今日から“覇”のつく自由業-今日から覇王-中の巻
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最近、気になる噂が流れだした。

 

街の者やこの町付近を行き来する商人達の中にもその姿を目にしたと口にする者がチラホラ居るらしい。

もう、何年たったと思っているのか・・・

 

アイツがこの世界に戻って来たのだと言う・・・

 

この手の噂話が何度流れてきたことか・・・そして何度、失望したことか・・・

いいかげんに、一喜一憂することも無くなって、良いハズなのに・・・

その度に、心の奥がざわめき、心をズタズタに引き裂かれるような思いをしてきた。

それなのにだ、馬鹿馬鹿しい・・・そう切って捨てることが出来ずにいる。

 

また傷つくだけなのだと分かっているのに、何所かで“もしかしたら”と期待している私が居る。今度こそは、と・・・

本当に、もう何年たったと思っているのか・・・ 私は何時からかその名を呼ぶことを諦めた。

いや、恐れた。口にする事で、今まで必死に押さえつけていたものが直ぐにでも・・・崩れ去ってしまいそうになるからと。

 

 

アイツはどんな顔をして笑うのだったかしら?

 

 

いや、忘れたのでは無い。これも、決して思い出さぬようにと堅く誓って鍵をかけた。

何時の頃だったのか・・・心に仕舞い込んだまま、その取り出し方すらも分から無くなってしまった。

 

ふと、そんな事を考えてしまった。ここ何年間は考えないように努め、ずっとそうしてきたのに。

それもこれも、この穏やかな日差しのせいだ。まるで、心の隙間に入り込んで来るような、暖かい、それでいて優しい、包み込む様な光のせいなのだ。

 

私は無意識に空を見上げていた。特に何かを思ったわけでは無かったが、何故だか、ひどく懐かしいそんな気がした。そんな時だった。

 

「申し上げます!近頃の噂となっていた男が警備隊によって保護されました。」

「そう。」

私は報告に訪れた兵に、視線を向けずにそう答えた。

 

「貴方はどう思うの?実際に見て来たのでしょう?」

どうせ何時もの偽物だと決めつけて、見に行く時間など無駄だと言わんばかりの私の言に、彼が珍しく異議があるという視線を寄せる。

 

どうしたと言うのだろうか?普段ならここで引き下がるハズである。

何故なら、彼は比較的古株の叩き上げ、つまり警備隊上がりであり、アイツに対しての思い入れは人一倍強い。故に彼もまた、この手の話には飽き飽きのハズであったのだ。

 

「・・・恐れながら。」

彼は、視線を伏せるとそれ以上は何も言わなかった。

「良いでしょう。私自らなんていつ以来かしらね?」

そうだ、こうして私自らが動くことなど殆ど無くなった事であった。

 

そう言えば、アイツの名を語り悪事を行った者が捕まった事が有った。あの時は怒り狂った春蘭がその者の首を叩き落とした。

その後、ご褒美にと閨に誘ったのだが、私はその時初めてあの子に誘いを断られた。その後の春蘭はある部屋に一人で入って行き、そして二日間出てこなかった。

 

その部屋から聞こえてくる悲しい咆哮は途切れることは無く、それは、愛する者を汚された怒り、悲しみ、行き場のない遣る瀬無さ、寂しさ、それらの深い気持ちを表しているそう思えて為らなかった。

三日目にやっと出てきたあの子の眼は明らかに泣き腫らしていたが、その事をトヤカク言うものは誰も居なかった。恐らく、誰もが同じ気持ちだったのだろうと私は思う。

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そんな事を思い出しながら歩いていると、例の男が保護されているという場所へと到着していた。

「丞相!こちらで御座います!ささ」

 

促されるままに、男が寝かされている場所へと近づいてゆく。

一方では期待が、一方では不安が私の心を大きく揺さぶっていた。この時の私はどんなに王として相応しくない顔をしていたのだろうか?そして、ゆっくりと、その顔を覗き込んだ。

 

「一刀。」

私の唇からは、自然とこの名が零れ落ちていた。嗚呼、どれ程の間この名を口にしていなかったのだろうか?私が王で在る為に、曹操孟徳で在ろうとするが故に、口にする事を自らに禁じたこの名前を・・・

もう何年も口にしていなかったハズのその名は、自分でも驚くほどに心地よい。

 

「一刀。」

 

そう。彼は紛れもなく“北郷一刀”であった。何年経とうが、いくらボロボロの姿になり果ててていようが、見まごう事が有るハズがなかった。

 

嗚呼、何て有様なの?

対して強くもない癖に・・・

何で、こんなにも傷だらけなの?

