身も心も狼に 第10話:新しい生活 |
[ ワーウルフ調査日誌D
一体何処から情報が漏れたのか?
突然実験対象ルビナス及び保護監視役ハリエン、マオランが
研究所より失踪した。
急ぎ魔王様に捜索を進言するも、
返って来たのは、それ以上に重要な捜索があるとのこと。
”研究員の中に反魔王派の者達がいる”
調査が行われ、我々は念を入れ証拠となるものを隠したが、
調査を行う者達を見ると、明らかに我々に目を付けているのが分る。
その予想は当たり、ついに我らの存在を明るみにする証拠が見つかってしまった。
同士が次々と検挙されていく。
だが、我々は諦めるつもりは無い。
]
ルビナス一家が村に引っ越して間も無く、3人はひっそりと暮らしていた。
研究所からかなり離れた、関係者はいるが計画とは無縁に等しい村。
だが相手は、計画に参加しながらも自分達が反魔王派であることを隠し通して来た者達。
どこにその影があるか分からない以上、余り人前に姿を見せないほうが良かった。
家からも余りで無いようにし、食糧他生活に必要なものは、
村長他村の上役が交代で届けるようにしていた。
一つの場所に止まり制限された生活を送る点だけは以前と一緒だが、
この村の家での生活と研究所の生活では雲泥の差であった。
ここにはルビナスを捕らえる壁も、床も、天上も、扉も、研究員も無い。
木造石造の壁床天上扉、どこからも生活臭が漂ってくる。
ここに稟がいたらもう言うことは無い。
それほどまでに、ルビナスにとって、この村の、この家での生活は充実していた。
その生活が暫く続いて一週間ほど経った頃、3人の家にフォーベシイが来た。
「やあ3人とも、久しぶりだね」
「お久しぶりです」「ご無沙汰しています、フォーベシイ様」「久しぶりおじ様」
数ヶ月ぶりの再会に四人は喜ぶ。
その中で、ルビナスはフォーベシイは、再開以外の何かに喜んでいるように感じていた。
「おじ様、今日はどうしたの?なんだか嬉しそうだけど」
「ああ、今日は皆に嬉しい知らせがあるんだ。
君達が告発してくれた後研究員達の徹底調査が行われてね、
先日反抗勢力の一斉検挙が行われたんだ」
「それで、結果は…」
「ああ、無事全員逮捕することが出来たよ!」
脅威が去ったことをフォーベシイは明るい表情で告げ、
それを聞き3人も、互いを抱きしめあいながら喜んだ。
「さて…反対派がいなくなって、もうルビナスがあんな目に遭うことはなくなったわけだが、
3人はこれからどうするんだい?」
「それは…」
「…出来れば、君達には研究所に戻ってもらってプリムラを支えて欲しいと思っているんだけどね…」
「どういうことですか?」
フォーベシイは少し残念そうにしながら話し出す。
「反対派がいなくなってもね、プリムラのことをただの実験体としか見ない者は
いなくなったわけではないんだ。人造であるという出生が人をそうさせてしまうんだ。
だから、君達のように彼女を想ってくれる者が多くいてくれることが望ましいんだ」
言われ3人は悩む。出来るなら自分達の娘を失い、新しく家族となった娘もひどい目に遭った計画には、
正直関わりたくはなかったが、計画に参加して辛い思いをしているプリムラを放って置けない。
暫く悩み考え話し合った結果、
「では、ルビナスは計画に参加しないこと、
私達二人のうち片方が定期的にそちらに行くという形でよければ」
「ああ、それで構わないよ。
断られるかもしれなかったのに参加を承諾してくれたんだ。
これ以上は望まないよ。送迎に関してはこちらで手配するよ。
出来れば、明日からでも来て欲しいんだが…いいかい?」
「「「ハイ」」」
これからのことを話し終えたフォーベシイ・ルビナス・ハリー・マオは、
その旨を村長に伝えた後、この数日で3人の家を訪れたことのある村の住人を呼び、
ささやかな宴会を開いた。
反対派がいなくなったこと、そして、
ルビナス一家がこの村に隠れ住む一家ではなく、
本当の意味でこの村の住民になれたことに対して、
解放と歓迎の宴会は深夜まで続いた。
その間ルビナスは、自分の好きなように生きられる自由と、
家族と一緒にいられる喜びに心を満たし、
宴会が終わり床に就くまで笑顔を崩すことはなかった…
ルビナスたちが正式に村の住民になって一年弱、3人は充実した日々を送っていた。
ハリーとマオは現役の科学者でもある為、その知識は多くの面で村民の助けとなっていた。
お陰で、二人は村民全員の頼れる存在となり”分らないこと困ったことがあったら二人に聞く”
というのが一種の習慣にまでなっていた。
頼れる存在と言えば、ルビナスもそうだ。
ワーウルフは身体的成長は成人になるのが早く、
身体機能は老齢期を迎えるまで衰えることは無い。
その特徴によるもので、稟と出会った頃は、頑張れば体操服袋に入れるくらいだった体格が、
あれから数年経った今では、四本足で立つ状態でも子供よりも背が高くなっていた。
村では定期的に狩りが行われるのだが、この時ルビナスが大活躍だった。
