚愕に見開く。
やがて、二人のエネルギーは完全に吸い込まれ、相手の体内へと吸収されていった。
「そんな……」
二人の力を知るルミナスが息を呑み、身を強張らせる。
吸収したエネルギーを噛み締めるように巨大に膨らんだフュージョンが固まるプリキュア達を見下ろす。
『力ガ…ミナギル……!』
反撃に身構える3人だったが、フュージョンは突如身を翻し、空へと跳び上がり、遥か彼方へと飛び去っていく。
その姿が完全に見えなくなり、周囲に穏やかな静寂が戻ると、怪訝そうにしていた3人はようやく肩の力を抜いた。
「なんなの、いったい…?」
相手の行動の意図が掴めず、戸惑いが隠せない。
だが、とにかく脅威が去ったのを確認し、ルミナスが腕のなかで収まるムープとフープに優しげに声を掛ける。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとうムプ」
振り返り、腰のバックルから顔を出すメップルとミップルが安堵の声を上げる。
「ムープ、フープ、無事でよかったメポ!」
弾む声にブラックが首を傾げる。
「この子達知り合いなの?」
「ムープとフープは泉の郷の友達ミポ」
「へぇ…」
二匹を見やるなか、ムープとフープの顔が微かに曇る。俯く様子に心配気にルミナスが声を掛ける。
「どうしたの?」
「咲と舞が心配ププ…」
「満と薫もムプ…」
不安げな眼差しで呟いた名に、3人は思わず反芻する。
「…え? 咲さん?」
「舞さん?」
「満さんと薫さん、ですか……?」
何故か不思議な親しみを憶える感触に、3人は顔を見合わせたまま暫し考え込んだ。
木々に囲まれたなかに拡がる大きな池に面した小高い丘に調和するように建つ一つの家屋。その建物の壁には、『NattsHouse』というロゴが大きく描かれている。
それを確認し、ガラス扉前に立つ二人の少女が感嘆の声を上げる。
「うわぁ〜〜」
「遂に見つけたわね、咲。アクセサリーショップ、ナッツハウス!」
感動に奮える咲に相槌を返すように微笑む舞。
随分と時間が掛かってしまったが、目的地にようやく辿り着いただけに喜びもひとしおだ。それだけに頷く咲の声も弾んでいる。
「うん! さぁ…って、舞!」
「え……?」
いざ入ろうとドアを見やった瞬間、咲の眼が驚きに見開かれ、舞もその先へと視線を落とすと、そこには『CLOSED』という看板が無情にぶら下がっていた。
「お休み…?」
舞が遂その言葉を口に出すと、眼に見えて咲が肩を大きく落とし、首を俯かせた。
考えてみれば、日曜だというのに、評判のアクセサリーショップに人の気配が無いのがおかしいのだ。しかし、まさか定休日だったとは考えていなかった。
「残念ね。え、と…誠に勝手ながら本日は急用のため、お休みさせていただきます……だって」
ガラス戸に貼られた謝辞の張り紙に、またもや間が悪いと落ち込む。
「はぁ、ガッカリナリ……」
流石に咲の口調も精彩がない。落ち込んだままポケットからブレスレットを取り出す。
「せっかくこのブレスレットの新しいデザインが出たって聞いてきたのに……」
手のなかに収まるのは、ビーズで繋がれた可愛らしいデザインのブレスレット。先日、このナッツハウスで買物してきた仁美から借りてきたものだった。
落ち込む咲に舞が慰めるなか、背後に別の人影が近づく。
「アレ、どうしたの?」
「あ、満、薫」
「お店に入らないの?」
「それが、今日はお休みなんだって」
首を傾げていた満と薫に苦い表情で告げると、二人も顔を見合わせて軽く息を吐く。
「そっか、残念ね」
「無駄足になったわね」
「ごめんね、二人とも。せっかく付き合ってもらったのに」
申し訳なそうに告げると、首を振り返す。
「ううん、気にしてない」
「それに、ここは少し落ち着く」
「そう言えば、何を見てたの?」
ここへ到着すると、満と薫の二人はそのまま池の方に歩み寄っていた。その問い掛けに頷くと、二人は視線を背中の池に向ける。
「ここ、泉の郷の景色によく似てる」
のどかな森のなかに静かに満ちる水面…人の気配が無い分、自然の息吹が聞こえてくるようであり、それを感じるように咲と舞も五感を澄ませる。
「ホントだ…なんか落ち着く」
