真・プリキュアオールスターズ 五章 |
フュージョンの力によって闇に呑まれたみなとみらいを中心とした一帯は暗雲に包まれ、死のような静寂が支配する空間となっていた。
人の気配が完全に消えた街にみなとみらいに向かっていたのぞみ達は足を踏み入れ、その惨状に驚愕し、その場に立ち尽くす。
「街が……」
人一人、いや生命の息吹すら完全に途絶えたかのごとく死に絶えたと錯覚するその光景に息を呑み、唖然となるも、怯みそうになる意思を奮い立たせる。
「急がなきゃ!」
のぞみの言葉に6人が頷き、決然と駆け出そうとした瞬間、突如地響きが起こり、振動が身体を揺さぶる。
身構えるのぞみ達の前に、大地を突き破り、無数の影が姿を現わした。
『ザケンナー!』
『ウザイナ〜!』
『コワイナ〜!』
『ホシイナー!』
彼女達がかつて倒した『ナイトメア』のコワイナー、『エターナル』のホシイナー。そして、彼女達が知らない『ドツクゾーン』のザケンナー、『ダークフォール』のウザイナーが無数に出現し、立ち塞がる。
獰猛な咆哮を上げ、岩石ホシイナーがその強靭な岩で構成された豪腕を振り被る。真っ直ぐに振り下ろされるその一撃を逃げようともしない。だが、のぞみ達は決して屈しない闘志を胸に睨みつけていた。
そんなのぞみ達に向かって振り下ろされる一撃が叩きつけられ、噴煙を巻き上げる。それを見ていたのならば、誰もが彼女達の終わりを思うだろう。だが、振り下ろしたまま固まる岩石ホシイナーの拳の下から眩いばかりの光が放たれ、それが腕の岩に亀裂を走らせる。
次の瞬間、抑えつけていた腕の岩が粉々に吹き飛び、煌く光が周囲に拡がり、その中からプリキュアへと変身したドリーム達が飛び出してくる。
7人全員が不屈の意思を胸に飛び出し、立ち塞がる軍団へと飛び掛かっていく。
ドリームに向かって砂砂利ザケンナーが拳を突き出すも、ドリームはその軌道を逸らし、逆に腕を叩きつけて相手の動きを乱す。だが、ザケンナーはそれに怯まずにもう片方の腕を振り上げ、鋭く突き下ろす。
「はぁぁぁ、たぁっ」
ドリームはそれを連打で受け止め、逆に弾く。後ろのめりになった砂砂利ザケンナーにダークドリームが突撃する。
「えええぃぃっ」
渾身の力を込めた一撃の蹴りが相手のボディに決まり、そのまま大地に叩きつけられ、飛び上がったドリームと手を繋ぎ、二人は頷き、再度急降下する。
「「たぁぁっ!」」
ドリームとダークドリームの拳が決まり、砂砂利ザケンナーは断末魔の声を上げ、消滅する。
だが、一体倒したところで喜ぶ暇もない。次々に現われる敵の攻撃を掻い潜り、二人は互いの足を合わせて蹴り、左右に跳ぶ。そして、相手の懐に飛び込み、連打で怯ませていく。
レモネードは空中に舞い上がり、光を纏い、両手に輝くチェーンを展開させ、己の身に纏うように眼下の帆柱ホシイナーに急降下する。
「やぁぁぁっ」
両手で操るチェーンがホシイナーの紐を弾き、相手の身体を空け、そこへ蹴り込み、怯む相手の頭部目掛けてチェーンを薙ぎ払い、仮面が衝撃に割れ、帆柱ホシイナーが煙を噴き上げて消滅する。
「たぁぁっ」
充満する煙のなかから飛び出したミントが回し蹴りで立ち往生していた作業工具ウザイナーの脚部を弾き飛ばし、大きく後退する。
「はぁぁぁっ」
そこへ間髪入れず急降下してきたアクアの蹴りが頭部を穿ち、作業工具ウザイナーは大きくよろめく。
倒れ伏す後から現われる敵の攻撃が轟き、その中を駆け抜けるルージュが掻い潜り、大きく跳躍する。空中で身を回転させ、周囲に炎の球を生み出す。
「たぁぁぁっ!」
華麗に空中で舞い、蹴り飛ばす炎の球が真っ直ぐに飛び、相手に着弾し、爆発がその姿を消滅させていく。
混戦する戦いのなか、ルルンをガードしていたローズは敵と距離を取ろうとするも、その先に回り込んだ信号機ザケンナーに表情を強張らせ、身構える。
