剣帝?夢想 第十話 |
レーヴェたちは虎牢関を抜けて洛陽へと向かっていた。虎牢関を抜けてから早二日、董卓軍から何らかの動きがあってもいいのだが、そんなことは一度もなく、平穏そのものだった。朱里たちは警戒しているようだが、レーヴェが華苑から得た情報と、斥候から受けた情報から、董卓の軍にはもうまともな将は僅かしか残っておらず、元々洛陽には何の未練もないようなので元いたところに戻ろうとしているのだろうと思っていたし、自身が仕掛けた策というほどのものではないのだが、それが一応は成功したのかもしれないと思っていた。そしてしばらくして袁紹からレーヴェたちに先行するようにとの命令が下った。レーヴェはその命令に誰にも見えないように、薄く笑みを浮かべていた。そう、予定通りというような…。
少し前……
「月、虎牢関が落ちた!」
一人の少女が、儚い感じのする少女に向かって焦った声をかけた。月、と呼ばれた少女は沈痛な顔で口を開いた。
「恋さんや霞さん、華苑さんは?」
「二人は戦場を離脱、華苑は…行方不明だそうよ」
「そう」
「連合軍を甘く見ていたのはボクの責任。月、洛陽を捨てよう。それで涼州に戻って再起を図ろう?」
最初に月と呼んだ少女が真剣な顔で月を見据えた。だが、月は戦いを望んでいないらしく沈んだ顔で口を開いた。
「詠ちゃん、そこまでして戦わないといけないの?」
「戦いを仕掛けてきたのは連合でボクたちは降りかかる火の粉を払っただけ!でも洛陽を捨てても諸侯は月を狙って涼州までやってくる。生贄を捧げないとこの争いは止められないから。でも、絶対に月を死なせはしないし、涼州にも絶対に連れて帰るから!もう少しだけ…ボクの指示に従って」
「うん…頼りにしてる」
そのとき、二人に向かって声がかけられた。なんの前触れもなく。
「董卓様と、賈駆様とお見受けします」
気づけば、口元を黒い布で隠した、黒髪、黒ずくめの少年が二人の前に頭を垂れて跪いていた。
「私の名は影。我が主よりお二人の身柄の安全を確保するようにとの命を受け、参上いたしました。詳しい話しは人の目と耳のないところでお話ししたいのですが」
そう言って少年は澄んだ瞳で二人を見つめた。
「何事もなく…来ちゃったね」
「そう…ですね」
「読めないですね…。相手の手の内が」
レーヴェはそんな桃香たちをしり目に、街に向かって歩みを進めた。
「敵の気配はない。このまま洛陽に入り、住民の慰撫を行う。兵には住民に決して危害を加えないように言っておいてくれ。もし破ったのなら、オレがその首を刎ねる、とも。あとは朱里たちのいいようにしてくれ。オレが口を出すよりもその方がいいだろう」
「ぎ、御意です」
レーヴェの言葉に朱里と雛里は頷くと兵たちに指示を出し、洛陽へと入城した。
「ご主人様、いったいどちらへ?」
「董卓のところへ」
「はい?」
洛陽に入るなり、愛紗と鈴々、華苑と桃香を連れてレーヴェは街のはずれ、といっても中心部にまだ近い場所へ足を運んでいた。辺りは質素な建物が多く、栄えてもいないが、寂れているわけでもないというような場所だった。レーヴェはその中でも一回りほど大きい建物の扉へと手をかけた。
「…このようなところまでご足労願い申し訳ありません、レーヴェ様」
「いや、お前こそよくやってくれた」
中に入ると、愛紗たちも知っている黒髪の少年と、数人の兵に囲まれた二人の少女がいた。
「影?どうしてお前がここにいる?」
華苑が少年の姿を見て首を傾げた。
「オレが董卓の安全を確保するように頼んだんだ。虎牢関を突破する前にな。それで、君が董卓か?」
レーヴェは華苑の疑問に答えると董卓と思しき人物へと視線を向けた。
「…はい、私が董卓です。あなたがレオンハルトさんですね。一つ聞かせてください。どうして私たちを助けてくれるのですか?」
「一つは桃香たちが助けたいと言ったから。一つは華苑と約束したから。そして最後に…君たちのことを他人事だとは思えなかった。それが最大の理由だ」
他人事とは思えなかった、その言葉に愛紗や桃香たちも首を傾げた。その場にいる者にはどこが他人事には思えなかったのかが分からなかったからだ。
「どういうことよ。そこが気になったからついては来たけど…もし月をどうにかしようとするのならボクがさせないわ」
眼鏡をかけた少女が董卓を庇うように前に出てレーヴェを睨みつけた。レーヴェはその体が僅かに震えているのに気付くと、僅かに表情を緩める。
「まずは場所を移そう。影に人があまり来なさそうな場所を選んで隠れさせたとはいえ、連合軍が到着しつつある今はここも危険だ。まずはオレたちの陣地に来てほしい」
「…わかったわ。でも納得のいく話をしてもらうわ」
レーヴェの言葉に賈駆だろうとレーヴェが見当をつけた少女は渋々と頷いた。
そして陣地に戻ったレーヴェは、朱里たちも呼び寄せたうえで人払いをした陣地に集まっていた。周りの警護はレーヴェの隊が行っていた。
