おっさん×少年(一応?健全)「涙のラーメン」 |
オレの名はマモル、甲子園を目指す高校球児だ。
「野球留学」で今の高校にやってきたはいいが、やはり強者揃いのこの学校の
中ではまだまだ控えの身、そして寮での生活費の足しにするため許可をもらって
近くのラーメン店「風味堂」でバイトをしている。
この店、手伝ってるオレが言うのも何だが(笑)このあたりでは密かに?人気が
あるようで、このたびそれまでの店を大きくしてリニューアルオープンする
こととなった。
その改装開店の日の朝、オレも店長(オレは「オヤジさん」と呼んでるが。)も
他の皆もあわただしく動いているさなか、店の外に一人の男が立っていることに
オレは気がついた。
最初は「開店待ちの客かな。」と思って無視していたけど、窓越しに映るその姿は
「客」というにはどこか不自然で、また店を開くにはまだかなり時間が早かった
こともあって、オレは思い切ってこの男に声をかけるため外に出て行ったのだった。
「すいません、開店まではもうししばらく時間かかるんですけど。」
そこまで言ったところでその男はオレの言葉をさえぎり、おもむろに口を開く。
「別にラーメンを食べに来たワケじゃない。」
思いがけないその反応にオレは一瞬戸惑い、そして気がつくと今度は頭に浮かんだ
言葉をテキトーに(汗)並べていた。
「あの〜、失礼ですけどウチに何か用っスか?」
「坂本はいるか?」
(坂本?)
聞いたことのあるようなないような名前、それが誰のことであるかを考えている
うちに、オレたちの気配を察したのかいつの間にかオヤジさんがオレの横に
立っていた。
「久しぶりだな。」
「ああ。」
二人のやりとりを聞いてやっと思い出した、それってオヤジさんの名前だったんだ!
しかし、オレのことなど眼中にないように二人の話は続いていく。
「ラーメン屋なんて俺の親父への当てつけか。」
「お前がそう思うならそれでも構わない。」
「頑固な性格も相変わらずだな。」
その二人の雰囲気にただならぬモノを感じたオレは、あわててオヤジさんとその男の
間に割って入ろうとした。
でも…何を言えばいいのかまったく思いつかなかったし、おまけにそんな気持ちとは
裏腹にオレの体は少しずつ二人の邪魔にならない場所へと動き始めていた…。
「お前は今何をしている?」
しばらくの沈黙の後、オヤジさんの落ち着いた声がオレたちの耳に響いてくる。
すると先ほどよりも一段と長い沈黙が続き、やがてヤツはゆっくりと口を開いたの
だった。
「しがない三流会社のサラリーマンさ。」
「そうか。」
その言葉にオヤジさんが顔を上げヤツの目を見すえたその瞬間、ヤツはいきなり
オヤジさんの胸倉を掴んできた。
「明稜高校の近くに店出すなんて、野球への未練たらたらなんじゃねぇか?おい?」
「何するんスか!」
それを見て、オレも思わずヤツに掴みかかりそうになる。
「やめろ!」
しかし、鋭いオヤジさんの声と素早い手の動きでオレはすんでのところで押し
止められ、すぐに元いた場所へと戻されてしまった。
そして一度きつい眼差しでオレをいさめると改めてヤツの方へと向き直り、今度は
また穏やかな表情をヤツに見せたのだった。
「殴ってお前の気が済むなら殴ればいい。」
「オヤジさん…。」
ところが、その言葉が終わるか終らないかにヤツの拳は思い切りオヤジさんの頬を
捉えていた、オレが心配するヒマもなく…。
ぶっ飛ばされるオヤジさん、オレはあわててオヤジさんの元に近寄り殴られた辺りを
そっとなでてみる。
血は出てないモノの、赤黒くはれ上がってほのかに熱を持った頬を無意識でさする
オレに、オヤジさんは黙って自分の手を重ねてきた。
「ふん、そうやっていつまででも野球に、そして俺の親父にしがみつくがいいさ。」