卓越した彼女の感覚はいち早く獲物の存在を感じ取り、
人語を解し、使える彼女から、狩人全員にその情報が伝わる。
全身から沸き立つ威圧感は狙った獲物に恐怖を与え、逃げまとう獲物を誘導し追い込む。
獲物の中にはルビナスよりも大きな体格のものや強い力を持つものも存在したが、
速さでルビナスに敵うものはいなかった。
力は成人男性以上あり、スタミナは桁外れにあったので、
狩り以外にも、力仕事でルビナスは活躍していた。
こんな感じで大人たちの受けは良かったのだが、
逆に子供達の受けはあまり良くなかった。
襲ってくることは無いと分かっていても、
自分よりも大きな巨体に怖がってしまっていたのだ。
が、とある出来事をきっかけに仲良くなることが出来るようになった。
ある日、ルビナスとハリーは村長宅に訪れた。
その日は村会議が開かれる日で、二人のほかにも村の上役が集まる。
マオは研究所の方に行っていたので、特にこれと言った用事がなかった為、
ルビナスは会議に出席するハリーに同行していた。
「それじゃ、その辺で待ってるから」
「ああ、会議が終わったら直ぐに出かけようね」
言って、ハリーは会議部屋に、ルビナスは庭に向かう。
ここの庭は、村長の奥さんの趣味で様々な花が植えられており、
中には人間界から取り寄せられた品もあり、
自分や友人と同じ名前の花を見た時にはかなり楽しんだこともある。
会議はともかく、ルビナスはこの花の香りに包まれながらまどろむことを密かな楽しみにしていて、
これは村長の奥さんも公認だ。
いつものようにまどろみ、いつの間にか眠り、
会議が終わったハリーに優しく起してもらう。
これがいつもの事だ。
が、この日は違った。
「…ス…ルビナス…おーい、ル・ビ・ナ・ス」
肩を揺らされ、ルビナスは起きて、ゆっくりと瞼を上げる。
「おはよう、ルビナス」
「クァア〜…おはよう、ハリー、村長さん。会議は終わった?」
「ああ、それじゃ約束どおり花屋を見に行こうか」
「うん」
その日は会議が開かれる日であり、村で市が開かれる日でもあるのだ。
自分の庭にも花が欲しいと希望したルビナスだが、
普段財布を持たないので、それを持つハリーと一緒に行く事になっていた。
市に向かうためにルビナスは身体を起そうとする。
だが、足に力を込めようとした所でハリーに止められた。
「ちょっと待った、起きるのならまずその子を何とかしないと」
「その子?」
首を捻り、ハリーの指す方向を見てみると、そこには、
ルビナスを抱きつきながら、身体の上に寝そべり眠る少女がいた。
「…この子って確か」
「ああ…うちの娘だよ」
何回か村長宅に訪れたことはあり、少女のことも何度も目にしている。
だが、話した事はおろか近づいたことも無い。
少女が怖がってしまうだろうからだ。
ルビナスとしては、誰かを襲うつもりなど皆無であったが、
今、自分の上で寝てる少女含め村の子供達からは、
自分よりも身体の大きいルビナスを怖がり避けられていた。
ルビナスとしては子供達と触れ合いたいとは思っていたが、
彼女の持つ魔法の特性と、稟と一緒に過ごしたときの影響で、
他人の心に対する敏感さから、
自分に対する恐怖心を感じて、余り近づかないようにしていたのだ。
その、自分のことを怖がっているはずの少女によって動きを封じられている。
「ルビナス君、娘のことはいいから。店に行ってくるといいよ」
「でも、そんなことしたらこの子が起きちゃう…」
少女は安心しきった表情でルビナスに身体を預けて眠っている。
ルビナスからすれば、少女を抱えながら動くのは苦ではないが、
自分を恐れずに触れてくれることに喜び暫くそうしていたいと思っていた。
が、そうこうしているうちに、件の少女が目を覚ましてしまった。
少女は目をこすりながら身体を起こし、数秒周囲を見回して…
またルビナスの上に寝転がろうとする。
「こらこら、二度寝しない」
「んにゅ〜…あ、パパおはよー」
「うん、おはよう。さっ、早くルビナス君から降りなさい」
「う〜…やっ!!」
「やっじゃないよ。それじゃルビナス君に迷惑だろう」
村長はそう言うが、少女は全身でルビナスに抱きついて離れようとしない。
肝心のルビナスは、むしろ喜んでいた。
これ程までに少女が自分に心を許してくれることを嬉しく思い、
ルビナスは素直に自分の思いを告げる。
「村長さん、私は迷惑って思って無いから。
この子の好きにさせてやってくれませんか?」
「それは…君がそう言うなら良いが、重く無いかい?」
「全然!」
「そうか…それじゃ娘をよろしく頼むよ」
笑顔で手を振りながら送り出す村長に「また後で」と返して、
3人は村長宅を後にする。
「それじゃあハリー、行こう」
「ああ。その子は乗せたままで大丈夫かい?」
それまで様子を見ていたハリーに出発を促すと、
ハリーは少女について聞いてきた。
ルビナスとしては、むしろこのままの方が良かったが少女はどうか?