信号のライトの眼が哂い、信号機ザケンナーが拳を握り締める。
「ザケンナ〜!」
次の瞬間、腕が伸び、その速さにローズは咄嗟にルルンを庇う。だが、後方から飛び出したドリームが拳を叩き落す。
「プリキュア…シューティングスター!」
同時に光を纏い、光速のごとき光の矢となったドリームの一撃が相手の身体に突き刺さり、信号機ザケンナーは消滅する。
煙のなかから飛び出したドリームはローズの傍に着地し、気遣う。
「大丈夫!?」
「ええ!」
そこへ仲間達も合流するも、煙の晴れた後から次々と沸くように押し寄せてくるザケンナー、ウザイナー、コワイナー、ホシイナーの大群。大地の下から、ビルの隙間から、空から…瞬く間に無数の数に取り囲まれるも、プリキュア達は決して臆しない。
「いくよ、皆!」
「「「「「「Yers!!」」」」」」
ドリームに続くようにプリキュア達は一斉に取り囲むなかへと飛び込んでいく。決して折れることのない不屈の心を胸に―――
分散し、相手を翻弄しながら引き剥がし、それぞれの後を追う。
石ころウザイナーがそのノロっとした図体を活かした豪腕を振り下ろし、建物を破壊する。その降り注ぐ瓦礫をよけながら跳ぶドリームが歩道橋の上に立ち、顔を上げた瞬間、もう片方の腕を振り被る。だが、そこへダークドリームが横殴りに肘打ちを身体へと叩き込み、岩肌が砕け、よろめく。
ダークドリームが頷き、それに応じてドリームが跳躍し、空中で身体を回転させ、遠心力をつけて急降下し、蹴りを打ち入れた。
岩塊の身体を大きく穿ち、石ころウザイナーが粉々に砕け散る。
その軽躯をいかし、飛び跳ねるように動くレモネードを追い、ミミズザケンナーがその軟体でビルの隙間を縫い、追い縋る。それを背中越しに見やり、なんとか引き離そうとするも、相手はまったくスピードを落とさない。
道路に降りたレモネードの前でビルの隙間からぬっと顔を出すミミズザケンナーがねっとりとした叫びを上げ、思わず辟易する。
「ミミズはちょっと苦手です…」
顔を苦笑気味に顰めながらも、レモネードが飛び出し、空中に舞う。両腕にチェーンを展開し、飛び込んでいく。
その傍らで、ルージュはお化け傘ホシイナーに追いかけられていた。
一本足で飛び跳ねながら追ってくる姿にお化けを苦手とするルージュは悲鳴に呻く。
「だから、お化けは嫌いって言ってるしょ〜!」
以前も同じホシイナーに追いかけられただけに、叫び上げながら跳躍し、空中で無我夢中にファイヤーストライクを打ち放った。
4人とは別方向へと敵を誘導していたローズはルルンを抱えているため、積極的に攻撃できず、相手を翻弄しながら後退していた。だが、その後を追い、後方へと跳んだローズの前に巨大な脚が大地を穿ち、沈む。
「くっ…!」
歯噛みしながら見据える先には、巨大な体躯を誇る恐竜ザケンナーが立ち塞がっていた。隣接するビルと比較しても一目瞭然なその巨大重量と威圧感を放ちながら佇む恐竜ザケンナーが獰猛な咆哮を漏らす。
だが、注意がローズに向いていたため、左右からミントとアクアが挟撃し、急降下する。
「「たぁぁっ!!」」
二人の蹴りが身体に大きく喰い込み、その痛みに悶絶するも、最後の力を振り絞り、その口からブレスを吐き出す。
鋭く吐かれたその突風にローズの許に降り立ったミントとアクアは避け切れず、3人は吹き飛ばされる。
「「「きゃぁぁぁぁっっ!」」」
悲鳴を上げ、吹き飛ぶ光景に合流したドリーム達が気づき、そちらに注意を取られた瞬間、ドリーム達も放たれた衝撃波に吹き飛ばされた。
「「「「きゃぁぁぁぁっっ!!」」」」
それぞれ反対方向に吹き飛ぶなか、ドリームは苦悶気に叫ぶ。
「ローズ! アクア! ミント!」