そのうちよろめきながらも再び立ち上がろうとするオヤジさんを尻目に、それだけ
言うとヤツはオレたちに背中を向け、足早にその場を去って行ってしまった。
結局オヤジさんはそれ以上何の反論もできずに(いや、しなかったという方が
合ってるか。)街並みに消えていくその姿をただすまなそうに見つめているだけ
だった…。
その後、オレとオヤジさんはいったん店の奥にある事務所兼休憩所に引っ込み、
しばらくは殴られた場所を濡らしたタオルで冷やしたりなどしていた。
でもどうしても我慢が出来なくなったオレは、ついもやもやとした自分の気持ちを
ストレートにオヤジさんにぶつけてしまったのだった。
「あの人、野球がどうのこうのって言ってましたけど。」
「ああ。」
オヤジさんは小さくうなずいたきり、オレと視線を合わせようとはしない。
業を煮やしたオレはもう一度詰め寄ると、その胸元に飛び込むような恰好で
オヤジさんに改めて返答を迫った、少々おせっかいかなとは思いつつも。
「いったい何があったんスか?やっぱりオレには話せないことなんスか?」
重い沈黙がしばしオレたちを覆い、やがてオヤジさんは観念したかのようにヤツとの
因縁を語り始めた…。
「俺はあいつの親父さんを殺したようなモノだからな。」
「えっ?」
そのあまりにも唐突な切り出しに言葉をなくすオレ、しかしそんなオレの様子を
目にしながらもオヤジさんはあえて言葉を続ける。
「俺とあいつ、岩井正樹は高校時代バッテリーを組んでいて、奴の父親は家業の
ラーメン屋を営む傍らその野球部の監督をしていたんだ。
とりたてて特徴のない公立校だったからさすがに専任の監督と言うのはな…もっとも、
あいつも監督もクラブでは極力そのことを周りには意識させないようにはしてた
みたいだが。
ただ例え親子であってもお互いの才能みたいなモノは認めあってたハズだし、だから
こそあえてあいつは親父のいる高校を選んだんだと思う。
その甲斐もあってかあいつは投手としてすぐに頭角を現し、もしかしたら奴がいれば
甲子園も狙えるんじゃないかと周りも少しずつ思うようになっていった、もちろん
俺も含めてな。
一方の俺はあいつとの相性は抜群だったが打撃、守備などトータルな面ではまだまだ
先輩のキャッチャーには敵わなかった…それでも監督は大会では岩井と俺の
バッテリーを使うことにこだわり続けていたようだった。」
慎重に言葉を選びつつ、オヤジさんの話は続く。
「しかも俺の親父がちょうどその頃市会議員をやってたこともあって、やがて
ピッチャーは自分の息子、キャッチャーは有力者の息子、だから岩井の親父は
コネ監督だという噂がどこからか聞こえてくるようになってきた。
俺の親父は学校関係者を通じてその噂が大っぴらになることは押さえたかった
ようだが、いつの間にかそれが地元では半ば真実のように語られるまでになって
しまっていたんだ。
と同時に、あいつや監督の俺に対する期待が俺にとってはいつしか大きな
プレッシャーとなり、そんな周りの雰囲気にだんだん耐えられなくなってきた俺は、
2年になってすぐ野球部を辞めてしまった。
それから間もなくだったな、監督が急な心臓発作を起こして倒れたのは…。」
そこでオヤジさんはいったん話を止め、一度遠くに目をやるようなそぶりを見せた。
そして何も言えずにただじっとその話を聞いているオレの姿を見てから、また静かに
口を開いた。
「そして監督は帰らぬ人となった。後から聞いた話では監督の寝室には数多くの薬や
酒があったそうだ。
本業の方も忙しかったし、また責任感の強い人だったから俺が辞めたことも結構な
負担になってしまったのかもしれない、辞めてからも直接『また戻ってこい。』とは
何度か言われてたしな。」
「そんなの…単なる偶然、でしょう。」
さまざまな気持ちが渦巻く中でオレは何とか言葉を絞り出したが、それを受けて