吹く風に木々の匂い、そして水の飛沫…気持ちを落ち着かせる精霊達の息吹が聞こえるようであり、4人は徐に店先のウッドデッキに腰を下ろし、そこから見える景色を一瞥する。
おおぞらの樹とまではいかなくても、ここも都市部より小高い丘に造られている分、景色が大きく見渡せる。
これだけでも、ここに来た甲斐はあったかもしれない。
「お弁当でも持ってくればよかったね」
軽いピクニック気分に浸るなか、少し残念そうに舞が零す。
「そうね…満のつくってくれたパンを持ってくればよかったわね」
「そういう薫もスケッチ道具を持ってきた方がよかったんじゃない」
互いに見合い、軽く笑う。
今度訪れる機会があれば、そうするのも悪くない。談笑が続くなか、咲は大仰に溜め息をついた。
「あー…でもホント残念」
余程楽しみだったのか、俯く表情が沈む。
「せめてマスコットだけでも見たかったな…」
「マスコット?」
不意に漏らした一言に舞が覗き込むと、咲が声を弾ませる。
「うん、仁美に聞いたんだけど、お店のアクセサリーに負けないぐらい可愛いマスコットのぬいぐるみがあるんだって!」
実物を見たことはないが、そのマスコットのぬいぐるみは商品ではなく、かといって店の展示物でもないらしい。店のなかに常時飾られているものではないらしく、それを見ることができた日は幸せな出来事が起こるという妙な噂まであるぐらいだと。
「それじゃ、彼女は見られたの?」
「それが、二人は見られなかったんだって」
運悪く、二人が訪れたときには飾られていなかったため、大きく落胆したらしい。咲も興味をそそられていたが、肝心どういった物なのか又聞きした程度だ。
「へぇ…どんなマスコットなの?」
その言い回しに興味を煽られたのか、3人が先を促すように視線を集中させると、咲が大きく頷く。
「うん、えっとね…」
聞いた内容を思い出そうとした瞬間、突如頭上から何かの声が木霊した。
「ロプ〜〜〜!」
その声に思わず視線が上に向けられると、頭上を過ぎる大きな鳥の姿が映った。鳥は蛇行しながら飛び、やがて宙で煙に包まれた。その煙の中から落ちてくる3つの小さな影。視線がその軌跡を追い、それはそのまま彼女達の眼前の船着場の橋に落ちてきた。
ポンと跳ね返るようにバウンドして落ちたその3匹の小動物と思しき者達はそのまま手を取り合い、駆け出す。
「ココ! 早くココ!」
先頭を走る白いフワフワが叫び、3匹は階段を駆け上がり、徐々に近づいてくる。
「ねぇ、ちょっと」
「アレって……」
その姿に眼を丸くしていた満と薫だったが、その姿に何かを思い出したのか、咲が相槌を打った。
「あ、そうそう…確かあれぐらいの大きさで……」
走る姿を見やっていたが、やがて3匹は4人の前で逸れ、駆け去っていく。その背中を微笑ましく見詰め、咲が呟いた。
「あんな風にふわふわしてるらしいの」
「へぇ、確かに可愛いわね」
二人の困惑を他所にのどかに会話を交わしていた二人だったが、やがて驚愕に変わる。
「「って、何、今の!?」」
ようやく今眼前を過ぎったのが異常なものであったのを理解した瞬間、眼を瞬いていた満と薫の視線が細まり、横に振り返った。
「咲! 舞!」
「二人とも、後ろ!」
二人の叫びに眼を瞬いた瞬間、咲と舞の背後に突如大きな影が立ち昇った。身体を覆うような陰に振り返った瞬間、二人はまたしても驚愕に眼を見開く。
「うわあっ! 今度は何!?」
あまりに目まぐるしく動く事態に固まりそうになるが、その液体状の影が不規則に膨張した瞬間、咲と舞の腕を取り、満と薫が走り出した。
刹那、相手も身を大きく動かし、後を追い出した。ようやく事態を悟った二人も慌てて駆け出し、そして進行上にいた3匹を思わず抱え上げ、森のなかへと逃げ出した。
「どわぁぁぁぁ、なんなのよ〜いったい!」
突然現われた謎の小動物に謎の液体。戸惑うなか、腕に抱えられるココが叫んだ。
「キミ達は逃げるココ!」
「そんな! 放っておけないわ!」
どんな理由があるにせよ、追われているのなら放って置くことはできない。だが、相手は徐々に距離を詰め、やがて大きく跳躍し、4人の頭上を飛び越え、立ち塞がるように降り立った。
『ヨコセ…!』
不規則に威圧するように膨張するフュージョンに抱える咲と舞を護るようにう満と薫が前に立つ。
「ラピー!」