だが、空中で止まることはできず、ダークドリーム、ルージュ、レモネードと共に反対方向へと吹き飛ぶドリームにローズが叫び返す。
「皆! あの黒い雲を目指すのよ!」
それが聞こえたかは解からない。だが、今の彼女達には前進するしかない。ミント、アクア、ローズの3人はビルを足場に体勢を整え、なんとか合流する。
足を着くと同時に横殴りに道路を流れる水流にさらわれ、押し流される。なんとかその流れから抜け出し、離れて見上げた先には、水道ウザイナーがユラリと佇んでいた。
『ウザイナ〜』
低く声を呻くように発しながら、両手のホースを突きつけ、その穴から鋭く放たれる水流がアクアを襲う。
「はぁっ!」
アクアは紙一重でかわし、大きく跳躍して立ち向かっていく。
「でやぁぁっ!」
渾身の一撃とばかりに振り払った蹴りが頭部の蛇口を緩め、栓が外れた水道ウザイナーは全身から水を噴き出させ、その勢いに吹き飛ばされていった。
「やった!」
声を弾ませるミントとローズの許に降り、周囲の敵の気配が消えたことに一瞬安堵する。
「ルル、ポルンが近くにいるルル!」
不意にルルンがそう呟き、それに気を取られる。水道ウザイナーから降り注ぐ水滴が僅かに周囲の音を遮断させ、それが止んだと同時に彼女達の耳の奥に鈍く響く音が木霊した。
「え、何?」
「…何、何の音?」
耳の奥に聞こえる音は何かが動く音―――それもかなり大きなものだ。刺激するような轟音がゆっくりと…しかし確実に近づいてきている。
その音の正体に思い至り、嫌な汗が頬をつたう。
「これって、まさか……」
恐る恐ると振り返ったローズが空を見上げた瞬間、眼が大きく見開かれた。
「うわぁっ!」
その声に反応して見上げたミントとアクアも同じく驚愕に眼を見開き、慌てて身を翻す。
逃げる彼女達の遥か後方の空の彼方から、真っ直ぐに近づく影…それは徐々に輪郭を帯び、そしてその巨体を浮き彫りにしてくる。
そして、気づいた瞬間には既にビルのほぼ真上にまで迫ったその姿は、巨大なジャンボ飛行機の姿を写し取ったザケンナーだった。
『ザケンナ〜〜!』
機首に掘り込まれた凶悪な人相から地響きを起こすかのような咆哮が木霊し、ガラスを振動させる。相手はそのまま押し潰さんと地上へと迫った瞬間、突如その身体を大きく折り曲げられた。
激しい衝撃が拡散し、その強烈な一撃を腹部に喰らったかのごとく、身体を折り曲げさせ、顔を驚愕と苦悶に歪めるザケンナーの姿に逃げていた3人は思わず振り返る。
そして、その視界にジャンボ飛行機ザケンナーの腹の真下の光景が飛び込んでくる。痙攣させたその腹に渾身の蹴りを打ち込む黒と白の少女達―――キュアブラックとキュアホワイトの二人の姿があった。
二人の強力な蹴りにその姿が消失し、その光景にローズ達は表情を弾ませる。
「あれって、もしかして…!」
「きっとそうよ!」
それは確信に近かった。彼女達が、自分達と同じプリキュアであると―――やがて、ブラックとホワイトの二人が眼前に降り立ち、彼女達は初めて邂逅する。
ほんの僅かな視線の交錯…それだけで、彼女達は相手を理解したかのように微笑み合い、ブラックとホワイトも表情を嬉しそうに和らげる。
「皆、大丈夫?」
ブラックが気遣うように声を掛けた瞬間…背後から悲鳴が響いた。
「「ルミナス!?」」
聞き慣れた悲鳴に振り返った瞬間、必死に走るルミナスの背後には降り注ぐミサイルの嵐――それが絶え間なく落ち、爆発を起こす。
ムープとフープを抱えながらこちらへと逃げるルミナスの背後から迫る怪鳥を模した屋外照明ザケンナーの腹部のライト球が一斉に放たれ、煙を噴きながら降り注ぐ。
それに慌てて彼女達は一斉に逃げ出す。
「ありえな〜い〜!」
