『絶対』の外にある『奇跡』
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 ――世界は何時でも私を蝕む――

 そんな事を考え始めたのは、一体何時からだっただろうか?或いは最初から?そんな事を考えて、ベットから起き上がると、私は小さく舌打ちする。所々穴の開いた壁、ビリビリに破かれたカーテン、足の折れた椅子に天井に張り巡らされた蜘蛛の巣……口にするのもおぞましい様な廃墟から、私の一日は始まる。

 

 「……嫌い、大嫌いッ!どうして私の周りはこんなに醜いのよ!?どうして私の周りはこんなに脆いのよ!?」

 

 声を張り上げ、椅子を蹴り倒して暴れても、その質問に答えてくれる声は無い。当たり前だ、この家には私しか居ない……いや、例え他に誰か居たとしても、私と関わりたくないだろう。もし下手な事を言って、私の機嫌を損ねたら殺されかねないから……

 だから私は何時でも一人だ。誰も助けてくれないし、誰も見てくれない。どうしてこんな世界があるんだろう?どうして私は産まれて来たんだろう?どうして……

 

 「――子供ね」

 

 不意に聞こえて来た声に耳を疑う。今の私に向けて放たれた声?

 私の事など気にも留めずに、その声は続ける。

 

 「自分の事だけ棚に上げて、周りを呪う事しか出来ない。表面上でしか物事を計れず、美しいものを見る努力もしない。聞いていた話と随分違うわね、がっかりだわ」

 

 何の感情も込められていない冷たい声音……それなのに、胸が抉られる様な痛みを感じる。

 暫く沈黙が続いた後、コツコツという足音と共に一人の少女が私の前に現れる。

 長い黒髪に猫の様な細い尻尾……そしてガラス玉の様に澄んだ瞳に私は釘付けになった。

 綺麗……その言葉が頭の中を駆け巡る。この娘の眼は綺麗、私が今まで見てきた物とは大違い。

 

 「そんなに私の眼が気に入ったかしら?この世で一番愚かな魔女」

 

 「なっ!?……アンタ、何様のつもりよ!?」

 

 相手の言葉に、眼を細めて睨みつける。愚か?この私が?こいつは何を言ってるの?

 私は愚かなんかじゃない。魔女も悪魔も私を恐れて逃げ惑うし、人間は私を崇める。私はこの世で、最も気高く崇高な存在なのよ。

 しかし、眼前の魔女は変わらぬ無表情のまま溜息を吐くと、口を開く。

 

 「誰も近づいてくれないから、別の評価を求める。そしてその評価を守ろうと、自分を偽るから理解しながら自分を傷付ける……これを愚かと言わず、何て言えばいいのかしら?」

 

 その時、目の色が変わった。先程までの興味の無い様な色から、まるで汚物でも見ているかの様な冷たい色へと変化して、私を見下している。

 どうして反論できない?ここまで侮辱されているのに、どうして私は拳を握り締める事しかできない?そうだ、殺せば良い。私を馬鹿にしたこいつを殺せばいいんだ!何だ、簡単じゃないか……

 私は馬鹿だ。解かってる、反論できないのは相手の言葉を認めているからだ。私は誰一人近づいてくれないから、皆が私を恐れてくれている事で満足していた。恐れているから誰も近づかない。私が一人なのは、私が強いからだ……そうやって自分を慰めていた。

 

 「……ならどうしろって言うのよぉ?嫌われて、嫌われて嫌われて……他にどんな生き方をすれば良かったのよ!?」

 

 そう、私は嫌われていたから、嫌われても辛くない理由を作った。それが正しかったなんて思っていない……だけど私にはそれしか方法が無かった。私を守ってくれる人なんて居なかったから……そう叫んで俯いていると、頭を撫でる感触がした。

 

 「確かに今までは、それしかなかったかも知れない。けれど今は違うわ……私が傍に居てあげる。私が貴女を守ってあげる。だから……貴女は私の傍に居て、私を守って頂戴」

 

 「……本当に?本当に私と一緒に居てくれるの?」

 

 「ええ、嘘は嫌いだもの。私は『奇跡の魔女』フレデリカ=ベルンカステル、ベルンで良いわ。貴女は?」

 

 「私は……『絶対の魔女』ラムダデルタ……ラムダで良いわぁ……」

 

 そうして、顔を上げた私の目の前にあったのは、この世で最も美しい笑顔だった。

説明
これは昔の話。
『最強の魔女』と、『最弱の魔女』の出会い。
彼女達が出会ったのは偶然か必然か……後に長きにわたる航海を共にする二人の『始めの欠片』
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うみねこのなく頃に ラムダデルタ ベルンカステル 

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