その瞬間、またもや頭上から聞き慣れた声が響き、4人が顔を上げた瞬間、頭上から光る球体が真っ直ぐに降下してくる。
思わず一歩引いてよけた地面へと激突するようにぶつかり、砂煙が満ちる。その晴れた跡には、やや顔を顰めて倒れるフラッピの姿があった。
「着地に失敗したラピ…」
「「フラッピ!?」」
眼を丸くして覗き込む咲と舞だったが、またもや聞き慣れた声が頭上から木霊した。
「チョピ〜!」
顔を上げた瞬間、同じ光の球体が落下し、フラッピの真上にぶつかった。またもや舞う砂煙の跡には、フラッピをクッションに倒れるチョッピの姿があった。
「チョッピも着地失敗チョピ〜」
やや乾いた声で漏らす姿にますます混乱する。
「「チョッピ!?」」
何故、今日用事で出かけていた二人がこんな現われ方をしたのか…だが、そんな戸惑いも響く淀んだ声に掻き消される。
『貴様ラ…力…ヨコセ……!』
大きく膨らんでいた液体が徐々に輪郭を帯び、それはやがて垂れ眼状の顔を成し、そこから腕が伸びた。
『ウザイナ〜!』
酷く病んだような声で威圧するその姿に4人は眼を見開く。その独特の雄叫びは、彼女達がかつて戦った『ダークフォール』の僕、ウザイナーの姿だった。
「ど、どうなってんの!?」
もう訳が解からずに困惑するなか、フラッピが叫ぶ。
「話はあとラピ!」
手を振り、フラッピとチョッピは身を起こして跳ぶ。
「「変身ラピ(チョピ)」」
緊迫した面持ちのなか、姿がクリスタル・コミューン へと変わり、咲と舞が強く頷いた。
手に収まったコミューンの先端のフェアリー・ドロップを捻り、光の粒子が溢れ出す。それを合図に互いの手を強く握り締め、もう片方の手に持つコミューンを前で重ねるように向ける。
「デュアルスピリチュアルパワー!」
粒子が溢れ、二人の姿は光のなかへと包まれていく。包み込んだ光が上空へと舞い上がり、それが弾けた瞬間、光のオーロラが伸びる。それに沿って飛ぶ二人の姿が金の花弁と銀の羽根に覆われていく。
「花開け、大地に!」
「羽ばたけ、空に!」
咲の腕がピンクを基調とした装飾に彩られ、舞の腕が純白を基調とした装飾に包まれる。
舞が咲の手から離れ、二人の身体を覆う光がその身を包み、柔らかなドレスを施していく。
髪が変わり、耳元にハートのリングが光る。
「輝く金の花、キュアブルーム!」
「煌く銀の翼、キュアイーグレット!」
降り立ったブルームの背後に花が開き、イーグレットの背後には大きな翼が舞う。
二人は手をクロスさせ、寄り添う。
「ふたりはプリキュア!」
「聖なる泉を汚す者よ!」
「あこぎな真似は、おやめなさい!」
凛と佇み、相手を制するように立ち塞がる二人が指差し、名乗りあげた。
満と薫の二人は頷き合い、手を取り合い、天へと腕を掲げた。
「スピリチュアルウエーブ!」
天空より降り注ぎ、そして吹き荒れる粒子が二人の身体を覆い、帯にも似た粒子の流れが二人の身体に装飾を施していく。
柔らかな色彩が覆い、その姿をドレスに包んでいく。
耳にピアスが輝き、閉じられていた瞳が強く開かれる。
「大地を照らす月、キュアブライト!」
「天空に吹く風、キュアウィンディ!」
降り立ったブライトの掲げる腕に降り注ぐ月光。そしてウィンディの振るう腕に誘われる風が吹き、二人はブルームとイーグレットに寄り添うように立った。
「プリキュアココ…」
「この子達がナッツ…?」
4つの精霊の力を宿すプリキュアの姿にココ達は眼を見開き、見入っていた。4人は身構え、ウザイナーと対峙する。
「ココ、ナッツ、シロップ! 隠れてるラピ!」
「わかったココ!」
腰のポケットから顔を出したフラッピにココ達が頷いた瞬間、ウザイナーが動いた。
『ウザイナ〜!!』
手を伸ばし、その巨体からは想像もできない俊敏さで迫るも、振り返った4人が気合をこめて両腕を振り上げた。
掲げた瞬間、4人を覆うように光の壁が展開され、そこへと突っ込んだウザイナーは制止させられ、そのまま吹き飛ばされる。
吹き飛ぶウザイナー目掛けて4人は足元に精霊の力を集中させ、大きく大地を蹴った。
光の粒子を振り撒きながら、空中へと跳び上がる4人は池の方へと吹き飛ぶウザイナーの後を追う。吹き飛んでいたウザイナーが再び金属質の液体へと姿を変え、そこから無数の触手が伸び、襲い掛かる。
「うわぁぁっ!」