ついいつもの口癖を口走りながら逃げるブラックとホワイト、ルミナス。爆発が木霊し、その後を猛スピードで飛び、追随してくる。
ミントやアクア達も思わず走っていたが、そこへ追いついたブラックとホワイトはその表情を必死にさせて走り、並走する。その姿にミントは微かに息を乱しながらも話し掛ける。
「助けてくれてありがとう、貴方達もプリキュアなのね!?」
「「うん!」」
こんな状況だというのに、会話を交わす彼女達の顔はとても明るい。それだけ、今まで知らなかったプリキュアの仲間との出逢いは嬉しい。
「貴方達こそ、ルルンを護ってくれてありがとう!」
「どういたしまして!」
ただ、ゆっくりと話せない状況ではあるが…そんなことを気にも留めないほど、彼女達の会話は走りながら弾んでいる。
「あたし、キュアブラック! よろしく!」
「私はキュアホワイトです!」
「私はミント、キュアミントよ!」
「私はキュアアクア、よろしく!」
「私はミルキィローズ…それにしても、プリキュアがこんなにいるなんて頼もしいわね!」
やや遅れて走るルミナスに振り返りながら笑い掛けると、ルミナスも息を乱しながら頷く。
「はい、私はルミナスです! はぁ、あ、前から何かきます!」
不意に向けた前方に猛スピードで突進してくるダンベルコワイナーが現われる。ダンベルを車輪代わりに迫るダンベルコワイナーにブラックとホワイトの二人が一気に駆け出し、その車輪となっている部位にカウンターでキックを打ち込み、その衝撃に大きく吹き飛び、後ずさる。
そして、動きを止めた一行のなか、ミントが両腕を掲げる。
「プリキュアエメラルドソーサー!」
掌から拡がる緑の光が円形を形成し、ミントを中心にプリキュア達を覆い、そのシールドに電球ミサイルが防がれ、空中で爆発する。
屋外照明ザケンナーは止まらず、翼を羽ばたかせて彼女達の頭上を大きく過ぎる。そのままブラックとホワイトに迫るが、それに気づいた二人は大地を強く蹴り、跳ぶ。
「「はぁぁっ!!」」
振り被り、回転して遠心力を加えた強力な突撃が屋外照明ザケンナーの背中に大きく打ち込まれ、身を大きく仰け反らせてその姿をバラバラに消失させた。
吹き飛んでいたダンベルコワイナーが再度接近し、引き潰そうと迫る。それに気づき、アクアが空中に跳躍し、両腕に水の弓矢を作り出す。
「プリキュアサファイアアロー!」
弦を引いて放たれた幾条もの水の矢が空中に舞っていたブラックとホワイトの間を過ぎり、全発ダンベルコワイナーに着弾し、爆発に包まれる。仮面が砕け、ダンベルコワイナーは姿を消失させた。
それを一瞥し、大地に降り立ったブラックとホワイトがアクアにサムアップし、アクアも軽く微笑む。どうにか一段落し、ルルンはようやく逢えたルミナスやポルンと再会を喜び合い、ローズやミントがそれを静かに見守る。
そこへ歩み寄ると、全員が顔を見合わせ、ホワイトが静かに告げた。
「皆、急ぎましょう」
誰もが決然と頷き、その視線を彼方の暗雲に覆われたみなとみらいへと向けた。
別方向に飛ばされたドリーム、ダークドリーム、ルージュ、レモネードは次々と現われる敵を相手にしながら必死に逃げていた。
「ひぇぇぇぇ!」
「やっつけてもキリがありません!」
今しがたも一体倒したが、それに反比例するように新しい相手が現われ、まったく対処できなくなっていた。
今はなんとか逃げるのに手一杯であり、その4人を嘲笑うように追いかけるログハウスザケンナーと石膏像ホシイナーの姿があった。
逃げるのに精一杯のなか、不意に空を見上げたドリームの視界にそれが飛び込んできた。
『ウザイナ〜〜!』
前方の遥か空から真っ直ぐにこちらへと落下してくるのは、アクアに吹き飛ばされた水道ウザイナーだった。水を撒き散らしながら無秩序な軌道で回転しながらドリーム達目掛けて落下してくる。
