真・恋姫無双紅竜王伝激闘編I〜反乱軍の亀裂〜 |
馬超・韓遂討伐軍は長安に本陣を置いて総大将の華琳はそこから総指揮を執り、軍師の桂花が夏候姉妹と長安で合流した華琳の一族である曹仁・曹洪を率いて前衛部隊の指揮を執る。
大陸でも最高の将軍と軍師、そして総帥を揃えた魏軍が馬超・韓遂の反乱軍を一揉みに揉み潰すのは火を見るよりも明らか―――かと思われたが、予想外の事態が起こっていた。
馬超軍の猛攻に、荀ケ率いる魏軍は後退を繰り返していたのである。
「第一陣・・・構え!」
長安城の練兵場で、小隊長の号令が鳴り響く。号令の声と共に横三列に並び、弩を構えた兵が一斉に的に向かって射撃の構えを取る。
「てぇぇぇぇぇっ!」
再びの号令と共に弩から矢が一斉に放たれ、的―――鎧をつけた藁人形に突き刺さる。
「なかなか精度がよくなっとるな」
彼らの後ろから眺めて満足そうに笑みを浮かべるのは、本来の上司のもとを離れて本隊に加わっている李典こと真桜だった。
「弩の連射部隊を作ったらどうだろう」
東西征伐が発表される数日前、舞人は華琳にこんな提案をしていたのだった。
「宦官の孫のお前や元浪人の俺が権力の座についた事でよく思っていない奴らがいるだろう」
「そうね・・・特に皇帝側近の董承がその筆頭。すでに間者を潜り込ませているからしばらくしたら尻尾を掴めるでしょう。彼らから見れば『皇帝を操っている』私たちの政権に漢王朝に忠実な馬超が乗せられて反旗を翻るのは必定。そこで彼女の騎馬隊に対抗する為の弩の新部隊設立ね・・・」
皇帝・劉協こと瞳は曹操・織田政権に協力的だが、彼女の側近は己の権力基盤、すなわち王朝の権威が崩れることを恐れて裏でこそこそ周囲の諸侯と連絡を取り合っているようだ。すでにこちらは証拠さえつかめば彼らを逮捕できる所まで調べはついているのだが、華琳はあえて彼らをまだ泳がせていた。その理由は
「この曹孟徳の前に小細工など無価値だという事を、奴らに教えてやるのよ。すべての企みを打ち破って、ね」
との事らしい。相変わらず自信満々の覇王様だ。
「弩部隊の指揮官は真桜が適任かしら?あの子に改良を任せてもいいし・・・」
「そうだな。じゃあ華琳の軍に真桜を預けてもいいか?」
「真桜、弩部隊の出来はどうかしら?」
「上々ですわ〜!弩の威力も命中精度も扱う兵の質も、何を取っても大将のお求めに応じるものになってまっせ〜!」
真桜の報告に、華琳は満足げな笑みを浮かべる。
「私がわざわざ桂花に連敗を命じた価値はあると期待させていいわけね?」
「もちろんですがな〜」
華琳が主力を率いて涼州が誇る勇将・錦馬超と相対する桂花に命じたのはただ一つの事。
「いいこと、桂花?舞人が提唱した弩部隊が馬超の騎馬隊に対抗できるまでの時間稼ぎがあなたの任務よ。私が再び命じるまで馬超には負け続けなさい」
「そ、そんな!華琳様、あの素行不良男の策など用いずともこの私が―――」
華琳の軍師としての誇りを持つ桂花にとってはあんまりといえばあんまりな命令に抗議の意を示す。ちなみに『素行不良男』とはもちろん我らが主人公の事である。華琳は玉座から降り、桂花の耳元で囁く。
「桂花・・・もしあなたがこの命令で私の期待以上の働きを見せて、勝利に貢献してくれたら・・・」
「く、くれたら・・・?」
耳元で甘く囁く声に、桂花の顔が弛緩されていく。
「戦功第一として、私との閨の優先権をあげるわよ・・・?」
「了解しました!華琳様、この荀文若にすべておまかせを!」
先ほどとは正反対にやる気と希望に満ちた表情に豹変した筆頭軍師に、そばで控えていた祐筆はポツリとつぶやいた。
「・・・馬鹿ばっか」
韓遂軍の本陣では、反乱軍の主将の一人である韓遂が自身に送られた手紙を開いて困惑していた。手紙の送り主は敵の総帥・曹操。
「殿、曹操はなんと?」
