竹取異譚 第3話
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その時がきた。かぐや姫は強い目をしている。やがて来るべき別れに自らの感情を混じらないように。

「実は私は月の世界の人間なのです。いつかは帰らなければいけない人間なのです」

女独特の感から何か嘘をついてるな、と媼は思った、が、真実がなんなのかが今いちわからない。

月にひとなんているのか、いるとしてどうやって空から降りてくるのか、思考ができなかった。

そういうときは、問わない、そういう単純で明快な媼の思考が、勘ぐりの誘惑を断ち切った。

一方、翁の方は、異界の人間という言葉に、「なぜ竹の中に子供がいたのか」の疑問が解けた気がした。

しかし、なぜそんなところにいたのかという疑問が、新たに沸いてきた。

 

「もしかして、なよ竹、お前は天女様なのかえ?」

媼は質問した。様々な疑問を解消できるのがこれしなかったからだ。

「いいえ、厳密に言うと、天女とも違います。月という世界からやって来た、悲しいことにこれ以上の言葉が思いつきません」

「なぜ、竹の中にいたのかえ?」

「これも、あなた方には理解できないのです。ただ、育ててくれた事に感謝しています…」

少し泣きそうになりながら彼女は続けた」

「なぜなら竹の中に封印された…ううん…いや、あなたたちを待ってたのでしょう…このまま…いや…これ以上は次の満月の時に。全てが分かると思います…だから、誰にも言わず、二人だけで見送って下さい」

 

しかし、無情なことに帝の間者が聞き耳を立ててたため、かぐや姫が帰るその日、軍勢の群が小さな家に結集することになった。

最後までなよ竹、いやかぐや姫に執着していた時の帝が、月の物と打ち合うと我が儘を言い、自らの兵を小さな翁の屋敷に集めてその時を待っていたのである。

 

 

月が最も美しい、八月の名月。月が一番近く見えると評判の月。

 

翁はできるなら彼女と最後まで付き合いたい、と止める気でいた。

媼は彼女の真実に付き合おうと思い、ずっと彼女のそばに付き添っていた。

彼女の表情はうつむいているために分からない。

 

天頂に月が上がってきた。星は月の光に負けて光を失っている。

地上にある、うつろな焚火など、月の輝かしい光に溶かされていく。

すると空から牛車、いや光り輝く牛車のようなものが降りようとしていた。

「ものども戦の時じゃ!」

帝は兵達に対し命令した、がとたん全く兵達の肉体が動かなくなった。

どの部隊もまるで石のように動かなくなったのである。

時が止まった、この中で最も強い武者ですらそう思うのが精一杯だった。

 

やがて牛車の周りの人々も認識できるようになった。

その人々はまるで唐人のようにも、高麗人にも、帝のみがかろうじて知っている古の装束のようにも見える。

ただ認識できるのはゆったりした袴らしきものと、きりっとしまった帯、そして首の装飾物と、揺らめく衣。

 

「かぐや姫様、貴女を……ではなくて月からお迎えに参りました」

との脳に直接響く言葉とともに。しかし「……」の言葉は地上の者達は理解できなかった。

やがてその牛車は見えない坂道を降りて地上にやってきた。

そして、翁達、いやもっと上品な帝のような高貴な人々が牛車から降りてきた。

彼は他の人々と違い水のように反響する鏡を胸に付けている。その鏡に月の光が反響することで、ただでさえ幻も現も区別できない風景をさらに幻の世界へ持って行っていった。

 

 

その異様さは、光と影で輪郭が明らかになっている帝達地上の人間にはあり得ない純粋な光を伴っていた。

空気よりも透明で、光よりも輝いて、水よりもなめらかに、風よりも速く。

存在があるようで、ない、そんな亡霊にも思えた。が敵意は全く見られない。

そして、ふと思ったのだ、彼女も同類の人種だったと。

 

彼女も、また影を感じない、神々しさがある。

彼女と同じ感覚を覚えていたのを思い出したのである。

 

そして、二人の行者がかぐや姫を迎えにきた。

「おかえりなさい、かぐや姫様」

「…ありがとう、お疲れ様」

虚ろな表情にも無表情にも見える彼女を、丁重に連れて行く。

すると、ある激情が月の民達をかすめた。

「やめろやめろやめろ!!!!!!かぐやを連れて行くな!」

帝はそう叫びたかった、が肉体は頭の支配下になく、叫んだつもりが1寸たりとも動いてない、言葉になっていない事にすぐに気づいた。

なぜなら、彼の思いに丁寧な応対をするはずの彼女が答えなかったからと感じることがかろうじてできたからである。

このときほど、自分の無力さを感じたことはない、それくらい屈辱の感情であった。

仮にも帝、自分に思い通りにならないことがあるのは知っている。が、それでも、手元に愛するかぐや姫を置いておけない男としての情けなさが更に屈辱の螺旋を加速させた。

 

そういってる間にもかぐや姫の気配はどんどん遠ざかり、希薄になっていく。

翁と媼夫婦は動かぬ体で必死に彼女の気配を感じ、訴えようとした。

せめて「さよなら、月でも達者でな」と、別れの言葉を、せめてこの口でと願った。

その二人を見て、かぐや姫は何かを思い出した。

思い出したとしか形容のしようがない、記憶のような物が。

家族。ただし、その詳細は彼女にもわからない。

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しかし、無情にも彼女の気配は光の中に消えてしまい、その光はついには月と解けあって同化し、月に消えていった。

…というのが、月の世界を信じた地上の者達の物語。

 

しかし、実は彼女の住む世界は月ではない。

たまたま、天と地という想像の基盤と、日の本の神話の神子月読の一節から、舞台を作り上げただけである。

遙か西、唐国の更に、いや天竺も超える、桃源郷の領域。

別の西の世界ではエデンとも言われる賢者の住まう東方でもある。

その世界の住人は、星を超え、海を割り、空を飛ぶ。

多分、この物語の読み手なら、間違いなく言うであろう、神の住まう世界と。

 

そして、異界への扉、時と空間を超える扉を開いた。

かぐや姫一団を通そうとしたとき、扉を守る守り人がかぐや姫の首を槍で掠め、破戒締めにした。

そして、翁夫婦や帝の前では紳士であった、「月人の使い」が細い目をうっすらと開けながら、

「やっと、取り戻しましたよ、かぐや様、いや、始まりの楽園の堕落者、アダムといっていいのかね」

少しの冷や汗をかきながら、身動きとれないかぐや姫は呟くように、

「…イブやリリスとは呼ばないのね。私これでも、妙齢の乙女よ」

「何を戯れ事をいってるのですか。かぐや様。貴方が「彼女」を探すために黄泉の牢獄を抜け出したことに、妃様は心を痛めておられます。私達の心痛も察して下さい」

「……リリスの民ってことか、今の楽園は」

 

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ちとキャラシートが間に合ってないので暫定版。
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