「うわわわっ!」
思わず立ち止まり、4人は視界を覆うように眼を強く閉じ、訪れるであろう衝撃に構えた瞬間…突如4人の周囲に光の壁が発生し、それに阻まれ、相手は大きく跳ね飛ばされる。
離れた位置へと倒れ込む音が響き、構えたまま固まっていたドリーム達が何が起こったのか解からず、恐る恐る眼をあける。
「……ああっ!」
周囲を見渡した瞬間、ドリーム達の表情が喜色に弾む。4人を護るように光の壁を展開し、腕を掲げる4人の少女達…大地のキュアブルーム、大空のキュアイーグレット、月のキュアブライト、風のキュアウィンディ――精霊の力を宿すプリキュアだった。
雄々しく立つその姿に、彼女達は確信する。
「貴方達が…!」
彼女達が自分達とは違う…そして、初めて出逢うプリキュアの仲間だった。
そこへ、聞き慣れた声が飛び込んでくる。ハッと視線を下げると、そこには駆け寄ってくるココ、ナッツ、シロップの姿があった。
「ココ! 皆、無事だったココ?」
ドリーム達の無事を喜ぶと同時に、彼女達もその姿に安堵する。ルルンからココ達の身を案じていただけに、喜びも大きい。
「ココ、ナッツ、シロップ! ココ達を護ってくれて、ありがとう!」
大切な存在だけに、それを無事に護ってくれたプリキュアの少女達へ感謝すると、振り返るブルーム達も笑顔を浮かべる。
「どういたしまして!」
「困ってるときは、お互い様でしょ」
見ているだけで勇気づけられ、そして心強さを憶えるその笑顔に、自然とドリーム達も先程までの不安が完全に消えていた。だが、そんな穏やかな空気を害するかのごとく、ブルーム達によって弾き飛ばされた敵が身を起こし、雄叫びを上げる。
『ウザイナ〜!』
『ホシイナ〜!』
水道ウザイナーと石膏像ホシイナーが迫り、4人は互いに頷き合い、相対している敵に身構える。4人の身体を精霊のオーラが覆い、光り輝く。それに導かれるように相手に向かって跳び掛かった。
「月の光よ!」
振り被ったブライトの掌から放たれるライトグリーンの光が石膏像ホシイナーのボディに当たり、体勢を崩す。
「たぁぁぁぁっ!」
そこへブライトの拳が連撃で打ち出され、ボディとなっているホシイナーの顔が幾度も穿たれ、その眼が苦悶に瞬く。
最後の一撃を打ち込み、相手がよろめいた瞬間、間髪入れずウィンディが後方から現われる。
「天空の風よ!」
振り払う両の腕から生み出された突風が鋭い刃となり、顔に直撃し、石膏像ホシイナーは高く吹き上げられ、そのまま大地に激突し、弾かれたホシイナーの本体が粒子に消える。
その前方で水道ウザイナーが噴き出した水飛沫を掻い潜り、ブルームとイーグレットは頭上に舞う。だが、相手もそれを追って両腕のホースを放ち、鋭い水流が迫る。
「「はぁぁぁっ!!」」
それに臆することなく二人は精霊の光で水流を受け止め、横へと逸らす。そのまま水道ウザイナーに突撃し、ブルームとイーグレットは両の手を合わせて、掌に力を集中する。
「「でぇぇぇぇいい!!」」
同じタイミングで繰り出した掌から放たれる精霊のエネルギーが衝撃波となってボディを大きく凹ませ、仰け反る。
空中で宙返りし、ブルームとイーグレットは手を握り合ったまま、二撃目の蹴りを仕掛けた。
ダメージを受けていた箇所へと再度ヒットし、二度の衝撃で強固な装甲を誇っていた水道ウザイナーは後方へと倒れ伏した。
瞬く間に退けたその活躍に見惚れ、そして勇気づけられ、ドリーム達もまた決意を新たにする。
「シロップ、ココとナッツをお願い!」
「解かったロプ!」
任された責任とプリキュアへの信頼――それを胸にシロップは巨大な鳥へと姿を変え、座席になっている背中にココとナッツが乗ると大きく空へと舞い上がる。これで彼らは大丈夫だ…戦っているブルーム達に合流しようとした瞬間、後方から大地を割り、炎を宿した工事用具ウザイナーが出現し、その腕の鞭を振り被る。