「ねぇ、私達はこれから花を見に行くんだけど、一緒に行く?」
「うん!」
「そう、それじゃ、降りて歩いて行く?」
「う〜んっと…このままじゃダメ?」
自分の首辺りに乗りながら顔を見下ろすように聞いてくる少女に、
ルビナスは笑顔で答える。
「ううん。好きなだけ乗っていていいよ」
「本当?やった!」
と言う訳で、ハリーと少女を乗せたルビナスの3人は村の市場に行くことに。
花屋に行き商品を見る3人。
並べられた商品は三界各地から集められたもので、
花好きのルビナスと少女、店員の会話は弾んだ。
話が終わり鉢植えや種をいくつか買ってから、
ハリーとルビナスがこれから何をしようか考えていた所に、
3人とは別の声がかかった。
「あー!リリィちゃんがルビナスに乗ってるー!?」
声のほうを向くと、そこには何人かの子供の集団がいた。
「みんな、やっほ〜」
「リリィちゃん、何やってるの?」
「ハリーおじさんたちと一緒にお買い物」
「なんでルビナスの上に?」
「うちのお庭でルビナスが寝てたから、その上に乗って寝てたんだけどね。
お出かけするときに乗ったまんまでもいいって言ってくれたんだ!」
「いいな〜、ねぇ私ののせてー」
「僕も僕もー」
「今私が乗ってるからダメー!」
「リリィちゃんズルーイー」
本人の意思完全無視で、ルビナスの周囲でじゃれあう子供達。
リリィを降ろそうとしたり、自分も乗ろうとしたり、それにリリィが抵抗対抗したり…
もみくちゃにされるがルビナスは嫌と思わず、
むしろあっという間に子供達と打ち解けることが出来喜んでいた。
「はいはい、ケンカしない。別にダメなんていわないから。
皆乗せてあげるわ。一回で二人までなら大丈夫よ」
それを聞き、リリィ以外の子供の視線がルビナスに集中する。
子供達の視線は比喩なしに眩しいくらいに期待に輝き、
対して、リリィは独占できなくなって少々残念そうにしていた。
「え、いいの!?」
「うん、それじゃ順番決めて変わり番子でね」
「はーい、それじゃ順番決めよ!」
言いながら私が一番ー、僕が先ー、と言い合っていく。
それを見ていたルビナスはハリーの方を向く。
「そう言う訳だから、先に帰っててもらっていい?」
「ああ、皆と仲良くなれてよかったじゃないか。存分に遊んでおいで」
「うん!」
「それから、この中では皆のお姉さんにもなるからね。
しっかり面倒見るんだよ?」
「わかってる」
そう言って二人は分かれる。
その日、ルビナスは日が暮れるまで子供達と遊び通し、
子供達を家まで送ってから自宅に帰った。
その日のことを嬉々として話すルビナスを見て、
ハリーも研究所から帰ってきたマオもとても微笑ましく見ていた。
第10話『新しい生活』いかがでしたでしょうか?
今回は今までのようなシリアスな話ではなく、
やっとルビナスの幸せの一幕を書くことが出来ましたよ〜。
さて、読者の方には調査日誌で書かれていることと、
本編の内容が違うのでは?と思った方もいると思いますが。
その答えは…今後の話を読んでいただけたらわかります。
それではこの辺で。
次回、第11話『ルビナス覚醒』お楽しみに…
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MiTiが送る年明け最初の一作品です。 PCも何とか復活し、頭の中から記憶を掘り起こして、 やっとこさ一話完成できました。 では、どうぞ… |
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覚醒?という事は…遂に…(乱) 日記と本編の矛盾・・・・・・ルビナスが幸せならも〜ま〜んた〜いw(デルタ) |
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