「いや、それがのう・・・」
韓遂は側に控える部下に手紙をよこす。その手紙を見た部下も困惑した顔だ。
手紙の内容は何の変哲もないも無いものだった。時候の挨拶と、韓遂の妻と子の安否を気遣うものであり、こちらの味方につけようとする謀略的な要素は何一つ感じ取れなかった。
「馬超様にご報告いたしましょうか?」
「いや、報告せずともよかろう。薪にでも使っておけ」
―――しかしこの一通の何の変哲もない手紙が、反乱軍に亀裂を入れる事になるとはこの時誰も思わなかった―――
終始魏軍を圧倒していた馬超軍だが、敵の総帥・曹操の出陣で次第に押され始め、一時は長安城が見える位置まで迫っていた馬超軍は潼関まで退き川を挟んで魏軍と対峙して睨みあいを開始、多少の小競り合いがあったが、その中で馬超が従妹の馬岱からある報告を耳にする。
「曹操が叔父貴の所に手紙を出している?」
「うん、叔父様は『大した内容じゃない』って言って見せてくれなかったけど・・・」
「見せたくない、手紙か・・・」
そういえば最近の小競り合いで、一番部隊の損害が少ないのは主力であるはずの韓遂隊だ。魏軍もあまり兵を向けていないような気がする。
「たんぽぽは叔父様が内通してるとは思えないけど・・・」
「あたしだって信じたいよ。でも・・・」
総帥として、感情だけで判断していてはいけない。馬岱が出て行ったあと、本陣の天幕で一人になった馬超は呟いた。
「叔父貴を問いただして、返答次第では・・・」
自らの愛槍・十文字槍の『銀閃』の穂先を見つめ、呟いた。
「・・・討つ」
しかし、彼女は気付けなかった。
「・・・!」
天幕の裏に、何者かが潜んでいた事に。
「なに!馬超がわしを殺そうとしているだと!?それは確かなのか!」
「はっ!私がこの両の耳でしっかりと聞きました」
主君の謀殺の計画を聞き及んだ韓遂の従者が慌てて馬超の本陣から逃げかえって、主君に報告していた。
「おのれ孟起め、よりにもよってわしを殺そうとは・・・!」
韓遂は今まで盟主たる馬一族に忠誠を誓い、懸命に働いて来たという自負があった。その自分に対するこの仕打ちに怒りがわき上がってきた。
「殿、ここまで疑われてはもはや馬超に従ういわれはありませぬ。漢王朝に―――魏に服し、反乱軍を討ちましょう!」
「うむ。だが今寝返るのは得策ではない。曹操殿と連絡を取り、魏軍との連携を図ろう」
「桂花の大手柄ね」
魏軍本陣で韓遂から投降するとの手紙を受け取った華琳はほくそ笑んだ。彼女が送り続けた手紙の内容は本当に大した内容ではなかった。それこそ味方に見せるまでも無い内容ばかりで、見た後は捨ててもいいものばかり。しかし華琳とって韓遂に手紙を捨てさせて、馬超に疑心を抱かせる事こそ目的だったのだ。
「さて・・・」
韓遂からの手紙をしまった華琳は、空に浮かぶ月を見上げた。
「明日は・・・決戦ね」
説明 | ||
激闘編第10弾ですが、定期テストの勉強で毎週土・日曜の投稿が遅れて申し訳ありません。 ・・・単位、取れるといいなぁ・・・ |
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コメント | ||
疑心暗鬼って怖いですね。(ブックマン) この時代、こう言うの多いですね。なんとも無い行動が瓦解に繋がり、策を呼ぶ・・・。次回舞人活躍の場は有るのか?! 次作期待(クォーツ) ほえ〜・・・・こんなことが瓦解に繋がっちまうのか・・・・すごいな、戦略って。 お見事、というべきなのか、それとも馬超が阿呆なのか・・・・(峠崎丈二) お、横山三国志でもあった離間の策ですね。これは馬超が疑いすぎなのか魏が見事なのか…(吹風) |
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