バカ犬

キミはとてもバカな犬

少しも待つことができない

ドタバタと走り回って

よだれを落とす

バカな犬

大きな身体につぶらな瞳

キミが初めて我が家にやってきた日を

よく覚えている

翌日の朝に

関西は大地震に見舞われた

すくすくとキミは育った

とてもバカなキミはよく食べた

そして走って

体当たりをして

色々な人に飛びついた

太くて固い尻尾をふりふり

いつも困った表情に見える眉根

そしてよく吠えた

キミはバカだから多くの物を怖がった

雷雨のゴロゴロに震えた

震えて部屋中を引っ掻き回して

小便を垂れた

子犬に怒られて落ちこんだりもした

親父の癇癪には一緒に震えた

そんなキミもいつしか年老いた

走る気力も失って

あまり外に出なくなってしまった

だがバカだからよく食べた

そしてよくうんこを垂れた

身体にひっつくと温かいくせに

冬はストーブの前を陣取った

いよいよ寝たきりになってしまっても

キミはバカだからよく食べた

そしてボケた老人のようによく吠えた

それはどこか悲痛な叫びにも聞こえた

どこか痛いのか

ただ腹が空いたのか

まるで死んだように寝るキミの姿に

よく周りはひやひやさせられた

それでもキミはバカだから

よく死んだふりをした

そしてキミは死んだ

よく食べたくせに身体は痩せ細って

口はだらしなく開いたまま

キミは逝ってしまった

キミの亡骸を見て

名前を呼んだ

そうして近寄って

身体を撫でた

キミはもういない

線香の匂いが記憶に染み付いている

キミはもういない

バカ犬

キミはとてもバカだった犬

我が家の名犬だった犬

目を閉じる

きっと今は天国の花壇を

その足で踏み荒らしていることだろう

力強く飛び回って

よだれを垂らしながら

意味もなく穴を掘っているかもしれない

目を開ける

その元気な姿をもう一度見たかった

ありがとう