「では…話をしようか。なぜ、オレが他人事とは思えなかったのか」
レーヴェは、虎牢関を抜けてから決心をつけていた、自分の身の上に降りかかったことを話そうと口を開いた。全員を集めたのは自分を信じてついて来てくれたのだから話すのが当然だという判断だった。
「ここにいる劉備たちは知っているが、オレは元々この世界の人間ではない。こことは別の世界を生きた人間だ。ここは今はどうでもいいといえばどうでもいいが。…オレはその世界のエレボニアという国の辺境、リベールという国との国境沿いにあったハーメルという村で暮らしていた。特に何もない村だったが、オレは恋人と、その弟と、そして村の人たちと平和に暮らしていた。そう、剣の鍛錬をしたり、弟分、いや弟をからかったりとな」
レーヴェはそこで一度話を切って辺りを見回した。恋人、という辺りで愛紗たちが一瞬顔を曇らせたが、それ以外はレーヴェの過去話を楽しんでいるようだった。今のところは、だが。
「だが、そんな平和は突然崩れ去った。リベールの装備を持った兵士たちが攻めてきたことによって」
リベールの兵士が、ではなく、リベールの装備を持った、といったことの意味に一体どれだけの人間が気づいただろうか。怪訝な顔をしているのは朱里、雛里、そして賈駆の三人だけだった。
「兵士たちは村を焼き、男、子供は殺し、女は辱めてから同様に殺した。オレはそのとき村を離れていて、急いで村に戻ってきたときにはもう全てが終わりかけていた。せめて恋人と弟だけでも助けようと敵を斬って、斬ってたどり着いたそこには、喉に穴を空けて息絶えている男と、恐らくその男につけられたのだろう刀傷をその背中に無数に付けた恋人、そしてその姉に抱きかかえられて守られていた、男の命を奪ったのであろう、武器を握りしめて震える弟の姿があった。オレは呆然とした。だが、すぐに彼女を抱きかかえて容体を見た。…だが、頭の片隅で理解していた通り、手遅れだった。そして彼女は弟に自身の宝物だった楽器を渡し、そしてオレに弟を頼むと言い残して息を引き取った」
その時点で桃香や朱里、雛里などは泣いていて、他の者も沈痛な面持ちで地面を見つめていた。だが、戦争ならそれも仕方のないことだ、と彼女たちも分かっているだろう。そう、レーヴェも許せはしないがそう思っていた。あのときは。
「そしてエレボニアとリベールは戦争に突入した。だが、オレはしばらくしてとある事実を知った。オレたちの村を襲ったのはリベールの兵ではなかったのだと」
その言葉に、え、という声を漏らしたのは誰なのか、一人なのか全員なのかそれはどうでもいいことだった。
「オレたちの村を襲ったのは、エレボニア内部でリベール侵攻を望んでいた者たちが傭兵を雇って起こした自作自演の侵略行為だった。そう、オレたちの村を襲撃したのは、襲撃させたのは同じエレボニアの人間だった。そして国はこの事件の真相を闇に葬り去ることを条件に停戦した。そしてハーメルは地図から消え、その名を知る者もほとんどいなくなった」
レーヴェの言葉に桃香たちは呆然としていた。桃香たちにとって民というのは上に立つものが守るのが当然である。だが、レーヴェの話は、民を守るべき、恐らく上の人間が私利私欲のために自国の民を犠牲にして戦争を始めたと言っている。そして国はその事実を隠したのだと。そこで桃香はようやくレーヴェの瞳の中にある寂寥感のようなものの原因がこれなのだということを理解した。
「君たちも経緯や詳細こそは違うが、私利私欲に走った人間のせいで多くを失った。そんな君たちが、オレは他人事とは思えなかった」
以前ならそんなことは考えなかっただろうが。という言葉をレーヴェは心の中で握り潰す。
「…わかりました。あなたの申し出、ありがたく受けさせて頂きます。しかし一つだけ聞かせてください。私を助けてあなたたちに何の得があるのですか?」
「ただの自己満足だ」
「そうですか…わかりました。信用します」
「…それでこのあとどうするつもり?」
賈駆が威圧するように言っているが、その瞳は揺れていて全くの意味がなかった。
「まず、二人はオレたちに討ち取られたということにさせてもらう。そして二人には悪いが…董卓と賈駆。その二つの名は捨ててもらう。二人の容姿は華苑がいるからオレたちは知ることができたが他はほとんど知らないだろう。だが、二人の名前は有名になりすぎた」
「しかし、名とはその人と為りを示すもの。簡単に捨てられるかどうか」
レーヴェの言葉に星が口を挟んでくる。だが、董卓はふるふると首を振った。
「…捨てます。少し悲しいけれど、それで周囲の人に迷惑をかけないで済むのなら」
だが、その董卓の言葉に賈駆が異論を唱えた。
「別に捨てる必要なんてない。ボクと月の真名をあなたに預ける。そうすれば名を捨てる必要なんてなくなるでしょう?」