しなる鞭が迫り、ドリーム達は瞬時に跳び、空を切った鞭が大地を砕く。それに身構えたブライトとウィンディが精霊の光を纏い、跳ぶ。だが、それに気づいた作業工具ウザイナーもまた両腕の鞭を振り回し、二人に向けて振り薙いだ。
高速で迫る鞭に二人が咄嗟に腕を交差させ身構えるも、後方から別の光が迫る。
「ダークネスシューティング――レイ!」
ダークドリームが紅の光を纏い、両手から光の流星を生み出す。夜空を流れる星々のごとき輝きを放つ光の奔流が二人を追い越し、迫っていた鞭を怯ませ、動きを相殺させる。
背中越しに振り向いたブライトとウィンディにダークドリームが頷き返し、二人もまたその意思を受け取る。
「「たぁぁぁぁっ!」」
二人の精霊の力を込めた拳が作業工具ウザイナーの顔面に強く叩き込まれ、その衝撃に耐え切れず、作業工具ウザイナーは大きく吹き飛ばされ、彼方の河川へと突っ込み、水柱が上がる。
降り立ったブライト、ウィンディ、ダークドリームが互いのコンビネーションに満足するように笑顔を交し合う。
不思議と親しみを憶える感覚――それは、互いに闇に生を受け、そして違う生き方を選んだからかもしれない。
「やった!」
その活躍に喜びを噛み締めるも、突如ドリームの足元が割れ、その下から無数の樹の根や枝は伸び、その中心には樹木コワイナーが不気味な雄叫びを上げる。
『コワイナ〜!』
操られるように大地を抉りながらしなる樹の根が伸び、狙われたレモネードが後ろ向きに後退する。
「わわわわぁ、きゃぁっ」
だが、不安定な体勢故に足を躓き、バランスを崩して倒れる。そこへ襲い掛かろうとする根だったが、前方へと割り込んだイーグレットが光の壁を作り出す。
青い輝きを放つ光の壁に遮られ、動きを止める根にイーグレットが背中越しに声を掛ける。
「大丈夫!?」
「は、はいっ!」
助けてもらった背中に感謝し、レモネードが身を起こしたと同時に押す勢いに亀裂が走り、光を消して二人が根をよけて跳び上がる。
樹の網目のなかをルージュが掻い潜りながら駆け抜け、根を足場に強く蹴り、一気に樹木コワイナーに跳ぶ。
「はぁぁぁぁっ!!」
気迫を込めた渾身の一撃を樹木コワイナーの背中に打ち込み、その衝撃に身体を大きく大地にめり込ませ、麻痺して痙攣する。
動きの鈍った瞬間、左右から迫るドリームとブルームが拳を構える。
「「たぁぁぁぁっっ!」」
同時タイミングで繰り出した二人の拳が樹木コワイナーの頭部に叩き込まれ、その反動で仮面が外れ、樹の身体が爆発し、宙を舞いながらコワイナーの仮面が砕け散った。
ガッツポーズを決めるルージュ、互いの健闘を褒めあうように笑顔で視線を交わすブルームとドリームの許へと仲間が駆け寄り、少女達は暫し無言の挨拶を交わす。
「私、ドリーム。キュアドリーム」
ドリームが切り出したと同時に他の面々も続くように名を呟く。
「私はダークドリーム」
「ルージュ、キュアルージュよ」
「私は、キュアレモネードって言います」
名を告げると、ブルーム達も頷いて応じる。
「私はキュアブルーム」
「私はキュアイーグレットよ」
「ブライト、キュアブライト」
「キュアウィンディよ」
互いの名を交し合い、そして自然と握手を交わし合い、今ここに確かにいるプリキュアの仲間の絆を確認し終えると、一同の視線は険しくなり、暗雲に包まれるみなとみらいへと向けられる。
「急がなきゃ…!」
誰もが決然と頷く。そして、彼女達は駆け出す。あの地にているだろう敵を…そして、苦しい戦いを強いられているプリキュアを助けるために――――
一寸先すら見えないかのような闇のなか―――畏れるように眼を震えるように閉じていたピーチが身体に感じる温かみに気づく。
