水と炎 後編 |
打ちひしがれる重悟を他所に景太郎の言葉は続く。
「何よりお笑いなのは精霊が分けてくれている力を自分たちが選ばれたと勘違いして研鑽もせず使いこなしもせずに最強を名乗っている。傍から見ればこっけいな道化以外の何者でもない」
神凪を嘲笑う景太郎。それに対し厳馬の体から蒼い炎が舞い上がる。
「小僧、言葉に気をつけるんだな。我らが研鑽をせぬだと、我が蒼炎を見てもまだそのような口を叩けるか!」
厳馬の周りに集まる精霊を感じつつも重悟は思う。
神凪の炎は浄化の炎その最高位<神炎>本来は『黄金』色なのだが更にそれを超えたものとして厳馬の<蒼炎>重悟の<紫炎>がある。
色を宿す者は千年の歴史の中でわずか11人しかいない。
しかし、ここ弐百年で<神炎>を得たものでさえ重悟と厳馬の2人だけである。
「ふ、蒼炎か。そんなものを自慢にしてるから高が炎術の才が無いだけで自分の子供を無能者と夫婦で罵り、挙句の果てには大火傷を負った10才にもならない子供を放置するんだな。」
そう言った景太郎の瞳により一層強い殺気が漲る。
「私は神凪厳馬だ。我が子は煉ただ一人。」
「厳馬!」
「……来いよ。その下らんプライドで僕を焼けるものならば焼いてみるがいいさ。」
肩を竦め無防備に立つ景太郎に厳馬は肉食獣の笑いを浮かべる。
「ここに浦島のご老人の加護なぞ無いぞ」
「ふ、そこに転がってる連中は浦島の加護にでもやられたと?現実を見もしない弱いもの虐めの神凪らしい発言だな。それにもし僕がここで死んでも浦島はそのことで神凪に何かを求めたりはしない。」
そう言い切った瞬間、景太郎は蒼い炎に包まれる。
「厳馬!お前何と言うことを!!」
「言葉遣いを知らぬ小僧にちょっと教育を施しただけです。この程度で死にはすまい」
まさか、厳馬ともあろう者が気づいてないのか?
重悟はぎょっとしたように厳馬を見る。
「やっぱりな。自分たちと炎の加護が無いものの耐性の違いさえもわかっていない。だから和麻が本当に死に掛けていることも分からないか」
蒼炎は一瞬の揺らぎとともに消えそこには煤ひとつ無くため息をついて立つ景太郎の姿があった。
「何だと?!無傷、そんなはずは無い!」
そして厳馬は景太郎が放った水に拘束される。
「重悟さん。現神凪最強とやらでさこんなに現実を見ていない。あなたはこの男を買いかぶりすぎている。そして神凪の連中を甘く見すぎている。」
中学生に過ぎない景太郎の言葉だが重悟の胸に刺さる。
いや、中学生のような子供の言葉だからこそ逆に冷めて聞こえるのではないかと思える。
「景太郎君。和麻は…?」
今更ながら自分が守らなければならないのにそれを怠った少年のことを尋ねる。
「うちに来たときは本当にやばかったけど、たまたま宗主が居合わせたのでなんとか持ちましたよ。ただ、あの年で親に捨てられたんです。自分が何で存在しているのかわからなくなっています。『なんでお父さんは僕が要らないなら処分しなかったんだろう?煉が居ればいいなら殺してくれればいいのに』そう言ってからは無反応になっています。」
和麻を心配する言葉に景太郎の重悟を見る目から険が取れる。
本当に景太郎は和麻のことを怒って神凪に乗り込んだとわかる。
そして、浦島はそれを認めたのだろう。
少なくとも神凪に他者を労わり、そのために本気で怒れる人間はいないだろう。
「そうか…」
重悟は和麻の精神がそこまで傷ついているとは思っていなかった。
「自分は生まれながらに持っていてそれが当たり前。だからそれを持たぬものの気持ちがわからない。そしてそれを無い人間を責める。それはその人の所為ではないのに……」
水のロープに縛られた厳馬を無機質な瞳で見つめる景太郎。
「あんたにはわからないだろう?数馬が居た世界が。どうだ?あんたのご自慢の炎術がたかだか中坊1人に通じずにいるのは?どうだ指一本動かせずに命を他人に握られているのは?」
体を縛る水のロープが少し収束し、厳馬の顔が苦痛に歪む。
「退魔に身を委ねる者であればいつ死んでもそれを受け入れられるだろうがあんたはその道を一度でも和麻に示したか?」
重悟は手を出す事が出来なかった。
別に水術で足止めをされている訳ではない。
ただ能面のような表情が無機質なその瞳が重悟に動くことを許さなかった。
「あんたは自らを律して神凪足るように生きてきたとか言うだろうが、それはあんたが炎を持っていたからだ。それを持たぬ和麻には親たるあんたら夫婦が支えとなるはずだ。が、あんた達は和麻にその才が無いと知るや他人の前でもそれ以外でも蔑み無視した。あんたら夫婦は術者以前に人の親たる資格が無い。」
”ビキッ!”