その手が、指が、背中が、足が・・・何も語らなくても、この男がこれまでどんな生き方をしてきたかを雄弁に語る。

その顔が、体が、傷が・・・、存在そのもの、その全てがただ愛おしい。

 

 

・・・私は全てを理解した。この男は今・・・。

 

 

「うぅ・・・帰らなきゃ・・・」

 

本当に近くにいなければ、聞き取れないだろう声で、一刀はつぶやいたのだった。

まだ、目を覚まさない彼は、その夢の中でさえ・・・

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しばらくして目を覚ました一刀の発した一言。

 

「・・・君は、だれ?」

 

不思議と驚くことは無かった。“やっぱり”と、自分でもどうしてかは分からないが、自然とそう感じたのだ。

 

「手当てしてくれたのは君?」

「いいえ、違うわ。私の部下たちよ。」

「そうなんだ。でも、ありがとう。」

「大したことは無いわ、当然の事よ。」

「申し訳無いな・・・ 本当なら、名乗ってお礼を言わなきゃいけない場面だよな」

「ええ、でも気にする事はないわ・・・」

「・・・迷惑ついでに、ちょっと聞いてくれないかな?」

「いいわよ、面白い話ならしばらく付き合ってあげる。」

「ははは、参ったな・・・全然面白い話じゃないや。」

「ふふ、それなら、精々面白く話しなさい。」

 

それからしばらく、私は一刀の話を聞いていた。

今の彼には記憶は愚か、自分の名前も分からない事。

気が付いた時には、丸腰で荒野に一人で倒れていた事。

ただ有るのは、“会いたい”という強い気持ちで、それが、誰に対する思いなのか、或いは何に対するモノなのかは全く分からないという事。

 

・・・しかし、それに従って、ずっと旅を続けてきたという事。

 

いったいどれくらいの時間をこうして居たのだろうか?

私は、彼の脇に腰掛けて、ずっと顔を見つめていた。そして、気がつくと涙を流していた。

その涙は、頬を辿り顎を伝い、一刀の顔を濡らしていた。そして、一刀は、涙を流す私の頬撫でていた。

 

「・・・・・・どうして泣いているの?」

一刀はとても心配そうに、私の事を見つめ返していた。

私は頬にあてられたその手に、自らの手を重ねながら静かに会話をしていた。

 

「そうねぇ、ある人がね、私との約束を破ったのよ」

「それは酷いね。」

「ええ、そうでしょ?私の他にも多くの子達を泣かせているのよ。」

「そうなの?・・・でも、君はとても嬉しそうに見えるよ?」

帰ってきてくれた。

記憶をなくしたというのに、傷つき、もがきながらも・・・私の元へたどり着いた。

 

一刀が、今、目の前に居る。それだけの事で、私は胸がいっぱいになっていた。

「ねぇ、貴方。この後はどうするつもりなの?」

 

私が尋ねると、一刀は静かに目を閉じた。

「・・・どんな時でも、心が落ち着かなかったんだ。早く会いたいって、居ても経っても居られないくらい。・・・可笑しいだろ?何も覚えていない、自分の名前すら思い出せない癖に。」

「・・・・・・・・・そう。」

「・・・不思議なんだ。」

「・・・なにが?」

「・・・こうして、君と居ると・・・心の声が消えたんだ。常に感じていた焦燥感が・・・」

「そう、ならばもう、旅を続ける意味は無いんじゃないかしら?」

「ははっ、そうかも知れない。」

 

一刀の目から、すぅっと涙が零れ落ちるのが見えた。

「・・・ねぇ、貴方。私に使える気はない?」

「・・・それは嬉しいけど、役に立てるかな?」

「ふふ、それを判断するのは、私よ。そうねぇ、もし貴方が役立たずの脳無しだったのならば、精々慰みのもとして傍に置いてあげるわ。」

「そうか、なら、君の役に立てるように頑張らなきゃな、役に立つうちは、上手く使ってくれ。」

 

「それなら、誓いなさい。これから二度と、この曹操孟徳の傍から離れることはないと。」

「嗚呼、誓うよ」

「ならば、これから私の事は“華琳”と呼びなさい。」

「良いのかい?それって真名だろ?何処の誰かも分からない俺なんかに・・・」

「・・・ええ。信頼の証よ。」

 

ええ、あなたは私との約束を守ってくれたのよ?だから、私も貴方に報いなくてはいけない。分かる?それに、この名を呼ぶことが出来る男は、世界に貴方しか居ない。

 

また、ここから始めましょう。北郷一刀。

私は、やっと思い出す事ができたのだから。そうだ、・・・そう、アナタはこんな顔で笑うのだったわ。

 

「よろしくな、華琳。」

 

説明
なんか、たまには真面目なのも書いてみようかって事で書いてみました。お気に召しますでしょうか?

他の作品とのすり合わせを行い中( ..)φメモメモ
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コメント
春蘭が健気で泣けます。(ブックマン)
感動の再会(T_T)…記憶が無くてもただ傍に居てくれれば…(自由人)
うう・・・華琳、良かったな〜(ノ▽`)(Nyao)
タグ
真・恋姫†無双 恋姫夢想 恋姫 恋姫無双 魏√ 華琳 一刀 

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