確か、闇に呑まれたところまでは記憶が甦る…その先を予想し、今己の身に起こっていることを恐れ、不安が増すも、両肩に掛かる力と温かさに恐る恐るその眼をあける。
「う……っ!?」
瞬きながら開き、薄っすらとした視界が徐々に明確になってくる。視線が、左右から崩れそうになっている自身を支える力に見渡すと、そこには仲間の姿があった。
ピーチに肩を貸し、支えるように佇むベリー、パイン、パッションの3人の姿。
「ベリー…パイン…パッション……」
弱々しい声で呟くと、僅かに3人の顔に安堵が生まれる。そして、頷き合うと、脚を取られている闇の沼地で転ばぬよう互いの肩を支えあい、一歩を踏み出す。
「シフォンを見つけるんだから…」
絡め取られながらも、必死に足を踏み出すベリー。
「そのためにも…進まなくちゃ!」
決して屈しない意思を秘め、苦悶を浮かべながらも前を向くパッション。
「こんなところで、へこたれてられないもんね…!」
気遣うように…それでも鼓舞するように告げるパイン。
3人の意思に勇気づけられ、不安に覆われていたピーチの顔にも精彩が戻ってくる。そして同時に、支えられているという現実がピーチの意思を立ち直らせていく。
「うん!」
自分は独りじゃないと…信じあえる仲間がいると……だからこそ、こんな所で落ち込んでいる場合じゃないとと奮い立たせ、ピーチも進む足を強く踏み出す。
先が見えないなか、あの不快な哄笑が空間に響き渡る。
『マダ抵抗スルトハ……ダガ、見ツケテドウスル?』
その無様な姿に嘲笑を浮かべ、見下ろす視線にピーチ達は呑まれそうになる心を律し、毅然と対峙する。
『奴ガドレダケノ力ヲ持トウトモ…私ニハ敵ワヌゾ…』
その瞬間、ピーチ達の表情に怒りが走る。
「シフォンを捜しているのはそんなことのためじゃない!」
何の迷いも躊躇いもない…ハッキリと叫ぶピーチにフュージョンの視線が僅かに訝しげに歪む。
「シフォンは私達の…大切な仲間だから……!」
「仲間が危険に晒されているのを、放っておくなんてできないから…!」
「だから皆、捜しているの…!」
シフォンは彼女達にとってかけがえのない存在――そして、護らなければならない存在…いや、シフォンだけではない…護らなければならないのは、自分達の大切なもの全てだ。
「…ごめんね、シフォン…ひとりで寂しいよね…すぐに見つけるからね……」
その手を手離してしまったことに深く後悔と責任を憶えた。だが、それに悲観していても変わらない。本当に大切だからこそ、必ず見つけ出すと…そんな願いを愚かと一笑する。
『クダラン! ソイツモオ前達モ…私ノ中デ一ツニナルノダ!』
フュージョンの言葉とともに足元が大きく揺れ、さらに足を取られ、落ちそうになるのをピーチ達は互いの手を取り合い、強く握り合う。二度と離さないように…絆を信じるように……
「私達は負けない…こうして、お互いを感じて…支え合える限り……私達は、絶対に…!」
不安定ななかでも、決して揺るがない強い意思―――それを一つにするようにプリキュア達は強く叫ぶ。
「あきらめないんだからぁぁぁっ!!」
決して落ちようとしないその意思に苛立ち、フュージョンの声が荒げられる。
『終ワリダ! 無トナリ、消エ去レ!!』
刹那、周囲の壁が大きくそそり立ち、ピーチ達を覆い尽くす。荒れ狂う波が押し寄せるかのごとく全周囲から迫る。だが、彼女達は決して眼を逸らすことなく…ただ、決然と凝視し、身構えた。
その瞳に闇が大きく映った瞬間…その奥から眩い光が満ち、やがて大きく拡がった。
包まれるような純白の光が闇を掻き消し、その眩さに思わず眼を閉じる。衝撃が周囲に霧散し、その光に眼をゆっくりと開いていく。
