魏√ 暁の彼は誰時 7
[全4ページ]
-1ページ-

凪たちのさわぎの中、風はひとり思考の旅にあった。

 

――いま、議論に加われば火中の栗を拾うようなもの。

 

という気持ちがあった。

 

魏の中にあっても稀代というべき政治的天才は、政治現象は時間によって変化をおこすものだということをよく知っている。

 

(今は待つことが一番大切なのです)

 

と、自分に言いきかせている。

 

いま、ひとたび議論に加われば仲間や親友と真っ正面からの衝突となってしまう。

 

和解することもできず、どちらかが斃れるまでつづく果てしなく凄惨な戦いとなるだろうと予測していた。

 

この頃、桂花も稟も風の意中を探ろうとしていたが、風はこの話題に関してはほとんど言語らしきものを発していなかった。

 

そのためなにを考えているのか、把握できないままであった。

 

「お兄さんがわるい」

 

と、一刀の事だけは何度か口にした。

 

2人にはその意味がよくわかっていた。

 

そのことが返って2人の神経を?き乱しているのであった。

 

 

 

一方、凪たちのさわぎの報に接した華琳の態度はやや劇的であった。

 

「凪に聞きたいことがあるので、夜に私の部屋に来るように伝えなさい」

 

と、やや熱っぽく命令をだしていた。

-2ページ-

話を一刀にもどす。

 

午後になっても空は晴れていて雨の気配はない。

 

ただ風に湿気が含まれているようで、髪が重くなってきたことでもわかった。

 

森の中、緑の葉が陽につやめき、風に騒いでいる。

 

その風に混じって鹿狩り開始の太鼓の音が響いてくる。

 

(獲物が見つかったのか)

 

兵士たちの射撃がはじまった。

 

彼らはうごめく黒い影を見つければ容赦なく撃ってくるだろう。

 

一刀はその場でひじ枕をついて横になる。

 

喧騒が止むまで、目の前の木の青葉のこずえのあたりをながめたりして時間をすごした。

 

しばらくすると、「あたった」という声が聞こえた。

 

一刀は起ちあがった。

 

すると、頬に少し冷たい風が吹き付けてくる。

 

そこで目を左へ転ずると、鹿がいた。

 

その左足の付け根には赤い矢が深く突き刺さっており、足を引き摺りながら現れた。

 

しかし、一刀に気付き逃走の気を削がれたようである。

 

顔をふりむいて、

 

――これで終いか。

 

といったように感じた。

 

ここで止めを刺してしまえば、それきりの印象しか残らないにちがいない。

 

しかし、「お前はその傷でどこに向かうのか」と話しかけていた。

 

なにかを考えている風でもなく、とくに反応はなかった。

 

ただその瞳だけが神経質に細かく揺れていた。

 

「お前は――」

 

と、もう一度いった。

 

一刀は黙って懐から持っていた布を取り出すと、ゆっくりと近づいていく。

 

傷口から鮮血が流れ出ている。

 

一刀はちらりと見て、眉をしかめた。

 

「少し痛むよ」

 

矢を掴むや、一気に引き抜いた。

 

鹿は痛み故か一瞬目を大きく見開いたが、暴れるでもなくただじっとしていた。

 

一刀はその傷をいたわるかのように、丁寧な作業を続けている。

 

これが元でおそらく困難な目に合うだろう――

 

先ほどから誰かに覗かれていることと相まって、思わず苦笑してしまう。

 

作業を終えると、

 

「好きなようにいきなさい」

 

と言いきかせた。

 

鹿はそれをどう理解したのか、現れた時より幾分かはましな足どりで去っていった。

-3ページ-

女性は地面の草を踏んで、一刀に近づいていった。

 

草の間から先ほど鹿にあてたはずの赤い矢を手に持ち横になっている一刀の姿が見える。

 

一刀は女性と目が合うと、寝転んだまま、胸に染みとおるような笑顔でニコリとした。

 

――来ましたか。

 

といった表情だが、言葉には出さなかった。

 

女性は気付かれていたことに内心驚きはしたが、それを表情にはださず、

 

「何故」

 

と頭の上から問いかけた。

 

「露草が咲いているのにお気づきになられましたか」

 

と、一刀は質問にはとりあわず、ゆっくり起き上がった。

 

確かに端には露草がきれいにならんでおり、紫の小さな花をつけていた。

 

一刀は改めてその女性を眺めると、身体の中を薫風が吹き通っているような印象で、なにかしら天性の威厳を身につけていた。

-4ページ-

許都の夜は雨気が残っているようで変にむし暑い。

 

(華琳さまも酔狂なの。凪ちゃんを呼ぶなんて)

 

と、沙和は華琳の部屋の入口で胸が高なるようなおもいだった。

 

凪が部屋に呼ばれたという話を聞きつけると、沙和と真桜はこっそりと情報収集することを決めていたのである。

 

しかし部屋に入ってすでに半刻は過ぎているが、思ったとおりに事は運んでいない。

 

華琳と凪の間にはしばしば沈黙がすわりこんでいる。

 

かといって、桃色の雰囲気を醸し出しているわけではなく、いうなれば穏やかな時を過ごしているようである。

 

(凪ちゃん、先手必勝なの!)

 

(凪ぃ、ここで一気に決めたれやー)

 

2人に届けとばかりに周囲に桃色の氣が広がっていく。

 

しかし、いきなり戸が開く。

 

恐るべき憤怒の表情をした凪とジロリと一瞥をくれる華琳。

 

「……沙和、真桜……」

 

2人は身体じゅうの血液が下へさがっていく思いがした。

 

沙和が真桜に目を向けると、すでにこの世のものとは思えない形相をしていた。

 

「凪……」と、華琳が短く告げる。

 

「はっ!」

 

凪の拳に籠められた巨大な氣弾が真桜と沙和を直撃する。

 

「きゃああああああ、華琳さま、許してくださいなのー……」

 

「ああああああああああ、なんでこんな役ばっかりやー……」

 

数秒の後、濡れた地面の上に2人が落ちる音が届いた。

 

 

 

……つづく

説明
やっぱり話が進みませんがご容赦ください。

コメントをくださる皆さん、本当にありがとうございます。
これからも貴重なご意見をいただければ幸いです。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
5532 4319 58
コメント
展開が読めません。(ブックマン)
う〜ん 予想が出来んなこの物語(スターダスト)
そろそろ、都に行くかね?今回の出会いが切欠になりそうだ(とらいえっじ)
華琳は凪と何を話したのか?謎だらけな外史で男の娘は女性と邂逅する!もしかしなくても劉協か?(自由人)
タグ
真・恋姫†無双 華琳 

めいさんちさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com