「いいのか?」
「ボク一人なら嫌だけど、月の命がかかっているのなら我慢するそれにあなたなら別に預けてもいいとは思うし。…月はどう?」
「うん、私もこの人なら大丈夫だと思う。それにあなたに会ったのも天命だと思うから」
「天命?ご主人様に会ったのが?」
ようやくショックから立ち直ったのか桃香がホケッとした顔で口を開いた。董卓はそれに控え目に頷いた。
「天命でも何でもいいけど、早くしないとあの袁紹がきちゃうのだ」
「そうですね。私の真名は月といいます」
「ボクは詠。ボクのことはどうでもいいけど、月のことだけは守ってほしい」
「二人は必ず守ろう」
「と口説き文句のようなことを言っても全く厭らしく聞こえたりしないこの男性が我らの主であり、最近巷で噂の天下無双の天の御使い、『剣帝』ことレオンハルト様だ」
「…星、お前な。…オレのことはレーヴェでいい」
レーヴェに変わってレーヴェのことを紹介した星にレーヴェは呆れた視線を向かる。だが、星は全く気にした様子はなかった。
「そして私が劉玄徳。真名は桃香!よろしくね」
「我が名は趙子龍。真名は星」
「鈴々は張翼徳!真名は鈴々なのだ!」
「我が名は関雲長。真名は愛紗だ」
「私は諸葛孔明れしゅ!真名は朱里でしゅ!あう、噛んじゃった」
「わ、私はほ、鳳統でしゅ!真名は雛里れしゅ!あうう」
「私はさきほど申した通り影と申します。名はこれだけなので無礼をお許しください」
「これで全員だね。それじゃ、二人はとりあえずご主人様付きの侍女になってもらおう。将として扱うわけにも捕虜として扱うにしてもばれる危険があるからね」
全員の自己紹介が終わると同時に口を開いた桃香にレーヴェは何言ってるんだこいつというような視線を向けた。
「確かに主の横に侍っている侍女ならば注意も向きにくいですな」
「…私が侍女」
詠はなにやらショックを受けているようでぶつぶつと呟いているが、月のほうはなにやら期待しているような顔だった。そのとき、指揮を任せていたレーヴェの隊の隊長格の一人が焦った様子で駆けこんできた。
「レーヴェ様!連合軍の兵士が入城を始めたのですが、袁紹軍と袁術軍の兵士が半ば暴走を始めております!」
「…分かった。今行こう」
「最初から最後まで厄介なやつらだ」
レーヴェはその報告に殺意を抑える事が出来ずに微かに闘気が立ち上る。愛紗たちなどは完全に呆れていた。その後、レーヴェが直接袁紹と袁術の元へと赴き、半ば脅しも含めて説得し、なんとか事なきを得た。そして、全てが終わるとレーヴェたちは兵を引き上げ、平原へと戻っていった。
新年初投降…短かったと反省中です。あと強引過ぎたかな、と。
ところでオリキャラが出てきたので紹介を…
名前 影
性別 男
年齢 16歳…くらい
経歴
物心ついた時にはすでに一人で、小さな村の片隅でひっそりと暮らしていた。親もなく、自身の名も知らないのでさまざまな偽名を使っていた。黄巾党の襲撃にあった際、レーヴェに命を救われ、彼に憧れて義勇軍に入り、身の軽さがレーヴェの目にとまり、隠密の訓練を受けることになり、若さゆえの吸収の早さか、才能があったのか、そう時間もかからずに一端の隠密になった。(レーヴェはヨシュアを目標に育てたようだったが)訓練を受ける際、レーヴェから、あって当然のもの、いつでもその身にあるということと、隠密ということから影という名を授かった。
こんな感じです。
説明 | ||
あけましておめでとございます。へたれ雷電です。 正月早々風邪をひいておりました。 現在は治っておりますが、正月早々風邪は色々ときつかったです。 新年最初の投稿ですが、普通なら今回はヨシュア編のはずですがレーヴェ編です。 |
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コメント | ||
Nyao様>大変でした。誤字報告ありがとうございます(へたれ雷電) 自由人様>メイド服はもちろんです。レーヴェの趣味ではないですが。誤字報告ありがとうございます(へたれ雷電) 森番長様>かなりつらかったです(へたれ雷電) あけましておめでとうです♪ 新年早々風邪とは大変でしたね・・・。後、3p:敬語 → 警護? 違っていたらごめんなさぃ。 (Nyao) 明けましておめでとうございます。正月早々お疲れ様でした。 袁紹と袁術の馬鹿さ加減が際立ってますねw過去を打ち明け、より一層の進展をみせるレーヴェ一行。月と詠はやっぱりメイド服を着るのか!? 御報告 2p:私がさせないわ」/ボク 3p:周りの敬語は/警護 ではないでしょうか?(自由人) あけおめです!待ってましたよ^^正月早々風邪は辛いですよねw(森番長) |
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