そして、その先に佇む姿に眼を奪われた。
――――黒と白、そして光を司どる3人の少女……
――――たおやかな命の息吹を宿す4人の少女……
――――各々の気高さを身に纏う7人の少女……
光が消え、視界がハッキリとしたピーチ達の回りには、凛と佇むプリキュアの姿があった。
その姿に集ってきた妖精達が歓声を上げる。前方に立っていたドリームが振り返り、柔らかく微笑む。
「大丈夫?」
その笑顔に呆然となり、思わず立ち尽くしたピーチ達は間の抜けた声を上げる。
「…貴方達は……?」
「プリキュアや! プリキュアが駆けつけてくれたんや!」
それに答えたのは遠くから駆け寄るタルトだった。ピーチ達の無事と、プリキュアの登場に感極まったという表情で近づき、ブラックの腰から顔を出したメップルが勇気づけるように頷く。
「タルト、待たせたメポ!」
「ホンマ、おおきに〜…」
拝むように喜ぶタルトにピーチ達の顔も安堵と嬉しさに満ち、思わず涙が零れそうになる。
「ありがとう…助けにきてくれたんだね……」
己の不甲斐なさにそう無意識に自虐するようなピーチに首を振る。
「ううん…貴方達は自分の力で立ち上がったんだよ…」
「私達の助けなんかなくてもね!」
「そして、貴方達の諦めない強い気持ちがあったから…」
「私達は皆、ここに集まることができたの!」
そう…彼女達はバラバラだった。だが、それを一つに集めたのは彼女達を導いた強い意思――プリキュアの絆と仲間を想う心……
胸の内が熱くなると同時に、それでも不安はまだ尽きない。
「でも、まだシフォンが…」
「大丈夫! 絶対に会えるよ…だって……」
ピーチ達を勇気づけるように全員の声が一つに重なる。
「みんな、同じ空の下にいるんだから……!」
それがどれだけ強く響き、そして心を勇気づけたのか…だが、確実にピーチ達の心に届き、そして熱い想いを燃え上がらせた。
それに感謝し、そして同じ想いを抱くようにピーチは強く頷いた。
「うん!」
プリキュア達が決意を新たに固めた瞬間…彼女達の眼前にフュージョンが降り立つ。
『プリキュア……』
存在感を漂わせ、そして怨嗟を秘める低い声とともに睨むフュージョンにプリキュアは瞬時に身構える。
「光の使者、キュアブラック!」
「光の使者、キュアホワイト!」
「輝く命、シャイニールミナス!」
「輝く金の花、キュアブルーム!」
「煌く銀の翼、キュアイーグレット!」
「大地を照らす月、キュアブライト!」
「天空に吹く風、キュアウィンディ!」
「希望を包みし深淵の星! ダークドリーム!」
「青い薔薇は秘密の印! ミルキィローズ!」
「大いなる希望の力! キュアドリーム!」
「情熱の赤い炎! キュアルージュ!」
「弾けるレモンの香り! キュアレモネード!」
「安らぎの緑の大地! キュアミント!」
「知性の青き泉! キュアアクア!」
「希望の力と未来の光! 華麗に羽ばたく5つの心! Yes! プリキュア5!!」
「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし! 摘みたてフレッシュ、キュアベリー!」
「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ、キュアパイン!」
「まっ赤なハートは幸せの証! 熟れたてフレッシュ、キュアパッション!」
「貴方の思い通りには…させないっ!」
光が満ち、その中に凛と…そして雄々しく佇み名乗りあげる。
今ここに…18人のプリキュアが集結した―――
説明 | ||
遂に全プリキュア集結! 名乗りシーンは書いてて自分でも燃えますね。 |
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