The way it is 序章―婚礼の儀 |
我がこの道は何処へと続くものか。
ふと昔読んだ本の一節を思い出して、男はひっそりと笑った。
この道の先には恋い焦がれていた少女が待っている。
扉が音もなく開き、瞬く間に光に包まれた。
足元には赤い絨毯が、一直線に引かれている。その上を男は、静かにゆっくりと歩き出した。
両側に黒い衣を纏った臣下たちが、一斉に跪礼をして控えている。
周りは沈黙が支配しており、ただ自分の籠った足音と、肩から流れる長い上衣の衣ずれの音しかしない。
いつもは、頑なに黒一点しか纏わない男も、この日ばかりは純白の衣に身を包んでいる。
派手すぎると見せられた瞬間、悶絶した上衣の裾には花鳥風月の刺繍がみっしりと施されており、男が歩くたびに密やかな音をたてて引かれていった。
片手に剣を模った杖を持っている。
前方の壁には大きな窓が四つ、陽の光を惜しげもなく注ぎこんでいる。
そして赤絨毯の行きつく先には、輝く光とティエンランの紋、鳳凰の巨大な旗を背にして、少女が一人、立っていた。
目に痛いほどの白雪色の衣に身を包み、その裾は足元から下の段差に零れ落ちるほど長かった。襟は大きく抜いており胸元と鎖骨が見える。本人はこんなに開いているのでは、ずり落ちるのではないかと不安がっていたが、今のところその心配はない。
たっぷりとした袖と裾は、藍色の蔦模様の刺繍が入っている。
両手には、杯といばらを模った杖が握られていた。
藍色の髪は高く結われ、金の冠をのせていた。中央に水晶が三粒、琥珀三粒、翡翠三粒が放射線状に配置されており、簪からは紺玉が雫のように連なっている。
男が歩みを止めて、少女の前に立った。三段の段差があるにも関わらず、同じ目線である。
静かに右足を、後ろに回した。ゆっくりと身を沈め、右ひざをつく。目線は少女から逸らさない。
静寂。
「面を上げよ」
背後の空気がザワザワと揺れた。
再び静寂。
「皆の者、よく聞くがいい」
静けさの中に少女の透き通った声が響く。
「これより我が発する言葉を、しかと記憶し後世に語り継げ」
是、と黒い集団が応ずる。
「ティエンランの主リウヒは、此度宮廷軍右将軍シラギを生涯の伴侶に迎え入れることを、天と地と民に誓う」
その言葉を引き継ぎ、男も低い声を上げた。
「わたくし、宮廷軍右将軍シラギは国王陛下をただ一途に愛し、この身に変えても守り抜く事を、天と地と民に誓う」
そして、手にしていた剣を模した杖を立てた。
少女も杯を下に向ける。シャランと鳴った。
「我の杯をそなたの剣から滴る泉で永久に満たされるよう共に願わん」
二人が杖を合わせると、秘かな音がした。
男が立ちあがる。
目の前で愛しい少女が微かに笑った。
男は押し寄せた幸福に眩暈がした。
説明 | ||
ティエンランシリーズ第四巻。 新米女王リウヒと黒将軍シラギが結婚するまでの物語。 主役級全員が恋しちゃってルンルン♪(一部除外有)。 時間軸は「Far and away」後になります。 |
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