縦横無尽に襲い掛かる触手の網目を掻い潜るブルームだったが、その眼前で迫る触手をブライトが叩き落す。
「はぁっ!」
翳した手の掌に生成された光を飛ばし、触手を吹き飛ばすも、それは瞬く間に再生し、眼を見開く。
「このぉぉぉっ」
両手でつくった光で捌くも、その数が多く、受け止めきれない。イーグレットが歯噛みし、光の盾が弱まるも、そこへ割り込んだウィンディが腕を払う。
「やぁぁぁっ」
薙がれた腕が風を起こし、触手を吹き払うも、触手は大きく弧を描き、背後から襲い掛かった。
「うわぁっ!」
背中に打ち付けられ、弾かれるブルームに気を取られ、イーグレットが動揺する。
「ブルーム! きゃぁっ!」
それが隙を生み、イーグレットも背中を強かに叩きつけられ、弾き飛ばされる。
「ブルーム!」
「イーグレット!」
その光景に身を翻し、吹き飛ぶ二人の先へと回り込んだブライトとウィンディが二人を受け止めるも、その勢いを完全に受けきれず、4人はそのまま水面を切り、飛沫を上げながら丘に足を張り、ようやく止まる。
砂煙を上げながら互いに無事を確かめ合うなか、フュージョンはそのまま池へと落ち、水面でまたもや大きく膨張している。
その得体の知れなさに辟易すると同時に薄気味悪さも増す。
「何なの、アレ!?」
飛沫のシャワーを浴びながら警戒するも、その答は返ってこない。記憶にあるウザイナーとは違い、かつて同じダークフォールに居たブライトとウィンディも戸惑うばかりだ。
「ココー!」
そこへ追いついてきたココ達が現われ、その姿に眼を見開く。
「貴方達…!?」
下がってと伝える前に険しい面持ちでココが指差す。
「そいつは普通じゃないココ! 逃げるココ!」
「普通じゃないって…?」
言葉の意味は図りかねるも、相手がただのウザイナーではないことは解かり、ブルームとイーグレットの二人が頷き合う。同時に触手が伸び、二人に襲い掛かろうとした瞬間、二人の前に割り込んだブライトとウィンディが壁を展開し、触手を捌く。
「ブライト!」
「ウィンディ!」
「二人とも、今のうちに!」
「早く!」
背中越しに感じる信頼に強く頷き、ブルームとイーグレットは互いの手を取り、強く握り締めた。
「大地に精霊よ…」
「大空の精霊よ…」
眼を閉じ、集中する二人の意識が導くように、翳した手の掌に大地と大空に宿る精霊達の光が誘われ、収束していく。
「今、プリキュアと共に!」
「奇跡の力を解き放て!」
眼を見開いた瞬間、二人は握り合う手を後ろへと引き、互いの手を前で翳す。合わさる二つの甲から光が溢れる。
「「プリキュアツインストリームスプラッシュ!!」」
回転させる腕の動きに合わせて二人の前に形成された光のエネルギーを一気に押し出すように飛ばす。解き放たれた二つのエネルギーにブライトとウィンディが左右へと飛び、立ち往生していた触手の間隙を縫うように螺旋を描き、フュージョンに突き刺さる。
それに喜んだのも束の間…ぶつかる二つのエネルギーが突如収縮した身体の内へと吸い込まれていった。
「何…!?」
その現象に戸惑うも、打ち出していた精霊のエネルギーが全て体内へと吸収され、フュージョンの身体をより大きく膨らませていく。
「まさか…!?」
相手の身に何が起こったのかを察した4人の顔に動揺が走る。そんな4人を覆うまでに膨張したフュージョンが低く唸る。
『素晴ラシイ力ダ…気ニ入ッタゾ……!』
歓喜に震える様子に身構えた瞬間、フュージョンは突如大きく跳躍し、空中へと舞い上がって彼方へと飛び去っていった。
その姿が完全に見えなくなるも、4人は追うこともなくその場に戸惑い、立ち尽くした。
「いっちゃったわ…」
「アイツは力を吸収して逃げたナツ」
ポツリと漏らした声に振り向く。
「貴方達は…?」
見慣れぬ姿に首を傾げるも、彼らは真剣な面持ちで見上げ返した。
「頼むナツ! 力を貸してほしいナツ!」
「ロプ!」
「プリキュアの力が必要ココ!」
必死な眼差しで告げるココ達に4人はますます困惑しながら、互いの顔を見合わせた。
説明 | ||
今回は初代から花鳥風月の戦いまで。 ようやく折り返しといったところです。 |
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