厳馬の体から鈍い音がする。
骨の一本も折れたろう。
「本当なら、あんたをここで処分してしまいたい。が辞めておこう。あんたにはその価値も無い。」
今だ水に束縛されているが、締め付けは止まったらしい。
だが厳馬はその戒めから抜け出ることは出来なかった。
「すまない。本来であれば私がせねばならぬ事を……」
中学生の景太郎に本気で頭を下げる重悟に景太郎はここにきて初めて年相応の微笑を浮かべた。
「いえ、ここにいても味方が重悟さんと操さんだけではどちらにしろ和麻はいずれ死んでいましたよ。今、和麻には操さんと義妹の加奈子が付いています。必ず元に戻して見せますよ。幸い、生みの親が和麻の存在を否定したんで重悟さんの了承が得られれば和麻はうちで引き取ります。」
多分それが本来の景太郎の来訪目的だったのであろう。
懐から養子縁組等の書類と今後和麻に対し神凪は干渉しないとの念書などが出てきた。
「ああ、申し訳ない。書類は出来次第そちらに届けよう」
「ええ、お願いします。あと、大神操さんのことなのですが」
「うむ、あの子の父親は悪い意味で神凪の分家だ。迷惑ついでで申し訳ないが本人が望む限り預かってもらえまいか?」
「ええ、本人からもお願いされています。では、僕はこれで失礼します。」
ペコリと頭を下げると景太郎はもと来た道を戻っていった。
景太郎の姿が見えなくなると厳馬を束縛していた水が消えた。
「うぐぅ。」
両腕がダラリと垂れ下がっていた。
先ほどの音は両腕の折れた音だったようである。
「大丈夫か?厳馬」
重悟は景太郎から受け取った書類を懐にしまうと厳馬に近づく。
「問題ありません。」
「そうか……」
とても大丈夫には見えないがこの男がそういう以上は何を言っても無駄だろう。
「宗主」
「なんだ?」
「私は神凪の人間として生まれ、生きてきました。他の生き方は選べません。」
「それは知っている。が和麻は神凪には成れなかった。そのことをお前は理解すべきだったな」
「………」
考えるように黙り込んだ厳馬にこれ以上のやり取りは無用と判断した重悟は周りを見てため息をつく。
「兵衛、いるのだろう?」
「御前に…」
重悟の目の前に1人の壮年の男が膝を追った状態で現れる。
「すまないがそこらに転がっている連中と厳馬を頼む。」
「はっ」
兵衛が姿を消すのと入れ違いに走りよってくる人間がいる。
「宗主!」
「何事か?」
走ってきたのは風牙衆の1人である。
「屋敷の外に、綾乃様と一緒に出かけた者達が!」
「な・なんだと?!」
重悟は景太郎を見て浦島は信用しても良いと思った。
少なくとも多少の怪我はしても無事だろうと。
綾乃たちはそれなりの事をした以上は浦島家との駆け引きがあって返してもらえるだろうと思っていたのである。
「それで綾乃たちは?」
「は、綾乃様は無傷、ただ眠られております。他の方々は多少の傷を負ってはおりますが命に別状はないかと、ただ綾乃様と同じように眠っておりますので何がしかの手段で眠らされているかと…」
「そうか、では中にいれ休ませてくれ。綾乃は目が覚め次第私の元へ来るように伝えてくれ。」
「はっ」
走り去る風牙衆を見ながら重悟はため息をはく。
今更ながらに神凪の淀んだ空気に、自分は違うと思いながらもその中に居ただけだと気が付かされた。
浦島にはあのような跡取りが居て羨ましい。
そんなことを思いつつ自室へと歩を進めた。
神凪の改革はこれからだ。自分に再度誓いを立てて。
目が覚めた綾乃は重悟から特大の雷を落とされ炎雷覇の使用をしばらく禁止の上監視つきでの基礎修行の総ざらいをさせられた。
しかし、それに素直に従い行う姿に監視についた者達が不気味がる程に。
「景太郎お兄様。綾乃は頑張ります(ハート)」
一体何をした景太郎?
和麻はその後浦島家の努力の成果か正常な状態へと戻り、神凪の姓を正式にはずれる。
浦島ゆかりの八神家へと養子に入りその後浦島ひなた、加奈子とともに大陸へと修行の旅へと出かけていった。
「なぜわたしが和麻さんと?わたしはおにいちゃんと〜〜〜(涙)」
景太郎であるが今回の騒ぎの責任を取ると言って浦島の次期宗主の座を義妹の加奈子に譲ると、修行に行くとして、ひなたの伝を使いヨーロッパへと旅立っていった。
なぜか大神操がそれに付いて行ったとか行かなかったとか……
「景太郎様……(ポッ)」
終わる?
説明 | ||
後編です。 修正も無く昔のままの駄文です。 出来れば広〜いお心で見ていただけていれば幸いです。 |
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