オヤジさんは小さく首を振った…ようだった。
「そう言ってくれる人もいた、でもどちらにしろ俺が監督の、そしてあいつの思いに
応えることができなかったことには間違いない…そんなこともあって、結局岩井も
それからしばらくして野球部を去って行った。
ただ俺は今でも信じている。あいつの才能は本物だったと思うし、また俺が一番
奴の球をうまく受ける自信があったと、そして…。」
そこでオヤジさんは一度大きく息をしてから、改めて言葉を続けた。
「いろんな噂が自分の耳に入ってもずっと岩井と俺のバッテリーを使い続けていて
くれたのも、監督が心の底から俺たちを信じてくれていたからなんだろうな、今なら
それがわかるのに…。」
そこまで話したところでオヤジさんの口の動きがピタリと止まった。
「そんなこと、今頃言っても遅いっスよ。」
オレの無意識のつぶやきがオヤジさんの耳にも届く。でもそれに対する
オヤジさんからの「応え」はない。
「結局、二人とも逃げたんじゃないっスか!」
今度は大声で叫んでいた、オレも少しでもこの重苦しい雰囲気から逃れようとして…
多分そんなことはオヤジさん本人が一番よくわかってるだろうに。
「ホントはもっと野球、やりたかったのに…。」
一生懸命言葉をひねり出そうとするその一方で、オレの目からは少しずつ涙が
あふれ始めてきていた。
何でなのかは自分でもよくわからない、だけど一度流れ始めた涙を止めることは
オレにはもうできなかった。
「バカヤロウ、何でお前が泣く必要があるんだ。」
「だって、だって…。」
もはや次の句が告げられなくなったその瞬間、オヤジさんはそっと俺を抱きしめて
くれた。
「大丈夫だ、きちんと今を見据えていけばお前にはまだまだ無限の未来がある。」
「オレ、オレ…。」
オヤジさんの腕の中でオレは初めて人前で思いっきり泣いた、恥ずかしいなんて
気持ちはみじんも感じずに…。
それからどれぐらい経っただろうか、オレの気持ちがある程度落ち着いたのを
確認したオヤジさんはいったん厨房に行き、やがて作りたてのラーメンを持って
戻ってきた。
「とりあえずこれでも食って気分を切り替えろ。」
涙に濡れた顔もそのままにそのラーメンに食らいつくオレ、その姿を見ながら
オヤジさんは少しバツの悪そうな表情を見せつつもオレに話しかけてくる。
「そう言えばお前もキャッチャーやってるって言ってたな。
そうだ、今度俺がお前のキャッチング見てやろうか?まぁお前さえよければの
話だが…。」
「ぜひお願いします!」
その言葉が終わる前にオレは大きくうなずいていた。
そしてラーメンも食べ終わり、オレがお礼の言葉を口にしようとしたその瞬間…。
「あ、これは『昼飯』の代りだからな、もし後で腹が減ったらその時はちゃんと
金払ってまた食えよ。」
「えっ、これサービスじゃなかったんスか?」
呆然とするオレに向かって、オヤジさんはとどめの一撃(笑)を加えてきた。
「当たり前だろ、この忙しい時に俺の手を止めさせた罰だ。」
「鬼店長!」
まだ涙でぐしゃぐしゃになってる顔のまま、そう言うしかオレに反撃の手段は
残されていなかった。
でもそんなのちっとも応えてないようににっこり笑うオヤジさん、仕方ないから
オレも涙をふき、悔し紛れにそれに負けないくらいの笑顔を返してやった…。
もうすぐ開店の時間だ。そしてオレたち二人の新しい道も今始まった、のかもしれない。
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久々の書き下ろしSS、少々「腐」テイスト入ってますがそれでも よろしければ目を通してやっていただけるとありがたいです。 |
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